俺、今、女子リア充

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俺、今、女子リア充

俺、今、女子キス中

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 次の朝、喜多見美亜、俺——向ヶ丘勇——の体に入ったあいつと教室に入り目が合ったとき、その顔が少し赤くなったような気がしたが——気のせいだろうか?
 昨日の夜、(何処の何ものが決めているのか知らないが)この体入れ替わりにおける倫理規定が少し緩みでもしたのか、何故か下着を脱ぐところまで意識が無くならなかった俺。それと、同じように、もしかしてあいつの方でも結構ぎりぎりまで倫理規定が働かなかったと言うことは無いだろうか?
 そうだとすると、それが何処までだったのか聞きたいような気もするが——もしそうなら——いったい何処まで見えていたのかと言うことも含めて怖くて聞けない。
 聞いてしまったら、今の二人が保ってる微妙なバランスが崩れて行くような気がして——ああともかく、あいつが言ってくるまでは黙っていようと俺は思った。もし、もっと意識が飛ぶのが遅くなる事態になったとしても、なんかこれは言うのをタブーにした方が……
 と俺がいろいろ考えていると、
「おはよ美亜!」
 と言い俺の肩を叩いてきたのは和泉珠琴。
「珠琴……おはよう」
「なんか朝から考え事してるみたいな顔してるね。宿題やってくるの忘れたとか?」
「いえ、そうじゃないけど……」
「それはそうよ。あなたじゃないし、美亜がそんなの忘れるわけないでしょ」
 と生田緑の声。
 俺は声の方向に振り返り、
「おはよう緑」
「おはよう美亜」
 相変わらずの、試すような、しかし優しく包み込むような、支配者然とした生田緑の視線。走る緊張感。こいつとは絶対打ち解けられんなとまた今日もまた思いつつ、俺は視線を少しずらしてそのまま教室の中に入ってゆく。
 すると、
「なんか、向ヶ丘とさっき目が合ってたよね」
 ドキッ!
 心臓が止まりそうになる音。
「なに言ってるの珠琴」
 突然の一言に俺はあせりまくる。
「偶然目があっただけで何にも……」
「何にも?」
 きょとんとした顔の和泉珠琴。
「あれ、もしかして私が向ヶ丘と美亜のこと疑ってるかって思った……ぷはぁー」
 耐え切れないという感じでふき出してしまうしてしまう和泉珠琴。
「はは、あのオタク大王の向ヶ丘と美亜が……なにっその冗談ありえない。笑えすぎだわ」
 うるさい。
 確かにありえないが、そんな上から目線で語れるほどお前も上等なもんじゃないだろうと俺は思いながら、
「でも目があったのが何か気になるの?」
「ううん、だから何だって訳じゃないけど、この頃あいつ良く私らと目が合うなあって思って……なんかそんな気がしない……ってそれだけなんだけど」
 俺は頷いた。
 ああ、そりゃそうかもしれない。
 喜多見美亜は入れ替わった俺のこともあるだろうが、仲間達のことが気になってよく見ているのだろう。目が良く合うのは当たり前。
 しかし、
「でも、それだけって言うか……あいつちょっと変わった感じもするねこの頃」
 ドキッ!
「それは私も感じるわ」
 会話に割って入る生田緑。
「そうかな……私は何にも感じないけど」
 と俺。
「……と言うか、分かったわ!」
 と和泉珠琴。
「分かった?」
「あいつ痩せたでしょ」
 そりゃそうだ。俺の身体が喜多見美亜の厳しいトレーニングを受けているんだ。
 もともと、巨デブとまではいかないが自堕落な生活もあってすこしぷよっとしていた俺は傍目にもわかるくらいすっきりとした容貌になっていた。
 いや毎日見てるからそんな気づかなかったが、確かになんか少しかっこよくなってないか俺の体?
「そうね……見た目がよくなったかも」
「でも、オタクはオタクだけどね!」
 と言い、ガハハと笑う和泉珠琴。
 ちょっとむっとすした俺は、
「でも確かにかっこよくなったかも……」
「あれ……でも、そうね。あいつ、なんか外見に気をいつかいはじめたのかな。確かに小太り収まったら意外にイケメン系なのはびっくりだけど、それだけでなくセンス良くなったっていうかさ……」
 確かに、俺のいつもぼさぼさだった髪もセットされ、眉も整えて、制服の着崩しかたも絶妙で……
 でも、
「私らがつきあうような奴じゃないでしょ。少しばかり外見がきれいになったからって、あいつは違うわ」
「違う……ね」
 あいかわらずの上から目線の和泉珠琴。
 それへ、曖昧な首肯を返した後、俺は一言思わず反論をするという余計なことをしそうになってしまうのだが……
 また丁度良く、ホームルームに入ってきた担任の登場に朝の無駄話は終わり、その後、授業が始まって一度クールダウンしたならば、こんな連中にイライラいてる自分が馬鹿らしいと俺は思えて来たのだった。
 それに、昼にまた百合ちゃんとごはんを一緒に食べれるじゃないかと、「俺」を否定されたことを、こんな連中の「仲間」にならなくて良いことを逆に喜びながら……

