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1章.非日常の始まり
何でも屋
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乱暴に身体を揺すられて、私は目を覚ました。
「おら、起きろ千穂」
薄っすらと目を開けると、顔を顰めた福島大貴の姿がある。
ぼけーっと焦点の合わない寝ぼけ眼で見つめていると、ビシッと頭にチョップを入れられた。
「いつまで寝てるつもりだこのねぼすけ。仕事しろよ仕事、給料泥棒すんな」
「給料泥棒なんてしてないもん……」
寝起きの定まらない頭でふわふわと答えると、彼は私を見下ろして腕を組んだ。癖一つないその黒髪がサラリと揺れる。
「あっそ。じゃあ聞くけど、今何時か分かるか?」
「……朝の六時、とか……?」
「馬鹿。もう九時半だよ、始業時間三十分も過ぎてるわ」
「うえぇっ!?」
眠たい頭が一気に覚醒した。朝の眩しい光に包まれた、私の職場であるオフィスがクリアに視界に飛び込んでくる。
嘘、私寝坊した!? ほんの仮眠のつもりだったのに!
慌ててガバッと身を沈めていたソファーから起き上がり、壁に掛かった時計を見ると───八時半。私を起こした張本人がにやにやと笑っているのが視界の端に映る。
「ちょっ、まだ大丈夫じゃん! 大ちゃん、私のことからかったでしょ!!」
「何? まだ寝かせといた方がよかった? そんなに俺にヨダレの付いた寝顔見てて欲しかったか?」
さっきとは違う、ちょっと意地悪な顔で彼は尋ねる。
口の片端は上がってるし、これ、明らかに面白がってる。さも私のため、みたいな言い方してるけど、絶対私の反応見て楽しんでるだけだ。
……てか、ちょっと待って。ヨダレって言った?
一拍置いてその言葉を理解した私は、慌てて顔に手をやり下を向く。
だけど何かを堪えるような「っく……くく」という声が聞こえて、顔は伏せたまま視線だけ上げた。
「千穂、お前騙されやすすぎ。事務所で寝るとかも警戒心ないし、もっと気をつけろよ」
「騙され……って大ちゃん、またからかったの!?」
私はけたけたと笑いながら立ち上がって歩き出した大ちゃんを睨んだ。彼は昔からいつも、こうやって私で遊ぶ。
ここは、私の職場である小さなオフィスだ。街中の喧騒に呑まれて景色に溶け込んだ建物には、“福島事務所”という看板が掛かっている。
所長は大ちゃんで、雇われているのは私だけ。決して暇ではないし他の人を雇う余裕だってあるはずだけど、彼は募集すらしようとしない。
曰く、「お前以上に使い勝手のいいヤツなんていないだろ」……らしい。
横暴な、と思わなくもないけど、実はこの言葉が少し嬉しかったりもする。
私は、彼が好きだ。
大ちゃんと私の付き合いは長く、出会いは二十年以上昔に遡る。当時の私は四歳、彼は九歳。私の隣の家に彼を含めた福島一家が越して来たのが始まりだ。
つまり言うなれば、大ちゃんは幼馴染のお兄ちゃん的存在。ずっと一緒に遊んでもらっていたし、大ちゃんの隣はすごく居心地の良い場所だった。
いつから好きだったのか、なんて分からない。でも彼以上に私のことを知っている存在なんて他にないし、私も大ちゃんの一番でありたいと思っている。
だから彼に、「大学を出たら俺のとこで働くか?」と聞かれたときは飛び上がるほどに喜んだ。じきに始まる就活が嫌だとボヤいた私に彼が言ったのだ。
大ちゃんが自分の事務所を構えて働いているのは私も知っていたから、一も二もなく頷いた。彼に必要とされているようで嬉しくて、一瞬たりとも迷わなかった。
……でもそのときは何をする仕事なのかまでは知らなかったのだけど、知っていたらちょっと考えていたかもしれない。
大ちゃんの仕事は、いわゆる“何でも屋”だった。
ベビーシッターやペットシッターに始まり、庭の草引きや老人ホームへの送迎であったり、はたまた素行調査や焼き物の鑑定であったり。法に触れなければ何でもござれ、な便利屋だ。
「出来ない」なんて言わないために、これまでたくさんの資格を取ってきた。大変だったけど、大ちゃんはもっと色んな資格を持っているし、少しでも彼の助けになりたくて頑張った。
依頼主の笑顔を見ればやり甲斐を感じるし、それなりに充実している、と思う。
ただ一つ、どうしてもやりにくい───というか、やりたくない種類の依頼があった。
しかし悲しいかな、その関連の仕事が一番多かったりする。昨日こなした仕事もそういう類いのものだった。
ちなみに今日の午前中には、その依頼主がもう一度事務所を訪れることになっている。
「おい千穂、いつまでぼけっとしてるつもりだ。どうせ昨日家帰ってないんだろ、パン買ってきてやったから食えよ」
「え、ホント? わーい、ありがと……ってうわ、すごい美味しそう。私こういうの大好き!」
