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一、蕾

一、蕾 21

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 お腹は満たされたけど不安感は減らない。
 今日一日、花を食べなかった。こんなこと初めてで心臓がどくどくと大きく高鳴っている。

 たしかまだ、乾燥させた花びらをベルトに仕込んでいたし、時計の中にも錠剤が入っているはず。
 うまくまだ身体は動かないけれど、彼がシャワーに出ていった隙にベルトを探した。

 綺麗に丸めて、彼の高級時計の隣に置いていたので、笑ってしまった。
 高級な時計の横に、ボロボロのベルトは不釣り合いだ。竜仁さんは不動産会社の御曹司で、僕はその有栖川家を恐喝しようとしていた両親の子どもで、本来ならば番になる必要もないのに。
 彼だってお金持ちではあるけど祖母を傷つけた相手の孫だ。
 僕を無理やり番にした相手だしね。

 いつもの青臭い花びらとは違う、乾燥した花びらを舌の上でふやかしながら、今後のことを考えてため息を吐く。
 テーブルの上の宝石箱は鍵がかかっている。持ち上げようとしたら、テーブルごと持ちあがって頭痛がした。宝石箱ごと逃げ出すのは難しい。

 形見さえ手に入れば、さっさと逃げ出すのに。

「辰紀くん、お風呂は溜めたので入りますか?」
「うわっ」

 ノックもせずに入ってきた彼のせいで、舌の上でふやかしていた花びらを飲み込んでしまった。
 まだ柔らかくなっていないので、飲み込むのが痛かった。

「……バスローブ似合ってますね」
 髪をタオルで拭きながら現れた竜仁さんのもこもこのバスローブ姿が似合っていて笑いそうになる。
「褒められて嬉しいよ」
 軽くかわして、こちらに歩いてくる。この人、今日はどこで眠るつもりなんだろう。
 今日は流石に……昨日みたいな手荒いことはしないかな。
 さっさと出て行けよと顔を背けようとしたら、顎を掴まれ持ち上げられた。

「でも、……私は、中毒性が強いから食べたらいけませんって言いましたよね、花びら」
「え、あの」
「ワザと残していて、試したんですよ。本当にイケない子ですね。貴方は」

 腰を引き寄せられるように立たされ、口の中へ手を入れられた。
 あのベルトの隠しファスナーなんてとっくにお見通しだったってことか。

「うっ」
 えずくほど指を押し込められて、必死で両手で指を抑えた。

「まずは、吐いてからね」
 優しい声と笑顔に、恐怖で両手から力が抜けていく。
 足をバタバタとベッドサイドで叩いても、口から指が抜けなかった。
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