 ——そして昼休み。
 俺は今日も麻生百合を昼ごはん一緒にと誘うつもりだった。
 授業が終わり、リア充グループに声をかけられるより早く、席を立って麻生百合の席に向かう。
 しかし、彼女は、俺と視線があうとふっと目を伏せて、少しすまなさそうな顔をしながら、足早に教室を出ていってしまうのだった。
 それをただ見送る俺。
 もしかして避けられてる?
 そのショックに呆然としている俺に、
「ねえ美亜、今日の昼なんだけどさ……」
 声をかけてきたのは和泉珠琴。
 にこやかな顔だけど、目は鋭い。
 この女、今、俺がどうしようとしてたかすべて分かっていて、
「天気良いから、みんなで屋上でも行ってみようかと言う話でてるんだけど」
 そして試してきているのだ。
 俺がまだ「みんな」なのか。
 俺は喜多見美亜——向ヶ丘勇の身体——を横目でちらりと見ると、あいつはゆっくりと首肯。
 その意味が分かる俺はしょうがなくリア充どもに付いて行くが、それでもやもやした気持ちになったこの日の学校は……
 そのままもやもやな気持ちで終わり……

   *

 俺は俺の顔を見下ろしているのだった。

 いや、今俺は喜多見美亜なのだから、俺の顔を見ているのは、喜多見美亜なのだが、その中身は俺なのだから、俺を見てるのは、俺なのだけど……
 なので俺は俺を見ていながら俺は俺でない、いや体が俺出ない俺は俺といえるのか、心が俺ならばそれが俺なのか、と言ってもリア充の喜多見美亜の身体に入っている俺はどう考えても俺じゃないよな。
 じゃあ今の俺はなんなのか、俺は俺もどきで、じゃあ本当の俺は何処にいるのか、とかとか……
「ちょっと、何してんのよ、早くしなさいよ」
 とかとか……なんか答えの出す気もない疑問を頭の中でくどくどと繰り返すなんて、物語の登場人物がそんなことをときは、次に行なうべきことから逃げている現実逃避と相場は決まっているけれど、
「こんな状態で、誰か人きちゃったらどうするのよ——早く」
 俺は、俺の体の上にのっている。つまり喜多見美亜の体が俺の体の上にいるということで……
 あの入れ替わりがおきた時の格好そのままで……
 それはあの時の状態を今再現しているのだけど……
 と言うことは、俺が今『早くしろ』と言われていることは、一つしか無く……
 その再現に俺は気後れしているのだけど……
「早く! こっちも恥ずかしわよ。分かる? ハードディ……」
 脅かされたからじゃないけれど。
 確かにこのままじゃ何も事態は進まないわけで……

 ええい、もうやっちゃえ!
 