「知ってる」
私の前のテーブルにパンを並べた大ちゃんがにやりと笑った。相変わらずソファーの上でダラダラしていた私の頭を軽く叩いて、「このたまごサンドは俺のね」なんて子供みたいな顔をする。
……ずるい、いつもは意地悪な顔でからかうばっかりなのに、たまにこうやって優しくして私の心をがっつり掴んでいくんだ。いや、からかわれるのも嫌いじゃないんだけども。
「私、このアップルパイ食べたい。……ねぇ、今日平井様がいらっしゃるんだよね?」
「ん? あぁ、そうだったな。そういや昨日はお疲れ。大丈夫だったか?」
手にしたアップルパイに齧り付く私をちらりと振り返って大ちゃんが尋ねる。
何気ない風を装ってるけど、何を考えてるのかバレバレだよ大ちゃん。二十年以上幼馴染みやってるのは伊達じゃないんだから。
何でも屋をやってると、依頼の内容によっては一人でやらなきゃいけないタスクもある。昨日のはそういう仕事だった。
ちっちゃい頃から一緒に育ったせいか、大ちゃんは妙に過保護なところがある。こういうときはいつも、私の心配ばっかりするのだ。
窺うような気配を感じ取って、私は大袈裟なくらい元気に笑ってみせた。
「もっちろん!」
「もちろんって、お前……。警戒心欠落してるくせに」
「失礼な。そんなことないもん」
「はいはい、言っとけ」
空元気でもない私のいい笑顔に大ちゃんは微かにホッとした顔をして、あしらうように軽い返事をした。
私は逆にむすっと拗ねた顔で、ちょっぴり彼を睨んでみる。
「私、あぁいう仕事苦手。好きじゃない。全くもって楽しくない」
「こら、仕事選り好みすんなよ。それに、酒代は経費で出るからお前からしたらタダ酒だろ。むしろ感謝しろ」
「ヤダ。奥さんいるのに下心見え見えで誘ってくる浮気常習犯とのお酒なんて美味しくない」
ぶぅーと唇を尖らせたとき、カラン……と事務所の扉が開く。
え、依頼主様? ヤバイ、まだ私ご飯中。
慌てて口の中のアップルパイを咀嚼しながら見上げた時計は八時五十分を少し回ったところを示している。始業時間までまだ十分あるけど、これくらいは全然珍しくない。
「おはようございます」
「おはようございます、平井様。ご依頼頂いていた件ですね」
やって来たのは、四十と少しといった中年女性だった。彼女こそ、私の苦手分野の依頼を持ち込んだお客様。
私は彼女に愛想笑いをしながら、そろそろとテーブルの上のパンを片付ける。
「おはようございます。昨夜は本当にありがとうございました」
丁寧に頭を下げた彼女にソファーに座るように勧めて、大ちゃんもその向かい側のソファーに腰を下ろした。
私は二人分のコーヒーを淹れて平井の奥さんと大ちゃんの前にカップを置いてから、その隣に立って控える。あくまで私は彼の助手だ。
大ちゃんと平井様の話はスムーズに進んでいった。昨日私がバーで録音した、彼女の夫である平井信弘の浮気の証拠であるレコーダーとか、別の日に撮影した写真なんかを渡して代金を受け取る。
昨日の夜夫に詰め寄っていた彼女は感情的だったが、今は落ち着いた様子で淡々とやり取りをしているように見えた。
必要な書類やらなんやらが全て片付き、帰る為に立ち上がった彼女は最後に私を振り返る。
「片桐千穂さん、だったかしら?」
「はい。何でしょう?」
「ごめんなさいね、私たちのこんな下らない茶番に付き合わせて。でもあなたのお陰で、あの男とはこちらの有利な条件で離婚できそうだわ。ありがとう」
そう軽やかに笑って、彼女は去っていった。
これで、彼女の「夫の不倫を明らかにしてくれ」という依頼は終了だ。
「終わったぁー! 解・放・感っ☆」
ボフッとソファーに倒れ込むと、「それはようございました」と呆れたように大ちゃんが言いながら私にコーヒーを淹れてくれた。白い湯気を立ち上らせるそのカップをぼけーっと眺める。
「にしてもお前、こういう不倫とか浮気モノの依頼嫌いだよな」
「嫌いだよー。なんか悲しくなってくるじゃん。ていうか、恋愛関係のやつはめんどくさいのが多いし」
かく言う私も大ちゃんが好きだけど、それとこれは別と言うか、そもそも関係ない。私は誰かに大ちゃんとのことで依頼したいとは思わないし。
「お前恋愛に縁なさそうだもんなー? とはいえ、依頼を断るのはよっぽどでもない限り、信用に関わることだし。精々そういう依頼が無いことを祈るんだな」
にやにやと笑う大ちゃん。いや、恋愛に縁がないも何も、私が好きなのはあなたですけど。
でもそれ以上に、何か変なフラグが立った気がした私は、遠い目をするのだった。
♢♢♢♢♢♢
カラン……
平井様を見送ってから書類仕事をしたり昼食をとったりした後、事務所のドアベルが再び鳴った。
時刻は午後二時を回ったところで、何とも眠くなる時間帯だ。そう言えば今日はこれから、何か大事なアポが入っているんだった。
