スノー・ランド~イエティと呼ばれた少年と精霊を宿した姫~

フミナベ

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嶺上開花と模擬戦

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【ヨンダルク国】

ヨンダルク国は、ソレイユ国から近いのでクリス達は半日でヨンダルク国に辿り着いた。

「今、戻りました。」
リースは、椅子に座っているヨルズとリオンに報告した。

「無事で何よりだ。それに、アイリス殿にウル殿、クリス君達も、よく来てくれた。まぁ、椅子に座ると良い。」

「あの、スノー・ランド国代表として謝罪をさせて下さい。此の度の件は、誠に申し訳ございませんでした。」
アイリスは椅子に座る前にその場で謝罪をして頭を下げ、同時にクリスやユナイト、ユーリアも頭を下げた。

「ああ、バルコスの件だな。既に、バルミスタ殿からも謝罪の言葉が来ている。そのことは、気にしないでくれ。確かに、正直に言えば腹が煮えたぎるほど怒りが込み上がるが、アイリス殿達のせいではない。なぁ、リオンよ。」

「ええ、そうです。だから、アイリスちゃん達。ほら、頭を上げて。」

「ありがとうございます。」

「ところで、お父様、お母様。アイリス達にお姉ちゃんに会わせたいのですが。」

「ん?別に構わんが、まだサリーは目を覚ましてはいないぞ?」

「はい。ですが、クリスがお姉ちゃんを治せるかもっと…。」

「何と!?」

「それは、本当なの?クリス君」
リースの報告を聞いたヨルズとリオンは、驚いた面持ちでバッと立ち上がり、リオンはクリスに駆け寄り両手で肩を掴んだ。

「絶対とは言えませんが、可能性はあります。」

「おお!ガディウス、すぐにクリス君をサリーの部屋へ案内してやってくれ。」

「ハッ!畏まりました。」
ガディウスは、クリス達を三階にあるサリーの部屋へ案内した。

「申し訳ないが、この部屋は乙女の部屋だ。」

「わかっている。俺達は部屋の外で待機しておくさ。」
ユナイトは、ガディウスの過多に手をポンっと乗せた。

「じゃあ、私は女性だから…。」
ユーリアは、ユナイトの横を通り抜けて当たり前の様に部屋に入ろうとする。

「おい!」

「冗談よ、お兄様。フフフ…。」
ユーリアは口元に手を当ててクスクスと笑った。

「まったく…。」

「本当に、かたじけない。」
ガディウスは頭を下げ、結局サリーの部屋に入ったのはアイリス、リース、ウル、クリスの四人だけで、他のユナイトやユーリア、チャリーにキリム達は部屋の外で待機することにした。



サリーの部屋はメイド達が掃除をしているが、幼い頃にサリーが出ていった時のままの状態なので色んな可愛いぬいぐるみが飾られたりしており幼い女の子の部屋だった。

壁際にある水色のシャボン玉模様の掛け布団の可愛いベッドで、サリーが横になっていた。

リースを先頭にクリス達はサリーの傍に歩み寄る。

「お姉ちゃん…。」
リースは、そっと姉のサリーの右手を両手で優しく包んだ。

「この人がサリーさん?」

「そうよ。ところで、クリス。私は、何をすれば良いの?」

「大したことはないよ、僕と手を繋ぐだけだよ。頼めるかな?」

「なっ!?」
アイリスがクリスの言葉を聞いた瞬間、眉間にシワが寄った。

「アイリスお姉様、落ち着いて下さい。治療行為です。」
ウルは、慌てて静止させる。

「え?クリス、そんなことで良いの?」
リースは、アイリス達のことを無視して話を進めた。

「うん、あと先に言っとくけど、リースというよりもドリヤードの魔力を使わせて貰うけど良いかな?」

「別に構わないわ。何なら、私の魔力も使っても構わないわよ。」

「いや、気持ちだけで大丈夫。じゃあ、リース。自身の中のドリヤードの魔力に集中して。」
アイリスがブスッとした不機嫌な表情を浮かべる中、クリスはリースに手を差し伸べ、リースは少し恥ずかしそうにクリスの手を取った。