 ぶちゅう——
 
 と俺たちはキスをした。

 生暖かい唇の感触。
 俺は中が喜多見美亜——つまり俺の体の上に覆いかぶさって——俺の唇とキスをした。
 高まる鼓動——しかしロマンチックだからではない。
 ギロリと睨まれている目に気おされて眼球をつい横にそらしてしまう俺。
 俺なんかとキスをしたのだから、これで元に戻らないんなら許さないぞと言う気迫と怒りが感じられる俺——の中のあいつ——喜多見美亜。
 いや、気持ちは分るが、その怒り俺に向けるのは間違っているから。
 そう思いながら、俺は、またチラリと目を元に戻すが——そこに在るのは怒りに合わさって落胆の光。
 ああ……
 だめか。
 あいつが目を曇らしたのを合図と思って顔を離す俺。
「だめみたいね——」とあいつ。
 で、
「ほら何時まで乗っかってんのよ」
 と言われて慌てて立ち上がる俺。
 そして、
「体勢を再現すればいけるのかもと思ったけど、そう言う問題じゃなかったみたいね」
 と残念そうな口調であいつ。
 つまり——ああ……「今回」も失敗だったようだ。
 キスをして入れ替ったんだから——もう一度すれば戻るんじゃないか。
 そんな単純な発想で、何度か「これ」を試みていた俺達だった。
 まあ、入れ替わりなんてありえない超常現象が何で起きたのか——それがあの時の偶然のキスのせいなのかも本当のところ分らないんだから、元に戻るにはどうすればよいかなんてのも俺らに何か確信があるわけじゃないのだが……
 ——少なくとも、他に良い方法も思いつかないし。
 ——そんな考えに俺たちが行き着くにはそんな時間がかからない。
 と言うか、あの日相互の家に戻り一人になり、入れ替わりのショックが落ち着いた後、俺はすぐに思い至った。
 たぶんあいつもそれには直ぐに気づいたのだったろう。
 でも、それを実行するどころか、口に出すだけでもずいぶんとかかったのだった。

 それは、入れ替わりから、ちょうど一週間目の日だった。
 その区切りの日に、今日と同じように、この神社の境内で会った時のことだった。
 一週間と言う区切りの日に、気持ちも切り替えて、今までの状況の分析をするうちに、どちらからと言うこと無く出てきたのが、キスで入れ替わったのなら、キスをすれば元に戻るのではないかと言う考えだった。
 しかし、その話をしてから、
「……確かにそれしかないような気がするのだけど、とても抵抗があるわね」と喜多見美亜は言った。
 そりゃそうだ。
 俺も、もしあいつの立場だったら、いくらこう言う事態だったとしても、俺みたいなオタクとキスをするのは嫌だろう。
 俺だって——倒れたときに偶然唇がくっついたのはノーカンとして——初めてが好きでもないこいつになるというのは抵抗がある。
 しかし、と俺は思う。あいつがキスをするのは自分であるし、俺がキスをするのも自分である。
 これって、やっぱりノーカンじゃないのかと。
 そう、俺が言うと、
「まあ、そういわれりゃそうかもね……事態が事態だし、犬にかまれたと思って」
 と言うひどい言い草のあと、俺とあいつは、神社の境内で、相互に口びるをあわせたのだった。
 ——俺は気恥ずかしさから、あいつは多分嫌悪感から、身体を触れることも無く、相互に顔を突き出して、鳥同士がえさを渡す時に口をあわせるような一瞬のキス。
 しかし、何も起こらなかった。
 せっかく意を決してキスをしたのにもかかわらず、俺たちの身体は元に戻りはしない。
 すると、
「もう一度やってみましょう。ちゃんとしないとだめなのかも知れないわ」
 とあいつに言われ、躊躇する俺を、あいつはグッと引き寄せると、今度は強く押し当てられた唇と唇のぬめりとした生暖かい感触に、なんというか少し頭がボーっとなって……
 その頭のぐるぐるするような感覚に、あれこれはもしかしたらと思ったとき……

 ワン!

 慌てて身体を離して鳴き声の方向を見る俺とあいつ。

 ワン!

 こちらを見て尻尾を振っている柴犬。
 そして、こちらをニヤニヤしながら見ているその犬の散歩中の老夫婦。

 というわけで……

 あいつと俺は、顔を真っ赤にしてその場から逃げ出したのだったが……

  *

 その後、今日も含め、何回かキスをチャレンジしてみても結果は同じだった。
 あの入れ替え変わったときと同じような、くらくらする眩暈のような感覚が少しはあるのだけど、それは直ぐに消え去ってしまって、俺らはバツが悪そうな顔をしながら唇を離す。
 なんとなく入れ替わりがおきそうな、そんな兆しがあるものだから、俺らはそれを試してみたのだが……
 それにしてもぼっちオタクで、さらに小心者の俺はキスをするたびにひどく緊張してしまううえに……
 なんかこんな何度もしてるうち、俺はあいつを好きになってしまうのではと少しドキドキもしてしまうのだが……