「電話を入れてあった三条だ。仕事の依頼を頼みたい」
そう言って入ってきたのは、いかにも会社の重役といった厳しそうな男性だった。事実、どこかの会社のお偉いサンだったように思う。
「ようこそお越しくださいました、三条様。お待ちしておりましたよ。どうぞお座りください」
「あぁ。失礼する」
いつもの意地悪顔を引っ込めて、人好きのする爽やかな笑顔で大ちゃんが席を勧める。
私は三条様が座ったのを確認して、「どうぞ」とコーヒーを彼らの前に置いた。私はまた大ちゃんの隣で立ち控えだ。
「それで、詳しいお話はこちらで伺うことになっていましたが。一体どういったご依頼でしょうか?」
大ちゃんのその言葉に、三条様は目を伏せて溜息をついた。それから何かを探すように鋭く周囲を見渡す。
「念のため訊いておくが……ここにはカメラやレコーダーなんかの類いは無いね?」
「それは勿論です。依頼主様のプライバシーを守るのも我々の仕事の内ですから」
「ならいい。しかし……どこから話したものか」
なかなか話そうとしない三条様に私の笑顔が引き攣る。
対応は基本大ちゃんで、私は黙って聞いているだけなんだけど、何気にこれが辛いのだ。足は痛いし、ヒマだし、疲れる。
だから早く話して欲しいところだけど、流石にそうは言えないし。でも早くしてくれなきゃ、表情筋攣るんですけど……。
なんて考えていたとき、ぽつりと独白のように三条様が語り出した。
「……私には、愛子という今年二十歳になる娘が一人いるんだがね。愛子はとある政治家のご子息との結婚が決まっているんだ。まぁ、いわゆる政略結婚というやつなんだが。
それでもお相手はいい方だし、愛子も納得した上でのものだった筈なんだ。だからこそ婚約までしたんだが、ここで困ったことになってね……。
つい先日、愛子が婚約を無かったことにしたいと言い出した」
言葉を紡ぎ出した三条様が、ふっとここで口を閉じた。カチャ、と小さな音を立ててコーヒーカップを持ち上げ、口許に運ぶ。
大ちゃんも急かそうとはせず、室内に僅かな沈黙が下りた。
……それにしても、何だか難しいお話だな。
政略結婚なんて、本当にあるんだ……。それこそ私には縁のない世界。自由に恋が出来ないなんて、辛くないのかな?
そんな私の考えを見透かしたように、また三条様が口を開く。
「好きな男が出来たのだと、そう言われたよ。恋い慕う相手がいなかったからこそ結婚に同意したが、好きな男が出来たのだからまた別だと。
今まで反抗したことがなかったおとなしい娘でね、そこまで言うなら許してやろうかとも思ったんだが……。話はそう簡単ではなくてね。
何せ、それなりに身分ある者同士の結婚だ。家のメンツもある。今になって婚約を取り消すなど、“三条”としては認めることは出来ないんだよ」
暗い表情で言う三条様からは父親としての娘への愛情が感じられた。きっと彼も深く迷ったのだろう、その目元にはよく見れば薄っすらとクマがある。その心の内の葛藤を思うと胸が痛んだ。
「なるほど。お話は大体分かりましたが、いったいご依頼とはなんでしょう?」
目を閉じて眉間にくっきりと縦じわを刻んだ三条様に、大ちゃんがいつも通りの表情であっさりと尋ねた。
爽やか系を演じていてもこういうところできっちり相手を急かす辺り、やっぱり大ちゃんは大ちゃんだ。
「まぁそう焦ってくれるな。これを見てくれ」
「こちらは?」
「愛子が惚れた男についての調査報告書だ」
「「報告書?」」
あ、思わず声出しちゃった。大ちゃんと声が被った。
でもそれを大ちゃんも三条様も気にした様子もないし、私もそっと身を屈めて大ちゃんの肩越しにその手の中の紙を見てみる。
「橘叶多、二十七歳。昼間は近所のカフェで働いている。頭はいい様で、某有名大学の出身だ。家族構成は祖母と、三つ歳の違う弟。小学校高学年のときに両親は事故で他界したらしい。現在は単身者向けのアパートで一人暮らしをしている。実家は少し離れた田舎にある様だが、そちらでの隣人の評判も悪くはなかった。……愛子のことがなければ、素直に評価してやらなくもないんだが」
苦い表情で語る三条様のお話の他にも、生年月日から趣味嗜好、交友関係に至るまで、報告書には実にたくさんの情報が乗せられていた。
あ、写真もある。ふぅむ、綺麗な顔の男の人だ。優しそうな雰囲気で、いかにも女の人に人気そうな感じ。
でも正直、あんまり興味はないかな? 私は別に面食いって訳でもないし。
「お二人はお付き合いされているんですか?」
「まさか。愛子が想いを寄せているだけだ」
「へぇ……なるほど。しかし既に報告書が手元におありだということは、彼の調査をして欲しい訳ではないんですよね? そろそろご依頼の内容をお聞かせ願えませんか」
大ちゃんの言葉に、三条様は私に目を向けた。───え、私?
