欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第六章 迷宮編

二二九話 強化兵のもとへ

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 クロムの惚気話を適当な所で押しとどめ、コブラ達に明かすかどうかの話になった。
 
「怖いです、よね」

「怖い? どうしてですか?」

 だがクロムから返ってきた言葉は意外なものだった。
 コブラ達の実親が見つかり、クロムにも跡取りが出来ることになるし、お互いにいいことしかない気がするのだけど……違うのだろうか?

「二五年、ですよ。ドンスコイ君にいたっては付き合っていた当時に生まれていたのに、その事すら知らなかった。なぜ教えてくれなかったのかはもう知る術はありませんが……恨まれても、いやきっと恨まれている、でしょうね。孤児となった子供達がどんな生活になるのかは想像に難しくない。もう少し、時間を頂きたい」

「そう、ですか」

「不甲斐ない男で申し訳ありません」

 目に見えて落ち込むクロムだが、やはりこういう事はデリケートな問題なのだろう。
 当人ではないので心中を察することは難しいが、無理矢理に解決しようとしても後で何かしらの不和が生じることもある。
 個人的には吉報だとは思うのだが、クロムにしてみればそうでもない、のかな?

「いえ、ではこちらもコブラ達にそれとなく聞いてみます。もちろんクロムさんの名前は出しませんのでご安心ください」

「助かります」

 そう言ってクロムは大きく息を吸い込み、数秒止めた後に大きく吐き出した。
 気持ちの切り替えをしているのだろうな、と若輩ながらも感じた。
 
「では……そろそろ失礼させてもらいます」

「おお、もうこんな時間ですかな! ではでは諸々了解致しました。腕利きを送らせますのでよしなに」

「はい。そのかわりと言ってはなんですが、うちにある年代物の調度品の数点をお譲りさせて頂きます」

「なんと! それは嬉しい! お心遣いに感謝を」

 扉を開け、待機していたコブラと共にクロムの屋敷を後にする。
 門前まで見送りに来てくれたクロムと使用人の方々に手を振り、午前中の用事はひとまず終わった。
 
「フィガロ様はこの後ご予定が?」

「うん。ちょっと頼まれごとがあってね、それを片付けてくる」

「分かりました。では私は先にお屋敷へ戻りお兄ちゃんとクーガ様を」

「頼んだ。それじゃ!」

 家への帰路の途中でコブラと別れ、路地裏に入りフライを発動させて一気に上空まで飛び上がる。
 眼下に広がる街並みを眺めつつ、記憶の中にあるトムのアジトへ進路を向けて加速した。





 トムのアジトは市街地から墓地を抜けた先にある、寂れた丸太小屋だった。
 小屋には鍵がかかっていたが、トムと決別する前に鍵は受け取っていたので問題はなかった。
 中に入ると意外にも整頓された室内であることに驚いた。
 キッチンには食器が重ねられ、テーブルには広げたままの雑誌が置いてある。
 トムの、ハンニバルの生活が色濃く残る風景に鼻の奥がツーンとしたが、ぐっと堪え目的の場所へ赴く。
 強化兵が待機している場所は小屋の奥から続く地下室だ。
 巧妙に隠された地下への扉を開き、松明の油や、どことなく香る獣臭、気持ち高めの湿気などを肌で感じながら階段を一歩ずつおりていく。
 階段自体はそこまで長くなく、半地下といった具合だろう。
 目の前にある錆びついた扉を押し開くと、そこには生気のない人間の姿をした四人の強化兵達が無表情に立ち尽くしていた。

「こんにちは、初めまして。私の名はフィガロ。フィガロ・シルバームーンと申します。あなた方のリーダートムに代わりあなた方の解放をさせて頂きに参りました」

 念の為に口上を述べてみるが、思った通り反応は無い。
 それどころか俺がここにいる事も認知していないようだった。
 
「本当に、意識が無いんだな」

 生きた人間にここまでの措置を施す非道さに腹を立てつつ、一人一人の細部を確認することにした。
 強化兵は男が二人、女が二人という割合だった。
 男は二人とも筋骨隆々としており黒髪と白髪のコンビ。
 女は腰まで無造作に伸ばされた桃色の髪を持つ色白肌、もう片方は肩まである茶髪に褐色の肌を持っていた。
 強化兵の首元には鉄のプレートが埋め込まれており、そこにはアルファベットと数字が刻まれていた。
 黒髪【TP-2989】白髪【TA-1256】桃髪【TM-2543】茶髪【TH-115】といった具合だが、これが何を表すのかが全くわからない。
 それぞれの肉体を触ってみるが、肌の質感や温かみは人間のそれと全く変わらず、言われなければこの人達が強化兵だなどとは思わないだろう。
 意思疎通が出来れば、の話だが。

「うーん……思念リンク、だったっけ。多分頭の中にそういう術式が刻み込まれていて……個人的な人格や意識が封じられているとみて間違いはない……トムはハンニバルを解放してくれって言っていたけど、やっぱり殺してくれって意味、だよな」

 殺す……か……。
 やだな。
 かと言ってこの人達をこのままにしておく訳にもいかない。体を弄くり回されて意識が封じられているとは言え人間、放置すればいずれ衰弱していき機能停止に——すなわち死に至る。
 トムの記憶と同調した際、強化兵の肉体維持などの方法は分かっている。
 彼、彼女らがどこの出身かなどは知らないがトム同様、皆かなりの戦闘能力を持っていることに違いはない。
 強化兵の胸に手を当てると確かに心臓の鼓動の音が振動として伝わってくる。

「放置していても死ぬ事は出来る。でもトムはそうせず、解放してくれと言った……解放……」

 今更になってトムの遺言の真意が分からなくなってきた。
 俺に託すということがどういうことなのか。
 退廃的な死ではなく、一思いにやってくれと、強化兵としての役割を終わらせてくれという意味なのだろうか?
 強化兵の前で座り込みウンウンと頭を捻っている最中のこと、指に嵌めていたウィスパーリングが淡く発光しシャルルの声が頭に響いてきた。
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