「はいこれ」

 あいつは俺に、ティッシュペーパーと消毒用アルコールを渡す。
 自分はすでにティッシュに含ませたアルコールで口の周りを拭き始めていて——俺も今のドキドキが一瞬でどこかに吹き飛びながら自分の口を拭く。
 その時、
「どうも……あのときの体勢を再現してみてもだめみたいね。それならば……」
 あいつは何か新しいことを考えついたみたいだった。
 それは、
「……それならば?」
「場所も同じじゃないといけないんじゃないのかしら?」
 と言うことだった。
「場所? 学校って言うこと?」
「場所って言ったらそうに決まってるじゃない。他に何処があるって言うの? 馬鹿じゃない」
 俺はいちいちそんなことで馬鹿馬鹿言うなと少しむっとしながら、
「おいおい、確かにちゃんと再現するならそれしかないけど、学校でキスするなんてリスク高すぎやしないか? 誰かに見られたら、俺とお前が、そんな風に思われたら……」
「は? あんた私とそう思われるのが嫌なわけ?」
「いや……そう言うわけでもないが……」
 あれなんか妙な展開、こいつ実は俺に好意がとか少し思いつつ……
 俺は口には出さなかったが、心の中で思ったことに少し思わず頬を赤らめてしまうが、
「でも私は嫌」
 とあいつの冷静な一言に、一瞬前までのドキドキは怒りに変わる。
 それを見てにやりと笑うあいつ。
 ああ、腹たつ——自分の顔にあざけりの笑い向けられるのが余計腹がたつ。
「なので、学校へは夜に忍び込んで状況を再現してみることにしましょう。勿論完璧を期すならば再現の時刻も合わせたいところだけど——あなたの言うように——平日のみんなまだいる時間にキスなんかして、元に戻ったあとの私の受けるリスク考えるとこの辺が当面の妥協点だと思うわけ」
 はいはいそうですか。俺とのキスも妥協の産物ですね。分かってますよ。
 期待なんて最初からしてないんだからね。
 と俺はむっとした顔のままとりあえず頷く。
 あいつはそんな俺の表情なんてまるで無視のまま、
「だから、近いうちに夜の学校に忍び込もうと思うわけ。そうね、こう言うのは思い立ったときにやらないと面倒くさくなるから、本当は今日にでもこのまま行きたい所だけど……さすがに何も裏工作無しであなたがあまり遅く帰ってくるのも私の親が疑うと面倒だし……そうね明日にしましょう」
「明日? 裏工作って何だよ?」
「……そんなの決まってるでしょ。アリバイ作りよ。一緒に勉強してるとか珠琴あたりに電話入れてもらうのよ。あいつそいうの上手いから。頼めば直ぐやってくれるわ……」
 うええ、あいつにそんなの俺頼まなきゃいけないの?
 俺はあからさまに嫌な表情になる。
 それもみてあいつも難しい顔で、
「……とは言え、大丈夫かしらね」
「大丈夫って? 何が?」
「珠琴って、アリバイ作りとかほいほいやってくれるんだけど、その理由の追求とか凄いきついのよね。あんたに言わせる何か適用な理由は私が考えるけど……あの追求にあなたが嘘を突き通せるか……」
「はい、無理です」
 俺はあっさりと自己申告。
 それで無くとも辟易してるあのノリの中、しつこく追求されて俺の精神が耐えられるとはとても思えなかった。
「そうよね、そんなので、この秘密がばれても馬鹿らしいし。それに一番やばいのは、入れ替わりなんて誰も信じてくれないだろうから——するとなんで夜の校舎であんたと会うのかって……そんな関係だとか微かにでも思われるのも腹が立つし……」
 はいはい、そうですが。
 そう言うことなら、この計画は一旦保留だな。
 ——と俺は思いかけるのだが……
「ああ、そうだ!」と俺。
「そうだ? なにが?」とあいつ。
「別に和泉珠琴に頼まなきゃ良いだけじゃないか。それなら俺も上手くやれるかもしれない」
「珠琴に頼まない? じゃあ誰に頼むわけ」
「そりゃあ」
 俺は満面の笑みを浮かべながら言う。
「麻生百合ちゃんに決まってるじゃないか!」
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