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しおりを挟むびしょ濡れで家に帰ってくると、案の定二葉は高熱を出した。
熱は一週間経っても下がらない。
親に小学生の頃みたいに心配させた、結局入院することになった。
入院先は子どもの頃からお世話になっているおじいちゃん先生――小川医師の病院だ。
回診に来た小川医師は、最後に会った半年前から微塵も変わらない力強さで二葉のやつれた手を握ってくれる。
入院中も、熱は三十八度半ばから下がらない。薬を飲むと一時は下がるがすぐ戻ってしまう。
看護師が点滴を新しくして、雫の量を調整している。
熱を出してから食事もろくにできていない。
「高校、頑張りすぎたかな」
二葉は朦朧としながら小川医師の方を向いた。
医師は二葉のことを誰よりも知っている。両親よりも気持ちを打ち明けてきた。
半年前に起きたことも包み隠さず全部話している。
あれから随分、生き方が変わった。
中学校へは行けなくなってしまったけど、医者になる夢は消えなかった。高校には行かないで、独学で勉強して高
卒認定試験を受けて大学に行けばいいと思っていた。
だが、そんな二葉の考えに反対したのが小川医師だ。
『お医者さんになりたいなら、困難なことにも諦めずに、立ち向かってみないといけない』
二葉くんはそれができる子です……。
そして、医師はスクールバッグを二葉に贈ってくれた。大切に使っているキャメル色のトートの鞄だ。天然皮革でできているから、三年間大切に使ったらきっといい味が出るよ……優しいけど揺るがない口調で言われた。
それで、その鞄を受け取った。どんなところでもいいから高校へ通おうと決意したのだ。
一度失敗しちゃったけど、変われるかもしれないと思ったから。
「友だちはできたかい?」
視線は医師の口元あたりから上へ行かない。やろうとしても、どうしても固まってしまう。あの日から人と目を合わせられない。
親とも、好きな人とも、他人とも。心を許せる小川医師とすら、目を合わせられないのだ。
「できそう、だったけど……だめだった」
友だちという言葉で思い描くのは耀士のことだった。耀士だけだ。
『昨日はごめん』
来た連絡を、病気を言い訳にして無視し続けている。
『なんでもいいから連絡してくれ』
そんなことの繰り返し。毎日だった連絡は一日おきになり、三日おきになり、とうとう途絶えている。
『俺のこと嫌いになった?』
最後に来ていたメッセージだ。
それはこっちの台詞だ。
「高校行くの、怖い……」
目が合わせられないのに耀士と繋がりたいなんて無理だって分かっていたのに。
どうして期待しちゃったんだろう。
自分にも大切だと思える人ができるのだと思っちゃったんだろう。
傲慢だ。結局耀士を傷つけてしまった。どんな顔をすればいいのか分からない。嘘を吐く人だと思われた。
……僕を信じて、守ってくれたのにな。
「嘘吐いちゃった。連絡も無視しちゃった……逃げちゃった」
ぽろ、と目から涙が溢れてくる。
「また前みたいになる……?」
去年の冬を思い出す。部屋から一歩も出られない日がふた月以上続いた。あの時にはもう戻りたくない。気持ちが死んでしまう。
これ以上死んだらもう再起できない。
「なりません」
ぎゅ、っとことさら強く手を握られた。
「二葉くんは頑張れる子です。その子には高校で、面と向かってしっかり謝りなさい。そうすればまたお友だちになれます」
力強く断言されると、不安で揺らいでいた心が満たされる。高熱で朦朧としながら、溢れる涙をごしごし擦った。
「はい……」
「よろしい。さぁ、次第に良くなるからね」
医師の言う通り、翌朝には熱が引いた。
ただ、体が心底やつれてしまって思うように動けない。退院が現実的になった頃には、あと一週間で二学期が始まるというところまで時が過ぎていた。
できそうな日は家で勉強した。でも、ものの数分でノートにぽたぽたと涙が落ちてしまって、教科書を読むのもままならない日が多かった。
なんにも手がつかなくて、ベッドに潜ると嫌なことばかり思い出す。
夏休みは最悪なまま終わった。
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