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第二部 自由国ダグラス
第七十九話 キメラ
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アレスの部屋から出たメリナとエルフリーデは暇を潰しに町へと出かけた。
エレイス王国との交流が多いこのクルメールでは、人の往来がエルマとは違い激しく、町の中央にある本部の鏡から出てきた二人は人混みに押されて徐々に徐々に町の端へと抗うことなく追いやられた。
町の南の方へ追いやられた二人は、一先ず人混みを抜けたことにホッとして落ち着くために近くの小さな喫茶店へと入った。
二人は中に入ると、入り口から離れた奥の窓際の席に座った。
メリナは温かいココアとトマトトーストを、エルフリーデは冷たいコーヒーとハニートーストを頼んだ。
「ほんとにここは人が多いわね」
「あら、やになっちゃった?」
「いいえ、人が活力に満ちている町は素敵なことよ。ただ、私たちは町を守れなかった兵士だからちょっとね……」
メリナはココアが淹れてあるマグカップを両手で口に運んで一口流し込んだ後、マグカップに映る自身の影を見て過去を思い映してみていた。
町を守れなかったことはこれで二回目だ、町の崩壊はメリナの人生に大きな障壁として立ちふさがってきた。
この三年間、いや領主として返り咲くまでの日々は常に試練だった。
惨劇を防げなかったメリナは領民を守れるほど強くなりたいと、兵士になってからは強く意識するようになったが、エルマの惨劇で再び繰り返されてから自身の無力さを部屋で嘆く日々が続いていた。
カオスの遺子の力を手に入れたロードと神器マルスに認められたアレスとの差は近づけない程となっていた。
苦労して手に入れた神器も、メリナを主として認めようとすることはなかった。
強くなる方法は分かっている、だが、行動に移すにもこの国での行動は軍事同盟による協定で、派遣先の国に従うとなっているので勝手に行動しようものなら罰せられる、兵士への反感感情が渦巻いているこの国の現状ならなおさらだ。
「悲しい出来事だったのでしょう。あの子も一緒に寝ているとよく引っついてくるのよ」
「え? ロードと一緒に寝てるの?」
「そうよ、何か問題でも?」
「いや別に――」
(いやいやいやいや!! おかしいでしょ!それは! だって、会ってまだ三日目目じゃない!そんな関係になる!? 何で母親感覚でロードと接してるの?ロードも何でエルフリードを母親として認識してるの!? 普通そこは私と同じお姉さんポジションでしょ!!)
平然を装いながらも内心すごく乱れていた。
自分でさえも未だお姉さんポジションとしてロードに接してきたが、一年ほど経ってからもそれ以上の関係は築けなかった。
一体自分と何が違うのか?とエルフリーデと自身を見比べながら違う場所を探していた。
「どうしたの? そんなに私を見て……?」
困惑しているエルフリードを横目に、メリナはまじまじと彼女の体を真剣な面持ちで見ていた。
(やはり胸か! ロゼといい、エルフリーデといい私の周りはどうしてこうなの?)
メリナはエルフリーデの豊満な胸を、胸に親でも殺されたかのように瞳孔が開いた目で睨み歯ぎしりしながら見ていた。
「怖いわメリナ、私があなたに何をしたって言うの?」
「無駄な脂肪を切り落とそうとね、、」
抑揚なく恐ろしいことを語るメリナに、エルフリーデは胸を両手で隠してメリナに見せないようにした。
「よろしい、これからはその無駄な脂肪を私に見せびらかさないで」
その後も、エルフリーデの胸を睨みながら食事をして彼女を困惑させていた。
結局、それ以降会話もなく気まずい雰囲気で昼食を取り終えると、矢継ぎ早に会計を済ませ店を後にした。
二人は少し距離を取って歩いていた。
メリナは早歩きで本部の方に向かい、エルフリーデはどうにかしてメリナの機嫌をよくしようと語り掛けるが、メリナは取り繕うも暇もない。
「ねえメリナ、そんなに怒らないでよ」
「怒ってなんかない!」
(もう子供っぽいわ…… でも、かわいい妹みたいね)
意地っ張りなメリナを見てかわいいと思ったエルフリーデは、後ろからメリナに抱きついた。
「ちょッ! 恥ずかしいからやめてよ!!」
「いいじゃない私にとっては反抗期の妹みたいなものなんだから」
「別に反抗してないし!」
