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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二三二話 ロンシャン連邦国
しおりを挟む雲をすり抜け、眼下の景色が猛スピードで過ぎ去っていく中でもシャルルに呼びかけてみるが反応がない。
焦燥感だけが募る中でリッチモンドから連絡が入った。
「フィガロ、こっちは着いたよ。けど……これは……ひどいもんだよ。一体この国に何があった」
「そんなになのか?」
「あぁ。これはまるで戦争だ。あちこちで火の手が上がってる、モンスターの死骸もあるけど住人の亡骸も数多い」
「戦争……」
ロンシャン連邦国は砂漠に囲まれた緑少ない国であり、世界全体から見ても国内総生産の値はかなり低い。
だがロンシャン連邦国領内に広がる砂漠の地下には広大な迷宮が広がっているのと、魔導技巧や魔導具などに使われる資源が地下に数多く眠っているのだ。
ロンシャン連邦国はその地下資源の輸出や、迷宮を広く開放し世界中の冒険者を呼び込むなどして経済を回している。
世界的に見ても国内における富裕層が非常に多いのも特徴の一つだ。
軍事力も比較的高い部類に入るロンシャン連邦国だが、一○年前までは紛争の絶えない地域であったという。
だが一○年ほど前に国のトップが変わってからは紛争も収まりを見せ、比較的平和な時代が続いていた。
続いていたはずなのだが……。
「よりにもよってどうして二人が滞在中に争いごとが起きるんだよ……っ!」
眼下に草原が切れ、砂漠の砂と混じり合う大地が見え一瞬で過ぎ去り、黒煙たなびくロンシャン連邦国の市街地が見えてきた。
「こっちだフィガロ。お師様も合流しているよ」
「わかった。ちょっと協力者もいるから歓迎して欲しい」
リッチモンドからの思念を受け取り、二人のいる地点まで到達して地面に降りた。
二人はボロボロの家屋の中に待機しており、俺が連れてきた四人の強化兵を見て目を白黒していた。
「この人達は……まぁなんだ。ちょっとした紹介で手伝ってくれる事になったんだ。よろしく」
「むむ……おいフィガロ、この者達、人間じゃあないな?」
「そうだねぇ。人間にしてはちょっと命の波動が弱すぎるかな? どこでこんなオモチャを拾ってきたんだい?」
二人は一目見ただけで異常だと気付いたらしい、やっぱり隠し切れないみたいだけど今は細かい説明をしている時間が惜しい。
「後で話すよ。でもこの四人は味方だし、かなり強力な助っ人だから安心して欲しい。それとシャルルとドライゼン王が危ない。ウィスパーリングも全く繋がらない」
「この惨状を見る限り被害にあったのはシャルルちゃん達だけじゃなさそうだな。ロンシャン正規兵の遺体もあちこちに転がってた。大量のモンスターの死体と共にな」
「てことはモンスターの襲撃? でもモンスターが集団になって国を襲うなんて聞いたことがない……ですよねお師様」
「ないこともないが……ここ数百年は聞いたことがないな」
リッチモンドとクライシスが目の前に広がる惨状を見ながら冷静に分析をしている。
その間も俺はシャルルに呼びかけを続けているが、やはり反応はない。
焦燥感とどうにかしなければという強迫観念が俺の心を苛んでいる時、遠くに見える王城から爆発音と黒煙が上り意識がそちらへ向いた瞬間、頭の中に待ち望んでいた声がした。
「フィガロ! 今どこにいるの!?」
「シャルル! 無事か! 俺達はもうロンシャン市街地の外れまで来てる!」
「来てくれたのね! 本当にありがとう! 私はひとまず大丈夫なんだけど……タウルスの容体がよくなくて……今はシキガミちゃんが頑張って陽動してくれてる、けどこっちは動けそうにないの。今王城で爆発が起きたでしょ? それはシキガミちゃんの陽動、私たちはその反対側の塔の中にいるわ!」
トムのアジトにいた時とは違う、はっきりとしたシャルルの声が頭に響き渡り、それだけで涙が溢れそうになってしまう。
だが爆発が起きた場所の反対側を見てみると確かに塔はある、塔はあるのだが……。
「そんなこと言っても……見る限り五本はあるぞ……」
塔は王城のあちこちから天に向かって伸びていて、階の途中から変形して伸びているものもあれば城壁に張り付くような形で建てられているものなど様々な種類があり、塔だけでは特定に時間がかかってしまう。
「逃げるのに必死だったからどこの、とまではわからないの……でも階下でウチの兵士達が頑張ってくれてるから分かると思うわ!」
「わ、わかった! リッチモンド! クライシス! シャルル達はあっちの塔のどこかにいるらしい。手伝って欲しい」
シャルルからの通信が切れ、周囲を調べていた二人に声をかけた。
「どこかに……ね。久々の実践だ、老骨に鞭打ちやがったいけない子はお仕置きだな」
「人目があるから僕は飛べない、フィガロだけ先にフライで行っておいでよ」
拳を握りパキポキと小気味のいい音を鳴らし、一メートルほどのロッドを空気を切り裂くように振り回している。
ロッドは俺が見た中では初めて見る種類の物で、先端には透明な水晶が鎮座し、その中には青い結晶と赤い結晶が絡み合うようにして入っている。
意匠は凝ったものではなく、水晶の下にドラゴンの羽をモチーフにしたような装飾があり、ドラゴンの腕のような装飾がロッド本体を握りこんでいて、それらは全て銀色の輝きを発していた。
クライシスは結構な数の杖を所有しており、あれもきっとその中の一つに違いないだろう。
「いや……そうしたいのは山々なんだけど、この人達は俺の指示がないと動けない。走って向かおう」
「ふうん……よくわかんないけど、大丈夫なのかい? ソレ」
「いーんじゃねーか? 少なくとも一般ピーポーよりかは強い闘気を感じる。使い方次第だろうなぁ」
どうやらリッチモンドは強化兵達にあまりいい印象を抱いていないようで、胡散臭そうに細められた目が四人に向けられていた。
クライシスの言う通り俺の運用次第、というところだろう。
「行こう!」
血を吸った大地を蹴り飛ばし、廃墟街と化した街中をペースを合わせて駆け抜けていくがリッチモンドの言った通り街の中はかなりの惨状だった。
至る所に人間とモンスターの死体が転がっており、時折生き残ったモンスター達がうろついていることもあった。
生き残ったモンスターは人間の死体を貪り、食い散らかされたであろう人間のパーツが散乱している。
目に付く残党を処理しながら街の半ばあたりまで差し掛かった頃、離れたところから争う剣戟の音と怒号が聞こえてきた。
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