殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ

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「……はっ。ここは、どこかしら……」


ラブリーが意識を浮上させると、そこには見渡す限りの「ピンク色の雲」が広がっていました。
一瞬、天国に召されたのかと思いましたが、それは最高級のシルクと魔法の羽毛で構成された、例の特注ベッドの天蓋でした。


「おはようございます、ラブリー。君の心拍数が覚醒のパターンに入ってから、ちょうど三十二秒。完璧な目覚めだね」


「ひぎゃあああ!? で、殿下!? なぜ、なぜ枕元に座っていらっしゃるんですの!」


ラブリーが飛び起きると、そこには優雅にコーヒーを啜るクロードの姿がありました。
彼は爽やかな笑顔で、手元の魔導端末(ラブリーのバイタルチェック用)を操作しています。


「なぜって……君が寝言で『あっちへ行って、クロード様』と呟いたからだよ。その声があまりに愛おしくて、つい結界を抜けて入ってきてしまった」


「結界の意味がありませんわ! それに私、あっちへ行けと言いましたわよね!?」


「ああ。『あっち(私の心の一番深い場所)へ行って』という意味だと解釈したよ。君の深層心理は、私を求めて止まないようだ」


「ポジティブ・フィルター、爆発してくれませんことーっ!」


ラブリーが枕を投げつけようとしたその時、パジャマのボタンが勝手に弾け、勝手に新しいドレスが身体に吸い付くように装着されました。


「なっ、何ですのこれ!? 脱げませんわ! このドレス、私の意志を無視して着せられてますわ!」


「前にも言っただろう? 『光速お着替えシステム』だよ。朝の貴重な時間を、着替えという無駄な儀式に費やさせたくない。……さあ、朝食だ。今日は君の胃腸を活性化させるための『七色の生クリーム・トースト』を用意したよ」


「もう嫌ですわ……。ミリー様、助けてくださいまし!」


ラブリーが叫ぶと、部屋の隅のクローゼットがガタガタと揺れ、中からミリーが転がり出てきました。


「……お、おはようございます……。ラブリー様、殿下はもう止められませんわ。昨夜、この部屋の換気扇から聞こえる風の音すら『ラブリーへの愛の囁き』に変換する装置を設置していましたもの」


「ミリー様、あなたもそこに潜伏していましたの!? 公爵令嬢の寝室が、もはやプライバシーの墓場ですわ!」


ミリーは死んだ目でメモ帳に『第22話:朝のプライバシー、消滅。ドレスは強制装着型』と書き込みました。


ダイニングルームへ移動すると、そこには幼馴染のレオが、武装したままサラダをムシャムシャと食べていました。


「よぉ、ラブリー。今日のドレスも似合ってるぜ。……まぁ、殿下が十時間かけてデザインした『俺以外見るなガード付きドレス』らしいけどな」


「レオ! あなたまで平然と朝食を! ……ガード付きドレスって、何ですの?」


「特定の男性……つまり、私以外の男性が君を見ようとすると、ドレスから目潰しの光が発射される仕組みだ。君の美しさは、目に毒だからね」


「物理的に毒にしないでくださいまし! 私が外を歩くたびに失明者が出るではありませんか!」


ラブリーは頭を抱え、出された「虹色のクリーム」を一口食べました。
悔しいことに、味は絶品でした。


「……ねえ、殿下。私、今日こそは一人でお買い物に行きたいんですの。お見合いもパレードも終わりましたし、普通の女の子として自由な時間を過ごさせて?」


ラブリーが、少しだけしおらしく、瞳を潤ませて頼みました。
これには、さしものクロードも一瞬、胸を打たれたような顔をしました。


「……分かったよ。君の『自由』を尊重しよう」


「本当ですの!? ああ、殿下! ありがとうございますわ!」


「ただし、条件がある。……この『全自動・ラブリー追跡透明化ドローン』十機と、君の影に潜む暗殺者改め『影の護衛隊』二十名、そして緊急時に宇宙から君を回収する『ワープ用ビーコン』を身につけてくれるならね」


「……それ、一人旅って言いませんわよね?」


「護衛は景色だと思ってくれればいい。さあ、買い物に行こう! 代金はすべて、私の口座から秒単位で決済されるようになっているから、君はただ指を指すだけでいいんだ!」


「自由が……自由が重すぎて、足が地面にめり込みそうですわ……」


ラブリーは、殿下が用意した『絶対に転ばない魔法の靴』を履かされ、過剰すぎる愛に守られた「孤独(という名の集団行動)」な外出へと踏み出すのでした。
ミリーのメモ帳には、『候補者:全滅。自由:形骸化。愛:測定不能の重圧』と、虚無の記録が残されました。
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