大きなエルフリーデの体から離れようとするが、がっしりと体を密着されていて抜け出すことはできない。
道をすれ違う人々は横目に見るだけで、何の関心もなく通り過ぎていく。
長い間、二人が問答を繰り返していると一人の若い男性が近づいてきた。
道端で騒ぎを起こしている二人の周りには小さな人だかりができており、若い男は二人を止めに入ろうと割って入ってきたかと全員が思っていた。
しかし、男の口から発せられた言葉は二人の耳を疑わせるものだった。
「おいキメラ野郎! 町の子に手を出すな!!」
男の言葉を聞いて二人はごたつきをやめ、男の方へと振り返った。
言った言葉とは裏腹に真剣な表情の男を見て、メリナは何故そのようなこと言ったのか理解できなかった。
キメラとはこの世界においての混血への蔑称である。
兵士の八割以上が混血を占めるエレイス、ローデイル、ヤマトの三か国では、この言葉は既に市民たちの間では死語扱いされおり、もし言ったとしたら投獄、もしくは市民権剥奪&追放ほどの重罰が課せられる。
しかし、この国のように人々が自由に発言できる場所では蔑称は無くならないし、発言者を取り締まる恐ろしい刑罰も存在しない。
そのため、キメラという言葉はこのダグラスだけではなく、周辺国の一部混血を忌み嫌う村の人々や市民たちにも浸透していった。
当然、エルフリーデは怒って男に突っかかっていった。
「今なんて言った!?言ってみろ!!」
「キメラって言ったんだよ。俺はお前たちが町のみんなを襲わないように見張ってんだよ。さっきその子を襲ってただろ!?」
男の言葉を聞いてメリナはこう反論した。
「いいえ、私は彼女に襲われたことはないわ。ただ二人でじゃれ合っていただけよ、それに私は兵士だから仲間にそんなこと言わないで!」
メリナはエルフリーデが拳を震わせて怒りを露にしており、メリナも今まで戦ってきた仲間を侮辱するような男の発言に我慢できなかった。
「兵士? どこの兵士だ?」
「エレイス王国よ」
それを聞いて男は爆笑し、今度はメリナに対しても侮辱発言をするようになった。
「エレイスってあのキメラランドだろ? あそこは他の二カ国と同様に最悪だ。キメラの王への批判も許されてないんだ、最悪の抑圧国家だ。それに比べて俺たちは自由だ、あの仰々しく町を専横しているキメラどもを批判してもいいんだから」
自国を馬鹿にされたメリナは、エルフリード以上に激情して男の服を掴んだ。
すると、男は手を大きく上げると、「兵士が市民に手を上げている!!」と大声で叫んだ。
「は?」と呆気にとられたメリナは掴んでいた手を放した。
すると、だいぶ集まってきた群衆をかき分けて四人組の男女が現れた。
どうやら、彼らは自警団ようで町の見回りを定期的に行っており、兵士とはまた異なる市民たちを守る存在だ。
自警団が現れると、男は彼らに泣きついて現状の説明をした。
男は自警団に自分に非がるのではなく、メリナたちに非があるのだと訴えた。
当然、二人もそのようなことを言われて黙ってるわけもなく男に非があることを繰り返して訴えた。が、二人の意見を自警団のリーダーと思しき中年の男性は軽くあしらってこのように続けた。
「我々の責務はこの町の市民を守ることだが、そこのキメラたちは外でお仲間とじゃれ合うことが仕事なんだろ? 魔物ぐらい町のみんなで団結すれば簡単に倒せる」
そのような言葉を聞いたエルフリーデはそのリーダーの前に立つと、思いっ切り手でビンタした。
大きな破裂音と共に派手に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「そんなカスみたいな実力で魔物に勝てると思ってるのか?」とエルフリーデは手をボキボキと鳴らしながら顔が大きく腫れ、気を失っている自警団のリーダーに吐き捨てた。
すると、周りにいた自警団のメンバーもそれを囲う群衆もエルフリーデが手を上げたことにこぞって騒ぎ立て、同時に彼女を非難し始めた。
「逃げましょう!!」と応戦する気満々だったエルフリーデの手を引っ張って、メリナたちは群衆をかき分け本部へと戻り、鏡の世界へ帰っていった。
赤ちゃん部屋にたどり着くと、エルフリーデは心を痛めてベッドに横たわってしくしくと涙を流した。
「さっきの反撃は素晴らしいものだったわ、あのアホたちがまた何か言ってきたら私たちがアナタを守ってあげるから」
メリナはそう優しく諭しながらエルフリーデの背中をさすっていた。
