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ヨンダルク国
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【アクア学院】
クリスとアイリスは会話をして笑ったりしながら学院に通学していた。
「アイリス、明日だね。ヨンダルク国に行くのは。僕は生まれて初めて他国へ行くから、とても楽しみだよ。ん?あれ?」
クリスは嬉しそうに話していたが、異変に気付いて頭を傾げる。
「どうしたの?クリス。」
「いや、まだ学院の人達と会っていないというか、誰1人、見かけていないなっと思ったんだけど…。」
「そういえば、そうね。いつもなら、私達と同じで通学している人は大勢いるはずだものね。」
「今日、祝日で休校だったかな?」
「ううん、そんなはずはないわ。何か、あったのかしら?」
「とりあえず、急いで学院に行ってみようアイリス。」
「ええ、そうね。」
クリスとアイリスは、早足で学院に向かった。
「「え!?」」
クリスとアイリスがアクア学院の門のは前に辿り着くと教師や生徒達が大勢で集まっており、クリスとアイリスは驚愕した。
「「クリス君、大会優勝、【六花】第0席就任おめでとう!」」
皆は笑顔を浮かべて、一斉にクラッカーを鳴らした。
「皆さん、ありがとうございます。とても、嬉しいです。ところで、誰がこの企画を考えてくれたのですか?」
「それは、もちろん私ですよ。昨日、行われた宴会に行きたかったのですが、招待状の抽選にはずれしまったので参加できませんでした。くっ、何という不覚。だから、こうして学院の皆さんと話し合って集まって貰い、クリス君を祝おうと思ったのですよ。さぁ、今日は授業や勉強はありません。ですので、皆さん盛大に盛り上がりましょう!」
学院長のトムは生徒達の間を通り、大成の前に出て両手を挙げて大声で開催宣言をした。
「「やった~!」」
「「流石、学院長!」」
「「ハハハ…。」」
学院の皆は盛大に盛り上がったが、クリスとアイリスは互いに顔を合わせて苦笑いを浮かべていた。
城で行われた宴会の様に高級な料理や高価な料理器具や皿、グラスじゃなく、学園祭の様に敷地の所々に屋台が建てられており、定番の焼きそばや焼きトウモロコシなど手軽な料理と紙皿に紙コップなど、学生らしい祭りになった。
クリスとアイリスは、焼きそばとチャーハン、飲み物を買い、誰も通らない人気のない裏庭の角の凹んでいる場所にひっそり生えている大きな木の下で食べることにした。
クリスは向かう途中に教師からレジャーシートを貰い、木の下の地面にレジャーシートを広げた。
「ここで、良いよね?アイリス。」
「ええ、ありがとうクリス。」
アイリスは、お礼を言いながら胡座をかいているクリスの隣に横座りした。
「じゃあ、食べようか?」
「そうね。」
「ん?そういえば、昨日、乾杯しなかったよね?」
「フフフ…そうだったわね。」
「それじゃあ」
「「乾杯!」」
クリスとアイリスは、笑顔を浮かべながら紙コップで乾杯した。
「うん、美味しい。」
「ええ、豪華な料理も良いのだけど、時には、こういった料理も良いわね。」
「アイリス、焼きそばいる?」
「え!?良いの?」
「もちろん。」
「い、頂くわ…。」
「じゃあ、アイリス。はい、アーン。」
クリスは気にした様子もなく、自分の箸で焼きそばをつまみ上げてアイリスの口元に持っていく。
「え!?…うぅ…。」
(こ、これって、クリスと…その…間接キス…よね…。)
クリスと口付けしたことのあるアイリスだったが、口付けした時は感情が高まっての行為だったので、冷静な今の状態では間接キスでも意識してしまい、恥ずかしくなって顔が真っ赤に染まり怯む。
「ん?どうかした?」
そのことを知らないクリスは、理解できず頭を傾げる。
「な、何でもないわ。」
「じゃあ、アーン。」
「ア、アーン。」
顔から湯気が出そうなほど真っ赤に染まったアイリスは、目を瞑りながら焼きそばを口に入れた。
「どう?美味しいよね?」
「え、ええ…美味しかったわ。ありがとう、クリス。」
緊張と羞恥で味がわからなかったアイリスは、微笑みながら答えた。
「こ、今度は焼きそばを貰ったお礼に、私のチャーハンをあげるわね。はい、アーンしてクリス。」
アイリスは、自分のスプーンでチャーハンを掬い上げてクリスの口元に持っていく。
「アーン。」
「ありがとう、アイリス。アーン。」
クリスは恥ずかしがることなく、マイペースにチャーハンを食べた。
「うん、チャーハンも美味しいね。」
「そ、そういえば、この場所はクリスが休み時間の時に昼寝していた場所よね?」
恥ずかしさを誤魔化すため、アイリスは話題を変える。
「うん。何故か、この場所は一番落ち着くんだよ。ファァ…。」
クリスは、口元を押さえて欠伸(あくび)をした。
「まだ疲れが取れてないようね。そうね、まだ時間もあるし…。」
