スノー・ランド~イエティと呼ばれた少年と精霊を宿した姫~

フミナベ

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世界会議閉会

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【トライツ国】

照の森にいたボルダーとサリーは、街から煙が上っているのが見てたので急いでトライツ国に帰国した。

トライツ国は殆どの建物が崩壊し、火と煙が充満しており、我先にと国民達が逃げ惑っていた。

そんな中、ゆっくりとしか動けないお年寄りにぶつかって倒しても無視する者や親とはぐれた子供が泣いているが誰も立ち止まることはないほどパニックに陥っている。

「嘘…。」

「これは…一体…。」
サリーは目を大きく開き両手を口元に当てて呟き、ボルダーは自失して立ち尽くしていたが、サリーは泣いている子供に駆けつけて両親を探し、ボルダーもお年寄りをサポートした。

「ありがとうございます。」
無事に子供の両親が見つかって両親は頭を下げて立ち去り、お年寄りも身内と合流できた。

そんな中、崩壊した建物の外壁の影から1人の騎士団が頭から血を流しながら外壁に手を付いて瀕死の状態で現れた。

「ハァハァ…ボルダー様、サリー様。ご無事で…何よりです…。」

「おい、大丈夫か?しっかりしろ!これは、一体何があったんだ?」

「大変…申し訳ございません。お二人が出掛けられた後…スノー・ランド国出身の世界指名手配中の犯罪者バルコスが奇襲を仕掛けてきまして…我々の手には負えず、【フレイムズ・メンバー】様方々が交戦して頂いたのですが、バルコスが変わった魔法で…【フレイムズ・メンバー】様方々や【立花】様方々だけでなく、【ドリア】様方々の精巧な人形を召喚し、その人形達は見かけだけでなく強さも本人と変わらないと思えるほど…強く。しかも、【フレイムズ・メンバー】様方々1人に対して人形は2体で襲い掛かり苦戦を強いられてます。」

「精巧な人形だと?そんな魔法は聞いたことがないぞ!」

「ボルダー、私、昔にアイリス様から聞いたことあるわ。スノー・ランド国の秘宝【ウンディーネの加護】の力だと思うわ。」

「精霊の加護か。やはり、精霊の加護は狂っている能力だ。糞!俺が滞在していれば、こんなことにはならなかった!」

「ごめんなさい、ボルダー。私が、あなたを誘ったせいで…。ごめんなさい…ごめんなさい…。」

「あ、ち、違うんだ!サリーが悪いわけじゃない。俺が言いたかったのは、悪いのはバルコスだと言うことだ。だから、気にしないでくれ。」
あたふたするボルダー。

「あの、ボルダー様。今は一刻も早く…サリー様をお連れて此処から…ぐぁ。」
騎士団が避難するように促そうとした時、圧縮された水の矢が心臓を貫き倒れた。

「なっ!?おい!しっかりしろ!」

「ここに居たか。随分と探したぞ、ボルダー殿。」
半壊した家の屋根の上にバルコスが現れ、その後ろには精巧な若い姿のマミューラとガディウスの人形が立っていた。

「お前が、バルコスだな?」

「如何にも。ん?隣に居るのはリース様の姉君であられるサリー様のようだな。予定外な人物も居るが。まぁ、戦力を考えれば特に支障はないか。まずは、取り敢えず、これを返そう。」
バルコスが指を鳴らすと、マミューラの人形は右手で襟元を掴んでいる弱った一人の男を投げ飛ばし、投げ飛ばされた男はボルダーの足元に倒れた。