しかし、先ほどのことを思い出したメリナは沸々と湧き上がる怒りを胸にアレスの部屋へと向かった。
数時間後、泣きつかれて寝ていたエルフリーデは目を覚ました。
「何かしら? えらく騒がしいわ」
騒がしい物音に目覚めたエルフリーデがドアの方に目をやると、騒音の主が部屋に入ってきた。
「もう兄さん! 入ってきちゃダメ!! ここはママと僕の部屋なんだから!」
「うるさい! お前はもっと立派な精神を持たなきゃだめだ!! アイツはお前を甘やかしすぎる!!」
ロードとリードはドアを挟んで言い合っていると、ロードがドアのカギを閉めて入ってこられないようにした。
「コラ! ロード開けろ!!」
リードがドアの向こうで何か言っているのを尻目に、ロードはエルフリーデがいるベッドに近づいて、彼女のお腹に倒れこんだ。
「ねえママ見て見て!」
そう言いながらロードは自身の右目をエルフリーデに見せつけた。
「ん? どうかしたの? あら、右目の瞳が太陽のようになっているわね!」
エルフリーデは涙痕を残しながらも、元気で言い寄って来るロードを悲しませないようにいつも通りに振る舞った。
「そうそう! 僕、ディーンの力を自分の意思で使えるようになったんだよ!! これで、他の人の考えや未来を見ることができるんだよ!」
「そう……」
「どうしたのママ?」
ロードが心配そうに見つめる中、エルフリーデはロードに抱きついて、「何でもないわよ!! それより、もっとその力のことをママに教えてちょうだい!」と言った。
「うん! えっとね――」
(私の問題をこの子に押し付けたら、この子はどんなに傷つくんだろうか? ダメよそんなこと、純粋に町の人々を守っているこの子にそんなこと言えないわ)
エルフリーデは苦心していた。
この問題は、彼女だけでなく国家の問題、世界の問題であることは確かだ。
しかし、そのような事実をロードに伝えてしまったら、今まで自分の命よりも大事に守って来た世界中の人々への疑念が生じてしまう。
純粋な心で人々を救う小さな遺子は、いつの日か世界の平和のためには魔物を一掃することだけでは足りないと気づくだろう……
エレイス王国との交流が多いこのクルメールでは、人の往来がエルマとは違い激しく、町の中央にある本部の鏡から出てきた二人は人混みに押されて徐々に徐々に町の端へと抗うことなく追いやられた。
町の南の方へ追いやられた二人は、一先ず人混みを抜けたことにホッとして落ち着くために近くの小さな喫茶店へと入った。
二人は中に入ると、入り口から離れた奥の窓際の席に座った。
メリナは温かいココアとトマトトーストを、エルフリーデは冷たいコーヒーとハニートーストを頼んだ。
「ほんとにここは人が多いわね」
「あら、やになっちゃった?」
「いいえ、人が活力に満ちている町は素敵なことよ。ただ、私たちは町を守れなかった兵士だからちょっとね……」
メリナはココアが淹れてあるマグカップを両手で口に運んで一口流し込んだ後、マグカップに映る自身の影を見て過去を思い映してみていた。
町を守れなかったことはこれで二回目だ、町の崩壊はメリナの人生に大きな障壁として立ちふさがってきた。
この三年間、いや領主として返り咲くまでの日々は常に試練だった。
惨劇を防げなかったメリナは領民を守れるほど強くなりたいと、兵士になってからは強く意識するようになったが、エルマの惨劇で再び繰り返されてから自身の無力さを部屋で嘆く日々が続いていた。
カオスの遺子の力を手に入れたロードと神器マルスに認められたアレスとの差は近づけない程となっていた。
苦労して手に入れた神器も、メリナを主として認めようとすることはなかった。
強くなる方法は分かっている、だが、行動に移すにもこの国での行動は軍事同盟による協定で、派遣先の国に従うとなっているので勝手に行動しようものなら罰せられる、兵士への反感感情が渦巻いているこの国の現状ならなおさらだ。
「悲しい出来事だったのでしょう。あの子も一緒に寝ているとよく引っついてくるのよ」
「え? ロードと一緒に寝てるの?」
「そうよ、何か問題でも?」
「いや別に――」
(いやいやいやいや!! おかしいでしょ!それは! だって、会ってまだ三日目目じゃない!そんな関係になる!? 何で母親感覚でロードと接してるの?ロードも何でエルフリードを母親として認識してるの!? 普通そこは私と同じお姉さんポジションでしょ!!)
