魔導士カイラは許されない〜インキュバスの呪いで貞操帯をかけられた少年〜

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初めての遠征〜ダーティとカイラ〜

誘拐

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 今回はあらすじは必要無いと思うので省略させていただきます。

 そして今回からカイラとダーティが不憫な目に遭うので、苦手な方はご注意ください。

 特にダーティに関しては受けになるシーンがかなーり多いので、攻めが受けに転じるのが苦手な方はご注意くださいませ!

   ***

 強烈な光に包まれながら、先ほどまで馬に繋がれていたはずの幌馬車はとある場所に転送された。

「……カイラ少年。何があったんだ?」

 あまりの眩しさに目を瞑っていたダーティは、ゆっくりと目を開きカイラに訊ねる。

「罠魔法です。……すみません、僕、発動するまで気付きませんでした」

 カイラは悔しそうに膝の上の拳を握り締めた。

「とにかく外の様子を____」

「ヒャッハー!」

 ダーティの言葉を遮るように世紀末な男の声が響き渡った。

「ひっ……!」

 その声にカイラはつい守るべき人間であるダーティに抱き付いてしまう。

「親父ィー! 獲物がかかったぜェー! 親父ィー!」

 呼びかけに応じドスドスと忙しなく乱暴な足音が近付き、

「うるせぇ!!」

 という怒号と共に、「親父」と叫ばれていた男が殴る音が聞こえた。

「アイテーッ!」

 ガラガラと金属類が転がる音が聞こえた。どうやら殴られた衝撃で吹っ飛び近くのガラクタに尻餅を付いたようだ。

「フン!」

 親父が不機嫌そうに鼻を鳴らし、こちらへ近付いてくる。

 カイラはダーティ以外に聞かれぬよう声を低くして話しかける。

「大丈夫ですダーティさん。僕だって魔導士なんです! 奴が来たら魔法で吹き飛ばすので、その隙にダーティさんは逃げてください!」

「もし逃げられたとして。カイラ少年はどうするんだ?」

 カイラにならいダーティも小声で話す。

「それは……ええと」

 口籠るカイラにダーティは真剣な声色を向ける。

「カイラ少年。もし君が無事でなかったらヴェルトが悲しむぞ。奴らの人数もまだ分かっていないのに、無茶な真似をするものじゃない」

 そして遂に親父が幌馬車の中を覗き込み、すぐに2人の存在に気付いた。

 暗がりの中、互いに守るように抱き合う2人組を見下ろし、親父は怒鳴り声を上げる。

「誰だ!」

「……こっちが魔導士のカイラ少年。私は演奏家のダーティだ」

 2人の顔を見るなり親父はハッとする。

 茶髪に緑髪の平々凡々な少年はさておき……自己紹介をした金髪の男のあまりの美しさに、一瞬で親父は魅入られてしまったのだ。

 凛とした目の奥で光る、深海の如き深い蒼の瞳。

 しなやかな、くすみの無い金の髪。

 陶器の如くきめ細やかな肌。

 体つきも男の割には細く見えるが、決して貧相な訳ではない。

 一言で表せば「人形」……まさに人間の理想を形にしたような男だった。

(上物だ。金髪の男は美しく、茶髪の小僧は平凡だが、いくらでも買い手が付く)

 瞬時にそう算段し、「降りろ」と2人に馬車から降りるよう命ずる。

 暗い車内から現れた2人を出迎えたのは、先ほど親父から制裁を喰らった貧相な体つきの小男だった。

 奴らはいわゆる「山賊」である。

 2人とも山で狩った獲物の皮を剥ぎ鎧に加工した物を身につけている。

 身なりを見る限り小男は手下だろう。装備は雑に加工された毛皮の鎧くらいで、武器のような物は装備していない。

 いかにも「下っ端」といった顔立ちをしており、「ヒヒッ」と小気味悪く笑い2人の獲物を舐め回すように見ている。

 一方で「親父」と呼ばれた男は山賊のリーダーなのだろう。

 横にも縦にも大きな体を、北地方で恐れられている「ホワイトグリズリー」の毛皮を加工した鎧で包んでいる。

 強戦士といった様相の凛とした顔の下半分が、胸の辺りまで伸びたもじゃもじゃな髭で覆われている。

「なぁーんだ、男とオスのガキだけかァ! 若い女がいりャあ、売っぱらう前にオラが手篭めにすンのによォ!」

 あまりに乱暴な言葉にカイラが恐れ慄く中、ダーティは「なんだ」とつまらなそうに呟く。

「男には興味ないのか?」

「ある訳ねーだろォ!?」

(……無粋な奴)

 それを口にすれば「ンだどゴラァ!」と激昂され殴られるのは確実なので、ダーティは心中に留めておくことにした。

 小男の方は無粋だが、どうやら山賊の長は風流な男であるようだ。

 大男が汚い手でダーティの顎を掴み、鑑定士か何かのように顔をじっと見つめる。

「美しいな」

「よく言われる」

「演奏家をしていると聞いたが……それ以外には何かやっていなかったのか?」

「下積み時代に男専門の男娼をやってた」

 それを聞いた小男は「げェッ!」と大袈裟に嫌がった。しかしダーティは気にせず話し続ける。

「そして今、反抗する事がどれほど愚かであるかも十分に分かっている……だから、私のこの体、どのように使ってくれても構わない。ただしカイラ少年には決して手を出すな。彼の恋人は私の恩人なんだ」

「そ、そんな! ダーティさん!」

 あまりに危険な宣言にカイラは緊迫した表情を浮かべ止めようとするが、小男に取り押さえられてしまう。

「それは自分で皆に話すんだな。……じゃあ皆に紹介しよう。着いて来い」

「おらァ! とっとと歩きやがれェ!」

 静かな口調でそう命じた親分が踵を返したのを見て、子分が捕虜達の背を強く押した。
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