68 / 298
第六章 迷宮編
二二九話 強化兵のもとへ
しおりを挟むクロムの惚気話を適当な所で押しとどめ、コブラ達に明かすかどうかの話になった。
「怖いです、よね」
「怖い? どうしてですか?」
だがクロムから返ってきた言葉は意外なものだった。
コブラ達の実親が見つかり、クロムにも跡取りが出来ることになるし、お互いにいいことしかない気がするのだけど……違うのだろうか?
「二五年、ですよ。ドンスコイ君にいたっては付き合っていた当時に生まれていたのに、その事すら知らなかった。なぜ教えてくれなかったのかはもう知る術はありませんが……恨まれても、いやきっと恨まれている、でしょうね。孤児となった子供達がどんな生活になるのかは想像に難しくない。もう少し、時間を頂きたい」
「そう、ですか」
「不甲斐ない男で申し訳ありません」
目に見えて落ち込むクロムだが、やはりこういう事はデリケートな問題なのだろう。
当人ではないので心中を察することは難しいが、無理矢理に解決しようとしても後で何かしらの不和が生じることもある。
個人的には吉報だとは思うのだが、クロムにしてみればそうでもない、のかな?
「いえ、ではこちらもコブラ達にそれとなく聞いてみます。もちろんクロムさんの名前は出しませんのでご安心ください」
「助かります」
そう言ってクロムは大きく息を吸い込み、数秒止めた後に大きく吐き出した。
気持ちの切り替えをしているのだろうな、と若輩ながらも感じた。
「では……そろそろ失礼させてもらいます」
「おお、もうこんな時間ですかな! ではでは諸々了解致しました。腕利きを送らせますのでよしなに」
「はい。そのかわりと言ってはなんですが、うちにある年代物の調度品の数点をお譲りさせて頂きます」
「なんと! それは嬉しい! お心遣いに感謝を」
扉を開け、待機していたコブラと共にクロムの屋敷を後にする。
門前まで見送りに来てくれたクロムと使用人の方々に手を振り、午前中の用事はひとまず終わった。
「フィガロ様はこの後ご予定が?」
「うん。ちょっと頼まれごとがあってね、それを片付けてくる」
「分かりました。では私は先にお屋敷へ戻りお兄ちゃんとクーガ様を」
「頼んだ。それじゃ!」
家への帰路の途中でコブラと別れ、路地裏に入りフライを発動させて一気に上空まで飛び上がる。
眼下に広がる街並みを眺めつつ、記憶の中にあるトムのアジトへ進路を向けて加速した。
○
トムのアジトは市街地から墓地を抜けた先にある、寂れた丸太小屋だった。
小屋には鍵がかかっていたが、トムと決別する前に鍵は受け取っていたので問題はなかった。
中に入ると意外にも整頓された室内であることに驚いた。
キッチンには食器が重ねられ、テーブルには広げたままの雑誌が置いてある。
トムの、ハンニバルの生活が色濃く残る風景に鼻の奥がツーンとしたが、ぐっと堪え目的の場所へ赴く。
強化兵が待機している場所は小屋の奥から続く地下室だ。
巧妙に隠された地下への扉を開き、松明の油や、どことなく香る獣臭、気持ち高めの湿気などを肌で感じながら階段を一歩ずつおりていく。
階段自体はそこまで長くなく、半地下といった具合だろう。
目の前にある錆びついた扉を押し開くと、そこには生気のない人間の姿をした四人の強化兵達が無表情に立ち尽くしていた。
「こんにちは、初めまして。私の名はフィガロ。フィガロ・シルバームーンと申します。あなた方のリーダートムに代わりあなた方の解放をさせて頂きに参りました」
念の為に口上を述べてみるが、思った通り反応は無い。
それどころか俺がここにいる事も認知していないようだった。
「本当に、意識が無いんだな」
生きた人間にここまでの措置を施す非道さに腹を立てつつ、一人一人の細部を確認することにした。
強化兵は男が二人、女が二人という割合だった。
男は二人とも筋骨隆々としており黒髪と白髪のコンビ。
女は腰まで無造作に伸ばされた桃色の髪を持つ色白肌、もう片方は肩まである茶髪に褐色の肌を持っていた。
強化兵の首元には鉄のプレートが埋め込まれており、そこにはアルファベットと数字が刻まれていた。
黒髪【TP-2989】白髪【TA-1256】桃髪【TM-2543】茶髪【TH-115】といった具合だが、これが何を表すのかが全くわからない。
それぞれの肉体を触ってみるが、肌の質感や温かみは人間のそれと全く変わらず、言われなければこの人達が強化兵だなどとは思わないだろう。
意思疎通が出来れば、の話だが。
「うーん……思念リンク、だったっけ。多分頭の中にそういう術式が刻み込まれていて……個人的な人格や意識が封じられているとみて間違いはない……トムはハンニバルを解放してくれって言っていたけど、やっぱり殺してくれって意味、だよな」
殺す……か……。
やだな。
かと言ってこの人達をこのままにしておく訳にもいかない。体を弄くり回されて意識が封じられているとは言え人間、放置すればいずれ衰弱していき機能停止に——すなわち死に至る。
トムの記憶と同調した際、強化兵の肉体維持などの方法は分かっている。
彼、彼女らがどこの出身かなどは知らないがトム同様、皆かなりの戦闘能力を持っていることに違いはない。
強化兵の胸に手を当てると確かに心臓の鼓動の音が振動として伝わってくる。
「放置していても死ぬ事は出来る。でもトムはそうせず、解放してくれと言った……解放……」
今更になってトムの遺言の真意が分からなくなってきた。
俺に託すということがどういうことなのか。
退廃的な死ではなく、一思いにやってくれと、強化兵としての役割を終わらせてくれという意味なのだろうか?
強化兵の前で座り込みウンウンと頭を捻っている最中のこと、指に嵌めていたウィスパーリングが淡く発光しシャルルの声が頭に響いてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。