アイリスは両手でクリスの頭を優しく引き寄せて、自身の太股に寝かせた。
「え?アイリス。」
突然、膝枕されたクリスは驚いた。
「じ、地面で寝るよりも、こっちの方が良い…でしょう…?」
アイリスは、顔を真っ赤に染めて視線を逸らした。
「ありがとう、アイリス。」
「お休みなさい、クリス。」
アイリスは優しい眼差しでスヤスヤと眠りについたクリスの寝顔を見て微笑み、クリスの頭を優しく撫でた。
「う…ん…。ん?あれ?何で、アイリスが?」
クリスは、右手で目を擦って目を覚ました。
「フフフ…。おはよう、クリス。よく眠れたみたいね。」
アイリスは、寝惚けているクリスを見て口元に手を当ててクスクスと笑った。
「あ、そうだった。って、え!?もう夕方!?ごめん、アイリス。本当に、ごめん。アイリスだって、色んな屋台を回ったり、友達と一緒に話したり遊んだりしたかったよね?」
慌てて、クリスは上半身を起こす。
「ううん、別に気にしないで良いわよ。だって、私は…その…クリスといる…だけで…とても…幸…せ…だ…もの…。」
「ん?何?最後、聞き取れなかったけど。」
「な、何でもないわ!そ、それよりも早く
、私達も屋台とかの片付けを手伝わないと。さぁ、行くわよクリス。」
アイリスは顔を赤く染めて、クリスの手を取って走る。
「そうだね。あと、アイリス。」
「何?」
「この恩は、いつか必ず返すから。」
「フフフ…。だから、気にしないで良いって言ってるでしょう。」
アイリスは、頭だけクリスに振り向いて微笑んだ。
「遅れて、ごめんなさい。私達も片付けするわ!」
「アイリス様!?あとクリス君も、何処にも姿を見かけなかったので心配しておりました。」
「ごめんなさい、心配させたわね。私とクリスは、ちょっと疲れていたから校舎の影で寝ていたの。」
「そうでしたか。」
ホッとする女子達。
クリスは、バラしてカバーに入れたテントの骨組みを持ち上げ様として苦戦いる女子達に気付いた。
「ん?あ、それは僕が持って行くよ。」
「ありがとう、クリス君。本当に助かるわ。私達じゃあ、重くって運べなかったの。男子はサボっているから。これだから、男子は…ハァ…。」
女子達は、少し離れた場所で箒(ほうき)を持ってチャンバラしている男子達を見てため息を吐く。
「ハハハ…。よいしょっと、その分も僕が動くから。」
クリスは、苦笑いしながらテントの骨組みを持ち上げて肩に担いで運んだ。
翌朝、クリスとアイリス、バルミスタ国王、妃シリーダ、【六花】メンバーのユナイト、ユーリア、騎士団数十人はヨンダルク国へと向かった。
【船の上】
「わぁ~。」
クリスは、船のデッキの手すりに両手ついて目を輝かせながら海を眺めて感動していた。
「フフフ…。どう?クリス。初めての船旅は?」
「凄いよ、アイリス。こんなに大きな物が、こんなに速く動くなんて!」
「まぁ、普通は風を利用してゆっくり進むのだけど。この船は特別なの。魔力でプロペラという部品を回して動かしているから速いのよ。」
「へぇ、そうなんだ。ん?あの液体は何?」
クリスは、船の全体から霧の様に噴射されている透明な液体に気付いた。
「あれは、聖水といって魔物が嫌う成分でなの。この船に魔物を寄せ付けない様にしているのよ。魔物が襲って来ても私達は倒せるけど、船を壊されたら困るもの。あと、魚とか魔物じゃない生き物には無害だから安心して。」
「確かに船を壊されるのは不味いね。ところで、アイリス。何で、ヨンダルク国は治安が悪くなったんだい?それに、それを何故、知っているんだい?」
「クリスには話すけど。この話は絶対に秘密にして。」
「わかったよ。」
アイリスの表情が真剣になったので、クリスも真剣な面持ちで頷いた。
「ヨンダルク国から1通の手紙が来たのよ。風の国の盗賊団【風魔】から国宝のドリヤードの加護が盗まれ、それを取り返そうとした際、戦いの中でドリヤードの加護が何処かに飛んで行ってお互いに行方がわからなくなったみたいで。それでも、【風魔】はドリヤードの加護を諦めずに探していて顔を合わせる旅に戦いが勃発している訳なのよ。」
「なるほど、風の国って見境なく他国を襲っているんだね。」
「ええ、そうよ。噂だと、世界を掌握するために力を求めているとか聞いたわ。」
「風の国の武力はどのくらいなんだい?」
「正確な強さはわからないわ。でも、精霊を宿した人がエアリナとエアロの2人いるわ。だから、おそらく最低でも上位に入る武力国家だと思った方が良いと思うの。」
「なるほど。じゃあ、ヨンダルク国は?」
「精霊を宿した人は1人だけ、私達と同い年の女の子で名前はリース。宿している精霊は、木の精霊ドリヤードよ。」
「そうなんだ。」
「クリス、先に言っておくけど。リースに手を出したり、誘惑に負けたら許さないわよ。」
アイリスは、凄みのある笑顔で微笑んだ。
「ハハハ…。も、もちろん、わかっているよアイリス。」
「なら、良いわ。」
「アイリス、クリス君!見えてきたわよ!」
妃シリーダが、手を振りながら2人に教える。