「なっ!?おい!コバルト、大丈夫か?」

足元に倒れた男は【フレイムズ・メンバー】の第1席のコバルトだった。

「申し訳ありません、ボルダー様。国を守れず、先代の国王様や妃様も…。」

「今は、ゆっくり休めコバルト。」

「申し訳…ありません…。」

「サリー、すまないがコバルトを頼む。」

「ええ、わかったわ。」
コバルトは気を失い、ボルダーはコバルトをサリーに渡した。

「コバルトを安全な場所に移動したら、すぐに駆けつけるわ。」

「いや、俺一人で…。」

「嫌よ、私も戦うわ。それでも、駄目と言うなら勝手に戦うから。」

「わかった。ありがとう、サリー。一緒に戦おう。じゃあ、コバルトを頼む。」

「任せて。私が戻るまで頑張ってボルダー。」

「ああ。」
サリーは、コバルトを肩に寄せて避難する。

「殺れ!ガディウス!」
バルコスの命令で人形のガディウスは、背中を見せているサリーにエナジー・ショットを放つ。

「させるかよ!ファイア・ボール。」
ボルダーは火球を放ち、エナジー・ショットを打ち消し、火球はそのままバルコスに向う。

しかし、人形のマミューラがアクア・ボールを放って相殺させた。

「バルコス、お前の目的は何だ?」
ボルダーは殺気を放ちながらバルコスを睨みつける。

「私の目的は、この国の支配とボルダー殿が宿している精霊フレイムを奪うことだ。」
バルコスは、平然な態度で説明しながら右手を前に出して握り締める。

「なるほど、俺の国を襲ったのはスノー・ランド国には【女帝】のマミューラがいるから手が出せなかったのだろ?」

「ククク…アハハ…。」

「何が可笑しい?本当のことを言われて気が狂ったか?」

「やはり、ボルダー殿はまだ子供だな。」

「何だと!」

「このトライツ国を選んだ理由は、ただ近かっただけだ。確かに【水の乙女】だけでなく【女帝】もいるスノー・ランド国は、トライツ国よりも難易度が上がるのは確かだが、今の戦力ならスノー・ランド国も簡単に落とせるとわかると思うが?何せ、この通り【女帝】のコピーだけでなく、他の【立花】や【ドリア】、【フレイムズ】メンバーも作れているのだからな。」

「まだ、このトライツ国は負けてはいない!ここで、俺が、いや、俺とサリーがお前を倒すからな!」

「ククク…実に面白い。やれるものならやってみたまえ。そうだな、ボルダー殿の強い気持ちに答えて、【女帝】マミューラと一対一(サシ)で勝てたら私は大人しく撤退しよう。どうだろうか?」

「俺を嘗めているのか?約束は破るなよ?」

「勿論、約束は守る。ボルダー殿こそ、人形だからと言って嘗めない方が良い。精霊を宿していない身でありながら、2つの名を持ち、しかも【帝】の文字を貰った【女帝】マミューラをな。行け、マミューラ。ボルダー殿を殺せ。」
バルコスの命令を受けた人形のマミューラは、半壊した家の屋根から飛び降りる。

その直後。

「フレイム・キャノン!」
ボルダーは、両手を前に出してフレイム・キャノンを唱えると両手の前に炎が渦巻く様に収束していき、そして圧縮された巨大な火球の放つ。

人形のマミューラが着地したとほぼ同時に、巨大な火球が人形のマミューラを飲み込もうとしたが、人形のマミューラはアクア・ビックバンを使い右手に高密度で圧縮された巨大な球状の水の塊を作り出して巨大な火球を打ち消すと共に人形のマミューラは巨大な水の塊を前に突き出した状態で猛スピードでボルダーに迫る。

「なっ!?アクア・ビックバンだと!」
ボルダーは驚愕したが倒れ込む様に横に跳び移り、ギリギリだったが人形のマミューラの攻撃を避けることができた。

攻撃を避けられた人形のマミューラは止まれず、巨大な水の塊で次々に建物を粉々に粉砕していき、そして、止まった人形のマミューラはゆっくりとボルダーに振り向く。

「おいおい、マジか。大魔法まで使えるのかよ。しかも、威力も半端じゃねぇ。」


「ボルダー殿、驚くのは良いが余所見は禁物だぞ。」
観戦しているバルコスは、面白そうに忠告する。

すぐにボルダーは、人形のマミューラに振り向くと人形のマミューラは目の前まで迫ろうとしていた。

「くっ、速すぎだろ!ファイア・ボール。」
ボルダーは、咄嗟に火球を無数に放つ。

人形のマミューラはスピードは落とさずに避けれる火球は避け、避けれない火球はアクア・ボールを唱えて水球を放って相殺させた。

「足止めすらならないとか、マジで出鱈目だな。フレイム・セイバー。」
ボルダーは腰に掛けてある剣を抜刀し、剣に魔力を込めると同時に剣の刀身が紅く染まり炎を纏わせて横に薙ぎ払う。

人形のマミューラは、ジャンプして斬撃を躱しながら右足で踵落としをする。

「チッ。」
ボルダーはバック・ステップで避けたが、一瞬で人形の人形のマミューラに懐に入られた。

人形のマミューラは、左右の拳で高速の速さで連打する。

「ぐぁ。」
ボルダーは剣で防ごうとしたが、人形のマミューラの拳が剣を握っている左右の指に当たり指の骨が折れ剣を落とした。

そして、人形のマミューラの高速の左右の拳の連打が無防備なボルダーの鳩尾や顔面などに次々に決まっていく。

「ガハッ…。くっ…。に、人形なんかに負けてたまるか~!」
ボルダーは両腕をクロスにして攻撃を防ごうとするが人形のマミューラの拳は鋭く重く完全には防ぐことができず必死に攻撃を耐えながら魔力を溜める。

