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第2章 主人公の心、揺れ動く
デートのお誘い
しおりを挟むレイの言葉に動揺する。それは、レイの言う通り俺の頭はアミィール様で一杯だからだ。
アミィール様は、とても素敵な御方だ。
頭脳明晰、文武両道、才色兼備、そして皇女という地位に相応しい振る舞いをすることができて、でも性格は明るく、些細なことでも子供のように喜び、茶目っ気があって……………俺の語彙力では現しきれないほど、素敵な御方だ。
たとえゲームの主人公でも、胸を張ってアミィール様の心を奪えるなどと思えないほどのハイスペック。…………そもそも、主人公という補正など彼女の前では無意味で。つまり。
俺自身を好きだと、そういうことではないか?
そんな願望に似た淡い思いを抱いてしまう。期待をしてしまう。叶わぬ恋だと言うのに…………………
………………恋、か。
これが恋というものなのか。
前世では何度か女性と付き合ったことはある。でも、それはありがたいことに女性から告白されて、だ。流されるように付き合って、流されるように女性の言いなりになって…………それを恋だと思うことは、なかった。
でも、アミィール様に対して抱いている思いはそれらの女性とは明らかに違う。日に日に虜になっているのが自分でもわかる。
……………正直、怖い。
好きだと認めてしまっては、別れが惜しくなる。婚約を受ければいいのだろうが、そんな不敬な事を自分ができるとは全然思えない。婚約をしてみたと仮定して想像を何度も繰り返すが、全然未来を抱けない。
ギャルゲーの世界のモブ皇女と結婚したら、ゲームのシナリオはどうなるのだろう…………………
「………………セオドア様、1度思考を止めてキッチンを見てください」
「…………あ」
レイに言われてキッチンを見ると、大きなビルのように積み上げられたホットケーキがあった。
* * *
「あの、セオドア様、よろしければ今度の休み、お出かけに行きませんか?」
「え」
学園の食堂で、共に昼食を共にしていたアミィール様_共に昼食を食べる為だけに食堂にある大きな個室を貸切状態にされた_が柔らかい笑みを浮かべながらそう言ってきた。
思わず、フォークに指していた肉がぽろりと落ちる。アミィール様はくすくすと笑っている。
いや、笑い事ではない。それは、つまりデートではないか!?
「え、っと……………その、男女が2人で出掛けるというのは………」
「ええ、デート、です」
「………………ッ」
さらりと断言された。……………サクリファイス大帝国の女性は情熱的というか、ストレートに男性に誘うのだろうか…………サクリファイス大帝国に行ったことがないからわからないが。
顔を真っ赤にして下を向くセオドアに、アミィールはくすくすと笑いながら言う。
「わたくし、もっとセオドア様の事を知りたいのです。………正式な婚約を申し込してしまい、順序が可笑しいことは重々承知しているつもりなのですが………………だめですね、どうしても貴方ともっと居たいと思ってしまうのです」
「そ、そう思われて光栄です………………」
「無理にとは言えませんが、お受けしていただけると嬉しいです」
声色が少し暗くなったから、顔を上げた。眉を下げて、自信なさげにそう言った。……………皇女でなんでも強要できる立場の彼女がそれをせずに1人の女子として自分と向き合ってくれているのが伝わってくる。
「わ、私でよければ喜んで」
「本当ですか?…………へへ、嬉しいです」
無意識に放っていた言葉にへにゃりと笑みを浮かべるアミィール様。
こ、これは…………その、外交のことを考えての対処だから!た、楽しみであるとかそういうのでは…………!
なんて自分に言い訳するセオドアの顔はゆるゆるだった。
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