「ええ、わかったわ…。」
リースは目を瞑り、ゆっくりと深呼吸して自身の身に宿しているドリヤードの魔力を今まで以上に強く、そして、深く感じる。

「じゃあ、始めるよ。」
クリスは手を繋いでいるリースの魔力を感じ取り、目を瞑って意識を流て来るリースの魔力を逆走し、リースに宿っている少女姿の精霊ドリヤードと意識の中で対面した。

「初めましてドリヤード。いや、前に一瞬だったけど一度会っているよね。」
「覚えてくれていたのね、クリス。フフフ…嬉しいわ。」
クリスが尋ねると、ドリヤードは口元に手を当ててクスクスと笑って微笑んだ。

「急で申し訳ないのだけど、リースのお姉さんを助けるために君の力を貸して欲しい。頼むよ、ドリヤード。」

「ええ、勿論よ。あなたなら、この膨大で特殊な私の魔力を暴走させずに完全に制御できると信じるわ。リースのお姉さんを癒やしてね、約束よ。」

「任せて!」
クリスが頼むと、ドリヤードは優しく微笑みながらクリスに手を差し伸べ、クリスは力強い意志が宿っている瞳でドリヤードを見ながら手を取った。

「お願いね、クリス。」

「ありがとう、ドリヤード。安心して見守ってて欲しい。」

クリスがお礼を言うと、今までと質も量も全く違う膨大な緑色の魔力がクリスの全身を覆った。

「何ですか…今まで、こんな膨大な魔力は感じたことないです…。」

「ええ、だけど、それだけじゃないわウル。こんなに特殊な膨大な魔力なのに威圧感や圧迫感が全く感じ無いわ。」
リースはドリヤードの魔力に集中していたが、ウルとアイリスは驚愕した面持ちを浮かべてクリスを見つめていた。

「よし!これならいける!感じろ!嶺(みね)の上で咲いている花の力強き生命の息吹を!嶺上開花(リンシャンカイホウ)!」
ドリヤードの魔力を感じて掌握したクリスは、ゆっくりと目を開いて空いている手をサリーに向けて回復最上級魔法・嶺上開花(リンシャンカイホウ)を唱えた。

クリスを中心に緑色の魔力が放たれる。

「「きゃっ。」」
膨大な魔力に飲み込まれたリースとアイリスとウルは悲鳴をあげた。

部屋にある花瓶に飾られている花と蕾(つぼみ)が綺麗に大きく花が開花した。

「何だか、とても暖かいです…。」
「ええ、それに、優しく包まれている感じがするわ…。」
「そうね、自然と安心して身を委ねてしまうわ…。」
ウル、アイリス、リースは目を瞑り、全身の力が抜けるほどリラックスし、疲労が霧のように霧散して抜けていくのを感じた。

緑色の魔力はサリーの部屋の中だけでなく、ヨンダルク国全土に広がっていくと同時に部屋と同じ現象が起き花や木々は生命力に満ち溢れて国中は緑豊かになり、杖をついていたお年寄りは杖を投げ捨てて元気よくジョギングし、大きな病を患って意識がなかった患者は目を覚まして起き上がたりして国中に生命力が満ち溢れていく。


「う、う…ん。」
サリーは、ゆっくりと目を覚ました。

「お、お姉ちゃん!」
リースは、泣きながら横になっているサリーに抱きついた。

「え!?え?ど、どうして、リースが…。それに、アイリス様にウル様も。」

「良かったです、無事で…。」

「ええ、そうね。」
ウルは人差し指で自身の涙を拭い、アイリスはウルの肩をそっと置いて抱き寄せた。

「大丈夫?気分とか悪くない?お姉ちゃん。」
「ええ、大丈夫。寧ろ、今までで一番体調が良いぐらいよ。でも、何で私は助かったの?確か、私はボルダーを守るために庇って大魔法を…。」
リースはサリーから離れ、サリーは上半身だけ起こして思い出す。

