86 / 469
第6章 お披露目祭り
皇女は隠す
しおりを挟む「…………………………ふう」
アミィールは一人、テラスから空を見上げていた。セオドアは父・セシルと居る。2人で話したい、と言っていたから席を外したのだ。
………………星は、サクリファイス大帝国と変わらず綺麗だ。
セオドア様と早く結婚したい。
それは確かだ。変わらない。
でも。
不安が無いわけじゃない。
だって、私は____………
「アミィール様」
「……………あ 」
不意に呼ばれ、振り返るとセオドアの兄・セフィアが居た。結婚したら兄になる人だ。
アミィールはすぐに礼をする。しかし、セフィアは『頭など下げないでください』と軽い調子で言った。
「むしろ、身分的に頭を下げるべきは私だ」
「いいえ。兄になっていただくのですもの、母ではありませんが、家族です。
身分など関係ありませんわ」
事実である。
…………わたくしには兄弟が居ないから、すごく新鮮。このセオドア様によく似た兄ができるなど、幸せだ。
「是非、身分など忘れて話しかけて欲しいです。………そちらの方が、わたくしは嬉しいです」
「…………そうか。では、遠慮なく。
なあ、アミィール様、……………セオドアに、言ったのか?"龍神"のこと」
「…………ッ」
アミィールはその言葉に怯む。
…………多分、わたくしとセオドア様が居ない時に、"龍神と結婚するという意味"を聞いたのだろう。家族に言う、とは前もって聞いていた。
ぎゅ、と手摺を握る。
セフィアはそれをちゃんと見ていた。
…………これは、言ってないんだろうな。
先程、サクリファイス大帝国皇妃、アルティア様から龍神との結婚について聞いた。端的に言うと"セオドアが傷つくことは一切ない"ということだ。
子供も生まれるし、基本的には問題は無い。
ただ____この、まだ幼げの残る美しい少女は、違う。
「……………………言わないのか?」
「………………ええ。言いません。
言えない、と言った方が正しいでしょうか?」
アミィールは力なく笑う。セフィアはそんな儚げな少女を抱き締めたい気持ちに駆られる。…………けど、それは俺の役目ではない。
「_____セオドアが聞いたら、悲しむだろうな。きっと首を突っ込む。
ああ見えて、無鉄砲だから」
「そんな気が…………します。でも、だから言わないという訳では無いのです」
そう言ってアミィールはくるり、と背を向けた。月明かりを浴びた紅銀の長髪がサラサラと揺れる。
アミィールは月を見上げながら、呟くように言った。
「わたくし____セオ様、セオドア様が大好きです。愛していて、………どうしようもないくらい。
きっと、セオドア様が知ったらどうにかしようと奮闘してくださるでしょう。それは嬉しいです。けど………………あんなにお優しい人を、悲しませたくないんです。
_____わたくしの身体のことを知って、あの方が泣くのは耐えられない。
だから、わたくしは……………"呪い"や"代償"と、"自分一人"で戦う道を喜んで選びます。
好きな人には、…………………」
アミィールはそこまで言って、首だけをセフィアに向けて、笑った。
「____綺麗なところしか、見せたくありません」
「………………ッ」
強くて哀しそうな顔に、セフィアは顔を顰めた。あまりに悲しすぎる選択だ。セオドアが知ったら泣くだろう。…………けど、それを選んだ彼女の決意を踏みにじってはならない。
セフィアはそう考えて、目を細めて笑う。
「______噂通り、貴方は強いな」
「そんなことないです。………………可愛くない女なだけです」
アミィールはそれだけ言って、部屋に戻っていく。
その背中を見送ってから、セフィアは月を見た。
_____セオ、お前の愛する人は強いぞ。いい女だ。お前達はお似合いだ。
だけど。
男として____気づいてやってくれ。
月は、照らす。
弟想いの兵士長を、静かに照らした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
71
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる