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1巻

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「以上の事からお主は異常じゃ! いじょうだけにな! ホッホッホッ!」
「いや、笑えませんて……ていうか全然理解出来ないんですがそれは」
「ふむ、有り体に言ってしまえばお主は人間では無く、極論で言ってしまえば魔素そのものだ。しかしお主は現に生きておる。そして全身が魔素でコーティングされておる状態じゃ、分かるか?」
「は……はい……魔素そのもの……ですか」
「うむ。して、魔法という不思議現象の根本は分かるか?」
「術者が詠唱により、事象、概念、予測、思考そのものを規定し、術者が放った魔力により周囲の魔素を変化させ、魔法として具現化させる――でしたか」
「ザッッツライッ!! よう勉強しとるのう」
「魔法の事は姉にしこたま叩き込まれましたから……大体の魔法の詠唱、魔導技巧の仕組み、種類なども仕込まれました」
「ほう……?」

 その時、クラ爺の目が怪しく光ったのは見間違いでは無いだろう。

「じゃが! お主の言った事は正しくもあり間違いでもある。本来ならば詠唱なぞ必要ないんじゃからな」
「どういう、事でしょう」
「こういう事じゃよ」

 クラ爺はそう言うなり指を鳴らした。
 その刹那せつな、指先に拳大の火球と水球が同時に出現したのだ。
 詠唱も無しに、初級魔法である【ファイヤーボール】と【アクアボール】を二重展開してみせたのである。

「は、え? どうやって……」

 理解が追い付かず、ファイヤーボールとクラ爺の顔をせわしなく交互に見てしまう。
 ニヤニヤと笑うクラ爺を見るに、恐らくこの状態から答えを導き出せという事だろうか。
 詠唱をしていた素振そぶりは全く無かったし、ファイヤーボールやアクアボールを発動させるスクロールも見当たらない。
 本来なら詠唱なぞ必要ない、その言葉が頭に引っかかる。
 アルウィン家にいた時も家族は常に詠唱していた、というより、家の中にいても魔法を途切らせるところを見たことが無い。
 もちろん、攻撃魔法では無く、支援魔法や強化魔法など限定ではあったが。
 クラ爺の言う通りならアルウィン家のあの日常が崩れ落ち、さらには姉から教わった魔術理論や思考的魔導論法などもヒビが入ってくる。
 ん? 思考的魔導論法……? 思考を魔力に……?
 まさか。

「思考的魔導論法……の中に、英雄とうたわれる人物や大魔導師の一部は、己の思考を意のままに周囲に顕現けんげんしたと……いうお伽噺とぎばなしがあります」
「続けよ」

 俺の言葉に、ニヤニヤと笑っていたクラ爺の目に鋭い光が灯ったのが分かった。
 答えに近付いているということだろうか。

「意のままに顕現した、というのが今のクラ爺と共通だと仮定した場合、ですが……詠唱とは事象を固定させるのではなく導く行為であり、重要なのは術者による魔法の習熟、及び内容の把握。それが可能であれば詠唱を破棄してイメージ通りの魔法を発動する事も可能、といった所でしょうか」

 我ながら、かなりの暴論である。
 クラ爺はこちらをじっと見て押し黙ったままだ。沈黙が痛い。

「ま、正解としとくかのぉ。いやはやすごいのぅ、お主はこの短時間で魔導の深淵しんえんの一端を理解したのじゃ。誇ってよいぞ、魔法に頼らず知識と経験と現実で見事に判断しよった。魔法が使えないゆえに魔の真理に近付いたという事かのぉ」
「ありがとうございます。ですが知識だけ付いた所で私は」
「これからも魔法が使えないとワシは言っとらんぞ? 魔力が練れない、しかし体内には膨大ぼうだいな魔素があり、尚且なおかつ循環というプロセスを省いて体全体が魔素をまとっておるんじゃ。であれば、それを強制的に集約し、変換してやれば良いのじゃ」

 その言葉の意味を理解した瞬間の興奮は、類を見ないほどの熱量だったと思う。

「どうじゃ? やるか?」
「もちろんです! お願いします!」

 手段も工程も原理も何も聞かず、何も考えずに即答すると、クラ爺が椅子を蹴って立ち上がった。

「よろしい。ワシの出来る限りの事をしてみよう、クライスラー・ウインテッドボルトの名の下にな!」
「クライスラーって……かの有名な十三英雄の一人、焔雷帝えんらいていと言われたあの大魔導師ですか? 貴方が? そんなまさか……千年も昔の話ですよ?」


「ん? なんじゃ、お主ワシを知っとるんか? 英雄なんて周りが勝手に言っとるだけじゃよ。でも、そりゃあワシ大魔導師だし、長寿の法なぞ余裕のよっちゃんじゃて。他の奴らも大概やっとるぞ?」
「ナンデスッテ」

 クライスラー・ウインテッドボルト。
 千年前に起きた災厄さいやく、降魔大戦において、世界を勝利に導いたとされる十三人の一人。
 人の身でありながらあらゆる魔法に通じ、万物のことわりすら操るとされた世界最強の大魔導師。
 彼の張る障壁は全てを遮断しゃだんし、好んで使ったと言われるほのおの魔法と雷の魔法にちなみ、【絶壁の焔雷帝】と呼ばれる伝説の人物。
 伝わる二つ名は数知れず。
 目の前にいる陽気でファンキーな老人こそ、【絶壁の焔雷帝】その人であった。


       ◇ ◇ ◇


「さてさて、ここに取り出しましたるは、なんの変哲も無い五つの玉にございます」
「ってちょっと待ってくださいよ老師! これって子供用の教育玩具がんぐじゃないですか!」
「老師って呼んじゃいかん! クラ爺と呼んでくれんかの!!」
「そこじゃねぇよ!! 玉だよ! 股間見てんじゃねぇ! 合わせて七つの玉とか言ったらその髭むしるぞ! おぉん!?」
「冗談がつーじん奴じゃのぅ。これだから貴族はお堅い奴だと言われるんじゃて……お堅いのは」
「それ以上言うな!? まさか!? みたいな顔すんなよ変態ジジィ!」

 クラ爺が世界最強の大魔導師【絶壁の焔雷帝】その人だと判明してから数時間後、俺は盛大にタメ口でツッコミを入れていた。

「若人のハートキャッチは下い話と相場が決まっとったんじゃがのぉ……ワシの知らん間に様変わりしよったか? 世知辛せちがらいのぅ」
「そんな話しないでもキャッチしてますから。未だに……クラ爺が英雄のおひとりだと言うのは現実味がありませんがね。話は戻りますが、その玉は教育用玩具ですよね?」

 食事を済ませた後、部屋が無いからと言って、クラ爺が家を丸々魔法で作り替えてしまった時はかなり驚いた。
 掘っ建て小屋から、王都の高級住宅地にありそうなモダンな家に変わるまで、数分の出来事だったのだ。
 恐らくは様々な魔法が組み合わされた複雑な術式なのだろう、とだけは漠然ばくぜんと理解出来た。
 少ない荷物を解き、着替えを済ませて居間いまにあるテーブルへ着いた途端に五つの玉である。
 そりゃあ突っ込みたくもなりますわ。
 貴族のたしなみというやつだ。

「ホントだしぃ! まぁ良いわぃ……して、この玉の使い方は分かるな?」
「はい。使った事はありますが、魔法の発動には至りませんでした」

 オンボロの丸テーブルから、立派なダイニングテーブルに様変わりしたテーブルの上には、ビー玉を少し大きくしたような玉が転がっている。
 五つの玉の表面には公用語で【Water】や【Hard】など、様々な単語が刻まれている。
 これは五歳から十歳ぐらいまで使われる魔法道具の一つで、詠唱の流れや言葉を組み立てる順序を学ばせ、その魔法のイメージを掴むための教育用玩具なのだ。
 本来はもっと数があるので、クラ爺が取り出したのはその一部だろう。
 玉に刻まれた単語を並べ替え、玉の端と端に指を当てて魔力を使えばあら不思議。
 その玉の組み合わせの魔法が発動する、という仕組みだ。
 もちろん危険のない低級魔法で構成されていて、怪我などの事故が起きないよう留意してあるので安心だ。