「ここには女性スタッフもいると聞いたんだが、それは君のことか?」
「あ……はい、そうです。申し遅れましてすみません、片桐千穂です」
できるだけ優雅で丁寧に見えるように頭を下げると、「ふむ」という三条様の声が聞こえた。……いや、ふむじゃなくて、何でしょう??
「依頼の件だが……本当は彼に適当に恋人を見繕うか、愛子を振るかするように仕向けて欲しかったんだが……。気が変わった。君、どうにかしてこの男を堕としてくれないか」
「お、堕とす!?」
突拍子もない内容に思わず目を剥いた私はたぶん悪くない。
え、聞き間違い?? だってそんな、お、堕とすだなんて。
「そうだ。どんな手を使ってくれてもいいから、この男を惚れさせろ。謝礼は弾む。頼めるね?」
うわぁ……聞き間違いじゃなかった。
どうしよう、正直すごく嫌だ。でも“何でも屋”の名の下に、「嫌です」なんて言えるはずがないし。
そう思って私が頷こうとしたとき、「待ってください」と大ちゃんが間に割って入った。
「娘さんを説得することはできないんですか?」
「もちろん、私も説得しようとしたさ。だが、あれでなかなか頑固な娘だ。諦めるように言っても聞かない。手の込んだ作り話も信じなかった。もうお手上げさ。だからこちらに依頼しているんだが」
できないのか? と三条様の目が訊いている。
腕を組んで斜め下を睨みつける大ちゃんに、私は内心首を傾げた。いつもならすぐに引き受けているような局面なのに、どうして今日は渋ってるの?
「どうしたんだね。何か問題でも?」
「あぁ、いや……。期限はいったい、いつ頃でしょう」
「期限か……。実は婚約は既にしてあるんだが、公にするのは半年後くらいでね。その前に片してしまいたい。それまでに愛子が諦めたようであれば、こちらからまた連絡しよう」
半年……。長いようで短い期間だ。
でも私はそれ以上に気になることがあって、眉根を寄せている大ちゃんの横からそっと口をはさんだ。
「あの、三条様」
「何だね?」
「ご依頼の内容は“ターゲットを堕とす”、ということでしたね。しかしながら、人の心とは思い通りに操れるものではありません。仮にそのご依頼を引き受けることになりましても、確実に成功させることはお約束できかねます」
私の言葉に三条様はなるほど、と頷いた。そしてしばらく何やら考えた後、宙に彷徨わせていた視線を私に向ける。
「やはり惚れさせるという方向性で頼みたいが、それが無理なら君が彼の恋人に見えるように振舞ってくれ。愛子が勘違いするように」
「……なるほど」
私はひとまず納得して、大ちゃんに目をやった。相変わらず険しい顔のまま、何か悩んでいるように見える。どうしたんだろ……。
「それから、謝礼についてだが。前払いで一千万を払おう。もし半年以内に愛子が彼を諦めたら、成功報酬としてさらに二千万。どうだ、それほど悪くない話だろう」
悪くないどころか、破格の待遇だ。トータル三千万とか、そうポンと出せる額じゃないでしょうに。成功いかんに関わらず、きちんとお支払いがあるのも嬉しい。
けれど大ちゃんはなかなか首を縦に振ろうとしない。どうして?