そんな時だった。

「どうした?大丈夫か!」
ドリヤードの魔力で回復して目を覚ましたボルダーは、勢い良く部屋のドアを開けて中に入ると上半身を起こしているサリーを見て固まった。

「おはよう、ボルダー。」
「サ、サリー!」
サリーの笑顔を見たボルダーは、勢い良くサリーに抱きついた。

「きゃっ、ボルダー!?」

「良かった、良かった…。目を覚ましたのだな。本当に心配したんだぞ!」

「ごめんなさい。それより、ボルダーこそ大丈夫だったの?」

「ああ、サリーのお蔭で俺は助かった。だが、もうこういう無茶はするな。今度したら、絶対に許さないからな!」

「ええ、わかったわ。」
サリーは、優しく微笑みながらボルダーの頭を撫でる。

「それより、気を失っていてもわかるほどのあの膨大な魔力は一体…。もしかして、リース。あなた、とうと苦手だった回復魔法。しかも、精霊魔法が使える様になっていたのね。妹がこんなに成長しているなんて。姉として、とても嬉しいわ。」
サリーは、リースの腕を取ってギュッと抱き寄せる。

「ちょっ、お姉ちゃん苦しい…。それに、魔法を使ったのは私じゃないわ。」

「え?だって、今のは嶺上開花でしょう?精霊ドリヤードを宿した人しか使えないはずよ。」

「そうなのだけど、今回は違うの。信じられないかもしれないけど、嶺上開花を使ってお姉ちゃんを癒やしたのは私じゃなくクリスよ。そういえば、まだお礼を言っていなかったわ。ありがとう、クリス。」

「え?そんなことが可能なの?それに、クリス君って誰なの?」

「クリスは、ほら、そこいる男の子よ。」

「初めまして、サリー様。私はクリスと申します。」

「あ、自己紹介が遅れてごめんなさいね。私、リースの姉のサリーです。私、てっきり、リースが治療してくれたと勘違いをしてしまい、お礼を述べるのが遅れてしまいました。此度は、治療して助けて頂きありがとうございます。」

「いえ、今回の元凶は今も捕らえることができずにいるバルコスが起こした事件なので此方の責任です。申し訳ございません。」

「クリスの言う通りです。サリーさん、誠に申し訳ありませんでした。」
アイリスもクリスと一緒に頭を下げて謝罪した。

「お二人共、顔を上げて下さい。」

「ところで、サリー。体調はどうだ?まだ、無理はするな。」

「フフフ…。大丈夫よ、ボルダー。心配してくれてありがとう。それに、何だか普段よりも体が軽いの。」
サリーは何事もなかった様に健康だったため着替えることにした。



【ヨンダルク国・会談の間】

サリーの着替えも終わり、これからの打ち合わせをするためクリス達は会談の間に集まっていた。

部屋には大きなドーナツ型の丸テーブルがあり、テーブルの周りにクリス達が椅子に腰掛けており、中央には巨大な水晶の塊が光り輝き斜め上にスノー・ランド国のバルミスタ国王とシリーダ妃、アクア国のエネル国王とウルカ妃が映し出されている。