平然を装いながらも内心すごく乱れていた。
自分でさえも未だお姉さんポジションとしてロードに接してきたが、一年ほど経ってからもそれ以上の関係は築けなかった。
一体自分と何が違うのか?とエルフリーデと自身を見比べながら違う場所を探していた。
「どうしたの? そんなに私を見て……?」
困惑しているエルフリードを横目に、メリナはまじまじと彼女の体を真剣な面持ちで見ていた。
(やはり胸か! ロゼといい、エルフリーデといい私の周りはどうしてこうなの?)
メリナはエルフリーデの豊満な胸を、胸に親でも殺されたかのように瞳孔が開いた目で睨み歯ぎしりしながら見ていた。
「怖いわメリナ、私があなたに何をしたって言うの?」
「無駄な脂肪を切り落とそうとね、、」
抑揚なく恐ろしいことを語るメリナに、エルフリーデは胸を両手で隠してメリナに見せないようにした。
「よろしい、これからはその無駄な脂肪を私に見せびらかさないで」
その後も、エルフリーデの胸を睨みながら食事をして彼女を困惑させていた。
結局、それ以降会話もなく気まずい雰囲気で昼食を取り終えると、矢継ぎ早に会計を済ませ店を後にした。
二人は少し距離を取って歩いていた。
メリナは早歩きで本部の方に向かい、エルフリーデはどうにかしてメリナの機嫌をよくしようと語り掛けるが、メリナは取り繕うも暇もない。
「ねえメリナ、そんなに怒らないでよ」
「怒ってなんかない!」
(もう子供っぽいわ…… でも、かわいい妹みたいね)
意地っ張りなメリナを見てかわいいと思ったエルフリーデは、後ろからメリナに抱きついた。
「ちょッ! 恥ずかしいからやめてよ!!」
「いいじゃない私にとっては反抗期の妹みたいなものなんだから」
「別に反抗してないし!」
大きなエルフリーデの体から離れようとするが、がっしりと体を密着されていて抜け出すことはできない。
道をすれ違う人々は横目に見るだけで、何の関心もなく通り過ぎていく。
長い間、二人が問答を繰り返していると一人の若い男性が近づいてきた。
道端で騒ぎを起こしている二人の周りには小さな人だかりができており、若い男は二人を止めに入ろうと割って入ってきたかと全員が思っていた。
しかし、男の口から発せられた言葉は二人の耳を疑わせるものだった。
「おいキメラ野郎! 町の子に手を出すな!!」
男の言葉を聞いて二人はごたつきをやめ、男の方へと振り返った。
言った言葉とは裏腹に真剣な表情の男を見て、メリナは何故そのようなこと言ったのか理解できなかった。
キメラとはこの世界においての混血への蔑称である。
兵士の八割以上が混血を占めるエレイス、ローデイル、ヤマトの三か国では、この言葉は既に市民たちの間では死語扱いされおり、もし言ったとしたら投獄、もしくは市民権剥奪&追放ほどの重罰が課せられる。
しかし、この国のように人々が自由に発言できる場所では蔑称は無くならないし、発言者を取り締まる恐ろしい刑罰も存在しない。
そのため、キメラという言葉はこのダグラスだけではなく、周辺国の一部混血を忌み嫌う村の人々や市民たちにも浸透していった。
当然、エルフリーデは怒って男に突っかかっていった。
「今なんて言った!?言ってみろ!!」
「キメラって言ったんだよ。俺はお前たちが町のみんなを襲わないように見張ってんだよ。さっきその子を襲ってただろ!?」
男の言葉を聞いてメリナはこう反論した。
「いいえ、私は彼女に襲われたことはないわ。ただ二人でじゃれ合っていただけよ、それに私は兵士だから仲間にそんなこと言わないで!」
メリナはエルフリーデが拳を震わせて怒りを露にしており、メリナも今まで戦ってきた仲間を侮辱するような男の発言に我慢できなかった。
「兵士? どこの兵士だ?」
「エレイス王国よ」
それを聞いて男は爆笑し、今度はメリナに対しても侮辱発言をするようになった。
「エレイスってあのキメラランドだろ? あそこは他の二カ国と同様に最悪だ。キメラの王への批判も許されてないんだ、最悪の抑圧国家だ。それに比べて俺たちは自由だ、あの仰々しく町を専横しているキメラどもを批判してもいいんだから」
自国を馬鹿にされたメリナは、エルフリード以上に激情して男の服を掴んだ。