「……大ちゃん?」
三条様には気付かれないようにこっそりと囁くと、大ちゃんの真剣な瞳と目が合った。しばらく無言で見つめ合い───大ちゃんが先に目を逸らす。
「……分かりました、お引き受けしましょう。どうぞよろしくお願いいたします」
「そうか、それはよかった。こちらこそよろしく頼むよ」
満足気に三条様は言って、忙しそうに帰っていった。その背を見送りながら内心呟く。
───非日常の、始まりだ。
「おら、起きろ千穂」
薄っすらと目を開けると、顔を顰めた福島大貴の姿がある。
ぼけーっと焦点の合わない寝ぼけ眼で見つめていると、ビシッと頭にチョップを入れられた。
「いつまで寝てるつもりだこのねぼすけ。仕事しろよ仕事、給料泥棒すんな」
「給料泥棒なんてしてないもん……」
寝起きの定まらない頭でふわふわと答えると、彼は私を見下ろして腕を組んだ。癖一つないその黒髪がサラリと揺れる。
「あっそ。じゃあ聞くけど、今何時か分かるか?」
「……朝の六時、とか……?」
「馬鹿。もう九時半だよ、始業時間三十分も過ぎてるわ」
「うえぇっ!?」
眠たい頭が一気に覚醒した。朝の眩しい光に包まれた、私の職場であるオフィスがクリアに視界に飛び込んでくる。
嘘、私寝坊した!? ほんの仮眠のつもりだったのに!
慌ててガバッと身を沈めていたソファーから起き上がり、壁に掛かった時計を見ると───八時半。私を起こした張本人がにやにやと笑っているのが視界の端に映る。
「ちょっ、まだ大丈夫じゃん! 大ちゃん、私のことからかったでしょ!!」
「何? まだ寝かせといた方がよかった? そんなに俺にヨダレの付いた寝顔見てて欲しかったか?」
さっきとは違う、ちょっと意地悪な顔で彼は尋ねる。
口の片端は上がってるし、これ、明らかに面白がってる。さも私のため、みたいな言い方してるけど、絶対私の反応見て楽しんでるだけだ。
……てか、ちょっと待って。ヨダレって言った?
一拍置いてその言葉を理解した私は、慌てて顔に手をやり下を向く。
だけど何かを堪えるような「っく……くく」という声が聞こえて、顔は伏せたまま視線だけ上げた。
「千穂、お前騙されやすすぎ。事務所で寝るとかも警戒心ないし、もっと気をつけろよ」
「騙され……って大ちゃん、またからかったの!?」
私はけたけたと笑いながら立ち上がって歩き出した大ちゃんを睨んだ。彼は昔からいつも、こうやって私で遊ぶ。
ここは、私の職場である小さなオフィスだ。街中の喧騒に呑まれて景色に溶け込んだ建物には、“福島事務所”という看板が掛かっている。
所長は大ちゃんで、雇われているのは私だけ。決して暇ではないし他の人を雇う余裕だってあるはずだけど、彼は募集すらしようとしない。
曰く、「お前以上に使い勝手のいいヤツなんていないだろ」……らしい。
横暴な、と思わなくもないけど、実はこの言葉が少し嬉しかったりもする。
私は、彼が好きだ。
大ちゃんと私の付き合いは長く、出会いは二十年以上昔に遡る。当時の私は四歳、彼は九歳。私の隣の家に彼を含めた福島一家が越して来たのが始まりだ。
つまり言うなれば、大ちゃんは幼馴染のお兄ちゃん的存在。ずっと一緒に遊んでもらっていたし、大ちゃんの隣はすごく居心地の良い場所だった。
いつから好きだったのか、なんて分からない。でも彼以上に私のことを知っている存在なんて他にないし、私も大ちゃんの一番でありたいと思っている。
だから彼に、「大学を出たら俺のとこで働くか?」と聞かれたときは飛び上がるほどに喜んだ。じきに始まる就活が嫌だとボヤいた私に彼が言ったのだ。
大ちゃんが自分の事務所を構えて働いているのは私も知っていたから、一も二もなく頷いた。彼に必要とされているようで嬉しくて、一瞬たりとも迷わなかった。
……でもそのときは何をする仕事なのかまでは知らなかったのだけど、知っていたらちょっと考えていたかもしれない。
大ちゃんの仕事は、いわゆる“何でも屋”だった。
ベビーシッターやペットシッターに始まり、庭の草引きや老人ホームへの送迎であったり、はたまた素行調査や焼き物の鑑定であったり。法に触れなければ何でもござれ、な便利屋だ。
「出来ない」なんて言わないために、これまでたくさんの資格を取ってきた。大変だったけど、大ちゃんはもっと色んな資格を持っているし、少しでも彼の助けになりたくて頑張った。
依頼主の笑顔を見ればやり甲斐を感じるし、それなりに充実している、と思う。
ただ一つ、どうしてもやりにくい───というか、やりたくない種類の依頼があった。
しかし悲しいかな、その関連の仕事が一番多かったりする。昨日こなした仕事もそういう類いのものだった。
ちなみに今日の午前中には、その依頼主がもう一度事務所を訪れることになっている。
「おい千穂、いつまでぼけっとしてるつもりだ。どうせ昨日家帰ってないんだろ、パン買ってきてやったから食えよ」