そして、ボルダーはクロスしていた腕を左右に開きながら炎大魔法インフェルノを唱え、ボルダーのすぐ前の地面から勢い良く炎が吹き上がった。

人形のマミューラは咄嗟に右腕を顔の前に出してバック・ステップで避けようとしたが、インフェルノは範囲が広く下半身が炎に飲み込まれ蒸発し、上半身だけになった人形のマミューラは地面に落下した。

「ハァハァ…おい、バルコス。勝ったぞ。約束通り、さっさと大人しくこのトライツ国から消えろ。」

「フッ、勝ち誇っているところ悪いが気が早いぞ。よく、見ると良い。」

「なっ!?嘘だろ…。」
不敵な笑みを浮かべるバルコスに言われ、ボルダーは人形のマミューラに視線を向けると残った上半身から水が溢れ出して失った下半身が再生していき、人形のマミューラは何事もなかった様に立ち上がった。

「残念だったな。半身消し飛ばすのではなく、全身を消し飛ばさないと倒すことはできないぞ。」

「だったら、全身どころか辺り一帯を燃やし尽くしてやるまでだ!ハァァ!」
ボルダーは魔力を溜めようとするが、人形のマミューラは阻止しようと接近する。

その時だった。

「ソーラー・レイ!」
サリーの声と共に一瞬で光の光線がボルダーの真横を通り抜け、人形のマミューラの右半身を撃ち抜いた。

右半身を失った人形のマミューラは、態勢が崩れる。

「今よ!ボルダー!」

「ああ、サンキュー、サリー。今度こそ、これで終わりだ。全てを燃やし尽くせ、フレイム・ドラゴン!」
ボルダーの頭上に巨大な火龍が現れ、火龍は一直線に人形のマミューラに迫る。

人形のマミューラは左手を前に出すと共に水大魔法アクア・ドラゴンを唱え、ボルダーの火龍よりも一回り大きな巨大な水龍が現れた。

火龍と水龍は絡む様に激突したが、水龍が巨大な口を開き鋭い牙で火龍の首元を噛み砕き、火龍は消滅した。

「何だと!?」
「そんな…。」
火龍が消滅しボルダーとサリーは絶句した。

水龍が間近まで迫って来ていた。

「ボルダー!」
ボルダーよりショックが小さかったサリーは、慌てて
ボルダーに駆け寄る。

「あなたから告白された時、とても嬉しかった。愛しているわ、ボルダー。あなたは、生きて幸せになってね…。」
サリーはそっと呆然と立ち尽くしているボルダーにキスをし、涙ぐみながら笑顔を浮かべ、そして、両手で力一杯ボルダーを押して水龍から遠ざける。

「なっ!?サリー!」
吹き飛ばされたボルダーは、涙ぐみながら笑顔を浮かべているサリーに右手を伸ばしながら叫んだ。

そして、物凄い速さで巨大な水龍がサリーを飲み込み、大地を抉りながら周囲の建物を巻き込んで破壊して消滅した。

「そ、そんな…サリー。何で、俺なんかを庇ったんだ…。国だけじゃなく、一人の愛する恋人も守れないような俺なんかを…。」
ボルダーは、両膝を地面につけて呆然と水龍が消えた方向を見て呟いた。

ボルダーの前に二つの影が近づいてくる。

ボルダーが顔を上げるとバルコスと人形のマミューラがいた。

「終わりだな、ボルダー殿。まぁ、すぐにサリー様と会えるだろう。最後は、俺の手で終わらせてやろう。」
バルコスは、腰に掛けてある剣を抜刀して振り上げた。

「フン、まだ動けるのか。俺を庇え。」
バルコスが人形のマミューラに命令すると同時に複数本の炎の矢が飛んできたが、人形のマミューラがアクア・アローで相殺させ、数本がバルコスと人形のマミューラの足元の地面に刺さった。


