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第5章 主人公の隠された能力
主人公と皇女は号泣する
しおりを挟む「セオ様!」
アミィールはラフェエルが出ていくのと同時にセオドアに近づいた。掌から血を流すセオドアは____目に涙を浮かべながら、安堵したように笑っていた。
「アミィ、ごめんね。…………心配させてしまって」
「ッ…………!」
怖かったはずだ。
紙に書いてあることでさえ怯える御方が冷徹と有名なサクリファイス大帝国の皇帝に刃を向けられて。首筋に少し血が滲んでいる。
なのに。
目を背けず、喚くこともせず、わたくしを愛していると言ってくださった。わたくしと出会えたことを否定しないでくれ、と皇帝と目を合わせて言い放ったんだ。…………大事な掌まで血だらけにして。
そう思うと勝手に涙が出てきた。だめだ、泣く前に治療をしなければ。
「…………セオ様、失礼致します。
治癒魔法」
アミィールの掌に淡い緑の魔力を纏う。血だらけだった掌を重点的に癒す。セオドアはそれを不思議そうな目で見ていた。この世界で治癒魔法を使えるものは少なく、使えるだけで優遇されるほどの希少な魔法だからだ。勿論、セオドアが見たのも初めてである。
粗方治った所で、部屋にいた自身の侍女、エンダーに言う。
「エンダー、わたくしはセオドア様を部屋にお連れします。あの排泄皇帝が踏み荒らした物を片付けていて。給料5倍よ」
「承知致しました」
「わっ、あ、アミィ!」
アミィールは驚くセオドアに有無を言わさずお姫様抱っこをして執務室を後にした。
* * *
また、アミィール様にお姫様抱っこをされて長く幅の広い廊下を見ている。
男のプライドはズタズタだけど、乙女としてはご褒美である。怖い思いをしただけよりそれを感じた。
……………皇帝に刃を向けられた時、頭が真っ白になった。死ぬと思った。
けど。
アミィール様と出会ったことを否定するような言葉は許せなかったんだ。
俺はアミィール様に出会えたことが1番嬉しくて、幸せの始まりだった。それを無下にされるのは死ぬより耐えられなかったのだ。
だから、刃向かった。死ぬ覚悟で。
その結果____アミィール様に、悲しい顔をさせている。無言で部屋に着いた。
アミィール様は俺をベッドに降ろして、改めて抱き締めた。
「ッ、あぁ…………!」
「!?アミィ!?」
抱き締められた瞬間、胸の中にいるアミィール様が声を出して泣いた。龍神の話をした時以来の大号泣に戸惑う。何が何だか分からずあたふたしていると、アミィール様が泣きながら言葉を発した。
「死ぬなんて簡単に言わないで!なんでわたくしと離れることを選ばなかったのです!貴方の手は刃を握るものじゃないです!美しく美味しいお菓子を作り!花を愛でる大切な御手です!
わたくしのことなどいいのです!何故、命乞いをしてくださらなかったんですかぁぁぁ!」
「………ッ」
初めて泣きながら怒られた。こんなに取り乱すアミィール様は初めてだ。でも、放たれる言葉は全て俺のことを想っている温かい言葉で。
今、実感した。
俺は殺されなかったんだと、実感した。
実感したら不思議でさ、涙が勝手に溢れてきた。
「ッ、ごめん、アミィ、ごめん。でも、俺、………我慢できなかった」
「っ、ばか、馬鹿馬鹿馬鹿!セオ様が死んだらわたくしは1人です!セオ様の命はわたくしの命だと言うのがなぜ分からないのですかァァァ!血なまぐさいのはわたくしだけでいいのにぃぃぃ!なんで…………ッ、死ぬなんて、…………」
「ごめん、ごめんね、…………っありがとう………」
俺はアミィール様をキツく抱き締めた。わんわん泣くアミィール様を自分から抱きしめて、俺も泣いた。
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