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初めての遠征 その2
良い夜〜ダーティとディックの場合2〜
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「嫌あっ! やめて、やめて!!」
ダーティとディックが聞いた悲鳴は、少女のものだった。カフェで接客をしていたあの少女である。
彼女に覆い被さっているのは目を血走らせた男。
男に衣服を乱暴に剥かれ、今まさに手籠にされようとしている。
絶体絶命のこの状況。抵抗する術を持たぬ少女の運命は暗澹たるものかと思われたその時。
「やぁぁぁぁッッ!」
そこら辺で拾ったらしい空き瓶を構えたダーティが、とても一介の演奏家とは思えぬスピードで走り男の頭に一撃を喰らわせた!
音を立て粉々に割れた空き瓶に、まさか自分にこれほどの力があるとはと驚き両手を見つめるダーティ。
その隙を突き、強い衝撃を受けたはずの男がダーティに反撃を喰らわせる。
男はダーティの胸ぐらを掴み壁に追いやると、そのまま壁に押し付けるようにして両手でダーティの首を絞め始めたのだ。
「カ……ッ!!」
宙ぶらりんになった足で暴漢の足を蹴り抵抗を試みるが、やはり演奏家程度の足蹴りではさほどダメージを与えられないらしい。
しかしダーティには強力な後ろ盾がいるのだ。主人に対する暴力を見逃すはずのない男が、月夜を背に翼を翻し魔法を唱えた。
「『スリープ』」
それはカイラがファングウルフ共に使用したのと同じ魔法だ。暴漢は柔らかな光に惑わされ、そのまままどろみへと堕ちたのだ。
「ガッ……! ゲホッ、ゲホッ!」
ダーティは地面へ座り込み何度か咳き込んだ後、フラフラと立ち上がり少女を見下ろす。
「こんな夜中に何故外にいるんだ!!」
そして今まで見た事がないほど激昂し、少女を怒鳴りつけた。
「ヒッ……!」
憧れの人から浴びせられる鋭い視線と怒号に少女は怯えの光で瞳を満たしながらも、ポツポツと話し始めた。
彼女の話をかい摘むとこうだ。
彼女は演奏家の卵であり、昼はアルバイトをし、夜はゴルド町のバーで演奏をしているらしい。
今夜も演奏し、オーナーに挨拶をして帰ろうとした時。そのオーナーに体を貸すよう詰められたようだ。
もし彼の言う通りにしなければ、もう2度とバーで歌わせて貰えなくなるだろう。
彼の言う通りにすれば、バーで歌わせてもらえるだろうが……
恐ろしくなった少女は何とか逃げ出したものの、ここでオーナーに捕まり乱暴されそうになったという事らしい。
「……ダーティさん」
泣き腫らした目を擦り、少女はダーティに声をかける。
「私……あなたのような演奏家に憧れて、この世界に入ったんです。私も音楽で人々を感動させてみたいって……でも」
少女の声が涙声に変わる。
「私もう……こんな目に遭うくらいなら。諦めようかと思います」
「……そうか」
少女の諦観の念があまりにも痛々しく、ダーティは小さな溜息を吐いた。
「『夢を追え』だなんて無責任な事、私にはとても言えないよ。いつどこでも夢追人というのは、持つ夢と同じくらい……いや、それ以上に大きな苦労を強いられるものだから。私は君と同じような人間を何人も見てきた。実際、暴力の果てに身籠り夢を諦めざるを得なくなった友人もいた」
だから。とダーティは少女に優しい眼差しを向ける。
「君のような純粋な人に、同じ目に遭ってほしくない……そう思っている自分がいる。しかし世の中には意外と優しい人もいてね。きっと演奏家の卵としての君を優しく受け入れてくれる場所もあるはずだ。……さて。そろそろ帰らないといけないね。家まで送ってあげよう」
人生と演奏家の先輩であるダーティの言葉が少女の心にそっと沁み込んだ。
そして彼女がこれからどのような道を選んだのかは……皆様の想像に任せる事にしよう。
ダーティとディックが聞いた悲鳴は、少女のものだった。カフェで接客をしていたあの少女である。
彼女に覆い被さっているのは目を血走らせた男。
男に衣服を乱暴に剥かれ、今まさに手籠にされようとしている。
絶体絶命のこの状況。抵抗する術を持たぬ少女の運命は暗澹たるものかと思われたその時。
「やぁぁぁぁッッ!」
そこら辺で拾ったらしい空き瓶を構えたダーティが、とても一介の演奏家とは思えぬスピードで走り男の頭に一撃を喰らわせた!