「しかしおかしな体よのぅ。異常な数の経絡を持ち、細胞そのものが魔素を生成し、尚且つその細胞が魔素でコーティングされておる。体内を巡らないために魔力が練れず霧散する。吸収と放出を同時に行うという事はお主の体内魔素は常に満杯、イコール魔素を魔力に変換した所で減ったそばから満タンになるという事じゃ。うつわに水を入れても、許容範囲を超えればあふれるのと同じ現象じゃの。多分お主、魔力切れとは無縁だと思って良いぞ」
「はぁ……それは喜ばしい事ですが……発動しない事には」
「あんま喜んでないのぅ。お主の体はトンデモ異常事態なんじゃぞ? 使ったそばからどんどん吸収するんじゃからな。まぁ良い、本題に入ろうかの。実はこれ作ったのワシなんじゃよ」
「え!? あ、はい、そうなんですね」
「信じとらんな?」
「いえ、先程から理解し難い魔法を何度も目にしていれば、驚きも減るというものですよ」

 そうそう何度も驚いていたら、こっちの精神が持たない。
 もうこの人ならなんでもアリなんじゃないかとすら思う。

「チッ……んでな? この玩具の元になったのが、このアーティファクトじゃ」
「今舌打ちしましたよね? アーティファクトまで出しちゃいますか……トンデモジジィですね」

 クラ爺がほこりにまみれた小箱を一つテーブルの上へ置いて、ふたを開いた。
 箱の中には大小様々な大きさの水晶玉が入っていて、その玉の中に火の揺らめきや水滴、土塊つちくれ石礫いしつぶてが入っているのが見える。

「これは【マナオブクリスタル】という名前での。このクリスタルを握るなり杖にめるなりして、内部の属性と同調する魔法を使うと、威力が凄く跳ね上がるんじゃよ。ホントに。めっちゃ強いからね? それで、ワシが色々考えて出来たのが、簡略型のこの玩具じゃ。当時は幼少期における魔法修練の方法が、全くと言っていいほど確立されてなくてのぅ。言葉で説明するより体感した方が早いんじゃないかなーと思ってのぅ」
「なるほど。流石さすがです」
「驚き薄いのう……ワシ自信なくしそうじゃて」
「心配には及びません、驚きが限界突破しているだけですので。そのアーティファクトと私の魔法うんぬんとに、何か関係が?」
「なら良いんじゃが……関係大アリじゃ! これはお主が魔法を使えるようになる、要素の一つじゃて!」

 要素の一つとは、また嫌な予感のする言葉だ。
 少なくとももう一つ別にあるのだろうし、何かしらさせようという魂胆だろうな。
 俺の不安をよそに、クラ爺はもう一つ古ぼけた表紙の厚い本を取り出してきた。
 そしてバラバラと無造作にめくり、一つの図形が描いてあるページで手を止めた。

「これ、なんじゃと思う?」

 知らないよ! と再びツッコミを入れそうになった時だった。ページの図形がどこか見覚えのあるもののように思えて、注視してみた所……。

「爆発、という意味ですかね? この図形」
「ナンテコッタイ」

 口をあんぐりと開けたクラ爺の表情に笑ってしまいそうになった。が……確かにこの図形は【爆発】と読める。
 二重丸が複数のギザギザの円で囲まれている、とでも言い換えればいいだろうか? 実際はそんな簡単なものでは無いのだけれど。

「お主、読めるのか? ならばコレは? コレは?」

 ほうけた表情から一転、子供のように目をキラキラと輝かせた老人がそこにいた。次々とページをめくり、図形を出してはキャッキャッと喜ぶ様は本当に子供のように思えた。

「【鋼】【貫】【滅】【壊】【癒】なんですかこれ?」
「え? これ? ルーン文字じゃが何か?」
「はぁあ!?」

 自分のあごがテーブルに落ちたかと思った。それぐらい呆然ぼうぜんとした。目が飛んでったかと思った。それぐらい驚愕だった。
 古代ルーン文字、いつ頃使われていたかすら不明な謎の記号の羅列であり、象形文字として扱われる事もある。
 ルーン文字の解読は古代歴史文学家達の目標とされ、先史文明の謎トップと言わしめるほどの難題だ。
 常人では未だ解読した者はいないと言われており、その用途、意味、意義全てが歴史のやみに埋もれてしまっている、文学のオーパーツとも呼ばれる。
 それを……読めた? 嘘だろ?