「え、ホント? わーい、ありがと……ってうわ、すごい美味しそう。私こういうの大好き!」
「知ってる」
私の前のテーブルにパンを並べた大ちゃんがにやりと笑った。相変わらずソファーの上でダラダラしていた私の頭を軽く叩いて、「このたまごサンドは俺のね」なんて子供みたいな顔をする。
……ずるい、いつもは意地悪な顔でからかうばっかりなのに、たまにこうやって優しくして私の心をがっつり掴んでいくんだ。いや、からかわれるのも嫌いじゃないんだけども。
「私、このアップルパイ食べたい。……ねぇ、今日平井様がいらっしゃるんだよね?」
「ん? あぁ、そうだったな。そういや昨日はお疲れ。大丈夫だったか?」
手にしたアップルパイに齧り付く私をちらりと振り返って大ちゃんが尋ねる。
何気ない風を装ってるけど、何を考えてるのかバレバレだよ大ちゃん。二十年以上幼馴染みやってるのは伊達じゃないんだから。
何でも屋をやってると、依頼の内容によっては一人でやらなきゃいけないタスクもある。昨日のはそういう仕事だった。
ちっちゃい頃から一緒に育ったせいか、大ちゃんは妙に過保護なところがある。こういうときはいつも、私の心配ばっかりするのだ。
窺うような気配を感じ取って、私は大袈裟なくらい元気に笑ってみせた。
「もっちろん!」
「もちろんって、お前……。警戒心欠落してるくせに」
「失礼な。そんなことないもん」
「はいはい、言っとけ」
空元気でもない私のいい笑顔に大ちゃんは微かにホッとした顔をして、あしらうように軽い返事をした。
私は逆にむすっと拗ねた顔で、ちょっぴり彼を睨んでみる。
「私、あぁいう仕事苦手。好きじゃない。全くもって楽しくない」
「こら、仕事選り好みすんなよ。それに、酒代は経費で出るからお前からしたらタダ酒だろ。むしろ感謝しろ」
「ヤダ。奥さんいるのに下心見え見えで誘ってくる浮気常習犯とのお酒なんて美味しくない」
ぶぅーと唇を尖らせたとき、カラン……と事務所の扉が開く。
え、依頼主様? ヤバイ、まだ私ご飯中。
慌てて口の中のアップルパイを咀嚼しながら見上げた時計は八時五十分を少し回ったところを示している。始業時間までまだ十分あるけど、これくらいは全然珍しくない。
「おはようございます」
「おはようございます、平井様。ご依頼頂いていた件ですね」
やって来たのは、四十と少しといった中年女性だった。彼女こそ、私の苦手分野の依頼を持ち込んだお客様。
私は彼女に愛想笑いをしながら、そろそろとテーブルの上のパンを片付ける。
「おはようございます。昨夜は本当にありがとうございました」
丁寧に頭を下げた彼女にソファーに座るように勧めて、大ちゃんもその向かい側のソファーに腰を下ろした。
私は二人分のコーヒーを淹れて平井の奥さんと大ちゃんの前にカップを置いてから、その隣に立って控える。あくまで私は彼の助手だ。
大ちゃんと平井様の話はスムーズに進んでいった。昨日私がバーで録音した、彼女の夫である平井信弘の浮気の証拠であるレコーダーとか、別の日に撮影した写真なんかを渡して代金を受け取る。
昨日の夜夫に詰め寄っていた彼女は感情的だったが、今は落ち着いた様子で淡々とやり取りをしているように見えた。
必要な書類やらなんやらが全て片付き、帰る為に立ち上がった彼女は最後に私を振り返る。
「片桐千穂さん、だったかしら?」
「はい。何でしょう?」
「ごめんなさいね、私たちのこんな下らない茶番に付き合わせて。でもあなたのお陰で、あの男とはこちらの有利な条件で離婚できそうだわ。ありがとう」
そう軽やかに笑って、彼女は去っていった。
これで、彼女の「夫の不倫を明らかにしてくれ」という依頼は終了だ。
「終わったぁー! 解・放・感っ☆」
ボフッとソファーに倒れ込むと、「それはようございました」と呆れたように大ちゃんが言いながら私にコーヒーを淹れてくれた。白い湯気を立ち上らせるそのカップをぼけーっと眺める。
「にしてもお前、こういう不倫とか浮気モノの依頼嫌いだよな」
「嫌いだよー。なんか悲しくなってくるじゃん。ていうか、恋愛関係のやつはめんどくさいのが多いし」
かく言う私も大ちゃんが好きだけど、それとこれは別と言うか、そもそも関係ない。私は誰かに大ちゃんとのことで依頼したいとは思わないし。
「お前恋愛に縁なさそうだもんなー? とはいえ、依頼を断るのはよっぽどでもない限り、信用に関わることだし。精々そういう依頼が無いことを祈るんだな」
にやにやと笑う大ちゃん。いや、恋愛に縁がないも何も、私が好きなのはあなたですけど。
でもそれ以上に、何か変なフラグが立った気がした私は、遠い目をするのだった。
♢♢♢♢♢♢
カラン……
平井様を見送ってから書類仕事をしたり昼食をとったりした後、事務所のドアベルが再び鳴った。
