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大会閉幕【六花】第0席と宴会
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【闘技場】
リングの上にクリスとマミューラは、決着つけるため膨大な魔力を解き放っていた。
観客達は、リングの上にいるクリスとマミューラが放っている膨大な魔力を目の当たりにして言葉を失い、闘技場は静寂に包まれている。
「~っ!?」
(あ、あり得ない、まだ年端もいかない少年が、精霊を宿していない者の中でトップクラスのマミューラ様の魔力と同等とは…。恐ろしい才能…いや、これは才能というレベルじゃない。神の子か悪魔の子。)
一番2人の近くにいるユナイトは、信じられない表情でクリスを見つめる。
「行くよ、おばあちゃん。」
「いつでも来な、クリス。」
「「ハァァ!」」
クリスとマミューラは同時に動き、お互いに接近する。
「「アクア・ビッグバン」」
クリスとマミューラは、右手の掌に高密に凝縮した巨大な球状の水の塊を生み出してお互いに右手を前に出してぶつけた。
お互いの水の塊は拮抗しており、少しずつ互いを削っていく。
その負荷によって、クリスとマミューラの右手から右腕に掛けて服は破れていき、血管が浮き上がり所々が裂けて血が飛び散っていく。
「ウォォ!」
「ハァァ!」
クリスとマミューラは、既に右腕の感覚が無くなっているが、それでも、お互いに引かなかった。
そして、水の塊同士が擦れ削り合ったことで熱を持ち、水蒸気爆発が起こった。
水蒸気爆発が起き、大きな爆音と共に真っ白な蒸気が発生し闘技場を覆う。
「「アクア・シャワー」」
【六花】達はアクア・シャワーを唱え、即座に水蒸気を冷却して消していく。
しかし、【六花】がいない側は呆然と立ち尽くしており対応が遅れた。
「「熱いっ。」」
「「熱っち。」」
「に、逃げろ~!」
「「うわぁぁ。」」
騎士団や観客達は、慌てて席を離れて逃げさ迷う。
「おい!お前達は騎士団なんだぞ!逃げずに観客達を守れ!」
ユナイトは大きな声を出し、逃げていく騎士団達を制止させた。
「「くっ、アクア・シャワー。」」
騎士団達は足を止めて水蒸気に振り向き、アクア・シャワーを唱えて水蒸気を冷却して消していく。
リングの水蒸気も風によって消えていき、クリスとマミューラの姿が見えてくる。
マミューラはリングの外で倒れており、クリスは吹き飛ばされながら自身で作った氷の壁によって壁に凭れ掛かる様にリングの上に倒れていた。
クリスとマミューラは、お互い全身に火傷を負っており、立ち上がる気配はなかった。
「クリス!」
特等席にいたアイリスは、ベランダから飛び降りクリスに駆け寄る。
「ダメです、姫様。まだ、勝敗が決まってません。10、9、8…。」
ユナイトはアイリスの左腕を掴んで止め、カウントを始めた。
「クリス!起きて!あと、少しで夢が叶うのよ!お願いだから!」
アイリスは必死に叫ぶと、クリスの指がピクッと動いた。
「ア…イ…リス…。うっ…。」
意識を取り戻したクリスだったが、まだ意識は朦朧としており立ち上がろうとするが体に力が入らなかった。
「6、5、4、3…。」
「クリス!」
「くっ、うぉぉ!」
クリスは唇を噛んで痛みで意識を取り戻し、叫びながら立ち上がった。
「ハァハァ…。お婆ちゃんは…?」
クリスは、マミューラに視線を向けると倒れていたままだった。
「勝者!クリス!」
ユナイトはクリスの手首を持って挙げて勝利宣告した瞬間、観客達の歓声の声が盛大に鳴り響く。
そんな中…。
「クリス!」
アイリスは、嬉しさのあまり涙を浮かべながら勢い良くクリスに飛びついた。
「うぁっと、ア、アイリス!?」
「優勝、おめでとうクリス!ううん、ありがとう優勝してくれて!」
アイリスは、両手でクリスの頬をソッと触れて背伸びをして口付けをした。
突然のことに、クリスは驚愕して大きく瞳を開いた。
「……アイリス!?」
「あっ!」
クリスの声で冷静に戻ったアイリスは、顔を真っ赤にして右手で自分の唇に軽く押し当てて恥ずかしくなり顔を伏せた。
「「うぉぉ!」」
「「きゃ~!」」
アイリスがクリスにキスしたことで、観客達は更に盛り上がった。
【特等席】
「フフフ…。あらあら、アイリスったら!」
「やれやれ、嬉しいのはわかるが、まさか大勢の人前でするとはな…。」
妃のシリーダは口元に手を当てて微笑み、国王のバルミスタは右手で頭を抱えながら左右に振る。
「はぁ、姫様の突発的な行動には困ったものだ。」
ユナイトは右手で顔を覆い、ため息を吐く。
「クリス、あの…その、今のは…。」
「ユナイトさん、お婆ちゃんを!」
クリスは、目の前でアイリスがモジモジしていたがマミューラの容体が心配だった。
「そうだ!医療班!急いで、マミューラ様を!」
「「りょ、了解!」」
医療班達は、慌ててマミューラに駆け寄り容体を診る。
「どうだ?」
「大丈夫です、ユナイト様。命に別状ありませんので、ご安心して下さい。」
「ほっ、そうか。」
報告を聞いてホッとするユナイト。
「よし、応急措置は終わった。運ぶぞ!」
「「ハッ!」」
医療班達は、マミューラをタンカーに乗せて医務室に向かう。
「良かった…。」
クリスはマミューラの容体を知った瞬間、安心したことで意識を手放してアイリスに凭れ掛かった。
「ク、クリス!?大丈夫!ねぇ、しっかりして!クリス!」
アイリスは、慌ててクリスを支えた。
こうして、大会は閉会した。
【スノー城・中庭】
翌日、【六花】第0席になったクリスを祝う宴が城内だけでなく中庭や裏庭で朝から行われた。
「ぼぉっ!グリズ!」
クリスと同じクラスの男子ボルは美味しそうに料理を頬張っており、【六花】の制服を着たクリスを見つけた。
「ちょっと、もう汚いわよ!ちゃんと、口の中の食べ物を飲み込んでから喋りなさいよ!」
同じクラスメイトの女子のユリが、幼馴染みのボルの頭に軽くチョップして注意する。
「ゴクン。あ、わりぃな、ユリ。クリス!こっちだ!こっち!」
ボルは、大きな声でクリスを呼びながら手を大きく振る。
周りの人達は、ボルとユリをギロリっと睨む。
「ちょっと、ボル。クリス君は、【六花】になって時の人になったんだよ。そんなに気安く、声を掛けちゃダメだよ。」
ユリはボルの肩に手を置いて、もう片方の手で耳打ちする。
「そ、そうだったな。」
「やぁ、ボル、ユリ来ていたんだね。」
「クリス君!?それにアイリス様!?」
「同じクラスで友達なんだから、そんな些細なことは気にしないで良いわよ。ねぇ?クリス。」
「そうだよ。いつも通りに接してくれた方が僕的にも助かるよ。」
「そ、そうか?そうだよな!ワハハハ…。」
ボルはクリスの背中を何度も叩き、その後、クリスの肩に腕を回して嬉しそうに笑う。
「2人共、楽しんでいるみたいで良かったよ。」
「ああ、満喫しているとこだ。こんなに美味しい料理を食べたことないからな。お蔭で、手が止まらず食べっぱなしだ。あっ!そうだ!クリスもどうだ?これとか美味しかったぞ。」
ボルは、フライドチキンをクリスに渡す。
「ん?本当だ、美味しい。」
「だろ!」
ボルは、嬉しそうに笑った。
「ボル、そんなことより、おめでとうって言わないと。」
「あ、そうだったな。」
「「大会優勝、【六花】第0席おめでとう!」」
ボルとユリは、満面な笑顔を浮かべた。
「ありがとう、2人共。他の学院の皆は?」
「いや、宴会参加チケットの抽選に当たったのは俺達だけだ。だから、俺は皆の分まで料理を食べることにしたんだ。」
ボルは、右手の親指を立ててグッドサインする。
「ハハハ…。ほどほどにね。」
クリスは、苦笑いを浮かべた。
「もう、ボルったら。あんなにガッツリと料理を食べて、一緒にいる私まで恥ずかしいわ。」
「ねぇ?ユリ。それだけじゃないでしょう?本当は、ボルに構って貰いたいんじゃないの?」
「ち、違います!アイリス様。」
ユリは、ドキッとして慌てて両手を前に出して振る。
「フフフ…。私は、てっきり、あなた達がデートしているかと思ったのだけど。」
「ち、違います!そ、そんなことないです!ただ、抽選に当たって、偶々、その日が暇だったからクリス君の姿を一目見ようと思ったのですけど、1人だと不安だったので近所に住んでいるボルを誘っただけです。」
「まぁ、そういうことにしとくわ。でも、ボルは、クリスと同じで唐変木だからハッキリと想いを伝えないと伝わらないわよ。このままだと、ずるずると時間だけが無駄に過ぎていくだけよ。」
「ですよね…。」
肩を落として落ち込むユリ。
「ほら!勇気を出して、想いを伝えて来なさい!大丈夫、クリスは私が引き離してあげるから!」
アイリスは両手で、ユリの両手を優しく握って胸元にまで持ち上げた。
「ですが、きっと断れますよ。」
苦笑いを浮かべるユリ。
「そんなことないわよ。ユリは、可愛いもの。私が保証するわ。」
「本当ですか?」
「ええ、本当よ。」
「あ、ありがとうございます、アイリス様。私、ボルに告白します!」
「気にしないで良いわよ、ユリ。頑張って!」
「はい!」
ユリの瞳に力強さが宿り、アイリスは微笑んだ。
「それじゃあ、早速クリスをボルから離すわね。」
「お願いします。」
アイリスは、クリスとボルの所へと歩み寄る。
「なぁ、クリス。噂で、決勝戦でアイリス様がお前に口付けしたのは本当なのか?」
クリスの肩に腕を回しているボルは、クリス耳元で囁く様に尋ねた。
「ん?本当だけど?」
「マ、マジか!?なぁ、どんな感触でどんな味だった?やっぱり、アイリス様の唇は柔らかくって甘い味がしたのか?舌は入れたのか?絡めたのか?なぁ?その夜は、それ以上のことはしたのか?どうなんだ?なぁ?教えてくれてよ。」
興奮したボルは声が大きくなっており、近付いていたアイリスに全く気付かず声は丸聞こえだった。
「フフフ…ボル。あなた、クリスに何を聞いているの?」
ニッコリと微笑むアイリスだったが、アイリスからは目は笑っておらず殺気を放っていた。
「ア、アイリス様!?な、何故ここに居られるのですか?」
ボルはアイリスの声が聞こえてビクっとし、振り返るとアイリスの姿を見て焦る。
「ねぇ?もう1度、聞くわ。クリスに、何を聞いていたの?」
「そ、それはですね…。え、えっと、その前に、お聞きしますが、確かアイリス様はユリとお話していたはずなのでは…?」
「ええ、話していたわよ。でも、話が終わったから来たの。私は答えてあげたのだから、次はボル、あなたが答える番よ。」
アイリスは、威圧感のある笑みを浮かべて尋ねる。
「あ、あれ?お、可笑しいな…。申し訳ありませんが、クリスに何を聞いたのか、忘れてしまいました…。」
引き腰になるボルは、クリスの背後に隠れようとする。
クリスもアイリスの威圧感を前にして怯んでたじろぐ。
「そうなの?でも、大丈夫よボル。私は覚えているから。フフフ…。覚悟はできているわよね?」
「あ、あ、あの…申し訳ありません!許して…頂けない…です…よね…?」
ボルは恐る恐る尋ねたが、アイリスはニッコリと満面な笑顔を浮かべた。
「天誅!」
「ぐぁ!」
アイリスの右拳がボルの左頬にめり込み、ボルは吹き飛ばされて噴水の中に沈んだ。
「あっ、いけない。ごめんなさい、ユリ。」
スッキリしたアイリスは我に返り、ユリに謝罪した。
(え?何で、ユリに謝ったんだろう。普通、ボルじゃないのかな?)
間近で成り行きを見ていたクリスは、疑問が浮かんだが苦笑いしたまま尋ねなかった。
「ハハハ…気にしないで下さい。明らかに、ボルが悪いので。」
ユリも苦笑いを浮かべていた。
「仕方ないな。よいしょっと…。」
クリスは掌から魔力を放ち、ボルが倒れている周りの噴水の水をはねのけてボルを担いで医務室に運んだ。
【医務室】
クリスは、ボルをベッドに寝かした。
「ありがとう、クリス君。」
「あのさ、ユリ。良かったらボルが目覚めるまで僕が此処で看病しているからアイリスと一緒に宴を楽しんで来たら良いよ。」
「え?いえ、その…。」
戸惑うユリ。
「はぁ、クリス。あなた、ねぇ。」
(やっぱり、気付いてないわね。)
ため息を吐いたアイリスは、クリスに歩み寄って手を握る。
「ん?何?アイリス。どうかした?」
「クリス、ここはユリに任せて私達は戻るわよ。」
「え?でも…。」
「良いから。ほら、早く行くわよ。」
アイリスは、クリスの手を繋いだまま医務室から出ていく。
「ちょっと想定外だったけど、あとは頑張ってねユリ。」
アイリスは、ユリとすれ違う時にユリに囁いた。
「はい!ありがとうございます、アイリス様。」
ユリは、退出していくアイリスに頭を下げた。
クリスは何故ユリが感謝したのか全くわからず、頭を傾げながら部屋から出ていった。
【裏庭】
アイリスはクリスの手を繋いだまま、裏庭に来ていた。
クリスはマイペースだったが、周りから好奇心的な視線を向けられておりアイリスは頬を赤らめていた。
「あっ、ちょっと待てアイリス。」
クリスは、マミューラを見つけた。
「どうしたの?」
「あそこに、お婆ちゃんがいるから少しだけ話をしても良いかな?」
「良いわよ。私は、向こうにいるから話が終わったら来てね。」
「うん、わかった。」
クリスは、ユナイト達と一緒にいるマミューラに駆け寄る。
「お婆ちゃん、ここに居たんだね。」
「おや、クリス。どうしたんだい?」
「いや、その、怪我は大丈夫かなっと思って。」
「フフフ…大丈夫だよ。2、3日で完治するみたいだからね。」
「良かった…。」
「そうだ、クリス。これを渡してなかったね。」
マミューラは、胸ポケットからブローチを取り出してクリスに渡した。
「何これ?ブローチ?」
「フフフ…私を超えた祝い品だよ。」
「ありがとう、お婆ちゃん。大切にするよ。」
「大切にしてくれるのは嬉しいのだけど、本当にクリスが大切にしている人になら、その人にプレゼントしても構わないよ。」
「ん?」
頭を傾げるクリス。
「はぁ、クリスにはまだ早いかな…。」
「まぁ、仕方ないですよ。」
「そうですね、クリス君は男の子ですので…。」
クリスの反応を見たマミューラはため息をつき、ユーリア、テーラ達は慰めたり苦笑いを浮かべた。
「ゴホン、ところでクリス。お前に話がある。良いか?」
深刻な表情を浮かべて話すユナイト。
「はい、何でしょう?ユナイト様。」
クリスはユナイトの表情だけでなく、他の【六花】メンバー達の深刻な表情を見て気を引き締める。
すると、ユナイト達の表情が和らいだ。
「「クリス、【六花】メンバーにようこそ!歓迎する!」」
ユナイト達は、微笑んで歓迎した。
「これからは宜しくな、クリス!」
「宜しく、クリス君。」
「はい、宜しくお願いします。」
「あ、そうだ。クリス、先に言っておくが、俺達を呼ぶ時には「様」はいらない。「さん」で良いからな。」
「わかりました、ユナイトさん。」
「ああ、それで良い!」
ユナイトは、笑顔を浮かべてクリスの頭をぐしゃぐしゃにする。
「フフフ…お兄様ったら。本当は、クリス君を実の弟みたいに思っていたのですよ。」
【六花】第3席のユーリアは、クスクスと笑いながら真実を話す。
「なっ!?」
突然の密告にユナイトは、口をパクパクさせる。
「そ、そうだったのか?」
【六花】第4席のランドルは、意外な真実について来れず微妙な表情を浮かべた。
「知らなかったです。私は、てっきりユナイト様はクリス君を親の敵みたいに憎んでいると思っていました。」
【六花】第6席のテーラは、口元に手を当てて驚いていた。
「だよな。俺も、そうだと思っていた。」
【六花】第5席のダイアスも賛同しながら頷く。
「あれ?マミューラ様は、ご存知だったのですか?」
テーラは、マミューラが驚いていなかったことに気付いた。
「まぁね。だってねぇ、クリスを連れ帰る際、ユナイトは、毎回、「クリスをお願いします。」と言って、頭を下げていたからね。」
クスクスと笑うマミューラ。
「マ、マミューラ様!」
ユナイトは、恥ずかしさのあまり大声をあげる。
「フフフ…実はクリス君が幼い頃、勉強するために城へ通い始めた頃から、クリス君が不良とか盗賊などに襲われても大丈夫な様に騎士団の基本体術をクリス君に教えたのはお兄様なんですよ。しかも、毎回、クリス君が帰る時、部屋の中で「クリスは無事に家に帰れたのだろうか?」と呟きながらウロウロと歩き回るほどクリス君のことを心配していたんです。クリス君が記憶を取り戻した時は、お兄様は、とても悩まれていました。普段、私に相談なんてしないのに、あの時は私にも相談してきたぐらいです。その結果、苦渋の選択をして国民の安全と【六花】の立場を優先することにしました。まぁ、悪魔の瞳を見た瞬間、過去を思い出してしまい、お兄様だけでなく私も取り乱しましたけど。あと、国王様がこの大会にマミューラ様が参加を認めるかどうかを私達【六花】メンバー全員に相談された際、断固反対の声をあげていたのはお兄様だけですし。あっ、そうだったわ。マミューラ様がクリス君を鍛える際、反対していたのは記憶を取り戻した時に反旗を翻(ひるがえ)すかもと言っていましたけど、実はクリス君の身を心配して反対していたのですよ。」
「やっぱり、そうだったんだね。」
ユーリアの話を聞いたマミューラは微笑んだ。
「「へぇ~。」」
「意外だったな!」
「はい!ユナイト様の意外な一面を知りました。」
「だな。ツンデレという奴か?」
「誰がツンデレか!」
ユナイトは激怒したが、【六花】メンバー達はクスクスと笑ったり、ニヤリと笑みを浮かべる。
「くっ、おい!ユーリア。お前、その話は全部、秘密するって約束したはずだろ!」
「え~!だって、もうバラしても良いじゃないお兄様。昔の頃みたいに、クリス君と仲良くなりたいのでしょう?」
「くっ。ああ、そうだよ!認めるさ!クリスを心配して悪いかよ!」
開き直るユナイト。
「お兄様、悪くないと思いますよ。ねぇ?皆。」
「ああ、今まで頭が固く融通の効かない奴だと思っていたが、見直したぜ!」
ランドルは、ユナイトの肩に手を置いて頷く。
「はい!」
「だな!」
テーラとダイアスも嬉しそうに肯定する。
「そういうことだから、クリス君。今まで、きつく当たってごめんなさいね。」
ユーリアは、会釈して謝罪をした。
「いえ、ユーリアさんが教えてくれたので良かったです。てっきり、僕はユナイトさんに、相当、嫌われているかと思っていました。」
「そんなことあるはずがないだろ…。」
ユナイトは、恥ずかしそうに視線を逸らして小さく小声で呟く。
その後、雑談を少しだけしてクリスはアイリスの下へと戻った。
「長かったわね。」
アイリスは、頬を膨らまして不機嫌になっていた。
「ご、ごめん、アイリス。何でもするからさ、機嫌を取り直して。」
あたふたするクリス。
「じゃあ、夜に行われるキャンプファイアのイベントの時、私と踊ってくれたら特別に許してあげる。」
「わかったよ。」
「そろそろ、お腹減ったわ。中庭でバイキングをしているから行くわよ、クリス。」
「うん。」
アイリスは、クリスの手を取って駆け足でバイキングがある中庭に向かった。
【中庭】
夜空には月は昇り星が輝く中、クリスとアイリスは、お皿に様々な料理をのせて噴水の縁に座って食事をしていた。
「星がとても綺麗ね、クリス。」
「そうだね。」
「ねぇ、クリス。今度、私はお父様とお母様と一緒に治安が悪くったヨンダルク国に行くのだけどクリスも来てくれる?勿論、無理して一緒に来なくっても良いの。国の防衛として残っても良いから。」
アイリスは不安な面持ちでチラッとクリスを見て尋ねる。
「もちろん、アイリスと一緒に行くよ。例え火の中、水の中でもね。僕は、アイリスのために【六花】第0席になったんだから。」
「ありがとう、クリス。」
アイリスは涙を浮かべながら微笑み、クリスに口付けをした。
後ろにある噴水の水に、月明かりによって2人の影が映し出されていた。
そして、最後のイベントであるキャンプファイアが始まった。
キャンプファイアの周りにはユリとボルダンスを踊っており、他にもカップル達が楽しくダンスを踊りながら回り、その外側には楽器を持った演奏家達が演奏し、その近くには演奏を聞いたりダンスを見ながら食事やお酒を飲む人達で賑(にぎ)わっていた。
「アイリス、キャンプファイアが始まったみたいだから僕達も行って踊ろう!」
「ええ!」
クリスは、アイリスの手を取ってキャンプファイアに向かう。
「あっ!アイリス様にクリス君。」
ユリがクリス達に気付いて足を止めたことにより、周りもクリス達に気付いた。
「「おお!姫様にクリス様だ!」」
皆の視線がクリスとアイリスに集まる。
「フフフ…。ユリ、良かったわね。上手くいったようね。」
アイリスは、ユリにウィンクした。
「はい!アイリス様、あの時、背中を押して頂きありがとうございます。」
ユリは、嬉しそうに微笑んだ。
「よし!お前達、もっと気合い入れて行くぞ!」
「「おう!」」
演奏家達は熱が入る。
クリスとアイリスは、一瞬、唖然としたが、お互いに顔を合わせてクスクスと笑った。
「では、演奏家の皆さん。宜しくお願いします。」
「「おう!任せろ!」」
クリスは会釈すると、演奏家達は持っている楽器を担ぎ上げて答えた。
「アイリス姫、僕と踊ってくれませんか?」
クリスは、左手と左足を後ろに引いて右手をアイリスに差し伸べて頭を下げた。
「ええ、喜んで!」
アイリスは、嬉しそうに微笑みながらクリスの手を取った。
そして、ゆっくりと音楽が流れ始め、クリスとアイリスは音楽に合わせて踊り始めた。
クリスとアイリスのダンスは、人目を惹くほど優雅で美しく見ている者を魅了しており、2人の周りでダンスしていたカップル達も足を止めて見るほどだった。
「クリス、本当に優勝してくれてありがとう。」
アイリスは、ダンスを踊りながら笑顔で話す。
「アイリスのためなら、僕は何でもするよ。」
「嬉しい。でも、無理と無茶はしないでね。」
「わかったよ。」
クリスとアイリスは、目一杯ダンスを楽しんだ。
こうして、無事に宴会は終わった。
リングの上にクリスとマミューラは、決着つけるため膨大な魔力を解き放っていた。
観客達は、リングの上にいるクリスとマミューラが放っている膨大な魔力を目の当たりにして言葉を失い、闘技場は静寂に包まれている。
「~っ!?」
(あ、あり得ない、まだ年端もいかない少年が、精霊を宿していない者の中でトップクラスのマミューラ様の魔力と同等とは…。恐ろしい才能…いや、これは才能というレベルじゃない。神の子か悪魔の子。)
一番2人の近くにいるユナイトは、信じられない表情でクリスを見つめる。
「行くよ、おばあちゃん。」
「いつでも来な、クリス。」
「「ハァァ!」」
クリスとマミューラは同時に動き、お互いに接近する。
「「アクア・ビッグバン」」
クリスとマミューラは、右手の掌に高密に凝縮した巨大な球状の水の塊を生み出してお互いに右手を前に出してぶつけた。
お互いの水の塊は拮抗しており、少しずつ互いを削っていく。
その負荷によって、クリスとマミューラの右手から右腕に掛けて服は破れていき、血管が浮き上がり所々が裂けて血が飛び散っていく。
「ウォォ!」
「ハァァ!」
クリスとマミューラは、既に右腕の感覚が無くなっているが、それでも、お互いに引かなかった。
そして、水の塊同士が擦れ削り合ったことで熱を持ち、水蒸気爆発が起こった。
水蒸気爆発が起き、大きな爆音と共に真っ白な蒸気が発生し闘技場を覆う。
「「アクア・シャワー」」
【六花】達はアクア・シャワーを唱え、即座に水蒸気を冷却して消していく。
しかし、【六花】がいない側は呆然と立ち尽くしており対応が遅れた。
「「熱いっ。」」
「「熱っち。」」
「に、逃げろ~!」
「「うわぁぁ。」」
騎士団や観客達は、慌てて席を離れて逃げさ迷う。
「おい!お前達は騎士団なんだぞ!逃げずに観客達を守れ!」
ユナイトは大きな声を出し、逃げていく騎士団達を制止させた。
「「くっ、アクア・シャワー。」」
騎士団達は足を止めて水蒸気に振り向き、アクア・シャワーを唱えて水蒸気を冷却して消していく。
リングの水蒸気も風によって消えていき、クリスとマミューラの姿が見えてくる。
マミューラはリングの外で倒れており、クリスは吹き飛ばされながら自身で作った氷の壁によって壁に凭れ掛かる様にリングの上に倒れていた。
クリスとマミューラは、お互い全身に火傷を負っており、立ち上がる気配はなかった。
「クリス!」
特等席にいたアイリスは、ベランダから飛び降りクリスに駆け寄る。
「ダメです、姫様。まだ、勝敗が決まってません。10、9、8…。」
ユナイトはアイリスの左腕を掴んで止め、カウントを始めた。
「クリス!起きて!あと、少しで夢が叶うのよ!お願いだから!」
アイリスは必死に叫ぶと、クリスの指がピクッと動いた。
「ア…イ…リス…。うっ…。」
意識を取り戻したクリスだったが、まだ意識は朦朧としており立ち上がろうとするが体に力が入らなかった。
「6、5、4、3…。」
「クリス!」
「くっ、うぉぉ!」
クリスは唇を噛んで痛みで意識を取り戻し、叫びながら立ち上がった。
「ハァハァ…。お婆ちゃんは…?」
クリスは、マミューラに視線を向けると倒れていたままだった。
「勝者!クリス!」
ユナイトはクリスの手首を持って挙げて勝利宣告した瞬間、観客達の歓声の声が盛大に鳴り響く。
そんな中…。
「クリス!」
アイリスは、嬉しさのあまり涙を浮かべながら勢い良くクリスに飛びついた。
「うぁっと、ア、アイリス!?」
「優勝、おめでとうクリス!ううん、ありがとう優勝してくれて!」
アイリスは、両手でクリスの頬をソッと触れて背伸びをして口付けをした。
突然のことに、クリスは驚愕して大きく瞳を開いた。
「……アイリス!?」
「あっ!」
クリスの声で冷静に戻ったアイリスは、顔を真っ赤にして右手で自分の唇に軽く押し当てて恥ずかしくなり顔を伏せた。
「「うぉぉ!」」
「「きゃ~!」」
アイリスがクリスにキスしたことで、観客達は更に盛り上がった。
【特等席】
「フフフ…。あらあら、アイリスったら!」
「やれやれ、嬉しいのはわかるが、まさか大勢の人前でするとはな…。」
妃のシリーダは口元に手を当てて微笑み、国王のバルミスタは右手で頭を抱えながら左右に振る。
「はぁ、姫様の突発的な行動には困ったものだ。」
ユナイトは右手で顔を覆い、ため息を吐く。
「クリス、あの…その、今のは…。」
「ユナイトさん、お婆ちゃんを!」
クリスは、目の前でアイリスがモジモジしていたがマミューラの容体が心配だった。
「そうだ!医療班!急いで、マミューラ様を!」
「「りょ、了解!」」
医療班達は、慌ててマミューラに駆け寄り容体を診る。
「どうだ?」
「大丈夫です、ユナイト様。命に別状ありませんので、ご安心して下さい。」
「ほっ、そうか。」
報告を聞いてホッとするユナイト。
「よし、応急措置は終わった。運ぶぞ!」
「「ハッ!」」
医療班達は、マミューラをタンカーに乗せて医務室に向かう。
「良かった…。」
クリスはマミューラの容体を知った瞬間、安心したことで意識を手放してアイリスに凭れ掛かった。
「ク、クリス!?大丈夫!ねぇ、しっかりして!クリス!」
アイリスは、慌ててクリスを支えた。
こうして、大会は閉会した。
【スノー城・中庭】
翌日、【六花】第0席になったクリスを祝う宴が城内だけでなく中庭や裏庭で朝から行われた。
「ぼぉっ!グリズ!」
クリスと同じクラスの男子ボルは美味しそうに料理を頬張っており、【六花】の制服を着たクリスを見つけた。
「ちょっと、もう汚いわよ!ちゃんと、口の中の食べ物を飲み込んでから喋りなさいよ!」
同じクラスメイトの女子のユリが、幼馴染みのボルの頭に軽くチョップして注意する。