「あれが…。」
クリスは、目を輝かせながらヨンダルク国を見た。
ヨンダルク国は木々が茂ており、自然と一体化していた。
「そうよ、クリス。あれがヨンダルク国よ!」
アイリスは、微笑んだ。
【ヨンダルク国・港】
クリス達は、無事にヨンダルク国へと到着した。
港には、ヨンダルク国の国王であるヨルズと妃のリオン、国王直轄の護衛軍【ドリア】のメンバー3人、騎士団達がクリス達の到着を待っていた。
「長旅、お疲れ様ですわ。」
リオンは、両手で左右のスカートの裾を軽く摘まんで会釈した。
「久しいな、バルミスタ国王、シリーダ殿、そしてアイリス殿!」
「ああ、久しぶりだなヨルズ。」
バルミスタは、笑みを浮かべながらヨルズと握手した。
「ん?ところで、【女帝】のマミューラ殿にも挨拶をしたかったのだが、マミューラ殿の姿は見かけないのだが?」
「すまぬな、ヨルズ国王。今回は、マミューラには国の護衛を頼んでおる。」
「そうか…そうだよな。お前の国も【風魔】に襲われたのだから、警戒を最大にするのは当たり前だよな。」
「あなた、それよりも。」
「ああ、そうであったな。一先ずは、ここで立ち話するよりも城へ行こうかの。」
クリス達は、城へと案内された。
「すまないが、ここから先の話は信頼できるバルミスタ国王とシリーダ殿、アイリス殿、ユナイト、ユーリアの5人だけと話したい。他の者は、ここで待っていて貰っても良(よ)いか?」
ヨルズは、真剣な面持ちで言った。
「あの失礼ですが、ヨルズ国王様。こちらに居られるクリスは、新しく私の直轄の護衛【六花】第0席になっております。十分に信頼に足る人物です。」
アイリスはヨルズの前に出て、1度、お辞儀をして話す。
「その歳で【六花】とはな。それは凄い。しかしな、フム…。」
(こやつ、今までいたのか?全く気付かなかったぞ。)
ヨルズは、品物を見定める様な視線でクリスを見つめる。
(ん?今気が付いたが、こやつ、魔力どころか気配が全くない。だから、今まで気付かなかったのか。今も意識して見ていないと見失いそうだ。しかし、困ったものだ。不気味であるゆえ、聞かせて良いのか迷うのぉ。)
ヨルズは、顎に手を当てて悩む。
「アイリス様、気持ちは嬉しいのですが。信頼を築き上げるのは、とても難しいことです。初めて会った人を信頼して欲しいと言われましても、無理があるかと。」
「クリスが、そういうのなら…。じゃあ、クリス。せっかくだし、町中を見てきても良いわよ。ただし、絶対に迷惑や問題は起こさないこと。良いわね?」
「了解しました。」
アイリスの助言でクリスは、【六花】の制服から私服に着替えて1人で町に向かうことにした。
【ヨンダルク国・町中】
ヨンダルク国の町中は、道全体は煉瓦で引き詰められて造られており、家や店などが建ち並んでいるが、建物は全部色んな木と一体化しており、木には実がなっている木もあったりして様々な形の建物でどれ1つ同じ形の建物がなかった。
「わぁ~、本当に自然と一体化していて凄いな。」
クリスは、目を輝かせながら町中の風景を見ていた。
その時、路地裏から複数の殺気に気付いた。
(この殺気は、僕に向いていない。誰かが戦っているのか?)
クリスは、見に行くことにした。
【路地裏】
路地裏にはクリスと同い年ぐらいの緑髪のツインテイルの少女リースがおり、その周りには剣を抜刀している【風魔】の盗賊12人が囲っていた。
「まさか、1人で彷徨(うろつ)いているとはな。」
盗賊のリーダーは、勝ち誇った表情で少女を見る。
「へぇ、私に勝てると思っているの?」
「国民が大勢いるこの場所では、精霊の力は使えまい。覚悟しな!行くぞ!」
「「うぉぉ!」」
盗賊達は、リースに襲い掛かろうとする。
「そこまでだ!」
建物の屋根にいたクリスは気配を消したまま、屋根から飛び降りて足音をたてずに少女の前に立った。
「お前は、誰だ?」
盗賊のリーダーは、怪訝な表情で尋ねる。
「えっと、そうですね。強いていうなら、通りすがりの旅人です。」
クリスは、頭を傾げながら答えた。
「ふざけやがって!」
盗賊の部下の1人が大声をあげる。
「まぁ、落ち着けお前達。小僧、教える気は全くないようだな。だが、魔力が全く感じないほど魔力がないお前が、俺達に勝てるとでも思っているのか?」
「では、今回だけ僕と僕の後ろにいる女の子を見逃して頂けませんか?」
「見逃すはずがないだろ。正義感に駆られて俺達に楯突いたことに後悔させてやる。その代価は、お前の命だ小僧。」
「それは、困りました。ですが、1つ忠告しておきます。僕に勝てる確証はないですよ。」
「ハハハ…言うではないか!なら、望み通りに殺してやる。死ねぇ!」
盗賊のリーダーは、右手に握っている剣を振り下ろす。
しかし、クリスは左手で盗賊のリーダーの右手首を掴んで受け止めて途中で止めた。
「なっ!?」
盗賊のリーダーは、驚愕して声を出す。
「まずは、1人。」
クリスは盗賊のリーダーの右手首を掴んだまま、左手を横に振って盗賊のリーダーを投げ飛ばす。
