フレキ=ゲー編ガップ民話集

神光寺かをり

文字の大きさ
46 / 97
この世で一番最初の娘たちと、その婿たちの話。

この世で一番最初の娘たちの技。

しおりを挟む
 その日もその夜も、見張りの天使エグリゴリたちは大地の隅々までを眼を見張って見渡し、耳をそばだてて聞いておりました。
 すると一人の天使が言いました。

「聞くがいい兄弟たちよ。大地の隅から聞こえる歌を。あれは誰の声であろう? 歌の天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだが」

 別の一人が帳面を開いて答えました。

大哥一番上の兄上、あれは人の娘のヌトの声でありましょう。彼女はこの世で最初の詩人です」

 見張りの天使エグリゴリたちたちは十二の窓から身を乗り出して、耳を澄まして歌を聴きました。
 すると別の一人が言いました。

「見るが言い兄弟たちよ。大地の隅に建つ館を。あれは誰の建てたものであろう? 彫刻の天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだが」

 帳面を持っている一人が答えました。

二哥二番目の兄上、あれは人の娘のティアマトの建てた物でありましょう。彼女はこの世で最初の大工です」

 見張りの天使エグリゴリたちたちは十二の窓から身を乗り出して、眼を見張って建物を眺めました。
 するとまた別の一人が言いました。

「見るといい、兄弟たち。大地の隅に群れなす美しい牛どもを。あれは誰の育てた物であろう? 良き牛飼いの天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだが」

 帳面を持っている一人が答えました。

三哥三番目の兄上、あれは人の娘のディーヴィの育てた物でありましょう。彼女はこの世で最初の牧童です」

 見張りの天使エグリゴリたちたちは十二の窓から身を乗り出して、眼を見張って牛の群れを眺めました。
 するとまた別の一人が言いました。

「見てくれ兄弟たち。大地の隅にはためく美しい絹衣を。あれは誰の仕立てた物であろう? 御衣を仕立てる天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだが」

 帳面を持っている一人が答えました。

四哥四番目の兄上、あれは人の娘のポイベの仕立てた物でしょう。彼女はこの世で最初の仕立屋です」

 見張りの天使エグリゴリたちたちは十二の窓から身を乗り出して、眼を見張って美しい着物を眺めました。
 するとまた別の一人が言いました。

「見てくれ兄弟たち。大地の隅より香り立つ食物の香りを。あれは誰の調理した物であろう? 馳走の天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだけど」

 帳面を持っている一人が答えました。

五哥五番目の兄上、あれは人の娘のジョカの作った物でしょう。彼女はこの世で最初の料理人です」

 見張りの天使エグリゴリたちたちは十二の窓から身を乗り出して、鼻をひくつかせておいしそうな料理を眺めました。
 するとまた別の一人が言いました。

「見てください兄弟たちよ。大地の隅に並べられた巨獣の頭蓋を。あれは誰が仕留めた物であろう? 狩りの天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだけれども」

 帳面を持っている一人が答えました。

六哥六番目の兄上、あれは人の娘のマッハの捕らえた物でしょう。彼女はこの世で最初の狩人です」

 見張りの天使エグリゴリたちたちは十二の窓から身を乗り出して、眼を見開いて立派な戦利品を眺めました。
 やがて最初の一人が言いました。

「見るがいい兄弟たちよ。大地の隅にある美しいものを作り出した人間たちを。美の天使たちが大地に降りたとは聞いていないのだが」

 見張りの天使エグリゴリたちは大地に住まう娘たちを見て、みな笑顔を浮かべました。

「いと尊い方を讃えよ。この良き者達を造りたもうた御方を」

「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな」

 しかし帳面を持っている一人だけは良い顔をしませんでした。

「兄弟たちよ、困ったことがあります。最初の人間の妻の胎が閉ざされたので、最初の夫婦の子どもはこれより先増えないのです」

 神殿にいた総ての見張りの天使エグリゴリたちはこの兄弟の顔を見つめました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

処理中です...