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第一話 改めて挨拶を
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我がホットスルー公爵家による交流パーティーが始まって中盤辺りでしょうか。緊張からか少し…いえ、正直に言えばかなり疲れて参りましたので、私は夫の傍を離れて、一休みする事にしましょう。私付きのメイドがおりますから一人ではありませんし、夫には事前に休み事の許可をもらっておりますから、問題ありません。とは言え、主賓側である以上、会場から退室するにはまだ早いわよね…。周囲にホットスルー公爵家の妻は虚弱体質だと思われてもいけませんし、夜風に当たりにテラスにでも行けば休めるかしら…。
「今晩は、本日はこのパーティーにお招きいただき、感謝致します」
テラスに着いた途端に声がかけられました。…空気を読んでほしかった、と思うのは贅沢なのでしょうか。公爵家の妻として疲れた顔を見せる訳にはいきませんので、硬くなってしまった笑みの形を作りつつ敢えてゆっくり振り返り、相手の顔を見れば…あら??
「改めて貴方様のお名前を、その、聞かせて頂いてもよろしいでしょうか」
どこかおどおどした態度の黒髪の男性。けれど深い緑の瞳は真っすぐ私を見ている。不審な態度と強い視線は何だかチグハグに思えるけれど、この人って対面する時はこんな方だったのかしら。あら、いけないわ。挨拶を返さなければ。
「ええ、今晩は。ぜひともこの一夜を楽しんで下さいな。改めまして、私はホットスルー公爵の妻、フレア・ホットスルーですわ」
「フレア様……あ、その、大変素敵なお名前ですね」
貴方にそんな事、初めて言われたわ。…と言っても、私と貴方は会話すらまともに交わしていなかったけど。
「申し遅れました。私の名は――」
「あら、改めて自己紹介されなくとも存じておりますわ。コルド・アットソンナ様でしょう?」
子爵家出身で王宮文官として勤め、実力で大臣の補佐官にまで上り詰めた若き出世頭で、仕事大好き人間。余りに王宮としての仕事が好きで、領地に帰って来ようとしないものだから、アットソンナ子爵家の長男ではあるけれど、子爵領の領地管理は弟が任されているのよね。本人から聞く事はなかったけれど、色々と情報だけは知っていたわ。
「私の事をご存じ、でしたか。私は普段、王宮で勤めておりますので、どこかで私を…?」
緊張でもしているのか頬を赤く染め、私を見つめてくる眼差しは更に強くなった、気がするわ。…んん? この反応はもしかして…気付いていない? いや、でもそんな事ってあるのかしら…私の顔を覚えていなくても不思議はないけれど、普通は名前で気付くはずだと思うのだけれど。名前を尋ねられた時に、改めて、と言われたから、『改めて自己紹介をして、過去を忘れて節度ある新たな関係を築きましょう』、と言う意味での挨拶なのだと思っていたのだけれど…。この反応だと、私が誰であったのか、本気で気付いていない可能性が高いわね。
どうしましょう、この場合、伝えておいた方がいいのかしら? こんな時にどう応じればいいのか困って、チラリとすぐ傍に控えるメイドを見れば、僅かに頷く様子を目にする。彼女は私の過去を知っているし、護衛役でもあるので彼女がそう判断したなら、伝えた方がいいのでしょう。…そうね、考えてみれば恥をかくのは私ではないし、変な誤解が生じても嫌だわ。はっきり伝える事にしましょう。
「ええ、もちろん以前から知っておりました。二年も前の事ですし、貴方はお忘れかもしれませんが、私――貴方の元妻、フレア・アットソンナでしたもの」
口にして改めて思うけれど、やっぱりこの場合、私の事を知らない方が可笑しいのではないかしら?
「今晩は、本日はこのパーティーにお招きいただき、感謝致します」
テラスに着いた途端に声がかけられました。…空気を読んでほしかった、と思うのは贅沢なのでしょうか。公爵家の妻として疲れた顔を見せる訳にはいきませんので、硬くなってしまった笑みの形を作りつつ敢えてゆっくり振り返り、相手の顔を見れば…あら??
「改めて貴方様のお名前を、その、聞かせて頂いてもよろしいでしょうか」
どこかおどおどした態度の黒髪の男性。けれど深い緑の瞳は真っすぐ私を見ている。不審な態度と強い視線は何だかチグハグに思えるけれど、この人って対面する時はこんな方だったのかしら。あら、いけないわ。挨拶を返さなければ。
「ええ、今晩は。ぜひともこの一夜を楽しんで下さいな。改めまして、私はホットスルー公爵の妻、フレア・ホットスルーですわ」
「フレア様……あ、その、大変素敵なお名前ですね」
貴方にそんな事、初めて言われたわ。…と言っても、私と貴方は会話すらまともに交わしていなかったけど。
「申し遅れました。私の名は――」
「あら、改めて自己紹介されなくとも存じておりますわ。コルド・アットソンナ様でしょう?」
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