「会談を始める前にクリスよ、サリーだけでなく国中を癒やしてくれたそうだな。誠に感謝する。」

「ありがとう、クリス君。」
ヨルズとリオンは、頭を下げて感謝した。

「いえ、僕はできることをしたまでです。」

「ねぇ、ところでクリス。どうして、ドリヤードを宿した人しか使えないはずの精霊魔法、嶺上開花が使えたのよ。」
アイリスは、ずっと疑問に思っていたことを尋ねる。

「はい、それは…。」

「クリス、敬語は使わなくって良いわよ。」

「しかし…。」

「そうだぞ、クリス。お前は、血縁者なのだからな。エネル殿やヨルズ殿達も、それで良いかな?」

「ああ。」

「俺も構わない。」
ヨルズ達は、頷いて承諾した。

「わかりました。じゃあ、アイリス達は見ていたからわかると思うけど。リースに宿っている精霊ドリヤードの魔力を使ったからだよ。」

「それはわかっているけど。サラッと、とんでもないことを平気で言うのね。そんなことは普通はできないわよ。過去に何人も数え切れないほどの人達が精霊の力を利用することを思いついて試した人達がいたけど、全員が精霊の逆鱗に触れて死んで成功した人は皆無なのよ。なのに、なぜクリスはできたの?」

「おそらくだけど、僕のお母さんは精霊に愛されていたからじゃないのかな?」

「仮にそうだったとしても、よく試そうと思ったわね。普通、そんな不確定な要素や理屈では試さないわよ。」

「まぁ、理屈だけじゃないんだけどね。」

「どういうこと?」

「わかりやすく言えば、始めはアイリスとキスした時だったよ。一瞬だったけど、僕は青髪の少女姿の精霊ウンディーネの姿が見えたんだ。」

「ちょ、ちょっと、クリス!な、何を突然に言い出すのよ!」
アイリスは恥ずかしくて顔を真っ赤に染めて声を荒げるが、クリスは気にせず話を進める。

「その時は気の所為だと思ったんだ。だけど、リースとキスした時、今度は緑色の髪をした少女姿の精霊ドリヤードが見えて確信したんだ。どちらの精霊も微笑んでいたから、もしかして、この方法が成功する可能性があって高いと思って、今回、実行したんだよ。それより、リース。体は大丈夫?精霊の魔力を使ったとはいえ、体に支障とかない?」

「少しだけ倦怠感を感じて怠いくらい。だから、大丈夫。気にしないで。」

「そう、良かった。」

「話はこれくらいにして、これからのことを話し合おうとするかのぅ。ガディウスよ。」

「ハッ。では、トライツ国を奪還するための作戦を話し合いをしたいと思います。」

「あの、1つ提案あるのですが。」

「クリス殿、何か手はあるのですか?」

「作戦という訳ではないのですが、今回の敵は強力ですので一般の騎士団の皆さんを参戦させるのはやめた方がよろしいかと。逆に、被害を拡大させるだけなので僕とユナイトさん達【立花】メンバー、できましたら、ヨンダルク国から【ドリア】メンバー、ウル達からは【アクア】メンバーを少人数でも構いませんので出して頂きたいのですが。」

「なるほど、確かにクリス殿の言う通りだな。」

「待って頂戴!」

「アイリス様、どうかなされましたか?」
ユナイトが尋ねる。

「何で、そのメンバーに私が入っていないのよ。」

「精霊を宿しているアイリスやリース、それにウルは強力な戦力にはなるけど、バルコスさんの狙いは精霊なのは間違いないと思う。だからこそ、今回の作戦には参加させない方が良いと判断したんだけど。確かに、侵攻する側の武力は微妙になるけどね。」

「そうだぞ、アイリス。今回は、とても危険だ。クリス達に任せて、お前は大人しく帰国するのだ。」

「俺もクリスとやらに賛同する。」
バルミスタとエネルは、大きく頷いてクリスに賛同した。

「お父様、私は足を引っ張りません。だから、参加させて下さい。」

「私もよ。」

「わ、私もです。お願いします。」
皆は止めたかったが、アイリス達が言い出したら止まらないと知っていたので誰も口にはしなかった。

「うむ、私は娘達に賛成だ。クリスの言い分も確かだがリース達は精霊を宿しておるから【ウンディーネの加護】の能力の対象外であり戦力としても十分だと思う。どうだろうか?もし良ければ、再考してみてくれぬか。」
娘に甘いヨルズは、バルミスタやエネルに視線を向ける。

