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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二六七話 増員
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「四〇〇人ですか……! それは凄い!」
「いえ、ロンシャン連邦軍の総数に対しては雀の涙です。革命軍の勢いは凄まじく、裏切ったと思われる正規軍は主力部隊をいくつも抱えております。たかが四〇〇では大した抵抗も……」
予期せぬ増員に心が踊ったのもつかの間、壮年兵が無念そうに顔を歪ませた。
裏切った三分の一のロンシャン兵に、主力部隊が取り込まれているとするなら、壮年兵の言う通りかなり厳しい戦いになるだろう。
「ですがフィガロ様が参戦して頂けるとあれば! 光明も見えるというものです!」
「私以外にも強い方がいるのでご安心下さい。もしよろしければ一緒に来て頂けませんか? あの屋敷にはアーマライト王とヘカテー第二王女を含め、少ないですがロンシャン兵もいますので」
「よ、よろしいのですか……? 一般兵の私なんぞが……」
「大丈夫ですよ、なんせ非常時ですから」
「では待機している者達にその旨を伝えて参ります!」
壮年兵は最敬礼をした後、全速力で駆けていき数分後に五人の共を連れて戻って来た。
「お待たせ致しました! この者達はそれぞれの部隊で小隊長を務めていた者達です、よろしければご同伴をと思いまして」
「かまいません、行きましょう」
小隊長達と壮年兵を連れて屋敷へと戻り、扉を開けた。
屋敷から離れていたのは時間にして二〇分ほどだと思うのだけど、扉を開けた途端、なぜか紅茶の良い香りが俺を出迎えてくれた。
不思議に思いながら皆のいる大部屋まで移動した所、雑然としていた床は片付けられ、先程までは無かった二台のテーブルと不揃いな椅子が置かれていた。
どこから出したのか、テーブルの上には湯気を立たせた紅茶と茶菓子がセットされており、大部屋にいる皆は思い思いにくつろいでいる。
「えっと……」
「やぁフィガロ、君もどうだい?」
俺の近くに座っていたリッチモンドが、ティーカップを片手にそんな事を言ってくる。
「あ、じゃあ貰おうかな……じゃなくて! なんで紅茶!?」
「ふふ、驚いたか? 私が見つけたのだよ」
半分思考が止まりかけた末にツッコミを入れると、リッチモンドと同じようにティーカップを片手に、ソファに座りながらも優雅な所作で紅茶を啜っているドライゼン王が言った。
「お父様ったら顔を洗いに行ったついでにキッチンを漁ってきたらしいのよ……はしたないったら無いわ」
「そう言うなシャルルよ。今は非常事態なのだ、背に腹は変えられないのだし、私の見つけた紅茶を飲みながら言っても説得力に欠けるというものだ」
「うっ……」
「ドライゼン陛下って意外にお茶目よね」
「よすのだヘカテー、失礼だろう」
ソファは王族エリアになっているらしく、シャルル、ドライゼン王、ヘカテーとアーマライト王の四人しか座っていない。
「これは一体……」
俺について来た壮年兵と小隊長達が呆気に取られながら、目の前の光景を懸命に飲み込もうとしていた。
シャルルが俺の分の紅茶を入れてくれたらしく、小さめだが可愛らしいデザインのティーカップが俺に手渡される。
非常時でも慌てず騒がず、どっしりと構える両王家に少しばかり感心しながら、俺はアーマライト王へ話を振る。
「アーマライト陛下、他の地域で戦っていたロンシャン兵の方々が合流を求めております」
俺の言葉を合図に、大部屋の外で待機していた六名のロンシャン兵が中へと入り、最敬礼をしてアーマライト王の前に出た。
「ん? おお!! なんとなんと! 此度は実に頑張ってくれているようだな、感謝するぞ!」
アーマライト王は兵達が言葉を発するよりも早く立ち上がり、五人の前に立って握手をして回った。
「へ、陛下と王女殿下にあられましては……」
「うむ、うむ。よくぞここまで! そしてよくぞ裏切らないでいてくれた! 本当に感謝するぞ!」
アーマライト王は壮年兵の挨拶を途中で遮り、握った手を何度も上下に振っている。
その目尻にうっすらと涙が浮かんでいるのが見え、アーマライト王の言葉に嘘は無いのだなと思った。
「それで、合流はお前達だけか?」
「いえ! 混成部隊ではありますが少数の小隊長ならびに以下各兵四〇〇! 屋敷周辺に待機しております!」
壮年の横に立っていた小隊長の一人がずい、と前に進み出て声を高らかにした。
「おお……素晴らしい、してその隊を指揮しているのは誰だ?」
「指揮官はおりません! ゆえにアーマライト陛下直々に指示を仰ぐべく参上致しました!」
「ふむ……しかしなぁ……」
小隊長の要請を聞いたアーマライト王は腕を組み、顎を掴んで唸るように答えた。
「駄目なのですか?」
俺的には即答で「よし分かった!」となるとばかり思っていたので、アーマライト王へ疑問を投げかけた。
