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第10章 生贄皇子救出大作戦、始動
その勝負、"引き分け"につき
しおりを挟む『な、なにをしている!?………ッ』
「痛いなら動かないで。今、治療中だから」
『巫山戯るな!私は負けたんだ!殺せ!』
「………………勝負は、引き分けよ」
アルティアは魔法を扱いながら、静かに言う。
「私は約束を破って、魔法の力で貴方に勝った……………これは勝ったとは言わない。
でもあなたは倒れている……………だから、引き分け」
『なにを…………………』
意味がわからない。何を言っているのこの子供は?
黒髪が、そよそよと風に揺れる。それに構わず言葉を紡ぐ。
「私は____ラフェエルが好き。ラフェエルが死んだら"私の世界"は変わってしまう。いなくちゃいけないの。………ずっと傍にいて欲しい。
だから、私はラフェエルが死なない方法を考える。龍神になる為にどうしてもラフェエルの命が必要だと言うなら___私は龍神という立場を、捨てる。
だから、…………もう一度、信じて欲しい。
龍神ではなく、"私"を」
『……………!』
治癒魔法の光が消えていく中、女は私を真っ直ぐ見据えた。
____この世界は、呪われている。
この子供に、変えられるほどの力はあるのか?
この言葉を信じていいのか?
また裏切られるのは嫌だ。
また…………………あの悲しい思いをするのは、嫌だ。
けれど。
龍神ではなく、自分を信じてくれ、という言葉を_____信じて、みたくなった。
なあ、サイファー。
私は_____どうすればいい?
「アル!」
サイファーによく似た声が、聞こえた。
* * *
空の妖精神と話していた時、呼ばれた。
不機嫌そうで、ちょっと低くて、でも心地よい声。
ずっと聞きたかった声。
私は空の妖精神から目を離して、声のした方を見る。
ずっと探していた、私の原動力の____
「ラフェー…………!」
名前を呼ぶのと同時に、抱き締められる。固い胸板が顔にあたる。とく、とく、と心臓の音が聞こえる。
「ッ、アル………………すまなかった、手間をかけさせて」
優しい声に涙腺が緩みそうになる。
けど、気恥ずかしくて、やっぱり素直な言葉は出なかった。
「べつに、もう慣れたからいいわよ。それより…………大丈夫?」
「………………私のことよりも自分のことを心配しろ。傷だらけで血だらけじゃないか」
そう言って、少し離れて私の頬に手を添える。痛みなんて吹き飛んじゃう。
「私は龍神よ、こんな程度で死ぬものですか!アンタは…………無事なようね」
「………………それより、空の妖精神と風の精霊はどうするんだ。
殺す、のか?」
…………………そんな悲しそうな顔されたら、殺せるものも殺せないわ。
最も、殺す気なんてなかったけど。
『…………………その龍神は、殺すどころか私の傷を癒したのだ』
私に向けられた問いに答えたのは、空の妖精神だった。痛みはないらしく、ちゃんとした歩行で私に歩みよる。
『先程の言葉に_____嘘はないんだな、龍神…………いや、アル』
「うん。ない。………ガーランドが果たせなかったことまで全部私が引き受ける」
『そう、わかっ_『スカイちゃん』_!』
空の妖精神が言い終わる前に、オカマ………風の精霊が空の妖精神を抱き締めた。空の妖精神は驚いたような顔をした。
『お前…………傷がないじゃないか』
「それ、私がエリアスに頼んどいたの」
『?』
「人質の役目を果たしたのなら、もう痛め付けることは無いでしょう?私が戦っているあいだに治療してもらった」
『ムカつくけど、その通りよん!ワタシ、元気になったわ!スカイちゃん!』
『わかったから抱きしめるな、暑苦しい。
…………ありがとう、アル』
そう言って笑った空の妖精神は夕日と相まってとても美しかった。
私が傷つけたのにお礼を言われるって、変ね。
私はラフェエルの胸の中でくす、と笑ってしまった。
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