時刻は午後二時を回ったところで、何とも眠くなる時間帯だ。そう言えば今日はこれから、何か大事なアポが入っているんだった。
「電話を入れてあった三条だ。仕事の依頼を頼みたい」
そう言って入ってきたのは、いかにも会社の重役といった厳しそうな男性だった。事実、どこかの会社のお偉いサンだったように思う。
「ようこそお越しくださいました、三条様。お待ちしておりましたよ。どうぞお座りください」
「あぁ。失礼する」
いつもの意地悪顔を引っ込めて、人好きのする爽やかな笑顔で大ちゃんが席を勧める。
私は三条様が座ったのを確認して、「どうぞ」とコーヒーを彼らの前に置いた。私はまた大ちゃんの隣で立ち控えだ。
「それで、詳しいお話はこちらで伺うことになっていましたが。一体どういったご依頼でしょうか?」
大ちゃんのその言葉に、三条様は目を伏せて溜息をついた。それから何かを探すように鋭く周囲を見渡す。
「念のため訊いておくが……ここにはカメラやレコーダーなんかの類いは無いね?」
「それは勿論です。依頼主様のプライバシーを守るのも我々の仕事の内ですから」
「ならいい。しかし……どこから話したものか」
なかなか話そうとしない三条様に私の笑顔が引き攣る。
対応は基本大ちゃんで、私は黙って聞いているだけなんだけど、何気にこれが辛いのだ。足は痛いし、ヒマだし、疲れる。
だから早く話して欲しいところだけど、流石にそうは言えないし。でも早くしてくれなきゃ、表情筋攣るんですけど……。
なんて考えていたとき、ぽつりと独白のように三条様が語り出した。
「……私には、愛子という今年二十歳になる娘が一人いるんだがね。愛子はとある政治家のご子息との結婚が決まっているんだ。まぁ、いわゆる政略結婚というやつなんだが。
それでもお相手はいい方だし、愛子も納得した上でのものだった筈なんだ。だからこそ婚約までしたんだが、ここで困ったことになってね……。
つい先日、愛子が婚約を無かったことにしたいと言い出した」
言葉を紡ぎ出した三条様が、ふっとここで口を閉じた。カチャ、と小さな音を立ててコーヒーカップを持ち上げ、口許に運ぶ。
大ちゃんも急かそうとはせず、室内に僅かな沈黙が下りた。
……それにしても、何だか難しいお話だな。
政略結婚なんて、本当にあるんだ……。それこそ私には縁のない世界。自由に恋が出来ないなんて、辛くないのかな?
そんな私の考えを見透かしたように、また三条様が口を開く。
「好きな男が出来たのだと、そう言われたよ。恋い慕う相手がいなかったからこそ結婚に同意したが、好きな男が出来たのだからまた別だと。
今まで反抗したことがなかったおとなしい娘でね、そこまで言うなら許してやろうかとも思ったんだが……。話はそう簡単ではなくてね。
何せ、それなりに身分ある者同士の結婚だ。家のメンツもある。今になって婚約を取り消すなど、“三条”としては認めることは出来ないんだよ」
暗い表情で言う三条様からは父親としての娘への愛情が感じられた。きっと彼も深く迷ったのだろう、その目元にはよく見れば薄っすらとクマがある。その心の内の葛藤を思うと胸が痛んだ。
「なるほど。お話は大体分かりましたが、いったいご依頼とはなんでしょう?」
目を閉じて眉間にくっきりと縦じわを刻んだ三条様に、大ちゃんがいつも通りの表情であっさりと尋ねた。
爽やか系を演じていてもこういうところできっちり相手を急かす辺り、やっぱり大ちゃんは大ちゃんだ。
「まぁそう焦ってくれるな。これを見てくれ」
「こちらは?」
「愛子が惚れた男についての調査報告書だ」
「「報告書?」」
あ、思わず声出しちゃった。大ちゃんと声が被った。
でもそれを大ちゃんも三条様も気にした様子もないし、私もそっと身を屈めて大ちゃんの肩越しにその手の中の紙を見てみる。
「橘叶多、二十七歳。昼間は近所のカフェで働いている。頭はいい様で、某有名大学の出身だ。家族構成は祖母と、三つ歳の違う弟。小学校高学年のときに両親は事故で他界したらしい。現在は単身者向けのアパートで一人暮らしをしている。実家は少し離れた田舎にある様だが、そちらでの隣人の評判も悪くはなかった。……愛子のことがなければ、素直に評価してやらなくもないんだが」
苦い表情で語る三条様のお話の他にも、生年月日から趣味嗜好、交友関係に至るまで、報告書には実にたくさんの情報が乗せられていた。
あ、写真もある。ふぅむ、綺麗な顔の男の人だ。優しそうな雰囲気で、いかにも女の人に人気そうな感じ。
でも正直、あんまり興味はないかな? 私は別に面食いって訳でもないし。
「お二人はお付き合いされているんですか?」
「まさか。愛子が想いを寄せているだけだ」
「へぇ……なるほど。しかし既に報告書が手元におありだということは、彼の調査をして欲しい訳ではないんですよね? そろそろご依頼の内容をお聞かせ願えませんか」
大ちゃんの言葉に、三条様は私に目を向けた。───え、私?
