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第二章 鬼囃子編

093 時すでに

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「どうする?」
「決まっていますわ。正面から堂々と毅然と叩き潰すまでですの」
「叩き潰しちゃダメだよ。アダムさんは捕まえるって言ってたんだし」
「あ、そうでしたわね。つい」
「敵も大した事なさそうだけど、舐めプはダメだよ」
「真剣に立ち向かうほどの相手ではありませんわ」
「それは分かるけど、油断大敵、慢心無用。だよ」
「生真面目ですわねぇ……さ、行きますわ」

 私とモニカは潜んでいた岩陰からすっくと立ち上がり、朗々と声を上げた。

「そこまでですわ!」
「! 貴様ら何者だ!」

 教徒達は突然の乱入者に狼狽しながらもすぐに立ち上がり、懐から短剣を取り出して身構えました。
 そしてそんな教徒達を睨め付けながら、私は腕を組んでこう言うのですわ。

「お前達に名乗る名前はないッ!」

 決まった、決まりましたわ。
 ミッドナイト攻略戦の時、あのバルザックが使っていた言葉。
 あの時、聞いた時からずっといつか使いたいって思っていましたの。
 不覚にも私、あの時バルザックがかっこよく見えましたわ。
 バルザックのくせに、ですわ。
 
「ここに何をしに来た! 我らの邪魔をするというのなら……その首、掻っ切ってヤシャ様に捧げてやろう!」
「決まってますわ。アダム様の言いつけ通り、捕縛させてもらいます!」
「あなた方は何をしているのか分かっているのですか!」

 睨み合いをしていた私の前に、突然ずいと出たモニカが、純白の錫杖を突きつけて威勢の良い声をあげた。
 モニカの予想外の行動に私までもが狼狽してしまいます。

「え、ちょ、モニカ? 私がズバッと決めているのに割り込まないでくださる?」
「あなた方のせいで大勢の罪のない人々が亡くなったのですよ! それを、こりもせずに悪鬼羅刹たるヤシャを復活させるなんて、これ以上、あなた方の好きにはさせません!」
「聞いてますの?」
「あなた方の蛮行、決して許しません! 大人しく縛について神の元で悔い改めるのです!」
「聞いてませんわね」

 私の言葉もどこ吹く風、モニカはふーっ、ふーっ、と荒く息を吐いて教徒達を睨みつけていますわ。

「はぁ。なんにせよ、あなた方に恨みはありませんけど、企みは阻止させてもらいますわ。無駄な抵抗はおよしなさい? 本当に無駄だから」

 私は組んでいた腕を下ろして腰を掴み、ため息混じりにそう言いました。
 どうやらモニカのお怒りスイッチはとうに入ってしまっていたようですわ。
 本当にこの子は底なしの聖人ですわね。
 人の命が関わると人が変わってしまうほどに。
 人は死ぬ。 
 あっさりと死ぬ。 
 ころっと死ぬ。
 瑣末に死ぬ。
 あっけなく死ぬ。
 幸せは不平等に、死は平等に、均等に全ての命ある者へ訪れる。
 不死者と呼ばれる存在ですらも、死の理から逃れることは出来ないのですわ。
 不死者は生者よりも圧倒的に死ににくい、というだけなのですわ。
 だがモニカは不条理に散る命を許さない。
 君死にたもう事なかれ。
 きっとモニカは自分の命が続く限り、拾える命は全て救いたいと願っているのだと思いますわ。
 ユニコの魂が融合しているとは言っても、ここまでの献身が顕現するはずもなし。
 どうしてそこまでの献身と優しさ、そして怒りを持つようになったかは分かりませんけれど。
 
「ふん! 女二人で何が出来るというのだ! 止めたければ力づくで止めて見せればいいだろう!」

 どうやら私達は完全に舐められているようですわね。
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