「ぐぁ」
盗賊のリーダーは、勢い良く城壁に衝突して気絶した。
「「何だと!?」」
盗賊達は、驚きの声をあげる。
「ちょっと、何、勝手に戦いを始めているのよ!私を無視しないで頂戴!」
リースは、腰に手を当てて頬を膨らませて怒った。
だが、誰もリースの話を聞いておらず戦いが始まった。
クリスは、盗賊達に接近して鳩尾や顔面を殴ったり蹴ったりして気絶させていく。
「凄い…。全く無駄のない動きだわ。いえ、それよりも凄いのは、必要な時に一瞬だけ魔力で身体強化をして、必要ない時は魔力を完全に消しているわ。だから、あの人から全く魔力を感じないんだわ。本当に私と同い年ぐらいなの?ううん、それどころか本当に人間なの?一体、何者なの?」
怒っていたリースは、いつの間にかクリスの戦いに釘付けになっていた。
「嘘だろ…。くっ、この野郎!」
最後の盗賊は腰を抜かして怯えていたが、剣を握り締めて立ち上がり、背後からクリスに斬り掛かる。
クリスは盗賊に振り向き、左手に魔力を込めて剣の刀身を掴んで受け止めた。
「なっ、受け止めただと!?う、嘘だろ…。お前は、一体、何者なんだ?」
盗賊は、強張った表情で尋ねる。
「僕ですか?先ほども言いましたが、通りすがりの旅人です。」
クリスは微笑みながら答えると同時に、左手に力を入れて剣の刀身を握り潰し、右拳で盗賊の鳩尾を殴った。
「ぐぁ…。」
鳩尾を殴られた盗賊は、その場に倒れて気絶した。
「大丈夫だった?」
クリスは、笑顔を浮かべながらリースに振り向いた。
「あなた何者なの?なぜ、私を助けたの?」
「囲まれていたから、ついね。あと、僕はただの…。」
「ふざけないで!あなたの名前は?」
「僕の名前はクリス。」
「クリスね、私はリースよ。」
「リース…。ん?どこかで聞いた様な…。って、ま、まさか、君は…。」
「ええ、そうよ。この国の姫よ!今の反応見ると、あなたはこの国の者ではないわね。私を知らなかったから。あと、先に言わせて貰うけど、お礼は言わないわ。だって、あなたが居なくっても私1人でも制圧できていたもの!」
リースは、右手の人差し指でクリスを指差して断言した。
「ハハハ…ですよね。大丈夫です。始めから恩を着せるつもりはありませんので、ご安心なさって下さい。」
「当然よ!ところで、もし良かったら私の…。」
「あ、申し訳ありません。そろそろ戻らないといけませんので、これで失礼致します。」
クリスは、慌てて頭を下げて立ち去った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
リースは、慌ててクリスの方に手を伸ばして引き止めようとしたが、クリスは止まらずに姿を消した。
「もう!……クリスね。フフフ…。」
リースは両手を腰に当てて頬を膨らましたが、クリスの名前を呟くと同時に嬉しそうに口元に笑みを浮かべていた。
【城内・大広間】
クリスは待機していた騎士団達と合流し、アイリス達が戻ってくるのを待っていた。
大広間の扉が開き、アイリス達が部屋に入って来た。
「クリス、町中はどうだった?」
「凄かったよ、アイリス。見たことのない食べ物や品物、それに、どれも建物が木と一体化していて驚いたよ。」
「フフフ…でしょう。私も初めて来た時は驚いたもの。」
アイリスはクリスに歩み寄り、空いているクリスの隣の椅子に腰かけた。
「今日は、この後、ここでディナーだから自由行動はできないけど。明日、夜は自由行動ができるから一緒に町に行って、か、買い物とか、ど、どう…かしら…?」
アイリスは、恥ずかしそうに顔を赤く染めてチラチラとクリスの様子を窺いながら話す。
「うん、良いよアイリス。明日が楽しみになったよ。」
「私もよ!」
クリスが微笑みながら賛同すると、アイリスも嬉しそうに微笑んだ。
その後、メイド達がやってきてアイリス達を部屋に案内した。
そして、ディナーの時間になり、メイド達の案内で大広間に戻ってきたクリス達。
大広間には、中央に大きな丸テーブルが複数置かれており、外側には長方形のテーブルが複数並べていた。
テーブルの上には、様々な色んな料理で埋め尽くされている。
「皆、集まった様だな。堅苦しい話はなしで、今日は全力で楽しもうではないか!では、乾杯!」
「「乾杯!」」
ヨルズの乾杯で宴会が始まった。
「これって、ディナーというよりもバイキングだよね。」
「ええ、そうね。」
クリスとアイリスは、お互いに苦笑いを浮かべた。
「あっ!やっぱり、ここに居たのね。」
「リース、久しぶりね。お昼は、何処に行っていたの?」
「久しぶり、アイリス。お昼は、【風魔】の討伐していたのよ。」
「明日から私達も力を貸すわ。」
「ありがとう、ところで取引しない?」
「取引?」
嫌な予感がしたアイリスは、笑顔から真剣な表情に変わった。
「ええ、そうよ。ねぇ、アイリス。クリス君を私にくれないかしら?」
リースは、1度クリスを見て微笑みながらアイリスに尋ねる。
「「なっ!?」」
クリスとアイリスは、驚愕して声をあげた。
クリスとアイリスは会話をして笑ったりしながら学院に通学していた。
「アイリス、明日だね。ヨンダルク国に行くのは。僕は生まれて初めて他国へ行くから、とても楽しみだよ。ん?あれ?」
クリスは嬉しそうに話していたが、異変に気付いて頭を傾げる。
「どうしたの?クリス。」
「いや、まだ学院の人達と会っていないというか、誰1人、見かけていないなっと思ったんだけど…。」
「そういえば、そうね。いつもなら、私達と同じで通学している人は大勢いるはずだものね。」
「今日、祝日で休校だったかな?」
「ううん、そんなはずはないわ。何か、あったのかしら?」
「とりあえず、急いで学院に行ってみようアイリス。」
「ええ、そうね。」
クリスとアイリスは、早足で学院に向かった。
「「え!?」」
クリスとアイリスがアクア学院の門のは前に辿り着くと教師や生徒達が大勢で集まっており、クリスとアイリスは驚愕した。
「「クリス君、大会優勝、【六花】第0席就任おめでとう!」」
皆は笑顔を浮かべて、一斉にクラッカーを鳴らした。
「皆さん、ありがとうございます。とても、嬉しいです。ところで、誰がこの企画を考えてくれたのですか?」
「それは、もちろん私ですよ。昨日、行われた宴会に行きたかったのですが、招待状の抽選にはずれしまったので参加できませんでした。くっ、何という不覚。だから、こうして学院の皆さんと話し合って集まって貰い、クリス君を祝おうと思ったのですよ。さぁ、今日は授業や勉強はありません。ですので、皆さん盛大に盛り上がりましょう!」
学院長のトムは生徒達の間を通り、大成の前に出て両手を挙げて大声で開催宣言をした。
「「やった~!」」
「「流石、学院長!」」
「「ハハハ…。」」
学院の皆は盛大に盛り上がったが、クリスとアイリスは互いに顔を合わせて苦笑いを浮かべていた。
城で行われた宴会の様に高級な料理や高価な料理器具や皿、グラスじゃなく、学園祭の様に敷地の所々に屋台が建てられており、定番の焼きそばや焼きトウモロコシなど手軽な料理と紙皿に紙コップなど、学生らしい祭りになった。
クリスとアイリスは、焼きそばとチャーハン、飲み物を買い、誰も通らない人気のない裏庭の角の凹んでいる場所にひっそり生えている大きな木の下で食べることにした。
クリスは向かう途中に教師からレジャーシートを貰い、木の下の地面にレジャーシートを広げた。
「ここで、良いよね?アイリス。」
「ええ、ありがとうクリス。」
アイリスは、お礼を言いながら胡座をかいているクリスの隣に横座りした。
「じゃあ、食べようか?」
「そうね。」
「ん?そういえば、昨日、乾杯しなかったよね?」
「フフフ…そうだったわね。」
「それじゃあ」
「「乾杯!」」
クリスとアイリスは、笑顔を浮かべながら紙コップで乾杯した。
「うん、美味しい。」
「ええ、豪華な料理も良いのだけど、時には、こういった料理も良いわね。」
「アイリス、焼きそばいる?」
「え!?良いの?」
「もちろん。」
「い、頂くわ…。」
「じゃあ、アイリス。はい、アーン。」
クリスは気にした様子もなく、自分の箸で焼きそばをつまみ上げてアイリスの口元に持っていく。
「え!?…うぅ…。」
(こ、これって、クリスと…その…間接キス…よね…。)
クリスと口付けしたことのあるアイリスだったが、口付けした時は感情が高まっての行為だったので、冷静な今の状態では間接キスでも意識してしまい、恥ずかしくなって顔が真っ赤に染まり怯む。
「ん?どうかした?」
そのことを知らないクリスは、理解できず頭を傾げる。
「な、何でもないわ。」
「じゃあ、アーン。」
「ア、アーン。」
顔から湯気が出そうなほど真っ赤に染まったアイリスは、目を瞑りながら焼きそばを口に入れた。
「どう?美味しいよね?」
「え、ええ…美味しかったわ。ありがとう、クリス。」
緊張と羞恥で味がわからなかったアイリスは、微笑みながら答えた。
「こ、今度は焼きそばを貰ったお礼に、私のチャーハンをあげるわね。はい、アーンしてクリス。」
アイリスは、自分のスプーンでチャーハンを掬い上げてクリスの口元に持っていく。
「アーン。」
「ありがとう、アイリス。アーン。」
クリスは恥ずかしがることなく、マイペースにチャーハンを食べた。
「うん、チャーハンも美味しいね。」
「そ、そういえば、この場所はクリスが休み時間の時に昼寝していた場所よね?」
恥ずかしさを誤魔化すため、アイリスは話題を変える。
「うん。何故か、この場所は一番落ち着くんだよ。ファァ…。」
クリスは、口元を押さえて欠伸(あくび)をした。
「まだ疲れが取れてないようね。そうね、まだ時間もあるし…。」
アイリスは両手でクリスの頭を優しく引き寄せて、自身の太股に寝かせた。
「え?アイリス。」
突然、膝枕されたクリスは驚いた。
「じ、地面で寝るよりも、こっちの方が良い…でしょう…?」
アイリスは、顔を真っ赤に染めて視線を逸らした。
「ありがとう、アイリス。」
「お休みなさい、クリス。」
アイリスは優しい眼差しでスヤスヤと眠りについたクリスの寝顔を見て微笑み、クリスの頭を優しく撫でた。
「う…ん…。ん?あれ?何で、アイリスが?」
クリスは、右手で目を擦って目を覚ました。
「フフフ…。おはよう、クリス。よく眠れたみたいね。」
アイリスは、寝惚けているクリスを見て口元に手を当ててクスクスと笑った。
「あ、そうだった。って、え!?もう夕方!?ごめん、アイリス。本当に、ごめん。アイリスだって、色んな屋台を回ったり、友達と一緒に話したり遊んだりしたかったよね?」
慌てて、クリスは上半身を起こす。
「ううん、別に気にしないで良いわよ。だって、私は…その…クリスといる…だけで…とても…幸…せ…だ…もの…。」
「ん?何?最後、聞き取れなかったけど。」
「な、何でもないわ!そ、それよりも早く
、私達も屋台とかの片付けを手伝わないと。さぁ、行くわよクリス。」
アイリスは顔を赤く染めて、クリスの手を取って走る。
「そうだね。あと、アイリス。」
「何?」
「この恩は、いつか必ず返すから。」
「フフフ…。だから、気にしないで良いって言ってるでしょう。」
アイリスは、頭だけクリスに振り向いて微笑んだ。
「遅れて、ごめんなさい。私達も片付けするわ!」
「アイリス様!?あとクリス君も、何処にも姿を見かけなかったので心配しておりました。」
「ごめんなさい、心配させたわね。私とクリスは、ちょっと疲れていたから校舎の影で寝ていたの。」
「そうでしたか。」
ホッとする女子達。
クリスは、バラしてカバーに入れたテントの骨組みを持ち上げ様として苦戦いる女子達に気付いた。
「ん?あ、それは僕が持って行くよ。」
「ありがとう、クリス君。本当に助かるわ。私達じゃあ、重くって運べなかったの。男子はサボっているから。これだから、男子は…ハァ…。」
女子達は、少し離れた場所で箒(ほうき)を持ってチャンバラしている男子達を見てため息を吐く。
「ハハハ…。よいしょっと、その分も僕が動くから。」
クリスは、苦笑いしながらテントの骨組みを持ち上げて肩に担いで運んだ。
翌朝、クリスとアイリス、バルミスタ国王、妃シリーダ、【六花】メンバーのユナイト、ユーリア、騎士団数十人はヨンダルク国へと向かった。
【船の上】
「わぁ~。」
クリスは、船のデッキの手すりに両手ついて目を輝かせながら海を眺めて感動していた。
「フフフ…。どう?クリス。初めての船旅は?」
「凄いよ、アイリス。こんなに大きな物が、こんなに速く動くなんて!」
「まぁ、普通は風を利用してゆっくり進むのだけど。この船は特別なの。魔力でプロペラという部品を回して動かしているから速いのよ。」
「へぇ、そうなんだ。ん?あの液体は何?」
クリスは、船の全体から霧の様に噴射されている透明な液体に気付いた。
「あれは、聖水といって魔物が嫌う成分でなの。この船に魔物を寄せ付けない様にしているのよ。魔物が襲って来ても私達は倒せるけど、船を壊されたら困るもの。あと、魚とか魔物じゃない生き物には無害だから安心して。」
「確かに船を壊されるのは不味いね。ところで、アイリス。何で、ヨンダルク国は治安が悪くなったんだい?それに、それを何故、知っているんだい?」
「クリスには話すけど。この話は絶対に秘密にして。」
「わかったよ。」
アイリスの表情が真剣になったので、クリスも真剣な面持ちで頷いた。
「ヨンダルク国から1通の手紙が来たのよ。風の国の盗賊団【風魔】から国宝のドリヤードの加護が盗まれ、それを取り返そうとした際、戦いの中でドリヤードの加護が何処かに飛んで行ってお互いに行方がわからなくなったみたいで。それでも、【風魔】はドリヤードの加護を諦めずに探していて顔を合わせる旅に戦いが勃発している訳なのよ。」
「なるほど、風の国って見境なく他国を襲っているんだね。」
「ええ、そうよ。噂だと、世界を掌握するために力を求めているとか聞いたわ。」
「風の国の武力はどのくらいなんだい?」
「正確な強さはわからないわ。でも、精霊を宿した人がエアリナとエアロの2人いるわ。だから、おそらく最低でも上位に入る武力国家だと思った方が良いと思うの。」
「なるほど。じゃあ、ヨンダルク国は?」
「精霊を宿した人は1人だけ、私達と同い年の女の子で名前はリース。宿している精霊は、木の精霊ドリヤードよ。」
「そうなんだ。」
「クリス、先に言っておくけど。リースに手を出したり、誘惑に負けたら許さないわよ。」
アイリスは、凄みのある笑顔で微笑んだ。
「ハハハ…。も、もちろん、わかっているよアイリス。」
「なら、良いわ。」
「アイリス、クリス君!見えてきたわよ!」
妃シリーダが、手を振りながら2人に教える。
「あれが…。」
クリスは、目を輝かせながらヨンダルク国を見た。
ヨンダルク国は木々が茂ており、自然と一体化していた。
「そうよ、クリス。あれがヨンダルク国よ!」
アイリスは、微笑んだ。
【ヨンダルク国・港】
クリス達は、無事にヨンダルク国へと到着した。
港には、ヨンダルク国の国王であるヨルズと妃のリオン、国王直轄の護衛軍【ドリア】のメンバー3人、騎士団達がクリス達の到着を待っていた。
「長旅、お疲れ様ですわ。」
リオンは、両手で左右のスカートの裾を軽く摘まんで会釈した。
「久しいな、バルミスタ国王、シリーダ殿、そしてアイリス殿!」
「ああ、久しぶりだなヨルズ。」
バルミスタは、笑みを浮かべながらヨルズと握手した。
「ん?ところで、【女帝】のマミューラ殿にも挨拶をしたかったのだが、マミューラ殿の姿は見かけないのだが?」
「すまぬな、ヨルズ国王。今回は、マミューラには国の護衛を頼んでおる。」
「そうか…そうだよな。お前の国も【風魔】に襲われたのだから、警戒を最大にするのは当たり前だよな。」
「あなた、それよりも。」
「ああ、そうであったな。一先ずは、ここで立ち話するよりも城へ行こうかの。」
クリス達は、城へと案内された。
「すまないが、ここから先の話は信頼できるバルミスタ国王とシリーダ殿、アイリス殿、ユナイト、ユーリアの5人だけと話したい。他の者は、ここで待っていて貰っても良(よ)いか?」
ヨルズは、真剣な面持ちで言った。
「あの失礼ですが、ヨルズ国王様。こちらに居られるクリスは、新しく私の直轄の護衛【六花】第0席になっております。十分に信頼に足る人物です。」
アイリスはヨルズの前に出て、1度、お辞儀をして話す。
「その歳で【六花】とはな。それは凄い。しかしな、フム…。」
(こやつ、今までいたのか?全く気付かなかったぞ。)
ヨルズは、品物を見定める様な視線でクリスを見つめる。
(ん?今気が付いたが、こやつ、魔力どころか気配が全くない。だから、今まで気付かなかったのか。今も意識して見ていないと見失いそうだ。しかし、困ったものだ。不気味であるゆえ、聞かせて良いのか迷うのぉ。)
ヨルズは、顎に手を当てて悩む。
「アイリス様、気持ちは嬉しいのですが。信頼を築き上げるのは、とても難しいことです。初めて会った人を信頼して欲しいと言われましても、無理があるかと。」
「クリスが、そういうのなら…。じゃあ、クリス。せっかくだし、町中を見てきても良いわよ。ただし、絶対に迷惑や問題は起こさないこと。良いわね?」
「了解しました。」
アイリスの助言でクリスは、【六花】の制服から私服に着替えて1人で町に向かうことにした。
【ヨンダルク国・町中】
ヨンダルク国の町中は、道全体は煉瓦で引き詰められて造られており、家や店などが建ち並んでいるが、建物は全部色んな木と一体化しており、木には実がなっている木もあったりして様々な形の建物でどれ1つ同じ形の建物がなかった。
「わぁ~、本当に自然と一体化していて凄いな。」
クリスは、目を輝かせながら町中の風景を見ていた。
その時、路地裏から複数の殺気に気付いた。
(この殺気は、僕に向いていない。誰かが戦っているのか?)
クリスは、見に行くことにした。
【路地裏】
路地裏にはクリスと同い年ぐらいの緑髪のツインテイルの少女リースがおり、その周りには剣を抜刀している【風魔】の盗賊12人が囲っていた。
「まさか、1人で彷徨(うろつ)いているとはな。」
盗賊のリーダーは、勝ち誇った表情で少女を見る。
「へぇ、私に勝てると思っているの?」
「国民が大勢いるこの場所では、精霊の力は使えまい。覚悟しな!行くぞ!」
「「うぉぉ!」」
盗賊達は、リースに襲い掛かろうとする。
「そこまでだ!」
建物の屋根にいたクリスは気配を消したまま、屋根から飛び降りて足音をたてずに少女の前に立った。
「お前は、誰だ?」
盗賊のリーダーは、怪訝な表情で尋ねる。
「えっと、そうですね。強いていうなら、通りすがりの旅人です。」
クリスは、頭を傾げながら答えた。
「ふざけやがって!」
盗賊の部下の1人が大声をあげる。
「まぁ、落ち着けお前達。小僧、教える気は全くないようだな。だが、魔力が全く感じないほど魔力がないお前が、俺達に勝てるとでも思っているのか?」
「では、今回だけ僕と僕の後ろにいる女の子を見逃して頂けませんか?」
「見逃すはずがないだろ。正義感に駆られて俺達に楯突いたことに後悔させてやる。その代価は、お前の命だ小僧。」
「それは、困りました。ですが、1つ忠告しておきます。僕に勝てる確証はないですよ。」
「ハハハ…言うではないか!なら、望み通りに殺してやる。死ねぇ!」
盗賊のリーダーは、右手に握っている剣を振り下ろす。
しかし、クリスは左手で盗賊のリーダーの右手首を掴んで受け止めて途中で止めた。
「なっ!?」
盗賊のリーダーは、驚愕して声を出す。
「まずは、1人。」
クリスは盗賊のリーダーの右手首を掴んだまま、左手を横に振って盗賊のリーダーを投げ飛ばす。
「ぐぁ」
盗賊のリーダーは、勢い良く城壁に衝突して気絶した。
「「何だと!?」」
盗賊達は、驚きの声をあげる。
「ちょっと、何、勝手に戦いを始めているのよ!私を無視しないで頂戴!」
リースは、腰に手を当てて頬を膨らませて怒った。
だが、誰もリースの話を聞いておらず戦いが始まった。
クリスは、盗賊達に接近して鳩尾や顔面を殴ったり蹴ったりして気絶させていく。
「凄い…。全く無駄のない動きだわ。いえ、それよりも凄いのは、必要な時に一瞬だけ魔力で身体強化をして、必要ない時は魔力を完全に消しているわ。だから、あの人から全く魔力を感じないんだわ。本当に私と同い年ぐらいなの?ううん、それどころか本当に人間なの?一体、何者なの?」
怒っていたリースは、いつの間にかクリスの戦いに釘付けになっていた。
「嘘だろ…。くっ、この野郎!」
最後の盗賊は腰を抜かして怯えていたが、剣を握り締めて立ち上がり、背後からクリスに斬り掛かる。
クリスは盗賊に振り向き、左手に魔力を込めて剣の刀身を掴んで受け止めた。
「なっ、受け止めただと!?う、嘘だろ…。お前は、一体、何者なんだ?」
盗賊は、強張った表情で尋ねる。
「僕ですか?先ほども言いましたが、通りすがりの旅人です。」
クリスは微笑みながら答えると同時に、左手に力を入れて剣の刀身を握り潰し、右拳で盗賊の鳩尾を殴った。
「ぐぁ…。」
鳩尾を殴られた盗賊は、その場に倒れて気絶した。
「大丈夫だった?」
クリスは、笑顔を浮かべながらリースに振り向いた。
「あなた何者なの?なぜ、私を助けたの?」
「囲まれていたから、ついね。あと、僕はただの…。」
「ふざけないで!あなたの名前は?」
「僕の名前はクリス。」
「クリスね、私はリースよ。」
「リース…。ん?どこかで聞いた様な…。って、ま、まさか、君は…。」
「ええ、そうよ。この国の姫よ!今の反応見ると、あなたはこの国の者ではないわね。私を知らなかったから。あと、先に言わせて貰うけど、お礼は言わないわ。だって、あなたが居なくっても私1人でも制圧できていたもの!」
リースは、右手の人差し指でクリスを指差して断言した。
「ハハハ…ですよね。大丈夫です。始めから恩を着せるつもりはありませんので、ご安心なさって下さい。」
「当然よ!ところで、もし良かったら私の…。」
「あ、申し訳ありません。そろそろ戻らないといけませんので、これで失礼致します。」
クリスは、慌てて頭を下げて立ち去った。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
リースは、慌ててクリスの方に手を伸ばして引き止めようとしたが、クリスは止まらずに姿を消した。
「もう!……クリスね。フフフ…。」
リースは両手を腰に当てて頬を膨らましたが、クリスの名前を呟くと同時に嬉しそうに口元に笑みを浮かべていた。
【城内・大広間】
クリスは待機していた騎士団達と合流し、アイリス達が戻ってくるのを待っていた。
大広間の扉が開き、アイリス達が部屋に入って来た。
「クリス、町中はどうだった?」
「凄かったよ、アイリス。見たことのない食べ物や品物、それに、どれも建物が木と一体化していて驚いたよ。」
「フフフ…でしょう。私も初めて来た時は驚いたもの。」
アイリスはクリスに歩み寄り、空いているクリスの隣の椅子に腰かけた。
「今日は、この後、ここでディナーだから自由行動はできないけど。明日、夜は自由行動ができるから一緒に町に行って、か、買い物とか、ど、どう…かしら…?」
アイリスは、恥ずかしそうに顔を赤く染めてチラチラとクリスの様子を窺いながら話す。
「うん、良いよアイリス。明日が楽しみになったよ。」
「私もよ!」
クリスが微笑みながら賛同すると、アイリスも嬉しそうに微笑んだ。
その後、メイド達がやってきてアイリス達を部屋に案内した。
そして、ディナーの時間になり、メイド達の案内で大広間に戻ってきたクリス達。
大広間には、中央に大きな丸テーブルが複数置かれており、外側には長方形のテーブルが複数並べていた。
テーブルの上には、様々な色んな料理で埋め尽くされている。
「皆、集まった様だな。堅苦しい話はなしで、今日は全力で楽しもうではないか!では、乾杯!」
「「乾杯!」」
ヨルズの乾杯で宴会が始まった。
「これって、ディナーというよりもバイキングだよね。」
「ええ、そうね。」
クリスとアイリスは、お互いに苦笑いを浮かべた。
「あっ!やっぱり、ここに居たのね。」
「リース、久しぶりね。お昼は、何処に行っていたの?」
「久しぶり、アイリス。お昼は、【風魔】の討伐していたのよ。」
「明日から私達も力を貸すわ。」
「ありがとう、ところで取引しない?」
「取引?」
嫌な予感がしたアイリスは、笑顔から真剣な表情に変わった。
「ええ、そうよ。ねぇ、アイリス。クリス君を私にくれないかしら?」
リースは、1度クリスを見て微笑みながらアイリスに尋ねる。
「「なっ!?」」
クリスとアイリスは、驚愕して声をあげた。
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