「ゴクン。あ、わりぃな、ユリ。クリス!こっちだ!こっち!」
ボルは、大きな声でクリスを呼びながら手を大きく振る。
周りの人達は、ボルとユリをギロリっと睨む。
「ちょっと、ボル。クリス君は、【六花】になって時の人になったんだよ。そんなに気安く、声を掛けちゃダメだよ。」
ユリはボルの肩に手を置いて、もう片方の手で耳打ちする。
「そ、そうだったな。」
「やぁ、ボル、ユリ来ていたんだね。」
「クリス君!?それにアイリス様!?」
「同じクラスで友達なんだから、そんな些細なことは気にしないで良いわよ。ねぇ?クリス。」
「そうだよ。いつも通りに接してくれた方が僕的にも助かるよ。」
「そ、そうか?そうだよな!ワハハハ…。」
ボルはクリスの背中を何度も叩き、その後、クリスの肩に腕を回して嬉しそうに笑う。
「2人共、楽しんでいるみたいで良かったよ。」
「ああ、満喫しているとこだ。こんなに美味しい料理を食べたことないからな。お蔭で、手が止まらず食べっぱなしだ。あっ!そうだ!クリスもどうだ?これとか美味しかったぞ。」
ボルは、フライドチキンをクリスに渡す。
「ん?本当だ、美味しい。」
「だろ!」
ボルは、嬉しそうに笑った。
「ボル、そんなことより、おめでとうって言わないと。」
「あ、そうだったな。」
「「大会優勝、【六花】第0席おめでとう!」」
ボルとユリは、満面な笑顔を浮かべた。
「ありがとう、2人共。他の学院の皆は?」
「いや、宴会参加チケットの抽選に当たったのは俺達だけだ。だから、俺は皆の分まで料理を食べることにしたんだ。」
ボルは、右手の親指を立ててグッドサインする。
「ハハハ…。ほどほどにね。」
クリスは、苦笑いを浮かべた。
「もう、ボルったら。あんなにガッツリと料理を食べて、一緒にいる私まで恥ずかしいわ。」
「ねぇ?ユリ。それだけじゃないでしょう?本当は、ボルに構って貰いたいんじゃないの?」
「ち、違います!アイリス様。」
ユリは、ドキッとして慌てて両手を前に出して振る。
「フフフ…。私は、てっきり、あなた達がデートしているかと思ったのだけど。」
「ち、違います!そ、そんなことないです!ただ、抽選に当たって、偶々、その日が暇だったからクリス君の姿を一目見ようと思ったのですけど、1人だと不安だったので近所に住んでいるボルを誘っただけです。」
「まぁ、そういうことにしとくわ。でも、ボルは、クリスと同じで唐変木だからハッキリと想いを伝えないと伝わらないわよ。このままだと、ずるずると時間だけが無駄に過ぎていくだけよ。」
「ですよね…。」
肩を落として落ち込むユリ。
「ほら!勇気を出して、想いを伝えて来なさい!大丈夫、クリスは私が引き離してあげるから!」
アイリスは両手で、ユリの両手を優しく握って胸元にまで持ち上げた。
「ですが、きっと断れますよ。」
苦笑いを浮かべるユリ。
「そんなことないわよ。ユリは、可愛いもの。私が保証するわ。」
「本当ですか?」
「ええ、本当よ。」
「あ、ありがとうございます、アイリス様。私、ボルに告白します!」
「気にしないで良いわよ、ユリ。頑張って!」
「はい!」
ユリの瞳に力強さが宿り、アイリスは微笑んだ。
「それじゃあ、早速クリスをボルから離すわね。」
「お願いします。」
アイリスは、クリスとボルの所へと歩み寄る。
「なぁ、クリス。噂で、決勝戦でアイリス様がお前に口付けしたのは本当なのか?」
クリスの肩に腕を回しているボルは、クリス耳元で囁く様に尋ねた。
「ん?本当だけど?」
「マ、マジか!?なぁ、どんな感触でどんな味だった?やっぱり、アイリス様の唇は柔らかくって甘い味がしたのか?舌は入れたのか?絡めたのか?なぁ?その夜は、それ以上のことはしたのか?どうなんだ?なぁ?教えてくれてよ。」
興奮したボルは声が大きくなっており、近付いていたアイリスに全く気付かず声は丸聞こえだった。
「フフフ…ボル。あなた、クリスに何を聞いているの?」
ニッコリと微笑むアイリスだったが、アイリスからは目は笑っておらず殺気を放っていた。
「ア、アイリス様!?な、何故ここに居られるのですか?」
ボルはアイリスの声が聞こえてビクっとし、振り返るとアイリスの姿を見て焦る。
「ねぇ?もう1度、聞くわ。クリスに、何を聞いていたの?」
「そ、それはですね…。え、えっと、その前に、お聞きしますが、確かアイリス様はユリとお話していたはずなのでは…?」
「ええ、話していたわよ。でも、話が終わったから来たの。私は答えてあげたのだから、次はボル、あなたが答える番よ。」
アイリスは、威圧感のある笑みを浮かべて尋ねる。
「あ、あれ?お、可笑しいな…。申し訳ありませんが、クリスに何を聞いたのか、忘れてしまいました…。」
引き腰になるボルは、クリスの背後に隠れようとする。
クリスもアイリスの威圧感を前にして怯んでたじろぐ。
「そうなの?でも、大丈夫よボル。私は覚えているから。フフフ…。覚悟はできているわよね?」
「あ、あ、あの…申し訳ありません!許して…頂けない…です…よね…?」
ボルは恐る恐る尋ねたが、アイリスはニッコリと満面な笑顔を浮かべた。
「天誅!」
「ぐぁ!」
アイリスの右拳がボルの左頬にめり込み、ボルは吹き飛ばされて噴水の中に沈んだ。
「あっ、いけない。ごめんなさい、ユリ。」
スッキリしたアイリスは我に返り、ユリに謝罪した。
(え?何で、ユリに謝ったんだろう。普通、ボルじゃないのかな?)
