殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

由良

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21.様子

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「殿下」

 誰がアシュトン卿を呼んだかなんて、考えるまでもなくすぐにわかった。

「元気にしているかい? 急にやめてどうしているのか気になっていたんだ」
「おかげさまで、つつがなく過ごしております。殿下もお変わりないようで、安心しました」

 アシュトン卿はアルベルト殿下の側仕えをしていた。辞めても、彼らが築いてきた関係が壊れるわけではない。
 親しげな声がすぐ近くで聞こえるのに、彼の顔が見られない。落とした視線を上げることができない。彼が私をなんて呼ぶのか――考えるだけで、怖い。

「数日はこちらに滞在しているつもりだから、今度遊びに行ってもいいかい?」
「ええ、どうぞ……と言いたいところですが、家主ではないのでお答えしかねます。俺もお世話になっている身ですので、勝手はできないんですよ」
「そうか、それは残念だな」

 区切りがついたのだろう。また今度、と言ってアルベルト殿下が遠ざかっていく。そしてすぐ、ほかの貴族と話す声が聞こえてきた。

「……大丈夫ですか?」

 ささやくような問いかけ。クラルヴェイン城についてから何度、同じことを聞かれただろう。
 私は今回も大丈夫だと頷こうとして――

「無理はしないでください。殿下の様子を見るという目的は達成したわけですし、帰りましょう」

 少しだけ顔を上げると、こちらを気遣う琥珀色の瞳と目が合った。

「今ので何かわかったんですか?」
「これでも殿下との付き合いは長いので……だいぶ疲れているようですね。肉体的にというよりは心労でしょうか。王太子という重責に耐えかねて、というのは今さらすぎますし、間違いなくあなたの妹とのことでしょうね」

 アシュトン卿は小さな声で顔色を変えずに、私にだけ聞こえるように話している。ほかの人に聞かれたらいろいろと困るからだろう。
 だから私もそっと声を落とす。

「……妹が何かしたということはなさそうでしたか?」
「前のことを勘定に入れないのであれば、その可能性は今のところ低そうですね。もしも新たに何かしていたら……疲れた顔だけでは済まなかったでしょうし」

 少しだけ、本当に少しだけ、ほっと胸をなでおろす。
 問題は今のところ起きていない。それがわかっただけでも、来た甲斐があったと思おう。

 これで『エミール』としてティルテシアに帰ったあとで、後ろ指をさされる心配はしなくていい。
 何も知らずに帰って、社交界で針の筵になる心配はないのだと――そう思うことで、感じた胸の痛みや苦しみから目をそらす。

 アルベルト殿下に対して抱いた痛みも苦しみも、今さらどうにもならない無駄なことだから。

「それなら、よかったです」

 できる限り自然な笑みを浮かべて、大丈夫だと自分自身に言い聞かせる。


 ――だけど問題は、パーティーを終えた翌日に起きた。

 妹が何かしたのではない。問題を運んできたのは、アルベルト殿下だった。
 レイルシュトン邸に、アシュトン卿と『リヴィ』を訪ねるという形で。
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