「これだーれも読めんくてなぁ! そーかそーか! お主は読めるか! いやああ千年待った甲斐かいがあったぞい!」

 テンションが極まってしまったのだろうか、本を掲げながら小躍りをし始めたクラ爺を横目に俺は冷静に分析を試みる。
 はじめは分からなかった。しかし注視して全体を脳で読み込み、図形を構成している一つ一つの形を、再び脳で読み込んでみたのだ。
 簡単に言うと、考えないで感じた、といった感じだろうか。だんだん頭にその意味が浮かび上がってきたのだ。
 一度読み解いてしまえば二回目からは読み込み作業は必要なく、直感で意味が頭に浮かんだ。

「クラ爺は読めるのですか?」
「モチのロンじゃよ。ワシを誰と思うとるか」
「デスヨネ」
「この千年間ルーン文字を読める人間なんて皆無じゃったからな! これでルーン文字に関する考察やら推測を論じる相手が出来たという事じゃの!! ファーッハッハ!!」

 なるほど、常人では解読できた事が無い、というのはそういう事か。
 過去に読み解いたのはクラ爺だけ、なるほどなるほど、確かに常人では無いな。などとクラ爺に背中をバシンバシン叩かれながら思う。
 こうして俺は意図せずして先史文明の謎、古代ルーン文字を解読してしまったのだった。


       ◇ ◇ ◇


 クラ爺の家で養われるようになってから一ヶ月が経過した。心地よいそよ風と木漏こもれ日に包まれながら、俺は今、山の中を駆けている。
 これで狩りでもしていればかっこいいのだろうが、なんの事は無い、ただの走り込みのトレーニングの真っ最中だった。
 数メートル後ろには、完全回復したクーガが付かず離れずでピッタリと付いてきている。
 この一ヶ月で、クーガとは大分打ち解けた。名前もしっかりと認識しているらしく、俺が呼べばちゃんと目の前までやってくるようになった。
 俺が無意識に垂れ流していた大量の魔素にクーガはかれたのではないか? というのが、クラ爺の見解だった。初めての独り旅で極度の緊張状態にあった俺は、無意識的に放出する魔素の濃度を高めていたらしい。
 魔素には濃い薄いがあり、世界には高密度の魔素が満ちている秘境のような場所もある。そういう場所には強力なモンスターが棲息していて、あまり調査が進まないのだ。
 デッドリーウルフは強者である、ゆえに自分よりも強者にしか服従しない。
 クーガは怪我と飢えにより肉体と精神の限界を迎えていた。そんな時、高濃度の魔素を放ち、獣の恐れる火を操り、食料を持つ生物に出会った(余談だが、クーガは俺を人間とは認識していないだろう、との事だ)。
 助けて欲しかったんじゃろーな、とクラ爺は言っていた。
 初めてクラ爺に出会った時も魔力を垂れ流すな、とか言われたが、俺が放出する魔素が濃いゆえに、魔力と勘違いしたんだそうな。
 一部の強力な魔獣などは体の表面から濃密な魔力が漏れ出るが、それと同じような状態なのだという。
 歩く危険物みたいな存在の俺にちょっかいをかける馬鹿なモンスターは近辺にいないらしい。
 二日間、徒歩移動をしていたにもかかわらずモンスターに襲われなかったのには、そういう理由があったのだった。

「っと……、森の外れまで来たか。タイムは……うん悪くない。少しずつ縮まってる」

 あれから毎日、森の端から端へ全力往復するというだけのトレーニングにいそしんできた。
 最初は体力が持たず、決められた時間内では森の半分にも辿たどり着けなかったが、今では二往復ぐらい出来るようになった。
 クラ爺には、魔力や魔法などはまだ早い、まずは体力を付けろと言われている。
 体力になら自信があったのだけど、クラ爺と組手をしたら一時間と持たなかった(ちなみにこちらの攻撃はカスリもせず、肉弾戦で一方的に叩きのめされた)。
 だがこの調子なら、魔力コントロールの実験も近いのではないだろうか。