「ここには女性スタッフもいると聞いたんだが、それは君のことか?」
「あ……はい、そうです。申し遅れましてすみません、片桐千穂です」
できるだけ優雅で丁寧に見えるように頭を下げると、「ふむ」という三条様の声が聞こえた。……いや、ふむじゃなくて、何でしょう??
「依頼の件だが……本当は彼に適当に恋人を見繕うか、愛子を振るかするように仕向けて欲しかったんだが……。気が変わった。君、どうにかしてこの男を堕としてくれないか」
「お、堕とす!?」
突拍子もない内容に思わず目を剥いた私はたぶん悪くない。
え、聞き間違い?? だってそんな、お、堕とすだなんて。
「そうだ。どんな手を使ってくれてもいいから、この男を惚れさせろ。謝礼は弾む。頼めるね?」
うわぁ……聞き間違いじゃなかった。
どうしよう、正直すごく嫌だ。でも“何でも屋”の名の下に、「嫌です」なんて言えるはずがないし。
そう思って私が頷こうとしたとき、「待ってください」と大ちゃんが間に割って入った。
「娘さんを説得することはできないんですか?」
「もちろん、私も説得しようとしたさ。だが、あれでなかなか頑固な娘だ。諦めるように言っても聞かない。手の込んだ作り話も信じなかった。もうお手上げさ。だからこちらに依頼しているんだが」
できないのか? と三条様の目が訊いている。
腕を組んで斜め下を睨みつける大ちゃんに、私は内心首を傾げた。いつもならすぐに引き受けているような局面なのに、どうして今日は渋ってるの?
「どうしたんだね。何か問題でも?」
「あぁ、いや……。期限はいったい、いつ頃でしょう」
「期限か……。実は婚約は既にしてあるんだが、公にするのは半年後くらいでね。その前に片してしまいたい。それまでに愛子が諦めたようであれば、こちらからまた連絡しよう」
半年……。長いようで短い期間だ。
でも私はそれ以上に気になることがあって、眉根を寄せている大ちゃんの横からそっと口をはさんだ。
「あの、三条様」
「何だね?」
「ご依頼の内容は“ターゲットを堕とす”、ということでしたね。しかしながら、人の心とは思い通りに操れるものではありません。仮にそのご依頼を引き受けることになりましても、確実に成功させることはお約束できかねます」
私の言葉に三条様はなるほど、と頷いた。そしてしばらく何やら考えた後、宙に彷徨わせていた視線を私に向ける。
「やはり惚れさせるという方向性で頼みたいが、それが無理なら君が彼の恋人に見えるように振舞ってくれ。愛子が勘違いするように」
「……なるほど」
私はひとまず納得して、大ちゃんに目をやった。相変わらず険しい顔のまま、何か悩んでいるように見える。どうしたんだろ……。
「それから、謝礼についてだが。前払いで一千万を払おう。もし半年以内に愛子が彼を諦めたら、成功報酬としてさらに二千万。どうだ、それほど悪くない話だろう」
悪くないどころか、破格の待遇だ。トータル三千万とか、そうポンと出せる額じゃないでしょうに。成功いかんに関わらず、きちんとお支払いがあるのも嬉しい。
けれど大ちゃんはなかなか首を縦に振ろうとしない。どうして?
「……大ちゃん?」
三条様には気付かれないようにこっそりと囁くと、大ちゃんの真剣な瞳と目が合った。しばらく無言で見つめ合い───大ちゃんが先に目を逸らす。
「……分かりました、お引き受けしましょう。どうぞよろしくお願いいたします」
「そうか、それはよかった。こちらこそよろしく頼むよ」
満足気に三条様は言って、忙しそうに帰っていった。その背を見送りながら内心呟く。
───非日常の、始まりだ。
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