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05 顔合わせ
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父と兄夫婦に付き添われて行った料亭は創業二五〇年を誇る老舗だった。予約していた座敷にはすでに伯母夫妻が待っていた。席に着くと、左京様が中年の女性と入って来た。
えっと声を上げそうになった。女性の姿は婦人向けの服飾雑誌の中の外国人モデルのような恰好だった。私の髪よりも短いショートの髪には銀色のメッシュが入っていた。耳には銀色のピアス、着ているのは外国のブランドのスーツ、足は足袋ではなくストッキング、持っているのは風呂敷でも巾着でもなくスーツと同じブランドのバッグ、当然、化粧は外国風で口紅が赤く光っていた。
父は目を見開いたまま、挨拶ができなかった。兄夫妻も絶句していた。伯母だけが驚きながらもなんとか本日はお日柄も良くと挨拶らしきことを口にした。
左京様はというと、平然とした顔で席に着いた。
「……左京至亘と申します。こちらは母の摩利子です」
「摩利子の摩利は摩利支天の摩利です」
隣に座るモデルのような女性がそう言って丁寧にお辞儀をした。この方が左京様の母上とは。
挨拶をする左京様は当然のことながら髷を結い、着ている物は羽織袴である。その隣に座る洋装の母上とはとても親子には見えなかった。
やっと冷静になった兄がこちらが妹の津由子ですと紹介した。
私は初めましてと頭を下げた。
それぞれの家族の紹介をした後、膳が運ばれてきた。テレビのグルメ番組でしか見たことのないような見事な料理だった。盛り付けも色合いも工夫が凝らされている。恐らく味も一流なのだろう。これが家族だけなら心ゆくまで味わって食べられただろう。けれど、私は、いや私だけでなく家族も伯母夫妻も落ち着かなかった。左京様の母上の姿が目に入るたびにどうやって食べるのか気になって仕方なかったのだ。
だが、母上は普通に箸で食べ物を口に入れていた。
「まあ、おいしいわね。さすがだわ。津由子さん、あなたも食べて御覧なさいな。この和え物凄くおいしいわ」
「はい」
私が菜の花の和え物を口に入れると母上は尋ねた。
「どう? おいしい?」
「はい」
「私、料理が趣味なんだけど、こういう味付けなかなかできないのよ」
食事をしながらしゃべるなど我が家ではありえなかった。父も兄夫妻も困惑していた。いや左京様も困っているようだった。
「母上、食事中に話をなさるのは」
「あら、じゃいつお話すればいいわけ? 津由子さん、お弁当工場で働いてたそうね。お料理は得意なのかしら」
「調理はしていません。調理師の免許を持っていないので電話の応対や配達をしていました」
「あらそうだったの。よかった。私の趣味を取られるとこだったわ」
「母上、いい加減に」
「はいはい。御免なさいね、クソ真面目な子だけどよろしくね」
父が目を剥いた。食事中にクソと言う等ありえなかった。
「母上、口を閉じてください。食事中は静かにと亡き父上もよく仰せだったでしょう」
左京様の声が低く響いた。
「はいはい」
「はいは一回です」
「はーい」
その後は食事が済むまで母上は口を開かなかった。けれど、父の怒りは治まっていないようだった。
最後の水菓子を食べ終えると、父は口を開いた。
「かえ」
遮ったのは兄だった。
「左京、津由子と庭を見てくるといい」
「相分かった」
左京様はさっと立ち上がった。
「参りましょう」
私は父の不機嫌そうな顔が気になったが頷いた。
えっと声を上げそうになった。女性の姿は婦人向けの服飾雑誌の中の外国人モデルのような恰好だった。私の髪よりも短いショートの髪には銀色のメッシュが入っていた。耳には銀色のピアス、着ているのは外国のブランドのスーツ、足は足袋ではなくストッキング、持っているのは風呂敷でも巾着でもなくスーツと同じブランドのバッグ、当然、化粧は外国風で口紅が赤く光っていた。
父は目を見開いたまま、挨拶ができなかった。兄夫妻も絶句していた。伯母だけが驚きながらもなんとか本日はお日柄も良くと挨拶らしきことを口にした。
左京様はというと、平然とした顔で席に着いた。
「……左京至亘と申します。こちらは母の摩利子です」
「摩利子の摩利は摩利支天の摩利です」
隣に座るモデルのような女性がそう言って丁寧にお辞儀をした。この方が左京様の母上とは。
挨拶をする左京様は当然のことながら髷を結い、着ている物は羽織袴である。その隣に座る洋装の母上とはとても親子には見えなかった。
やっと冷静になった兄がこちらが妹の津由子ですと紹介した。
私は初めましてと頭を下げた。
それぞれの家族の紹介をした後、膳が運ばれてきた。テレビのグルメ番組でしか見たことのないような見事な料理だった。盛り付けも色合いも工夫が凝らされている。恐らく味も一流なのだろう。これが家族だけなら心ゆくまで味わって食べられただろう。けれど、私は、いや私だけでなく家族も伯母夫妻も落ち着かなかった。左京様の母上の姿が目に入るたびにどうやって食べるのか気になって仕方なかったのだ。
だが、母上は普通に箸で食べ物を口に入れていた。
「まあ、おいしいわね。さすがだわ。津由子さん、あなたも食べて御覧なさいな。この和え物凄くおいしいわ」
「はい」
私が菜の花の和え物を口に入れると母上は尋ねた。
「どう? おいしい?」
「はい」
「私、料理が趣味なんだけど、こういう味付けなかなかできないのよ」
食事をしながらしゃべるなど我が家ではありえなかった。父も兄夫妻も困惑していた。いや左京様も困っているようだった。
「母上、食事中に話をなさるのは」
「あら、じゃいつお話すればいいわけ? 津由子さん、お弁当工場で働いてたそうね。お料理は得意なのかしら」
「調理はしていません。調理師の免許を持っていないので電話の応対や配達をしていました」
「あらそうだったの。よかった。私の趣味を取られるとこだったわ」
「母上、いい加減に」
「はいはい。御免なさいね、クソ真面目な子だけどよろしくね」
父が目を剥いた。食事中にクソと言う等ありえなかった。
「母上、口を閉じてください。食事中は静かにと亡き父上もよく仰せだったでしょう」
左京様の声が低く響いた。
「はいはい」
「はいは一回です」
「はーい」
その後は食事が済むまで母上は口を開かなかった。けれど、父の怒りは治まっていないようだった。
最後の水菓子を食べ終えると、父は口を開いた。
「かえ」
遮ったのは兄だった。
「左京、津由子と庭を見てくるといい」
「相分かった」
左京様はさっと立ち上がった。
「参りましょう」
私は父の不機嫌そうな顔が気になったが頷いた。
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