「確かに、アイリス達は大きな戦力になるとは思うが、聞いたところ相手は人形といっても強者揃いだと聞いている。現にボルダー殿も…。」
バルミスタは、ボルダーを見る。

「ぐっ…。」
事実だったので、ボルダーは歯を食いしばり何も言い返せなかった。

「でしたら、お父様。クリスがマミューラ様の人形の相手をすれば、お認め頂けますか?」
アイリスは、参加の可能性を上げるために提案する。

「……。クリスよ、お前の正直な意見を聞こう。」

「はい、わかりました。さっきほどは、アイリス達を危険に巻き込みたくないという気持ちが強かったので、ああ言いましたが。僕の正直な意見を言わせて頂きますと安全面を考慮すればアイリスが仰った通りにマミューラ様の人形の相手は僕がするか、もしくは僕の代わりにおばあちゃん自身が自身の人形を倒すのが一番だと思っています。ですが、国の防衛面も考慮しますと入れ違いの襲撃に備えて国には【立花】メンバーは最低でもニ~三人だけでなく、僕かおばあちゃんのどちらか片方は国に滞在していなければ危険だと思っております。あと、不安があるとしたら侵攻するには人数的にも戦力にも足りない可能性があることです。ですが、騎士団方だと戦力どころか被害を拡大させるだけなので、作戦を遂行する可能性を上げるためには国王様方の許可があればアイリス達も参戦して頂きたいと思っております。もし仮に、アイリス達の身に危険が迫った様ならば僕が命を賭して守ると約束致しますので。」

「わかっているじゃない、クリス。お父様、心配する必要はないです。私とリース、ウルの三人でチームを組んで共に行動すると約束しますので了承して頂けますか?それで、良いわよね?リース、ウル。」
アイリスは、リースとウルに振り向く。

「はい、アイリスお姉様とリースさんと一緒なら!」

「まぁ、仕方ないわね。本当は、私とクリスでも大丈夫なのだけど。」
ウルは両手を肩の高さに上げて拳を握り、リースは面倒臭い様な態度を取っていたが口元は緩んでいた。

「ねぇ、それって、どういう意味?」

「愛の力って、不可能を可能にするんだから。」

「へ、へぇ~。」

「あわわわ…。」
アイリスはドスの利いた声を出してリースを睨みつけ、ウルはどうしていいかわからず二人の周りであたふたした。


「どうだろうか?」
バルミスタは、ヨルズ達に確認する。

「私は、賛同する。」

「エネル殿は?」

「うむ…。」
(本当に、この少年は強いのだろうか?素直で優しいことは何となくわかるが、どうみても普通の少年しか見えぬ。)
エネルはクリスを値踏する様な視線で見るが、クリスからは優しい雰囲気を醸し出していたが猛者の様な威圧感が全く感じれずエネルの表情が渋る。

「クリス殿、すまないが、お主の強さがどの程度なのかをこの目で直に確かめさせて貰いたいと思う。そこで、どうだろうか?ウルと、いや、今回の相手は複数なのだからウル達と手合わせをしてくれぬか?無論、お互いに手を抜かずに頼むぞ。」
エネルは、提案した。

クリスとアイリス達はどうすれば良いのかわからず、バルミスタとヨルズに視線を向けると二人が頷いた。

「「え!?」」

「わかりました。じゃあ、アイリス、リース、ウル。手加減無しでお願いするよ。」
アイリス達が戸惑いの声をあげる中、クリスは落ち着いて了承した。

「わかったわ。リース、ウル、良い?」

「は、はい!」

「一対一じゃないのが不服だけど、仕方ないわね。あと、クリス。容赦しないから覚悟しときなさい。」

「御手柔らかに…。」

「そういうことになりましたので。お父様、訓練場を使わせて頂いても良いですか?」

「ああ、わかった。良かろう。」
ヨルズは、頷いた。



【騎士団の訓練場】

城の裏側には広い裏庭に訓練場があり、会談の間の窓越しから見える。

ヨルズ達、各国王と妃は、会談の間の窓から観戦することにした。

訓練場の石畳みのリング上にクリスとアイリス、リース、ウルの四人がウォーミングアップをしており、リングの端にヨルズ達だけでなく、各三ヶ国の騎士団達は気になっており許可を得て集まって観戦していた。

