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第2章 主人公の心、揺れ動く

主人公は抱き締める

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 「紅茶を………………」




 座ってすぐに、アミィール様はティーポットとティーカップを持った。けれどその手つきはたどたどしい。ティーカップを持っている手は震え、ティーポットを持ち上げすぎている。それは高い位置からワインを入れるパフォーマンスを見せる時のソレである。



 あまりに心配だったセオドアは慌てて言葉を紡ぐ。


 「私がやります、アミィール様」


 「でも……………」


 「美味しく淹れますので、ご安心を」



 セオドアに言われて、アミィールは暗い顔持ちでセオドアに手渡す。セオドアは手際よくダージリンの香り漂う紅茶を淹れた。セオドアは聞く。



 「ダージリンはミルクとよく合います。どうなさいますか?」


 「では、入れます」


 「わかりました」



 セオドアは流れるようにミルクを適量入れる。普段からお菓子を食べる時に紅茶も一緒に飲む。全部自分でやっているから慣れているのだ。



 「どうぞ、アミィール様」


 「ありがとうございます…………」



 アミィールはそう言って紅茶を1口飲む。暗かった顔は柔らかくなった。



 「………………美味しい」



 「それはよかったです。流石、アミィール様の準備させた物ですね」



 お世辞ではなく本心である。紅茶を嗜んでいるからこそ、この紅茶がとても高級なものだとすぐにわかった。サクリファイス大帝国のものかな?見たことは無いけど、紅茶の放つ甘い香りが教えてくれた。自分も飲もうと思ったところでふと、思い出した。



 「そうだ」



 「?」




 セオドアはゴソゴソと手持ちの籠を漁って、綺麗に包装されたマカロンを取り出した。



 「アミィール様、よろしければこれも食べてください。男の手作りですが…………」



 「マカロン……………マカロンも作れるのですね、セオドア様は」



 しまった!と思った。以前はアミィール様が望んだから作ったが、普通に考えて菓子を作る男など貴族にはいない。こんな女々しい部分を見せてしまうのは………というか、出過ぎた真似ではないか?



 グルグルと負の思考に陥るセオドアの手にあるマカロンを、アミィールは手に取って口に含む。すると、目を見開いて口を押さえた。



 「これも美味しい…………!」


 「で、ですが、…………男児がやることではありません、アミィール様にはお恥ずかしい所ばかりみせてしまってますね」



 「そんなことありませんわ!」



 マカロンを食べ終わったアミィールは少し大きな声でそう言ってセオドアの手を自分の両手で包む。



 「紅茶がこんなに美味しい物だと思ったのはセオドア様が上手に淹れてくださったからですし、このマカロンも、この間のチョコブラウニーも…………どれも美味しいです。


 それに……………お恥ずかしいのは、わたくしですわ」



 「え……………?」




 アミィールは目を伏せる。とても悲しそうな顔に、セオドアはどうすればいいのか分からなくなった。こういう時、何を言うのが正解なのだ………?




 そんなセオドアをよそに、アミィールは言葉を紡ぐ。




 「わたくしは……………女の身でありながら、お菓子ひとつ作れず、紅茶の淹れ方ひとつ覚束無い……………他にも、花のこともわからなければ裁縫も刺繍もできませんわ。


 わたくしの出来ることは男性が行えることばかり。剣技や魔法などの可愛くないものばかりで……………お慕いする殿方をもてなすことすらままならないのです」



 そう言ったアミィール様は、悔しそうだった。いや、やっぱり悲しんでいるようにさえ見える。




 _____そんな顔、見たくない。




 そう思ったら、身体が勝手に動いて。


 セオドアは____アミィールを抱き締めていた。








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