すると、男は手を大きく上げると、「兵士が市民に手を上げている!!」と大声で叫んだ。
「は?」と呆気にとられたメリナは掴んでいた手を放した。
すると、だいぶ集まってきた群衆をかき分けて四人組の男女が現れた。
どうやら、彼らは自警団ようで町の見回りを定期的に行っており、兵士とはまた異なる市民たちを守る存在だ。
自警団が現れると、男は彼らに泣きついて現状の説明をした。
男は自警団に自分に非がるのではなく、メリナたちに非があるのだと訴えた。
当然、二人もそのようなことを言われて黙ってるわけもなく男に非があることを繰り返して訴えた。が、二人の意見を自警団のリーダーと思しき中年の男性は軽くあしらってこのように続けた。
「我々の責務はこの町の市民を守ることだが、そこのキメラたちは外でお仲間とじゃれ合うことが仕事なんだろ? 魔物ぐらい町のみんなで団結すれば簡単に倒せる」
そのような言葉を聞いたエルフリーデはそのリーダーの前に立つと、思いっ切り手でビンタした。
大きな破裂音と共に派手に吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「そんなカスみたいな実力で魔物に勝てると思ってるのか?」とエルフリーデは手をボキボキと鳴らしながら顔が大きく腫れ、気を失っている自警団のリーダーに吐き捨てた。
すると、周りにいた自警団のメンバーもそれを囲う群衆もエルフリーデが手を上げたことにこぞって騒ぎ立て、同時に彼女を非難し始めた。
「逃げましょう!!」と応戦する気満々だったエルフリーデの手を引っ張って、メリナたちは群衆をかき分け本部へと戻り、鏡の世界へ帰っていった。
赤ちゃん部屋にたどり着くと、エルフリーデは心を痛めてベッドに横たわってしくしくと涙を流した。
「さっきの反撃は素晴らしいものだったわ、あのアホたちがまた何か言ってきたら私たちがアナタを守ってあげるから」
メリナはそう優しく諭しながらエルフリーデの背中をさすっていた。
しかし、先ほどのことを思い出したメリナは沸々と湧き上がる怒りを胸にアレスの部屋へと向かった。
数時間後、泣きつかれて寝ていたエルフリーデは目を覚ました。
「何かしら? えらく騒がしいわ」
騒がしい物音に目覚めたエルフリーデがドアの方に目をやると、騒音の主が部屋に入ってきた。
「もう兄さん! 入ってきちゃダメ!! ここはママと僕の部屋なんだから!」
「うるさい! お前はもっと立派な精神を持たなきゃだめだ!! アイツはお前を甘やかしすぎる!!」
ロードとリードはドアを挟んで言い合っていると、ロードがドアのカギを閉めて入ってこられないようにした。
「コラ! ロード開けろ!!」
リードがドアの向こうで何か言っているのを尻目に、ロードはエルフリーデがいるベッドに近づいて、彼女のお腹に倒れこんだ。
「ねえママ見て見て!」
そう言いながらロードは自身の右目をエルフリーデに見せつけた。
「ん? どうかしたの? あら、右目の瞳が太陽のようになっているわね!」
エルフリーデは涙痕を残しながらも、元気で言い寄って来るロードを悲しませないようにいつも通りに振る舞った。
「そうそう! 僕、ディーンの力を自分の意思で使えるようになったんだよ!! これで、他の人の考えや未来を見ることができるんだよ!」
「そう……」
「どうしたのママ?」
ロードが心配そうに見つめる中、エルフリーデはロードに抱きついて、「何でもないわよ!! それより、もっとその力のことをママに教えてちょうだい!」と言った。
「うん! えっとね――」
(私の問題をこの子に押し付けたら、この子はどんなに傷つくんだろうか? ダメよそんなこと、純粋に町の人々を守っているこの子にそんなこと言えないわ)
エルフリーデは苦心していた。
この問題は、彼女だけでなく国家の問題、世界の問題であることは確かだ。
しかし、そのような事実をロードに伝えてしまったら、今まで自分の命よりも大事に守って来た世界中の人々への疑念が生じてしまう。
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