ユナイトとユーリア、ガディウス以外のチャリー、キリム、騎士団達はクリスが負けると思っていたので茶番劇だと決めつけていたが少しだけ気になっている。

リースは、深刻な面持ちで自身の魔力を纏った右手を見ていたのでアイリスは気になった。

「リース、どうしたの?」

「ううん、何でもないわ。気にしないで。」

「そう?なら、先に二人に言っておくわ。リースは間近でクリスの強さを実感しているから大丈夫と思うけど。はっきり言って、本気で戦わないと負けるかもしれないわ。ううん、確実に負けるわ。」

「え?本気ですか?あの、まさかとは思いますが大魔法も使用するのですか?」

「ええ、使う隙があればね。」

「え、えっと…。その、大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫よ、ウル。癪だけどアイリスの言う通りよ。おそらく、クリスは【炎帝】クラスの実力があるわ。」

「そういうことだから、わかったわね?ウル。良いわね?」

「わ、わかりました。」

「クリス、こっちの準備はできたわよ。そっちは良いかしら?」

「大丈夫だよ、アイリス。ん?ウル、表情が強張っているけど大丈夫?」
クリスは、ウルに近づいて

「は、はい、大丈夫です!その、心配して下ってありがとうございますクリスお兄義様。」
ウルは、頬を赤らめながら下を向いた。


「もう、ウルったら。力み過ぎよ、少し深呼吸して肩の力を抜きなさい。」

「はい、アイリスお姉様。」
ウルは、目を瞑って深呼吸する。

「大丈夫?ウル。」

「はい!」

「じゃあ、ユナイト。話した通りに試合開始の合図としてコイントスを頼むわ。」

「ハッ!畏まりました。では、トスします!」
ユナイトは右手の親指でコインを弾き、コインは空高く舞い上がりながらクルクルと回転する。

ウルが両手で杖をギュッと握り締めて緊張する中、コインがクリスとアイリス達の間を通り落下していくが、クリス達はコインを見ておらず、ただ相手を真っ直ぐ見ていた。

そして、コインがリングの上に落ちた瞬間、クリスは身体強化の天和(テンホー)と走術の地和(チーホー)を使い、一瞬でウルの懐に入った。

(まずは、牽制を…。)
「アクア・ショッ…え!?」
ウルは杖を前に突き出してアクア・ショットを唱えようとしたが、今までで見たことがないクリスの速さを目の当たりにして驚愕し反応できなかった。

「アクア・ジェット。」
ウルの懐に入ったクリスは、右手の掌から高圧の水を右手の掌から放った。


「きゃっ。」
ウルは、何もできずに膨大な水流に飲まれてリングの場外へと吹き飛ばされた。

クリスは、そのまま近くいるリースに向かって走る。

「やるわね、流石クリス。だけど、ソーラー・レイ!」
リースは、剣先から木大魔法ソーラー・レイを放つ。

クリスはソーラー・レイをジャンプして躱したが、アイリスが地上で狙っていた。

「「アクア・ショット!」」
クリスとアイリスは、水弾を同時に放ち相殺する。

「エナジー・ショット!」
リースはクリスがリングに着地した瞬間を狙い、無数の魔力弾を放つ。

「断罪の剣。」
クリスは剣をイメージして右手に魔力剣を召喚し、その魔力剣で魔力弾を切り裂きながらリースに迫る。

「え!?嘘でしょう!」

「リース!」

「アクア・ジェット。」
「きゃぁ。」
リースは、クリスのアクア・ジェットにより高圧の水流に飲まれた。

「そこまでよ!クリス!はぁっ!」
アイリスは、クリスの背後から右手に握っている木剣を振り下ろそうとする。

しかし、クリスは左足で回し蹴りをして振り下ろされる木剣の刀身に蹴りを入れて木剣を弾き飛ばした。

「くっ、これなら!えっ!?」
アイリスは、左手で握っている木剣を振り下ろそうとしたが、クリスが右手でアイリスの左手首を受け止めると同時に引っ張り、クリスは左手でアイリスの上腕を掴んで背負投げをしてリングに倒した。


