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第11章 人外皇女の秘密
嬉しくないお揃い
しおりを挟む「…………………」
俺は、今頭が働いていない。思考が放棄されてしまっている。なぜなら___
「…………まいりました、セオドア様」
「…………………」
今、尻餅を着いているのは俺ではなくて。
見下されているのは俺ではなくて。
俺の眼下には____リーブ様。遠くにリーブ様の剣が落ちている。俺は…………魔剣の姿のダーインスレイヴ様をリーブ様の眼前に向けているのだ。
まるで、自分じゃなかった。
いつもだと『こうしなきゃ』、『ああしなきゃ』と自分の頭で考えて剣を振るっているんだけれど、ダーインスレイヴ様を使うと、何処に剣を向ければいいのか、相手がどこを狙っているのか、次の攻撃はなんなのか…………それが、自然とわかるのだ。
現に、今まで1度も勝てなかったリーブ様に勝てたのだ。嬉しいとか申し訳ないとか色々な感情もあるけれど、………それ以上に戸惑った。
『な?できたろう』
「なん、で……………」
『そりゃあ、俺が力を貸しているんだからさ。こう見えてもサクリファイス皇族自慢の魔剣だぜ?………っと、リーブにも謝らなきゃな。
セオドア、俺をレイヴと呼べ。敬称は付けるな』
「れ、レイヴ…………」
「おう」
「!」
そう言うと、パッ、と手から剣が消えて………ダーインスレイヴ様が人間の姿で出てきた。そして、リーブ様に手を差し出す。
「悪いな、リーブ。また相手してもらって」
「いいえ。初めてダーインスレイヴ様を使うのなら私相手の方がいいでしょう。ガロだと手加減を知らないので」
「俺もそう思ったんだ。折角初めて使うなら、自信を付けさせたくてな」
「…………はっきり言われると傷つきます」
「……………」
そんな楽しげな会話をしている2人に話しかけられない。この平凡な俺があんなに強くなれると思えなくて……………
未だに固まっているセオドアに、ダーインスレイヴはにや、と笑った。
「…………お前が真剣を握らなくていい人間なのはわかる。が、何かあった時、身を守るくらいは出来るようにならねえとサクリファイス皇族とは言わねえ。
本当にやばい時、それで俺を呼べ。…………セオドア・リヴ・ライド・サクリファイスよ」
「…………は、はい」
セオドアは空返事しか出来なかったのだった。
* * *
「…………………」
「……………セオ様?」
「…………………」
「セオ様………………」
夜、帰ってきてから約30分。
セオドア様の様子がずっとおかしかった。ノックをした時の『どうぞ』という声も不思議な声で……………今も、ぼうっとされている。
わたくしが何かしたのでしょうか…………?
「セオ様」
「わ、っ」
無言がとてつもなく不安で、わたくしはセオドア様の頬を両手で包み視線を合わせる。エメラルドのような緑色の瞳が見開かれている。…………泣いてはいないけれど、心ここに在らず、という感じがする。
「なにか、なにかございましたか?…………わたくし、なにかしてしまいましたか?」
「ッ、そうじゃない!そうじゃなくて、その、………今日、不思議なことがあって………」
「不思議なこと?」
紅銀のストレートヘア、黄金色の瞳に若干潤ませるアミィール。それにやっと気づいたセオドアは慌てて言葉を紡ぐ。
「ッ、実は、ダーインスレイヴ様が、………私に、魔剣を……」
「____!」
アミィールはそれを聞くなりセオドアの両耳を見る。右耳に、紫色の…………自分と同じシンプルなピアスがついていた。
それを見て___わたくしは、怒りを覚えた。
「あの魔剣…………!」
「あ、アミィ?」
アミィール様が2年前の断罪イベントの時のようにキレている。心の底から怒っているのだ。…………そんなアミィール様の左耳にも、先程鏡で見た自分とお揃いの青紫色の丸いピアスがついている。
………………おそろいだ。アミィール様と、お揃い。指輪もお揃いだけれど、それでも新しいお揃いは………嬉しかった。
緩みそうになる赤い頬を抑え下を向くセオドアを他所に、アミィールは激しい怒りを覚えていた。
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