欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第六章 迷宮編

二二八話 永遠の絆

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「あの、フィガロ様……?」

 黙りこくる俺の態度に狼狽だしたクロムだったが、俺の心中は大荒れだ。
 嵐の海のようにぎゅんぎゅん荒れている。
 不確かな部分もある。だが状況証拠や聞いた話を合わせればかなりの確率で俺の考えは的を得ているだろう。
 それは少なからずクロムもわかっているはずだ。
 だからこそコブラを外し、彼女の主人である俺に話を持ちかけたのだろう。
 ええい! こうなったら全部話して白黒つけよう! 俺が悩むことじゃない、うん、きっとそうだ、これは当人達の問題だ。

「……コブラは、孤児です」

「な! まさか……そんな!」

「そしてコブラには兄がいます」

「はい、それは存じております。警備の際に紹介していただきましたので……そうですか、孤児です、か……」

「コブラ達がなぜランチアにいたのかは分かりませんが……孤児となった理由を考えると」

「あの子が自分の子供を捨てるとは考えにくい……責任感の塊のような女性でしたからね……ということはやはり、あの子はもうこの世にはいないと考えるのが妥当です、ね」

「残念ながら……コブラ達の母親がクロムさんの別れた彼女だと仮定するなら、の話ですが」

 そこで一度言葉を切り、クロムの様子を伺うが目頭を押さえてうつむく彼にどう言葉をかけていいかがわからなかった。
 しかし一番手っ取り早い方法がある。
 俺はそれを試すために席を立ち、扉の外で待つコブラへ話しかける。

「コブラ、ちょっとネックレスを貸してくれないか?」

「え……? それは……いえ、分かりました。どうぞ」

「すまん、すぐ返す」

 コブラからネックレスを受け取り席に戻った俺は、俯くクロムの眼前にネックレスを差し出した。

「クロムさん。確かめた方が早いです。苦しいかもしれませんが……これはコブラ達にとってもかなり重要な案件です。お願いします」

「あ……」

 微かに震える手でネックレスを受け取ったクロムだが、土いじりで鍛え上げた逞しくもすらりとしたその体が小さく見える。
 無言になったクロムは二つのネックレスのチェーンを外し、同じ向きに伸ばしてトップの宝石部分を寄せる。
 ネックレスのトップはよく見ると確かに何かがハマるような意匠がされていた。
 静かに寄せられた二つのネックレストップは見事に嵌まり、宝石部分に不思議な紋様が浮かび上がった。
 浮かび上がってしまった。
 俺には読めないが、浮かび上がった紋様を見た瞬間のクロムの反応を見れば結果はわかる。
 分かりやすいほどに、分かる。

「うぐ……く、ふぅぅ……!」

 クロムは泣いていた。
 それはもう盛大に。
 滝のような涙をぼろぼろと。
 両の目から止めどなく湧き溢れる男の涙は頰を伝い、ネックレスへぽつぽつと落ちていく。

「おおぉぉお……リル……リルカぁああ……!」

 別れた女性の名はリルカというのだろう。
 漏れ出る嗚咽の中にその名前を聞き、胸に深く刻み込む。
 きっとクロムはリルカと別れた後、一切動向を探ろうとはしなかったのかもしれない。
 探れば忘れられなくなる。
 いや、忘れようとは思っていなかったのだろう。
 きっとどこかで元気にやっていると信じて、メモ書きの言葉を信じいつか再び会える事を信じて。
 当主としての責務、急逝した両親からの重圧、戦争で散った兄達の無念、そういった物を全て背負いこみ、がむしゃらに、直向きに、なりふり構わずに生きてきたのだろう。
 そして図らずも知ってしまった、想い合いながらも決別した恋人の人生の結末。
 当主として気丈に生き、見栄を張り、貴族という戯言や騙し合いの荒波の世界の中を生き抜いてきた強き男の涙は愛に溢れており、想いの強さを如実に表していた。
 ネックレスに刻まれた【永遠の絆】の紋様はただ静かに、男の涙を受け止める。
 
「リルカさん、というのですね」

「はい……お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。いい歳した大人が泣き喚くなど」

 クロムの涙が収まった頃、それとなく話題をふる。
 目元を真っ赤にしたクロムが恥ずかしそうに鼻をすすった。
 
「いえ、お気になさらず。むしろクロムさんの愛の深さに感銘を受けましたよ」

「はは……これでも妻を持つ身なのですがね。まぁ青春の一ページという事で」

「はい」

 数度鼻をかみ、佇まいを正したクロムが咳払いをした後ネックレスを木箱へと戻した。

「突然の事でかなり動転しているのですが……コブラ達はリルカさんとクロムさんの子供、という事になるのでしょうか?」

「どうでしょう。ネックレスがリルカの物なのは確定しましたが……血縁関係にあるかどうかと聞かれれば……」

「そう、ですよね」

「はい……ですが時期的に見ても年齢からしても、ほぼクロだとは思います……その、別れる直前までその……結構おさかんでして……はは」

「おん……」

 なるほど。精気も気力も体力も盛りのときだものな。仕方ないね。
 男と女だものね。
 誰とは言わないけど俺もそうなるのかな……? へへ……っとダメだダメだ。
 今はそんな下世話なことを考えている場合じゃない。

「あの、リルカさんの血縁と分かる何かはないのですか? 魔導学的でも肉体的でもなんでもいいのですが」

「うーん……そうですねぇ……強いて言うならばリルカは亜人と人間のクォーターでありまして。その亜人の血があってなのかリルカは人よりも傷の治りが早かったり人一倍力が強かったり、あ、そうそう。やたらと頑強な体をしておりましたね」

「あの、私の中でリルカさんは可憐な女性冒険者というイメージだったのですが……?」

「ええ、間違いではないですよ。リルカはエルフもかくやと言わんばかりの美貌とプロポーションを持っておりましてなぁ。一人にしておくとすぐに男から声をかけられるほどでした。ですがねぇ、ちょっとばかり気が強くて口より先に手が出るような女性でした。線が細く可憐、華奢な体から放たれる豪快な一撃と気の強さ。そのギャップに引いていく男どもの情けないこと! まぁ私はそのギャップにメロメロドキュンだったのですがね! あっはっは!」

 ドンスコイやコブラと共通していそうなところを聞いたのだが、気付けばリルカの惚気話へと発展していってしまった。
 クロムの惚気話はしばらく続き、茶菓子とお茶が出てきたと思えば話はさらに加速を始めるのだった。
 
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