「よくも、さっきはやってくれたわね。これなら、どうかしら?大自然の怒りを知れ、ジュピター!」
場外を免れたリースは精霊魔法ジュピターを唱えると、上空に緑色の巨大な魔法陣が浮かび上がり魔法陣から隕石みたいな巨大な魔力の塊が出現して落下する。

「「なっ。」」
「嘘…。これって、精霊魔法…。」
観客達がジュピターを見て驚愕し言葉を失っている中、アイリスは仰向けの状態で呟いた。

「リース様!やりすぎです!このままだと、ここにいる全員が死にます!それどころか、国の国民達にも被害がでますので、魔法の解除を!」
ガディウスは、大声を出しながら懇願する。

「わかっているわよ!だけど、さっきから魔法をキャンセルを試しているのだけどできないの!どうしよう…。お願い!お願いだから…。」
リースは狼狽え、何度も魔法をキャンセルしようと試すができなかった。

「「うぁぁ!逃げろ!」」
騎士団達は、急いで蜘蛛の子を散らすように我先にと逃げ出す。



【ヨンダルク国・町中】

「ねぇ、お母さん。」
母親と買い物に来ている幼い女の子は母親と手を繋いでおり、上空から降下してきているジュピターに気付いたので母親と手を繋いでいない手で母親の服を引っ張る。

「どうしたの?」

「あれ、何?」
女の子は、突如、上空に出現したジュピターを指さした。

「え?」
母親がジュピターに気付いたと同時に、他の国民達もジュピターに気付いたが思考が停止ており、動きを止めて呆然と立ち尽くしたままジュピターを眺めるのであった。



【訓練場】

「このままだと危険だな。……仕方ない。」
クリスは眼帯を外すと魔力が一気に膨れ上がり、リング周囲の気温が一気に低下して空から雪が降り始める。

クリスはゆっくりと金色の瞳を見開き、右腕を真上に上げて左手で右手首を支える。

「断罪の剣!」
クリスは巨大な剣をイメージし、右手から天を貫くほどの青白い巨大な魔力剣を召喚した。

「ハァァ!」
クリスは勢い良く右腕を振り下ろし、ジュピターを真っ二つに切断した。

真っ二つに切り裂かれたジュピターは同時に切口から凍りついていき、凍った全体に無数のヒビが入り小さな氷の破片と変わりダイヤモンドダスト現象が起きてキラキラと光る。

「「おお!」」
騎士団達は、驚きの声をあげた。

「凄い…。」
リースは真上を見上げたまま呟き、ダイヤモンドダスト現象に見惚れた。

「ところで、アイリスとリース。まだ続ける?」

「私達の負けで良いわ。リースも、それで良いでしょう?」
アイリスは、上半身だけ起こしてリースの方を見て尋ねる。

「ええ…。」

「では、勝者クリスとする!」
ユナイトは、右手を上げて勝利宣言をした。

「おい、嘘だろ…。リース様の精霊魔法を…。俺達は、夢でも見ているのか?」

「あの少年は、一体何者なんだ?」
ユナイトの宣言と同時に、アクア国の騎士団達がざわめき出した。

「負けたのは、とても残念です…。ですが、驚きました。本当に、クリスお兄様は凄くお強いのですね!」
ウルは肩を落として気を落としたが、クリスの実力を知り手を合わせて微笑んだ。


「はぁ、今回は勝てる自信があったのだけど、負けてしまったわね。全く、本当にあなたはどんだけ強いのよ。」
アイリスは深い溜息をし、クリスに手を差し伸ばされ手を取って立ち上がった。