音を立て粉々に割れた空き瓶に、まさか自分にこれほどの力があるとはと驚き両手を見つめるダーティ。
その隙を突き、強い衝撃を受けたはずの男がダーティに反撃を喰らわせる。
男はダーティの胸ぐらを掴み壁に追いやると、そのまま壁に押し付けるようにして両手でダーティの首を絞め始めたのだ。
「カ……ッ!!」
宙ぶらりんになった足で暴漢の足を蹴り抵抗を試みるが、やはり演奏家程度の足蹴りではさほどダメージを与えられないらしい。
しかしダーティには強力な後ろ盾がいるのだ。主人に対する暴力を見逃すはずのない男が、月夜を背に翼を翻し魔法を唱えた。
「『スリープ』」
それはカイラがファングウルフ共に使用したのと同じ魔法だ。暴漢は柔らかな光に惑わされ、そのまままどろみへと堕ちたのだ。
「ガッ……! ゲホッ、ゲホッ!」
ダーティは地面へ座り込み何度か咳き込んだ後、フラフラと立ち上がり少女を見下ろす。
「こんな夜中に何故外にいるんだ!!」
そして今まで見た事がないほど激昂し、少女を怒鳴りつけた。
「ヒッ……!」
憧れの人から浴びせられる鋭い視線と怒号に少女は怯えの光で瞳を満たしながらも、ポツポツと話し始めた。
彼女の話をかい摘むとこうだ。
彼女は演奏家の卵であり、昼はアルバイトをし、夜はゴルド町のバーで演奏をしているらしい。
今夜も演奏し、オーナーに挨拶をして帰ろうとした時。そのオーナーに体を貸すよう詰められたようだ。
もし彼の言う通りにしなければ、もう2度とバーで歌わせて貰えなくなるだろう。
彼の言う通りにすれば、バーで歌わせてもらえるだろうが……
恐ろしくなった少女は何とか逃げ出したものの、ここでオーナーに捕まり乱暴されそうになったという事らしい。
「……ダーティさん」
泣き腫らした目を擦り、少女はダーティに声をかける。
「私……あなたのような演奏家に憧れて、この世界に入ったんです。私も音楽で人々を感動させてみたいって……でも」
少女の声が涙声に変わる。
「私もう……こんな目に遭うくらいなら。諦めようかと思います」
「……そうか」
少女の諦観の念があまりにも痛々しく、ダーティは小さな溜息を吐いた。
「『夢を追え』だなんて無責任な事、私にはとても言えないよ。いつどこでも夢追人というのは、持つ夢と同じくらい……いや、それ以上に大きな苦労を強いられるものだから。私は君と同じような人間を何人も見てきた。実際、暴力の果てに身籠り夢を諦めざるを得なくなった友人もいた」
だから。とダーティは少女に優しい眼差しを向ける。
「君のような純粋な人に、同じ目に遭ってほしくない……そう思っている自分がいる。しかし世の中には意外と優しい人もいてね。きっと演奏家の卵としての君を優しく受け入れてくれる場所もあるはずだ。……さて。そろそろ帰らないといけないね。家まで送ってあげよう」
人生と演奏家の先輩であるダーティの言葉が少女の心にそっと沁み込んだ。
そして彼女がこれからどのような道を選んだのかは……皆様の想像に任せる事にしよう。
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