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第11章 人外皇女の秘密
人狼キャラは主人公を見る
しおりを挟む「ま、まいりました………………」
天気のいいある日。
群青色の髪に砂埃をかぶり、緑色の瞳を潤ませたセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスは鍛錬場の真ん中で尻餅を着いていた。
目の前には____銀髪のベリーベリーショートヘア、金と赤のオッドアイの皇妃・アルティアの側近であるガロ。持っている木刀の先を目の前に向けている。
つまり、俺は今日も負けたのだ。そう思うとやっぱり涙が滲んでくる。
ギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公はとてつもなく凡人なのだ。チート能力が無いわけでは無いのだけど俺の力は所謂回復チートでこのような場では使えない。
サクリファイス大帝国の皇女に見初められ2年、結婚して1年が経とうとしているのに平凡で乙女すぎる俺には剣技などできるわけがないのだ…………………
※
そういっているセオドアの周りにはたくさんの兵士が転がっている。ラスボスとして出てきたのがガロだった、つまりそういうことである!▽
※
もう涙目でプルプルと子犬のように震えているセオドアに、ガロはにこやかに声をかけた。
「……………セオドア様は成長が早いですね。2年ほど講師をやらせて頂いておりますが一歩一歩着実に前に進めていますよ」
「あ、ありがとうございます…………」
褒められるのは嬉しいが、俺はこの乙女ゲーム『理想郷の王冠』の攻略対象キャラであるイケメンハイスペック人狼側近に膝を付けさせたことは無い。最初こそ浮かれていたけれど、ここまでコテンパンにやられると涙しか出てこない。
おまけに最近はこの国のトップであるラフェエル皇帝の側近・リーブにも勝ったことがない。…………俺はこの2年間何をやっていたんだ…………?
褒められているというのに意識の高さ故に自己嫌悪に陥るセオドアに、ガロはふ、と笑みを零す。
この御方はアル様とラフェエル様の御息女であらせられるアミィール・リヴ・レドルド・サクリファイス様の皇配である。アミィール様がお慕いする人間が弱いわけがないと思っておりましたが、ボクの予想など軽く上回る程の御方だ。
まだ18歳だというのに皇族としての意識を強く持ち、責任感を持って公務を行い、それでいて驕ることなく誰に対しても丁寧。素晴らしいお人柄に素直な性格故に物覚えもいい。心優しき皇配様なのだ。
とはいえ、アミィール様と共に生きるとなれば、もっと強くならねばならないのは事実である。勿論城の兵士も側近一同、もっと言えばアル様もラフェエル様もこの御方を守る覚悟はある。しかし、ご自分で強くなる、という気持ちを忘れず研鑽は続けていくのは宿命であるのだ。
宿命……………この言葉は、好きではない。
定められた運命を壊す一端を担ったからこそ、この言葉を使いたくないのだ。けれど、この先も生きていくにはこれは付き纏う。
だから______
「ガロ様!」
「……………?」
そこまで考えたところでセオドア様が声をあげた。ボロボロだと言うのにそれでも両手で剣を構え、先日水の精霊から力を頂き得意となった水魔法を纏いながら強い眼差しでボクを見ている。涙目だというのに、それでも口元に無理やり笑みを称えて、言葉を放った。
「続きを、お願いします!」
「……………………」
_____嗚呼、本当に強い人だ。
ガロは金と赤の瞳を見開いてから、それでもすぐに目を細めて笑みを浮かべた。
「はい。____不肖ガロ、御相手させて頂きます」
______ボクの守る者は昔からアル様ただお1人。
けれど。
アル様が、ラフェエル様が生み出した"幸せの形"が見初めたこの可愛らしい御方を立派に育てたいとも思うのです_____
そう思いながら、セオドアと木刀を交えた。
応援ありがとうございます!
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