殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

由良

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18.王都

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 レイルシュトン邸に滞在して二日目。今日は王都を案内してくれることになった。
 朝食を済ませると、華美すぎない装いに着替え、アシュトン卿と一緒に家を出る。護衛は、ついていない。
 クラルヴェインでは貴族が市井を散策するのはよくあることだそうで、そこら中に警備の目があるらしい。

「さすがに、王都以外の治安は保証できませんが……ここぐらいなら、多少出歩いても心配いりませんよ。それに俺は殿下の護衛騎士を担っていた身ですから、あなたを逃がすぐらいのことはできると思います」
「守るとは言ってくださらないのですか?」
「囲まれたら守りますが、逃げ道があるときは逃げていただいたほうが助かります」

 アシュトン卿は王太子の護衛に任命されていたのだから、腕は確かなはずだ。直接その腕前を確認したことはないけれど。
 だから彼なりの謙遜なのだろうと思って、冗談めかして答えたら真剣に返された。

「まあ、そんなことは起きないと思いますが。クラルヴェインの王族が市井に降りても誘拐されないぐらいですし」
「王族を誘拐できるほど豪胆な方も稀だとは思いますよ」

 危惧するのなら、誘拐よりも暗殺ではないだろうか。だけど、暗殺について言及しないということはその心配もいらないということだ。

 ――そんなことを話している間に、人の多い通りに出た。
 大通りを馬車が行き交い、通行人が楽しそうに話しながら歩いている。

 ティルテシアにいた頃にこういう光景を見たことがないわけではない。だけど万が一があってはいけないからと馬車で移動し、護衛を連れていた。
 だからこうして人に紛れて通りを歩くのはとても新鮮な気持ちになる。

 アルベルト殿下の婚約者になる前は、当たり前だったはずなのに。
 領地内だけだったけど、自由に出歩くことが多かった。もしかしたら、こっそり護衛がついてきていたのかもしれないけど。

「迷子にならないよう気をつけてくださいね」

 新鮮なような、懐かしいような感覚に襲われ、きょろきょろとあたりを見回してしまう。そんな私に、アシュトン卿がほほえましいものを見るような目を向けてきた。

 なんだか子供扱いされているような気がする。
 アシュトン卿はアルベルト殿下と同じ年。だから彼のほうが私よりも年上なのは事実ではあるけど、私はもう十六歳。子供扱いされるような年齢ではない。

「子供ではないので、心配いりませんよ」

 物珍しさで浮足立っていたことに対する気恥ずかしさと、ちょっとした反発心から、思わずすねたような口振りになってしまった。

「そうですか。それなら安心ですね」

 笑みを零すアシュトン卿にそれ以上は何も言えず――言えば言うほど墓穴を掘りそうで――ごまかすように露店に目を向ける。

「あれは何を売っているんですか?」

 クラルヴェインの王都は海が近く、暖かな気候をしている。だからか観光に来る人も多いので、大通りにはいくつも露店が並んでいた。
 珊瑚で作った装飾品を売っている露店もあれば、ちょっとした記念品を取り扱っている露店もある。そのうちのひとつ、煙がたちこめている露店を見て小さく首を傾げる。

「ああ、串焼きですね。試しに食べてみますか?」
「……そうですね。では、おひとついただきます」

 アシュトン卿は店主に声をかけ、代金と串を交換して戻ってきた。そして差し出された串焼きを受け取り、ちらりとアシュトン卿の様子をうかがう。
 通りには串を片手に歩いている人もいて、そのまま口に運んでいる人もいた。同じ串焼きではないとは思うけど、どこかで腰を落ち着けて食べるものではないという点では同じだろう。

「どうかしましたか?」

 私の予想通り、アシュトン卿は私に渡すとすぐ、自分用に買ったものをほおばった。そして私に見られていることに気づいたのだろう。不思議そうに首を傾げている。

「いえ、なんでもありません」

 そのまま食べる、というのが正式な流儀であることを確認した私は、ゆっくりと串焼きを口に運んだ。
 ふわりと香ばしい匂いが鼻をくすぐる。タレが染みた肉は柔らかく、噛むと旨味があふれ出した。

「おいしいです」
「それはよかった」

 そう言って微笑むアシュトン卿に、やはり子供扱いされているような気がして、なんとも言えない気持ちになった。
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