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ペネロペのシナリオ対策
しおりを挟むうっかりエドモンド殿下の婚約者となってしまったペネロペは、そこから巻き返すべく様々な手を打った。
その中でも最も力を入れたのが『キャラ変』だ。
まずは悪役令嬢の髪型の定番、縦ロールを辞めた。というより、毎朝ノリノリで縦巻きして来るメイドに止めてほしいと懇願した。
なかなか納得してくれなかったので、いかにペネロペの髪色に合っていないかを力説し、納得するまで粘って止めさせた。
ペネロペの髪色はダークバイオレット、つまり濃い紫色で、縦ロールにするともはや触◯を頭から生やした魔物にしか見え無い。
前世の『らぶぷり』二次創作サイトでは、そこをいじった◯手ペネロペやメデューサペネロペのイラストが多数投稿されていて、前世の彼女は何も考えずにそれを見て腹を抱えて笑っていたものだった。笑えなくなってしまう日が来るとも知らず…………
もちろん、ゲーム内で最もペネロペの足を引っ張った、高慢で意地の悪い性格も封印。
というより、中身はアラサー陰キャ女の魂なので、そこは普通にしていれば全く問題無く、大人しく控えめな深窓の令嬢へと成長出来た。
他にもあらゆる対策を取り、これでヒロインとも軋轢を生まず、何なら穏便にエドモンド殿下をヒロインに譲り渡してしまえばいいと意気込んで迎えた学園入学。
しかし、ここで予想外の事態に遭遇し、ペネロペは困惑する。
ゲームでは無邪気で自由奔放だったヒロインが、品行方正、才色兼備なご令嬢の鏡にキャラ変を遂げていたのだ。
この、明らかなゲーム設定との違いに、ペネロペはヒロインが転生者なのだと確信した。向こうの視線からも、同じ確信を得ている事が伺える。
このまま二人でカミングアウトして、お互い幸せになれるよう手を結べないかとも期待したが、ヒロインは何故かペネロペから距離を取り、お互い接点も無いまま時は流れた。
その間の学園生活は全く平和で、ゲームのような派手なイベントも無く、品行方正なヒロインがペネロペや他の令嬢と軋轢を生む事も無く、気がつけば、『らぶぷり』最大のイベント、プロムナードでのペネロペ断罪及び婚約破棄が迫っていた。
しかし、今までゲーム内で起こっていた数々のイベントも一切起こらず、エドモンドや他の攻略対象者とヒロインが怪しい行動を取っているわけでも無く、噂も一切聞かない。
プロム前にはエドモンドから正式にエスコートのお誘いを受け、当日もきちんとエドモンド自身がロメイユ邸までペネロペを迎えに来てくれた。
(これはもう、イベントは起こらないだろう。ヒロインも転生はしたものの、ゲームとは違う人生を選んだんだわ。)
エドモンドのエスコートでプロム会場へと入場しながらペネロペがそう思った矢先…………
「お前との婚約を破棄する!」
突然ペネロペの手を離して、待ち構えていたヒロインと攻略対象者達の元に向かったエドモンドは、ペネロペに振り返ってそう言ったのだ。
(やられた!)
ヒロインは諦めてなどいなかった。
ゲームとは違うキャラになり、ペネロペを油断させておいて、ペネロペの知らないところで攻略対象全員を落とし、いわゆる逆ハーレムルートを攻略していたのだ。
ちなみに、『らぶぷり』における逆ハーレムルートとは、攻略者全員がヒロインに永遠の愛を捧げ、ヒロインと結ばれる王子以外の攻略対象者達は、ヒロインに操を立てて一生独身で王子とヒロインに仕えるという、王子とヒロイン以外は誰も幸せになれない、微妙なエンディングを迎えるルートだ。
前世のペネロペは、まるでプレイヤーの虚栄心を満たす為だけに用意されたようなこのルートが良心の呵責に耐えかねて、結局一度もプレイする事は無かったのだが、まさか、リアルでこのルートを選ぶヒロインが居るとは。
(自己顕示バリバリの強欲腹黒ヒロインめ!)
心の中で罵ろうともあとの祭り、まんまとヒロインにはめられたペネロペは、人生最大の屈辱を味わわされてしまった。
ペネロペとしては、特に思い入れも無いエドモンドをヒロインに譲る事は想定内だった。
だが、円満に婚約破棄出来るお膳立てをしてあげていたにも関わらず、わざわざプロムの大勢の列席者達の面前で、ペネロペを貶してヒロインを褒め称える演出など必要無いはずだ。
(みんなの前で殿下に選ばれて私を惨めにさせて、さぞ良い気分だったでしょうね。)
馬車の窓から流れる景色を眺めながら、ペネロペは独り言ちた。
「この落とし前、きっちりつけさせて貰いましょう…………」
応援ありがとうございます!
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