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第一章
国王陛下とその息子
しおりを挟む「君がマリアちゃんだね、ヒステリアそっくりな可愛らしい子だね」
国王陛下は柔らかく微笑み、私の頭を優しく撫でた。その優しい微笑みは私の母にどこか似ていた。ちなみにヒステリア、とは私のお母様の名前だ。
「マリアですわ、よろしくお願いします」
「おや、マリアちゃんは2歳なのに結構きちんと自己紹介ができるのだね。これは君の両親が君を天才児だというのも納得だね」
それを聞いたお父様がデレッと鼻の下をのばし、微笑んだ。お父様、家の中じゃ飽き足らず家の外でもこの話してるのか。やめてくれ。
私がうなだれた顔でお父様をみていると、国王陛下の後ろから私より少し背の高い少年がひょっこり顔を出した。
「マリアちゃん、この子は私の息子でね。第一王子のカイラスだ」
私の母と同じ金髪の少年は、小さくぺこりとお辞儀をして、また国王陛下の後ろに隠れてしまった。長い前髪をたらし、俯きがちで表情は分からない。きょとんとしている私をみて国王陛下は苦笑いした。
「これ、カイラス、お前の方が年上になるのだぞ、挨拶せぬか」
そう言われたカイラスだが、国王陛下の足にへばりついたままだ。
「陛下、カイラス様は緊張してるようだし、ここは子ども同士で話をさせてみては?」
父がそう提案し、私とカイラスは客間で二人きりになった。もちろん侍女が私の傍にいるし、なんならカイラスの従者もいる。
父と国王陛下は仕事の話があるとかでどこかへ行ってしまった。そこそこ位のある家だとは思っていたけれど、まさか国王陛下がくるほどの家だとは思ってなかったな。公爵くらいなのかしら。
そう一人考え込んでいたが、ふいにカイラスがそわそわとしていることに気づいた。
「王子、まだ緊張されてますか?」
声をかけてみるとぴくりと小さな肩が動く。
「あ…え、と…少しだけ…」
蚊の鳴くような声でカイラスは呟く。俯きがちで、相変わらず表情は分からない。
どうしろというのだ、父よ。
「緊張されているのでしたら、少し庭を散歩してみますか?」
返事はなかったが、小さく頷いたのをみて私はカイラスの手をとった。小さな手が震えている。
「さ、行きますよ王子!」
「は、はい…!」
私の手をきゅっと握りしてるこの少年に、少しだけ可愛いなどと思ってしまった私は決してショタコンなどではない。決してだ。
動揺を隠しきれないまま、私とカイラスは庭についた。
「うわぁ、すごく綺麗だね…!」
庭一面に広がる花畑をみて、カイラスは顔を上げ今までで一番大きな声を発した。
当たり前だ、うちの庭は花が好きな母が直々に手入れしている庭なのだぞ。私は花に興味がないから種類までは分からないけど。
「王子は、花が好きなのですか?」
「うん、とっても好きなんだ。僕も小さな庭を父上からいただいてね、庭師と一緒に世話をしてるんだ」
相変わらず長い前髪が邪魔して、表情まで分かりづらいが口元が笑っているのが見え私はほっと胸をなでおろした。
なんとなく庭にきてみたが、選択肢としては正解だったようだ。楽しそうに花の話をするカイラスを見つめ私は微笑んでいた。
見つめているとカイラスが話すのをやめ、黙り込んでしまった。
「……」
「どうかされました?」
「……花が好きだなんて、男のくせにって思うよね」
また俯いてしまったカイラスの頬に手を添え、私はグッと顔を無理やりあげさせた。
「そんなことはありませんわ!」
顔をあげた反動ではらり、とカイラスの前髪が左右に別れ初めて彼の瞳を見た。国王陛下や、私のお母様と同じ金色の瞳。いや、国王陛下やお母様よりも澄んでいて真っ直ぐな綺麗な瞳だった。
その瞳を私も真っ直ぐ見つめる。
「花たち植物はとっても弱い生き物なのです。食事である水を与えなければいずれ枯れてしまうし、きちんと育てるというのはとても大変なことなのです。女だからとか、男だからとか関係ありません。
そんな大変なことをできるあなたは、素敵な方ですわ!」
そこまでまくし立て、小さな私はゼェゼェ息を吸う。自分が思っているよりもこの身体は肺活量がないのだと、知った瞬間であった。
カイラスはといえば、それを聞きぽろりと涙をこぼした。
「お、王子!?」
「…あ、えと、ごめん。そんなこと言われたのは、初めてだったから…」
「ああ、もう袖で拭かないでくださいませ!こちらをお使いになって…」
ポケットからハンカチを取りだし、差し出そうとした手をカイラスが掴み、そっと口付けをした。
「えっ…!」
「マリア、ありがとう…」
目を細めへらっとカイラスは微笑む。
その表情をみて私の中で、なにか私の中で咲いたような温かい気持ちになったのはまた別の話だ。
「ところでマリア、本当に君2歳なの?」
「残念ながらまだ2歳ですわ。王子はおいくつですの?」
「この前5歳になったよ、それよりもマリア、王子なんて寂しい呼び方しないでおくれ」
「…ではカイラス様と呼ばせてもらいますわね。カイラス様もう緊張されてないみたいね」
「ふふ、マリアが緊張していた僕の心をほぐしてくれたからね」
なんか懐かなかった子犬を懐柔したような気分だわ、なんて思いながらへらへら微笑むこの子犬王子を眺めていた。神からもらった手紙のことなんかすっかり忘れて…。
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