婚約者に浮気され、婚約破棄するしかなかった僕の話

もふっとしたクリームパン

文字の大きさ
22 / 34

22、面会の終わり

しおりを挟む
「…? ルーベン、貴方、何を言ってるの?」

「愛されたがりで、愛されるのが当然と思っているおバカさん。僕は君を愛していないと言った」

 僕の言葉を信じられないのか、彼女は立ったまま茫然と僕を見てくる。

「伝えたい事はこれだけだ。さ、帰ってくれ」

「待って、どういう事?」

「僕が君を愛してないって事だけ理解してくれたら、もうそれでいいから」

 どんなにバカでもこれぐらいなら覚えて帰れるはずだ。彼女が帰る先は遠く離れた北の領地なので、行き着くまでに忘れてしまうかもしれないが。

「え……あ、もしかして私の気を引きたいのかしら?」

 うふふと笑って、頬を染めて恥ずかし気に言われ、僕はゾッとした。彼女との間に机という物理的距離がある事を心底感謝した。

「正直に言って、君の存在自体がすごく気持ち悪いから、早く帰ってくれ」

「きっ?! 気持ち悪いですって??」

「自分の立場を理解して尚、その態度。国王陛下の言葉を軽んじる態度。僕とキャメル伯爵を侮る態度。それだけでも不愉快なのに、君のその異様な思考が本気で気持ち悪い。…あぁ、そうか。だからターゲットきみに集う貴族派の男性陣が良く入れ替わっていたのか」

 言いながらハッと自分で思いついた事に納得してしまった。彼女からほぼ無視されていた僕とは違って、派閥の嫌がらせとして彼女を誘い出すために近くに寄れば寄るほど、その異常さが分かったはずだ。いくら上から指示されていたとは言え、そこに彼女への愛が無いならこの気持ち悪さに耐えきれるはずもない。まともな貴族であればあるほど彼女自身を受け入れがたいだろう。男性陣が入れ替わり立ち代わり状態だったのは彼女の飽き性のせいもあると思っていたが、彼ら自身の精神的な忍耐力による事情もありそうだ。

「そ、そうよ! 貴方が言うように私は、色んな方に愛されているのよ? 今ならそんな私と結婚できるのに、他に取られてもいいと言うの?」

「え、僕はいらないから。君なんか必要ないって少し前に言っただろ」

 僕が最後の方に呟いた言葉が良い意味に聞こえたらしい。全く、本当に彼女を欲しがるような奇特な人がいると思っているのだろうか。まだ僕との結婚ひどいもうそうを諦めていないようだが、そもそもの話、貴族である僕とは結婚自体出来やしないのに。また大きなため息を付きたくなったが、そこをグッとこらえて代わりに僕の後ろに控えている男性従者達に、一瞬だけ視線を送る。

「これも説明されたはずだけど…除名処分された君は、生涯貴族とは結婚出来ない決まりがある。除名された者が貴族に返り咲く事が出来ないようになっているんだ。だから、どんな高貴な方だろうと君を妻にしたいと望んだ場合、望んだ本人が貴族としての身分を捨てる必要がある。愛人として望んでも同じ事さ。貴族社会に生きる者達にとって除名された者を囲う事は、罪人を匿うのと同じ扱いだから誰にも歓迎されないし許されない事なんだ。そこまでの覚悟を持つ程に君が愛されているなら良かったのに、実際には一人も申し出てくれなかったんだろ? これでも君は本当に愛されていたと思うのかい?」

「は?! 何を言ってるの、私は愛されているわ!」

「へぇ~、そうなると君は貴族でなくなった相手と結婚する気があるのか?」

「平民なんかと結婚する訳ないでしょう?!」

「だと思った。彼らも同じ事を思ってるんだろうなぁ。身分を捨ててまでと、結婚する訳ないってさ」

「!!」

「まぁ、彼らの内心なんて僕は知らないけど。僕と同じように彼らも君を真実、愛してないって事だけは確かだろうな」

「わ、私は愛されているわ! みんなにあいされてるの!!」

「帰ってくれ、君の妄想話にもう付き合う気はないんだ」

 言いながら、僕はサッと手を振り合図した。帰ってくれとどんなに促しても自分から立ち去らないようなら、実力行使に出ても問題ないだろう。一瞬だけの視線を送った時から僕の意図を理解し、静かに彼女の左右に移動していた男性従者二人がすぐに彼女を捕らえる。女性従者の方はとっくに部屋の扉前に佇んでおり、扉を開けるタイミング待ちだ。このまま彼女を別荘の外で待機しているだろう移送用馬車まで運ばせよう。

「何これ? ルーベン?!」

「さようなら、二度と僕の名を呼ばないでくれ」
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

貴方に側室を決める権利はございません

章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。 思い付きによるショートショート。 国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。

幸せな婚約破棄 ~どうぞ妹と添い遂げて~

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を宣言された私。彼の横には、何故か妹が。 私……あなたと婚約なんてしていませんけど?

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...