「まだじゃのう」

 俺が喜びと進捗しんちょくを伝えると、そんな言葉が返ってきた。

「じゃが、その進歩の速さは認めよう。今度はトレーニングをしつつ、ある物を探して欲しいんじゃ」
「ありがとうございます! しかしある物とは……?」
「それこそお主に必要であり、尚且つ生涯しょうがいを共にする魔道具の素材じゃ。集まり次第、錬金の術を教えよう」
「はっ、はいっ!!」


 翌日、俺はルートを大幅に変えて森を駆けていた。
 クラ爺から提示された物は、【魔鋼水晶の原石】【なまり】【砂金】【蓄魔茸ちくまだけ】の四つだ。
 どこにあるか、などのヒントは無し。
 この広大な大森林を探し回るのだから、なかなかに鬼畜きちくなオーダーだ。
 蓄魔茸は寄生植物という事だけが唯一の手がかりであり、これも何かのトレーニングだと信じて、森の外周から攻める事にしたのだが……。

「み、見つからない……」

 森の外周を二周してみたが、なんの成果も挙げられず、川辺に座り込み途方に暮れていた。
 そもそもよく考えてみたら、必要素材の三つは鉱物だ。森を飛び回った所で見つかるはずがない。
 茸の寄生対象すら把握していなかったので、結局の所、ただ外周を走っていつものトレーニングをしただけ。

「徒労だ……不毛だ……」

 膝を抱えていると、川の反対の林道を抜けてくる猟師の姿が見えた。

「そうだ……この地に詳しい猟師なら知ってるかもしれない」

 初めて他人に頼るという事を思いついた俺は、急いで川を飛び越え、猟師のちょうど目の前に着地した。

「んなぁ!?」
「突然申し訳ございません、ちょっと探し物をしておりまして……鉛と砂金と水晶と茸の場所をご存知ないでしょうか」

 はやる気持ちを抑え、努めて冷静に話しかけたつもりだったのだが……。

「あ、あんた、一体どこから……」

 猟師の目は大きく開かれており、アンデッドでも見たように顔を青ざめさせていた。

「え? あぁ、向こう岸からジャンプして渡ってまいりました」
「なんだって!? 少なくとも十五メートルはあるこの川をか!?」

 猟師の反応からして、何かやらかした感が凄いが、ここは冷静に切り抜けるべきだ。

「そ、そうですね。別に驚くような事ではありませんよ、風魔法を少し使用しただけですので」
「あぁ……なんだそうか……あんた魔術師さんなんだな、それなら合点がてんがいったよ。ジャンプって言うからてっきり……そんな人間離れした奴いるはずないよな」

 思わず魔法を使ったなんて大嘘を吐いてしまったが、乾いた笑いで誤魔化した所で少し強引に話を戻す。

「砂金ならこの川底をさらえばある程度取れるんじゃないかな。鉛は少し青みがかった灰色の地面を掘れば採れる。蓄魔茸は……ここら辺じゃ見ないぞ、もう少し奥地へ入って、ホーミングラビットを探すと結構くっついてる。水晶は……うーん……」
「分からないならいいんです。有用な情報に感謝いたします」
「知らないわけじゃないんだが……魔術師さんのあんたなら大丈夫か。ここから南西に行った所に、大きくけた岩場がある。そこを下りて側面の洞穴ほらあなを探すんだ。洞穴の奥にはそれなりの原石がある……だが気をつけるんだぞ? ココ最近、怪しげな連中がうろついてる、何かを探しているみたいだったが……雰囲気的にマトモな奴らじゃない」
「なるほど、把握いたしました。貴重なご意見とご助言、かさがさねお礼申し上げます」
「お、おお。いいんだよ別に。あんたの身の上は知らないけれど、まだ若いんだ。もう少し緩く生きてもいいと思うぜ? そんじゃな」

 そう言って、猟師は俺の肩を小突いて去っていった。我ながらとても良い応対だったと思う。
 去りゆく猟師の後ろ姿に頭を下げ、砂金を求めて川の中へ飛び込んだのだった。

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