欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

文字の大きさ
106 / 298
第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二六七話 増員

しおりを挟む
「四〇〇人ですか……! それは凄い!」

「いえ、ロンシャン連邦軍の総数に対しては雀の涙です。革命軍の勢いは凄まじく、裏切ったと思われる正規軍は主力部隊をいくつも抱えております。たかが四〇〇では大した抵抗も……」

 予期せぬ増員に心が踊ったのもつかの間、壮年兵が無念そうに顔を歪ませた。
 裏切った三分の一のロンシャン兵に、主力部隊が取り込まれているとするなら、壮年兵の言う通りかなり厳しい戦いになるだろう。

「ですがフィガロ様が参戦して頂けるとあれば! 光明も見えるというものです!」

「私以外にも強い方がいるのでご安心下さい。もしよろしければ一緒に来て頂けませんか? あの屋敷にはアーマライト王とヘカテー第二王女を含め、少ないですがロンシャン兵もいますので」

「よ、よろしいのですか……? 一般兵の私なんぞが……」

「大丈夫ですよ、なんせ非常時ですから」

「では待機している者達にその旨を伝えて参ります!」

 壮年兵は最敬礼をした後、全速力で駆けていき数分後に五人の共を連れて戻って来た。

「お待たせ致しました! この者達はそれぞれの部隊で小隊長を務めていた者達です、よろしければご同伴をと思いまして」

「かまいません、行きましょう」

 小隊長達と壮年兵を連れて屋敷へと戻り、扉を開けた。
 屋敷から離れていたのは時間にして二〇分ほどだと思うのだけど、扉を開けた途端、なぜか紅茶の良い香りが俺を出迎えてくれた。
 不思議に思いながら皆のいる大部屋まで移動した所、雑然としていた床は片付けられ、先程までは無かった二台のテーブルと不揃いな椅子が置かれていた。
 どこから出したのか、テーブルの上には湯気を立たせた紅茶と茶菓子がセットされており、大部屋にいる皆は思い思いにくつろいでいる。

「えっと……」

「やぁフィガロ、君もどうだい?」

 俺の近くに座っていたリッチモンドが、ティーカップを片手にそんな事を言ってくる。

「あ、じゃあ貰おうかな……じゃなくて! なんで紅茶!?」

「ふふ、驚いたか? 私が見つけたのだよ」

 半分思考が止まりかけた末にツッコミを入れると、リッチモンドと同じようにティーカップを片手に、ソファに座りながらも優雅な所作で紅茶を啜っているドライゼン王が言った。

「お父様ったら顔を洗いに行ったついでにキッチンを漁ってきたらしいのよ……はしたないったら無いわ」

「そう言うなシャルルよ。今は非常事態なのだ、背に腹は変えられないのだし、私の見つけた紅茶を飲みながら言っても説得力に欠けるというものだ」

「うっ……」

「ドライゼン陛下って意外にお茶目よね」

「よすのだヘカテー、失礼だろう」

 ソファは王族エリアになっているらしく、シャルル、ドライゼン王、ヘカテーとアーマライト王の四人しか座っていない。
 
「これは一体……」

 俺について来た壮年兵と小隊長達が呆気に取られながら、目の前の光景を懸命に飲み込もうとしていた。
 シャルルが俺の分の紅茶を入れてくれたらしく、小さめだが可愛らしいデザインのティーカップが俺に手渡される。
 非常時でも慌てず騒がず、どっしりと構える両王家に少しばかり感心しながら、俺はアーマライト王へ話を振る。

「アーマライト陛下、他の地域で戦っていたロンシャン兵の方々が合流を求めております」

 俺の言葉を合図に、大部屋の外で待機していた六名のロンシャン兵が中へと入り、最敬礼をしてアーマライト王の前に出た。

「ん? おお!! なんとなんと! 此度は実に頑張ってくれているようだな、感謝するぞ!」

 アーマライト王は兵達が言葉を発するよりも早く立ち上がり、五人の前に立って握手をして回った。

「へ、陛下と王女殿下にあられましては……」

「うむ、うむ。よくぞここまで! そしてよくぞ裏切らないでいてくれた! 本当に感謝するぞ!」

 アーマライト王は壮年兵の挨拶を途中で遮り、握った手を何度も上下に振っている。
 その目尻にうっすらと涙が浮かんでいるのが見え、アーマライト王の言葉に嘘は無いのだなと思った。

「それで、合流はお前達だけか?」

「いえ! 混成部隊ではありますが少数の小隊長ならびに以下各兵四〇〇! 屋敷周辺に待機しております!」

 壮年の横に立っていた小隊長の一人がずい、と前に進み出て声を高らかにした。

「おお……素晴らしい、してその隊を指揮しているのは誰だ?」

「指揮官はおりません! ゆえにアーマライト陛下直々に指示を仰ぐべく参上致しました!」

「ふむ……しかしなぁ……」

 小隊長の要請を聞いたアーマライト王は腕を組み、顎を掴んで唸るように答えた。

「駄目なのですか?」
 
 俺的には即答で「よし分かった!」となるとばかり思っていたので、アーマライト王へ疑問を投げかけた。

「本来軍の指揮は総司令から司令へ、そこから更に……となる。それに……私が最後に軍を率いたのは二〇年も昔の事だ」
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。