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第5章 主人公の隠された能力
皇帝の乱心
しおりを挟む「わ、………」
今日も今日とて執務のお手伝いをしていた。けど、いつもと違うことが起きた。
ノックもせずに開け放たれた扉の先には______アミィール様のお父様であり、この国の皇帝であるラフェエル・リヴ・レドルド・サクリファイス様。
俺は慌てて椅子から立ち上がり、地面に膝をついた。皇帝の前ではこうするのが礼儀なのである。
ラフェエルは震えながらもぎこちなく最上の礼をするセオドアをまるで虫を見るように見下してから、自分の娘であるアミィールに視線を映した。
「何故、国家機密溢れる執務室に、虫がいる?」
「あら、虫なんていないですわ。強いて言うなら今入ってきた紅銀の蝿かしら?」
アミィール様ー!?それは直球過ぎます!いえ!皇帝様が蝿だと言う訳ではなく!
1人滝汗を流すセオドアの存在など目に入らないラフェエルは紅い瞳を鋭くさせた。
「………………お前をヴァリアースに行かせたのは失敗だった。勉学ではなく婚約者を探すなどくだらない事をする為に国を出たのか?」
「それは今関係ないですわ。皇帝様が直々に執務室に乗り込み、あろうことか執務の邪魔をしていることについての弁明をお聞かせください」
「………………………これ以上、私を侮辱するならお前の愛する男をこの場で切り捨てる」
「!」
首筋に、ヒヤリと冷たい刃が当たる。少し食いこんだせいで血が滲む。
それを見たアミィールは椅子から立ち上がり詰め寄った。
「お父様!それ以上したらわたくしは許しません!今すぐその刃を退けてください!」
「ならば色恋にうつつを抜かすな。この男との婚約を破棄しろ。そうすれば命は助けてやろう」
身体が、震える。
冷たい刃から、伝わってくるんだ。
殺気が。
冷たい汗が流れる。感じるんだ。
____この皇帝は本当にそれをやる、と。
でも。
「……………皇帝様、どうかお許しください」
セオドアは震える声で言った。ラフェエルがやっとセオドアを見る。顔には浅く笑みが浮かんでいる。
「命乞いか?大した男だな」
「そうでは、ありません。
私を殺してもらって構いません。
ですが…………………
____アミィール様が私と出会えた事まで、否定をしないでください」
「………!」
セオドアは、勇気を持って自分の首に添えられた剣を握りしめた。…………少年漫画ではこういうシーン、沢山あったけど、こんなに痛いんだ…………でも、そんなのどうでもいいから、少年漫画のキャラはこれを行ったんだ。
そこまで考えて、笑みを浮かべながら___顔を上げた。
「私は殺されても構いません。ですが____それでも、アミィール様をお慕いしてしまうことを、お許しください」
「ッ………貴様…………!」
皇帝は、目を見開いていた。紅い瞳が揺れている。アミィール様と同じ、紅銀の髪は本当に美しいと思う。
ラフェエルは群青色の髪、緑の瞳の男を見下ろしている。その男は娘が勝手に婚約を結び、勝手に連れて来た公爵の息子。初めて見た時はなんと女々しい男かと思った。元々高くなかった好感度が地に落ちたのだ。この男には国を任せられない。だから認めたくなかった。
いや、違う。
私は____アミィールが他の男の物になるのが、許せなかったのだ。
私達の希望を何処の馬の骨かわからない男に触れさせたくなかった。
だから脅してやったというのに_____その男は、泣きそうな顔をしながらも皇帝である私を睨み、掌を血だらけにしているのだ。
知っている。
長年の勘が言っている。
____この目をした者は、簡単に引き下がらない、と。
「………………お父様、執務室を出ていってください。
わたくしは、………セオドア様を殺すというなら貴方を殺し、……………セオドア様をその前に殺すというのであれば…………
______わたくしは自害をします」
「…………………チッ」
ラフェエルは舌打ちを1つして、剣を仕舞いながら執務室を出ていった。
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