「ボルダー様!ハァハァ…早く、ここからお逃げ下さい!」
コバルトは、満身創痍な状態で剣を杖代わりにして右手を前に出していた。

「もう、良い…。お前が逃げろ!コバルト!俺は…何も救えない奴だ。そんな奴を…。」

「何を弱音を言っているだ!このバカ息子!」
コバルトの後ろから先代の国王であるボルダーの父ボルスが左手で負傷している右肘を押えながら現れた。

「親父…。」

「お前は、まだ若い。今回の失敗を生きて活かせ!それに、サリーならば、きっと大丈夫だ。サリーは、簡単に負けはしない。愛した女性ならば、最後まで信じろ!早く、サリーのもとへ行け!バカ息子!ここは、俺とコバルトに任せろ!」

「親父…わかった。ここは、任せた。」

「幸せになれ、ボルダー。お前達、二人ならば支え合えばどんな困難でも乗りきれるはずだ。」

「逃すな!」
バルコスの命令で人形のマミューラがボルダーを追いかけようする。

「行かせるものか!フレイム・キャノン!この先に行きたかったら、この俺を倒してからにして貰おうかバルコス殿、【女帝】殿。」
ボルスは圧縮した火球を放ち、火球は避けられたがボルスは人形のマミューラの前に出て行く手を阻んだ。

「チッ、ガディウス!」
「そうはさせん!」
バルコスの後ろで待機していた人形のガディウスは走ろうとした時、コバルトが高くジャンプして剣を振り下ろしながら降下する。

ガディウスも剣を抜刀して攻撃を受け止めた。


「くっ、ならば他の人形共で…。」

「バルコス、あなたの思惑通りにはいかせないわ。フレイム・サークル。」
頭に包帯を巻いているボルダーの母親のフレイが杖を強く地面に突き刺すと、杖の先端から複数の炎が勢い良く地面を走り、大地に巨大な魔法陣を描くと同時に炎の結界ができた。

人形のユナイト達は炎の結界が張られたので、右手で結界を触れると手が蒸発しボルダーを追うことができなかった。

そして、ボロボロ姿の【フレイムズ】メンバーがフレイを守るようにフレイの前に出た。

「この死に損ない共が!」
今まで、余裕に満ちていたバルコスの表情が一変し、怒りで額に血管が浮き殺気を放ちながらボルス達を見渡した。



ボルダーは、抉れた大地を走りながらサリーを探していた。

「サリー!何処だ!あれは…サリー!」
ボルダーは、草原に倒れているボロボロ姿のサリーを見つけて急いで駆けつける。

「サリー、しっかりしろ!サリー!」
ボルダーは、サリーを抱きかかえながら声を掛けるがサリーは目を覚まさなかった。

ボルダーは、慌ててサリーの胸に耳を当てて心臓の鼓動の確認をした。

「良かった…心臓は動いている。しかし、これからどうすれば良いんだ…。サリーを抱えた状態で、どうやって此処から…。」
ボルダーは、サリーを抱きかかえてお姫様抱っこをした。

「ボルダー様!ご無事でしたか!本当に良かったです!国民の皆さんも心配していましたよ。」
サリーのメイドが、ボルダーを見つけて手を振りながら駆け寄る。

メイドは武術の心得が全く無いので、国民達と一緒に避難をしていた。

「すまない、サリーを守るどころか、逆に俺がサリーに守られた。完全に、俺の力不足だ。本当にすまない。」

「しっかりして下さい。今は、後悔するよりも先にどう生き抜くかが大事です!それに、サリー様なら、きっと大丈夫です。それほど後悔しているのなら、サリー様が目を覚ました時に謝罪すれば良いと思います。サリー様のことですから、そんな些細なことを気にしていたの?って言うと思いますよ、きっと。」

「そうだな…。」

「さぁ、こっちに来てください。船の準備ができています。」
ボルダーはサリーを抱いたまま、メイドと一緒に港に向かった。



【港】

港には数多くの船と大勢の国民達が集まっていた。

「あ、ボルダー様だ!」

「「おお!ボルダー様!」」

「すまない、俺が不甲斐ないばかりに…。この通りだ。」
ボルダーは、頭を下げる。
国民から罵倒されたり、問いつめられたり、殴られたりするだろうと思っていたので覚悟していた。

しかし…。
「そんなことはないです!顔を上げて下さい、ボルダー様。ボルダー様は、こんなにボロボロになるまで戦ってくれたのです。悪いのは、攻めてきたバルコスと、それを放置しているスノー・ランド国です!」