間近で成り行きを見ていたクリスは、疑問が浮かんだが苦笑いしたまま尋ねなかった。
「ハハハ…気にしないで下さい。明らかに、ボルが悪いので。」
ユリも苦笑いを浮かべていた。
「仕方ないな。よいしょっと…。」
クリスは掌から魔力を放ち、ボルが倒れている周りの噴水の水をはねのけてボルを担いで医務室に運んだ。
【医務室】
クリスは、ボルをベッドに寝かした。
「ありがとう、クリス君。」
「あのさ、ユリ。良かったらボルが目覚めるまで僕が此処で看病しているからアイリスと一緒に宴を楽しんで来たら良いよ。」
「え?いえ、その…。」
戸惑うユリ。
「はぁ、クリス。あなた、ねぇ。」
(やっぱり、気付いてないわね。)
ため息を吐いたアイリスは、クリスに歩み寄って手を握る。
「ん?何?アイリス。どうかした?」
「クリス、ここはユリに任せて私達は戻るわよ。」
「え?でも…。」
「良いから。ほら、早く行くわよ。」
アイリスは、クリスの手を繋いだまま医務室から出ていく。
「ちょっと想定外だったけど、あとは頑張ってねユリ。」
アイリスは、ユリとすれ違う時にユリに囁いた。
「はい!ありがとうございます、アイリス様。」
ユリは、退出していくアイリスに頭を下げた。
クリスは何故ユリが感謝したのか全くわからず、頭を傾げながら部屋から出ていった。
【裏庭】
アイリスはクリスの手を繋いだまま、裏庭に来ていた。
クリスはマイペースだったが、周りから好奇心的な視線を向けられておりアイリスは頬を赤らめていた。
「あっ、ちょっと待てアイリス。」
クリスは、マミューラを見つけた。
「どうしたの?」
「あそこに、お婆ちゃんがいるから少しだけ話をしても良いかな?」
「良いわよ。私は、向こうにいるから話が終わったら来てね。」
「うん、わかった。」
クリスは、ユナイト達と一緒にいるマミューラに駆け寄る。
「お婆ちゃん、ここに居たんだね。」
「おや、クリス。どうしたんだい?」
「いや、その、怪我は大丈夫かなっと思って。」
「フフフ…大丈夫だよ。2、3日で完治するみたいだからね。」
「良かった…。」
「そうだ、クリス。これを渡してなかったね。」
マミューラは、胸ポケットからブローチを取り出してクリスに渡した。
「何これ?ブローチ?」
「フフフ…私を超えた祝い品だよ。」
「ありがとう、お婆ちゃん。大切にするよ。」
「大切にしてくれるのは嬉しいのだけど、本当にクリスが大切にしている人になら、その人にプレゼントしても構わないよ。」
「ん?」
頭を傾げるクリス。
「はぁ、クリスにはまだ早いかな…。」
「まぁ、仕方ないですよ。」
「そうですね、クリス君は男の子ですので…。」
クリスの反応を見たマミューラはため息をつき、ユーリア、テーラ達は慰めたり苦笑いを浮かべた。
「ゴホン、ところでクリス。お前に話がある。良いか?」
深刻な表情を浮かべて話すユナイト。
「はい、何でしょう?ユナイト様。」
クリスはユナイトの表情だけでなく、他の【六花】メンバー達の深刻な表情を見て気を引き締める。
すると、ユナイト達の表情が和らいだ。
「「クリス、【六花】メンバーにようこそ!歓迎する!」」
ユナイト達は、微笑んで歓迎した。
「これからは宜しくな、クリス!」
「宜しく、クリス君。」
「はい、宜しくお願いします。」
「あ、そうだ。クリス、先に言っておくが、俺達を呼ぶ時には「様」はいらない。「さん」で良いからな。」
「わかりました、ユナイトさん。」
「ああ、それで良い!」
ユナイトは、笑顔を浮かべてクリスの頭をぐしゃぐしゃにする。
「フフフ…お兄様ったら。本当は、クリス君を実の弟みたいに思っていたのですよ。」
【六花】第3席のユーリアは、クスクスと笑いながら真実を話す。
「なっ!?」
突然の密告にユナイトは、口をパクパクさせる。
「そ、そうだったのか?」
【六花】第4席のランドルは、意外な真実について来れず微妙な表情を浮かべた。
「知らなかったです。私は、てっきりユナイト様はクリス君を親の敵みたいに憎んでいると思っていました。」
【六花】第6席のテーラは、口元に手を当てて驚いていた。
「だよな。俺も、そうだと思っていた。」
【六花】第5席のダイアスも賛同しながら頷く。
「あれ?マミューラ様は、ご存知だったのですか?」
テーラは、マミューラが驚いていなかったことに気付いた。
「まぁね。だってねぇ、クリスを連れ帰る際、ユナイトは、毎回、「クリスをお願いします。」と言って、頭を下げていたからね。」
クスクスと笑うマミューラ。
「マ、マミューラ様!」
ユナイトは、恥ずかしさのあまり大声をあげる。
「フフフ…実はクリス君が幼い頃、勉強するために城へ通い始めた頃から、クリス君が不良とか盗賊などに襲われても大丈夫な様に騎士団の基本体術をクリス君に教えたのはお兄様なんですよ。しかも、毎回、クリス君が帰る時、部屋の中で「クリスは無事に家に帰れたのだろうか?」と呟きながらウロウロと歩き回るほどクリス君のことを心配していたんです。クリス君が記憶を取り戻した時は、お兄様は、とても悩まれていました。普段、私に相談なんてしないのに、あの時は私にも相談してきたぐらいです。その結果、苦渋の選択をして国民の安全と【六花】の立場を優先することにしました。まぁ、悪魔の瞳を見た瞬間、過去を思い出してしまい、お兄様だけでなく私も取り乱しましたけど。あと、国王様がこの大会にマミューラ様が参加を認めるかどうかを私達【六花】メンバー全員に相談された際、断固反対の声をあげていたのはお兄様だけですし。あっ、そうだったわ。マミューラ様がクリス君を鍛える際、反対していたのは記憶を取り戻した時に反旗を翻(ひるがえ)すかもと言っていましたけど、実はクリス君の身を心配して反対していたのですよ。」