「でも、いつか、あなたに勝ってみせるわ!」

「アイリス達なら、その日がきっと来ると思うよ。」

「ええ、期待と覚悟してて頂戴。」
「その時は、お手柔らかに…。」
クリスは苦笑いをし、アイリスは嬉しそうに微笑んだ。


「それにしても、リース。凄いじゃない。」

「はい!凄かったですよ、リースさん。」
アイリスとウルは、リースに振り向く。

「え?ええ、正直、自分でも驚いているわ。」
冷静に戻ったリースは自分が精霊魔法を使ったことに驚いており、アイリスとウルが声を掛けて来るまでジュピターを思い出していた。

「水臭いわね、リース。精霊魔法が使えるようになったなら、教えてくれても良かったじゃない。それで、いつから精霊魔法を使えるようになったの?」

「今日、今回が初めてよ。さっき、クリスがドリヤードの力を使った後から何だかできる様な感覚がしたの。そしたら…。」
リースは、ジュピターを成功させた感覚を思い出してギュッと右手を握った。



「あの、ユーリア様。」
アクア国の騎士団の一人が尋ねる。

「何?」

「あの少年は、一体何者なのですか?」

「ああ、クリスのことね。クリスは幼い頃から【女帝】のマミューラ様に鍛えられ、最近だけどマミューラ様と戦って勝って私達【立花】とはちょっと違うけど、アイリス様の直属護衛騎士【立花】0席の地位を得たのよ。クリスは凄いわよ、歴代で最少年で【立花】になったと同時にスノー・ランド国で最強よ。もう少し、歳が近ければ良かったのだけど。そこが、ちょっと残念ね。」

「まだ幼さが残る少年が、精霊を宿していないにも関わらず【炎帝】様や【氷帝】様達がお認めになられ、あの【女帝】様と真正面から戦って勝ったなんて…。」

「だが、納得できる。あのリース様の精霊魔法を真っ二つにして打ち消したのを目の当たりしたのだからな。」

「ああ、しかし、何という恐ろしい才能を持った少年なんだ…。」

「全くだ…。」
アクア国の騎士団達は息を呑みながら、アイリス達と笑いながら会話しているクリスを見つめる。

「才能だけじゃないだがな。」

「そうね、お兄様。クリス君は誰でも逃げ出す様な地獄の特訓に諦めて逃げ出すことなく続けた結果ですもの。」

「ん?まさか、ユーリア。お前、クリスのことが好きなのか?」

「そうね。だけど、焼けちゃうぐらいクリス君は姫様一途だから…。って、何を言わせるのよ!お兄様!」

「ハハハ…。今のは、聞かなかったことにするから許せ。」

「絶対ですからね!」

「わかった、わかった。」
ユーリアは顔を真っ赤に染めて頬膨らませ、ユナイトは盛大に笑った。



【会談の間】

会談の間の窓から観戦していたヨルズ達は微笑ましくクリス達の様子を見守っていたが、エネルとウルカは驚愕した面持ちでクリスを見ていた。

「悪魔の瞳…。」
ウルカは息を呑み、エネルはクリスの金色の瞳を見て呟いた。


「どうだ?エネル殿。」
ヨルズは、エネルとウルカの水晶で映し出されているエネルに振り向く。

「あなた。」

「ああ、心配だが愛娘達を信じよう。」
妻ウルカに声を掛けられたエネルは、一度、目を瞑って頷いた。

「エネル殿よ。そんなに、心配するな。愛娘のアイリスとリースがウルをサポートするだろう。それに、クリスがおる。見ただろ?クリスの実力は本物だ。私が保証しよう。クリスならば、アイリス達がピンチになれば必ず身を挺してでも守る男だから安心せい。」

「ええ、そうですね。」
バルミスタは力強く頷き、シリーダが肯定する。

「あなた、認めてあげても良いと思うわ。」
「ああ、そうだな。」
ウルカの説得でエネルの不安な表情が和らぎ、遠くからウル達と談笑しているクリスの姿を見て頷いた。
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※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

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