「「そうだ!そうだ!」」

「俺達の国を壊滅しただけでなく、サリー様に大怪我させたバルコスとスノー・ランド国は許さんぞ!」

「「おお!」」

「いつか必ず、俺がバルコスとスノー・ランド国から国を取り戻してやる。それまで、我慢してくれ!」

「私達は、ボルダー様を信じてます!」
「俺もだ!」
ボルダーとトライツ国の国民達の怒りはバルコスだけでなく、スノー・ランド国へと向いた。

そして、ボルダー達はリースがいるヨンダルク国へと避難した。



【ソレイユ国】

「話は終わりだ。お前達、スノー・ランド国がバルコスを野放しにしているのが今回の原因だ!お前達のせいで国が、そして、サリーは今も昏睡状態だ!」
ボルダーは両親であるボルスとフレイ、そして、昏睡状態のサリーの姿を思い出し怒りが込み上がり、殺気が籠った鋭い眼光でアイリスを睨みつけながら膨大な魔力を開放する。

「「アイリス様!」」
アイリスの背後で待機していたユナイトとユーリアはアイリスを守るため、椅子に座っているアイリスの真横に出た。

だが、ユナイトとユーリアよりも早く、クリスは行動に移っていた。

クリスはジャンプして中央にあるテーブルを飛び越えてボルダーの背後へ回り、右手でボルダーの右手首を掴んで捻り関節技を決め、左手で振り向こうとしているボルダーの首根っこを掴んでテーブルに叩きつける様に抑え込んだ。

「ぐぁ。糞っ、放せ!殺すぞ!」
ボルダーは必死に抵抗し悔しそうな表情を浮かべながらも、それでも、アイリスを睨みつける。


「ボルダー様、八つ当たりがしたい気持ちはわかりますが、どんなことがあれ、アイリスには指一本触れさせはしません。それと、先に忠告しておきますが、これ以上、抵抗や攻撃に転じろうとした場合、申し訳ありませんが腕の骨を折らさせて頂きます。」

「くっ、この餓鬼が!嘗めるな!」

「残念です。~っ!」

「クリス!」
「アイリス、伏せろ!」
ボルダーから膨大な魔力が膨張して魔法を使う気配があったので、クリスは関節技を決めているボルダーの右腕の骨をへし折ろうとした時、誰もいないはずの背後に薄らと人の気配がし、ほぼ同時にアイリスとクリスは声をあげた。

クリスの背後には、席が離れている【武帝】のルージュが気配を消してクリスの背後に移動しており、ルージュは腰に掛けてある剣を握った瞬間、クリスとアイリス達は咄嗟に頭を下げた。

ルージュから閃光が走る。

アイリス達は頭を下げた瞬間、アイリス達の背後にある離れた分厚い壁に斬撃の跡がつき、ワンテンポ遅れてテーブルの中央に置いてあったロウソク3本が切れてロウソクの火は落下する時に消えてテーブルの上に落ちてコロンと転がった。

クリスは、抑えていたボルダーを放してルージュに振り向きながら右足で回し蹴りをする。

ルージュは、バック・ステップをして回避した。


「おい!さっきは、よくもやってくれたな!」
解放されたボルダーは怒声をあげながらクリスに振り向いた瞬間、クリスはルージュに視線を向けたまま右手で軽く裏拳をし、クリスの右拳がコツンっとボルダーの顎に軽く当たった。

「うっ…。」
ボルダーは糸が切れた操り人形の様に膝から崩れ落ち、その場に倒れて気絶した。

ルージュとクリスが発する威圧感によって、周囲の空気が張り詰めて重く感じる。

そんな中…。

「ほう。」
ラークスは、右手で自身の顎を触りながら興味気にクリスを見る。

アイリスや他の者達が息を呑む中、エアリナとエアロはクリスが処刑されると思い嘲笑い、【氷帝】はラークスと同じで楽しそうに成り行きを見守っていた。

ルージュとクリスは、殺気は出してはいないが鋭い眼光で睨み合う。

「いい加減にしろ!お前達!ここは争う場じゃないぞ!」
ベネルックスは、大声を出して止めた。

「まぁ、お前も落ち着きな弟よ。しかし、初見だといのに、あのルージュの初太刀を躱すと大したものだ。増々、お前に興味が湧いた。なぁ、この後、俺と戦わないか?」

「それは、遠慮させて貰いますラークスさん。」

「そうか、それは残念だ。カカカ…お前となら、多少は楽しめそうな気がしたのだがな。まぁ、楽しみは後に取っておくとするか。カカカ…。」

「ゴホン、兄さん。それぐらいで。」

「ああ、すまんな。」

「【武帝】殿は席に戻り、クリスは元の場所に戻り給え。」
ベネルックスの指示で先にルージュは何事もなかった様に背中を見せたので、クリスも素直に戻った。

「あら、つまらないわね。」
「そうね。」
エアリナが呟き、【氷帝】が賛同した。

「ゴホン、話を戻すが、最後の議題はそのバルコスを誰が、もしくは共闘で倒すかのだが…。」

「あら、それはスノー・ランド国に責任があるのだからアイリスさんに任せるのが妥当だと思うのだけど?ねぇ、それで良いわよね?アイリスさん。」
エアリナは、アイリスに向いて不敵な笑みを浮かべる。

