居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン

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第12話 少女の正体

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「おにいさんが『昨日のこと』を覚えてないって、夏織に伝えちゃってもいいのかなっ?」
「……へっ?」

 コイツ、なんでそんなことを……!? 今日、俺と夏織さんはずっと二人で飲んでいたはず。講義が終わって二人で歩いているときも、お互いの知り合いと遭遇することはなかったし。

「あはは、その反応わっかりやすい! やっぱ忘れてたんだー!」
「ちょっと、本当に誰なんですか!?」
「んー、そうだなあ……」

 少女は俺の背中から降りて、あざとく指を口元に当てている。ん、んん? 改めて顔を見ると……どこかで見覚えがある気がする。大学か? とすれば、高校生じゃないのか?

「立ち話もなんだし、どこか入ろっか?」
「そ、それは……」

 得体の知れない人間だし、どこに連れていかれるのかも分からん。ここはなんとか逃げおおせたいが――

「夏織に言ってもいいのっ?」
「……分かりました」

 言われるがまま、首を縦に振るしかなかった。

***

「ご注文はそちらのQRコードからお願いしまーす」
「はーい!」

 水を置きに来た店員に向かって、少女は元気に答えた。意外なことに、俺が連れていかれた先はただのファミレスだった。テーブル席で向かい合って座り合う俺たち。周りを見渡すと、仕事終わりのサラリーマンなんかが食事をとっている。

「あははっ、おにいさん困ってる?」
「困ってるというか、どうしてこんな店なんだろうって」
「んー? 人がたくさんいた方が、おにいさんが逃げにくいかなって!」
「……なるほど」

 たしかに、店内は明るいうえに多くの客で賑わっている。騒ぎを起こせば「何事か」と注目を集めてしまうしな。

「さあて、何を頼もうかなっ?」

 少女はメニュー表を開いて、楽しそうに見回していた。主導権は向こうに握られている。こちらから何かを迂闊に言い出すことも出来ない。

「ねねっ、おにいさんは何食べる?」
「い、いいです。ドリンクバーだけで」
「ふうん、つまんないの」

 スマホを取り出して、QRコードを読み取っている少女。……ん、スマホケースに何か貼られているな。プリクラ?

「何見てるの、おにいさん?」
「いえ、別に……」

 おっと、怪しまれてしまった。怪訝そうにこちらの顔を覗き込んできたので、適当に誤魔化す。

「じゃっ、注文したから。飲み物取ってくるけど、おにいさんは何飲む?」
「えっ、いいんですか?」
「おにいさんに取りに行かせたらそのまま逃げそうだもん」

 しまった、その手があったか。

「じゃあ、適当なお茶で」
「はーい」

 少女は席を立ち、ドリンクバーの方に向かって歩き出した。……おっと、スマホをテーブルに置いたままだ。

「……」

 少女が離れたのを確認してから、身を乗り出すようにしてスマホケースを見てみる。どれどれ、何かヒントはないかな……。

「ん?」

 そこに貼られていたのは二枚のプリクラ写真。一枚には女が二人、もう一枚には男女のペアが写っている。まず、こっちに写っているのが……

「夏織さん?」

 その写真には、さっきの少女と夏織さんが写りこんでいた。制服を着ているから、たぶん高校時代のものだと思うんだけど。ってことは、あの少女は夏織さんの友人なのか?

「こっちの方は……」

 もう一枚の写真に注目すると、そこにも少女が写っていた。それと仲睦まじく肩を組んでいる男は――

「……あれ!?」

 コイツ、松岡まつおかじゃねえか!? 加工でなんか間抜けな顔になっているが、松岡に違いない!

 松岡ってのは浪人時代からの悪友だ。飲んだり遊んだりした回数は数えきれない。そして昨日、俺とのサシ飲みをドタキャンしやがった張本人でもある。つまり、あの少女は松岡の――

「お待たせ、おにいさんっ!」

 おっと、あぶねえ。少女が戻ってきたので、乗り出していた身を素早く引っ込めた。

「ん、どうかしたの?」
「いや、別に……」
「ちょっと、何笑ってんの?」
「別に、なんでもないですって……!」
「だからなんでクスクス笑ってんの!?」

 そうかそうか、コイツが松岡の彼女かよ! 俺はおかしくってたまらず、笑いが止まらなくなってしまった。なるほどなあ、高校生なんて疑って悪かったよ。

「いや、本当になんでもないんです。さっ、何でも話しましょうか」
「……?」

 さっきよりさらに怪訝な顔を浮かべ、俺のことを見る少女。さあさあ、面白くなってきた。コイツがいったい何を企んでいるのか、こっちから聞きだしてやろうじゃないか――
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