婚約者に浮気され、婚約破棄するしかなかった僕の話

もふっとしたクリームパン

文字の大きさ
18 / 34

18、ルーベン・バーナー

しおりを挟む

 ルーベン様、と心配げに寄って来た従者達に対し胸を押さえていた左手を離して軽く振り、心配ない大丈夫であると示す。
そのまま口元の手も離して目を閉じ、ゆっくり。ゆっくりと息を吸う。

「何してるの? 変な人ね。そうそう、私、今一番欲しい物があって――」

 目を開けてルルを見る。僕の前に居るのは、実年齢よりも幼く見える可愛いタイプの一人の女性。元婚約者で、かつては愛した女性。だが今、僕の目には、自分の欲を叶えるためだけに存在する醜悪な悪魔に見えた。
吐き出した息と共に、はっきり告げる。

「婚約破棄の撤回はない」

「――がいいから、私……え?」

「そもそも、破棄された側からの申し出を何故、僕が受け入れなければならない?」

「何の事?」

「説明だって受けただろうに、未だに理解していないならはっきり言う。君との婚約を破棄したのはだ。君じゃない。君こそが破棄された側…つまり君は、僕に見捨てられた人という事だ」

「え? 何を言って」

「僕が、君を、捨てたんだ。これからの僕の人生に君なんか必要ないからね。そんな君と結婚? あり得ない、なんてバカバカしい話だ。君にとって都合のいい夢と現実をごちゃまぜにしないでくれ」

 ぽかんとしたマヌケな表情を晒す彼女に対し、鼻で笑って見せる。

「…な、何を、さっきから何を言ってるのよ?! 貴方が、捨てた? 私を? あり得ないわ! 私を捨てるなんて、そんな事許されるはずない――」

「捨てられた理由を知りたいのかい? 何度も注意したけど直さなかった、君の度重なる異性交流、つまり君の浮気が原因だよ。婚約期間は特に貞節を男女共に求められるのに、破棄に至る理由はそれだけで充分だった」

「そんな事で?! ルーベン、私も前に貴方に教えてあげたわよね? 私が愛されるのは当たり前なの、当たり前の事だから浮気じゃないのよって。もし愛されることが浮気になるなら、貴方だってその一人になるでしょう?」

 そうだね、婚約者であった時に何回も聞かされた君の自分勝手な理論。その都度、僕達の婚約について説明したけど、今となっては僕の無駄に使ってしまった時間を返してほしいとさえ思う。

「君の言い分なんてどうでもいい。もう一度言ってあげようか、婚約破棄の撤回はない。破棄となった過程も君が何と言おうと変わらない。君が浮気した事実があった、婚約破棄すると僕は決断した、問題なく破棄は成り、君は僕に捨てられた……あぁ、君を捨てたのは僕じゃないか」

 今になって彼女が僕に会いたがった本当の理由が読めた気がする。

「愛されて当たり前だと言っていたけど、本当にに愛されていたと思っているのか? 手紙、君に愛を囁いていたにも送ったんだろう? 君を満足させるような返事はあったかい?」

「…っ!!」

 途端に、彼女の顔はひどく歪んだ。

「……返事は、来たわ」

「全部、別れの手紙?」

「違うわ、今すぐには会えないと言うだけよ。今もずっと私の事を想ってくれているわ!」

「でも、君をキャメル伯爵家の離れそこから救い出すような男は誰一人いなかった」

「それは……」

「そんな時に、君は近く領地に連れて行かれる話を聞いた」

 彼女は焦っただろうな。病気を患った時に領地内で養生していたと聞いた事があるから、彼女自身、北の領地にいいイメージがないのかもしれない。頼りになる祖父母とも連絡がつかず、愛されていると信じている彼らからの返事は良いモノではなかった。両親も姉も彼女の力にはならない。
 そこで追いつめられた彼女は思いついたのだ、元婚約者の僕を利用することを。婚約破棄の撤回話もそう、結婚話もそう。僕と会って彼女の都合のいい様に動かしたかった訳だ。

「まさか、この僕が、君の言いなりになると本気で思っていたのか?」

 彼女は、僕ならば何をしてもどんなことでも許されると思っていそうだ。ハハハ、どれだけ嘗められているのやら。
 僕は、ルーベン・バーナー。バーナー伯爵家の嫡男であり、次期当主として育てられてきた。貴族としての在り方、領地や領民の治め方は基本として、南の領地にある海を制する為の知恵と政策、海賊や他国からの干渉を避ける海での守り方と闘い方等を学び、海と共に生きる事が定められている。その為かバーナー伯爵家我が家は『大らかな海の民』とも呼ばれているのだ。一度怒らせたら荒れ狂う海同様、そう簡単には収まらない事も合わせて有名な話なのだが、元婚約者であったのに君は知らないのだろうな。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

幸せな婚約破棄 ~どうぞ妹と添い遂げて~

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言された私。彼の横には、何故か妹が。 私……あなたと婚約なんてしていませんけど?

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...