「ええ、そうね。異議はないわ。私達が責任持ってバルコスを倒すわ。」

「フフフ…。返り討ちに合わないと良いわね。まぁ、精々頑張ってね。」

「ええ、ご忠告ありがとうございますエアリナさん。」

「【雷帝】って、言って欲しいのだけど。」

「ちゃんと名前で呼んでいるのだから、別に良いでしょう?それに、規則では二つ名で呼ぶようにとは決まってないですよ。」

「~っ!この小娘が~。」
エアリナは余裕の表情から一変し、額に青筋を浮かべて殺気を放ちながらアイリス睨んだ。

「おい!いい加減にしろ!」

「……はぁ、わかっているわよ【炎狼】さん。だから、眉間にシワを寄せて鬼のような形相で睨まないで下さるかしら?」

「わかれば良い。」

「ねぇ、アイリス。バルコスの件、私達ヨンダルク国も協力するわ。」

「わ、私達も微力ながら手伝わせて下さい。アイリスお姉様。」
ウルは後ろにいるチャリーとキリムに申し訳なさそうな表情で振り返ると二人は笑みを浮かべながら頷いたので、慌てて立ち上がり参加することを話した。

「ありがとう、リース、ウル。」

「他の者はいるか?よし、決まったようだな。では、アイリス、リース、ウルの三国がバルコスの討伐に任務に当たることにする。他の者は、それで良いのだな?異論はある者はいるか?」

「ええ、構わないわよ。」

「だな。」

「ああ。」

「「‥‥。」」

「【武帝】殿は?」
【氷帝】を筆頭にそれぞれ精霊を宿した代表達は納得したが、ルージュだけは無言だったのでベネルックスが尋ねる。

「私も構わない。」
ルージュは、クリスの方を見て目を閉じて頷いた。

「よし、これで今回の会議はこれにて閉会する。」
ベネルックスの閉会宣言により、ぞろぞろと会議に参加していた人達は退出していった。


残ったのは、アイリス達やリース、ウル達、それと、まだ気絶しているボルダーだった。

「リース、ウル、協力、本当にありがとう。そして、リース、その、ごめんなさい。」

「ん?ああ、お姉ちゃんのことね。気にしないで良いわよ、アイリス。それに、クリス達もね。ボルダーさんは、ああ言っていたけど。アイリス達がバルコスに莫大な賞金をかけて一生懸命に探し出そうとしていることは私達は知っているわ。」

「ありがとう、リース。その、ところでサリーさんの容態は?」

「ボルダーさんの言っていた通りよ。大魔法をまともに受けたから傷も完全には癒えていないし、それに、まだ一度も目を覚ましていないわ。」
リースの表情に影が差した。

「そう…。」

「ん?クリス、どうしたの?」
リースは、クリスが何か考え事していることに気付いた。

「いや…。何でもないよリース。」

「一人で悩んだり考えたりしないで教えて欲しいのだけど。」

「わかったよ、アイリス。じゃあ、あのさ、リース。もし良かったらだけど、サリーさんに会わせてくれないかな。」

「別に良いけど。でも、先も言ったけど目を覚ましてないわよ?」

 「うん、わかっているよ。ただ、サリーさんを治せるかもしれないんだ。」

「「え!?」」
アイリス達は、クリスが口にした言葉の意味が理解できないほど驚愕した。

「ク、クリス!サリーさんを治せるの?」

「絶対じゃないけど、リースが協力してくれたら可能性はあると思うんだ。試してみないとわからない。」

「クリス、先に言っとくわ。私は、まだ回復魔法は上級までしか使えないわよ。最上級は訓練はしているけど、今まで一度も成功したことないわ…。」

「それに関しては大丈夫。詳しい話は、その時で良いかな?」

「「ええ。」」
「はい。」
クリス達は、ボルダーを連れてサリーがいるヨンダルク国へと向かった。
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