「やっぱり、そうだったんだね。」
ユーリアの話を聞いたマミューラは微笑んだ。
「「へぇ~。」」
「意外だったな!」
「はい!ユナイト様の意外な一面を知りました。」
「だな。ツンデレという奴か?」
「誰がツンデレか!」
ユナイトは激怒したが、【六花】メンバー達はクスクスと笑ったり、ニヤリと笑みを浮かべる。
「くっ、おい!ユーリア。お前、その話は全部、秘密するって約束したはずだろ!」
「え~!だって、もうバラしても良いじゃないお兄様。昔の頃みたいに、クリス君と仲良くなりたいのでしょう?」
「くっ。ああ、そうだよ!認めるさ!クリスを心配して悪いかよ!」
開き直るユナイト。
「お兄様、悪くないと思いますよ。ねぇ?皆。」
「ああ、今まで頭が固く融通の効かない奴だと思っていたが、見直したぜ!」
ランドルは、ユナイトの肩に手を置いて頷く。
「はい!」
「だな!」
テーラとダイアスも嬉しそうに肯定する。
「そういうことだから、クリス君。今まで、きつく当たってごめんなさいね。」
ユーリアは、会釈して謝罪をした。
「いえ、ユーリアさんが教えてくれたので良かったです。てっきり、僕はユナイトさんに、相当、嫌われているかと思っていました。」
「そんなことあるはずがないだろ…。」
ユナイトは、恥ずかしそうに視線を逸らして小さく小声で呟く。
その後、雑談を少しだけしてクリスはアイリスの下へと戻った。
「長かったわね。」
アイリスは、頬を膨らまして不機嫌になっていた。
「ご、ごめん、アイリス。何でもするからさ、機嫌を取り直して。」
あたふたするクリス。
「じゃあ、夜に行われるキャンプファイアのイベントの時、私と踊ってくれたら特別に許してあげる。」
「わかったよ。」
「そろそろ、お腹減ったわ。中庭でバイキングをしているから行くわよ、クリス。」
「うん。」
アイリスは、クリスの手を取って駆け足でバイキングがある中庭に向かった。
【中庭】
夜空には月は昇り星が輝く中、クリスとアイリスは、お皿に様々な料理をのせて噴水の縁に座って食事をしていた。
「星がとても綺麗ね、クリス。」
「そうだね。」
「ねぇ、クリス。今度、私はお父様とお母様と一緒に治安が悪くったヨンダルク国に行くのだけどクリスも来てくれる?勿論、無理して一緒に来なくっても良いの。国の防衛として残っても良いから。」
アイリスは不安な面持ちでチラッとクリスを見て尋ねる。
「もちろん、アイリスと一緒に行くよ。例え火の中、水の中でもね。僕は、アイリスのために【六花】第0席になったんだから。」
「ありがとう、クリス。」
アイリスは涙を浮かべながら微笑み、クリスに口付けをした。
後ろにある噴水の水に、月明かりによって2人の影が映し出されていた。
そして、最後のイベントであるキャンプファイアが始まった。
キャンプファイアの周りにはユリとボルダンスを踊っており、他にもカップル達が楽しくダンスを踊りながら回り、その外側には楽器を持った演奏家達が演奏し、その近くには演奏を聞いたりダンスを見ながら食事やお酒を飲む人達で賑(にぎ)わっていた。
「アイリス、キャンプファイアが始まったみたいだから僕達も行って踊ろう!」
「ええ!」
クリスは、アイリスの手を取ってキャンプファイアに向かう。
「あっ!アイリス様にクリス君。」
ユリがクリス達に気付いて足を止めたことにより、周りもクリス達に気付いた。
「「おお!姫様にクリス様だ!」」
皆の視線がクリスとアイリスに集まる。
「フフフ…。ユリ、良かったわね。上手くいったようね。」
アイリスは、ユリにウィンクした。
「はい!アイリス様、あの時、背中を押して頂きありがとうございます。」
ユリは、嬉しそうに微笑んだ。
「よし!お前達、もっと気合い入れて行くぞ!」
「「おう!」」
演奏家達は熱が入る。
クリスとアイリスは、一瞬、唖然としたが、お互いに顔を合わせてクスクスと笑った。
「では、演奏家の皆さん。宜しくお願いします。」
「「おう!任せろ!」」
クリスは会釈すると、演奏家達は持っている楽器を担ぎ上げて答えた。
「アイリス姫、僕と踊ってくれませんか?」
クリスは、左手と左足を後ろに引いて右手をアイリスに差し伸べて頭を下げた。
「ええ、喜んで!」
アイリスは、嬉しそうに微笑みながらクリスの手を取った。
そして、ゆっくりと音楽が流れ始め、クリスとアイリスは音楽に合わせて踊り始めた。
クリスとアイリスのダンスは、人目を惹くほど優雅で美しく見ている者を魅了しており、2人の周りでダンスしていたカップル達も足を止めて見るほどだった。
「クリス、本当に優勝してくれてありがとう。」
アイリスは、ダンスを踊りながら笑顔で話す。
「アイリスのためなら、僕は何でもするよ。」
「嬉しい。でも、無理と無茶はしないでね。」
「わかったよ。」
クリスとアイリスは、目一杯ダンスを楽しんだ。
こうして、無事に宴会は終わった。
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