「本来軍の指揮は総司令から司令へ、そこから更に……となる。それに……私が最後に軍を率いたのは二〇年も昔の事だ」
「いえ、ロンシャン連邦軍の総数に対しては雀の涙です。革命軍の勢いは凄まじく、裏切ったと思われる正規軍は主力部隊をいくつも抱えております。たかが四〇〇では大した抵抗も……」
予期せぬ増員に心が踊ったのもつかの間、壮年兵が無念そうに顔を歪ませた。
裏切った三分の一のロンシャン兵に、主力部隊が取り込まれているとするなら、壮年兵の言う通りかなり厳しい戦いになるだろう。
「ですがフィガロ様が参戦して頂けるとあれば! 光明も見えるというものです!」
「私以外にも強い方がいるのでご安心下さい。もしよろしければ一緒に来て頂けませんか? あの屋敷にはアーマライト王とヘカテー第二王女を含め、少ないですがロンシャン兵もいますので」
「よ、よろしいのですか……? 一般兵の私なんぞが……」
「大丈夫ですよ、なんせ非常時ですから」
「では待機している者達にその旨を伝えて参ります!」
壮年兵は最敬礼をした後、全速力で駆けていき数分後に五人の共を連れて戻って来た。
「お待たせ致しました! この者達はそれぞれの部隊で小隊長を務めていた者達です、よろしければご同伴をと思いまして」
「かまいません、行きましょう」
小隊長達と壮年兵を連れて屋敷へと戻り、扉を開けた。
屋敷から離れていたのは時間にして二〇分ほどだと思うのだけど、扉を開けた途端、なぜか紅茶の良い香りが俺を出迎えてくれた。
不思議に思いながら皆のいる大部屋まで移動した所、雑然としていた床は片付けられ、先程までは無かった二台のテーブルと不揃いな椅子が置かれていた。
どこから出したのか、テーブルの上には湯気を立たせた紅茶と茶菓子がセットされており、大部屋にいる皆は思い思いにくつろいでいる。
「えっと……」
「やぁフィガロ、君もどうだい?」
俺の近くに座っていたリッチモンドが、ティーカップを片手にそんな事を言ってくる。
「あ、じゃあ貰おうかな……じゃなくて! なんで紅茶!?」
「ふふ、驚いたか? 私が見つけたのだよ」
半分思考が止まりかけた末にツッコミを入れると、リッチモンドと同じようにティーカップを片手に、ソファに座りながらも優雅な所作で紅茶を啜っているドライゼン王が言った。
「お父様ったら顔を洗いに行ったついでにキッチンを漁ってきたらしいのよ……はしたないったら無いわ」
「そう言うなシャルルよ。今は非常事態なのだ、背に腹は変えられないのだし、私の見つけた紅茶を飲みながら言っても説得力に欠けるというものだ」
「うっ……」
「ドライゼン陛下って意外にお茶目よね」
「よすのだヘカテー、失礼だろう」
ソファは王族エリアになっているらしく、シャルル、ドライゼン王、ヘカテーとアーマライト王の四人しか座っていない。
「これは一体……」
俺について来た壮年兵と小隊長達が呆気に取られながら、目の前の光景を懸命に飲み込もうとしていた。
シャルルが俺の分の紅茶を入れてくれたらしく、小さめだが可愛らしいデザインのティーカップが俺に手渡される。
非常時でも慌てず騒がず、どっしりと構える両王家に少しばかり感心しながら、俺はアーマライト王へ話を振る。
「アーマライト陛下、他の地域で戦っていたロンシャン兵の方々が合流を求めております」
俺の言葉を合図に、大部屋の外で待機していた六名のロンシャン兵が中へと入り、最敬礼をしてアーマライト王の前に出た。
「ん? おお!! なんとなんと! 此度は実に頑張ってくれているようだな、感謝するぞ!」
アーマライト王は兵達が言葉を発するよりも早く立ち上がり、五人の前に立って握手をして回った。
「へ、陛下と王女殿下にあられましては……」
「うむ、うむ。よくぞここまで! そしてよくぞ裏切らないでいてくれた! 本当に感謝するぞ!」
アーマライト王は壮年兵の挨拶を途中で遮り、握った手を何度も上下に振っている。
その目尻にうっすらと涙が浮かんでいるのが見え、アーマライト王の言葉に嘘は無いのだなと思った。
「それで、合流はお前達だけか?」
「いえ! 混成部隊ではありますが少数の小隊長ならびに以下各兵四〇〇! 屋敷周辺に待機しております!」
壮年の横に立っていた小隊長の一人がずい、と前に進み出て声を高らかにした。
「おお……素晴らしい、してその隊を指揮しているのは誰だ?」
「指揮官はおりません! ゆえにアーマライト陛下直々に指示を仰ぐべく参上致しました!」
「ふむ……しかしなぁ……」
小隊長の要請を聞いたアーマライト王は腕を組み、顎を掴んで唸るように答えた。
「駄目なのですか?」
俺的には即答で「よし分かった!」となるとばかり思っていたので、アーマライト王へ疑問を投げかけた。
「本来軍の指揮は総司令から司令へ、そこから更に……となる。それに……私が最後に軍を率いたのは二〇年も昔の事だ」
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