欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二七四話 若き日の思い出

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 獣人もそうだが、亜人には沢山の種族が居て細分化していけばその数は数百ともいわれている。
 亜人の起源は定かではなく、一説によると俺達のような通常人種よりも先に世界に生まれたとされている。
 通常人種とは違い、手先があまり器用ではない彼らは狩猟や農業を主として生活の基盤を作っていた。
 仲間意識は強いが別の種族(たとえ同じ亜人であっても)に対してはさほど興味を示さず、閉鎖的な生活をしている面もある。
 亜人はどちらかと言えば通常人種よりも優れているのが実情であり、別段知能が低いわけでもないし、肉体的なポテンシャルも高く、特筆すべくは亜人が備えている種族ごとの特殊な能力だろう。
 長時間の潜水、高熱にも耐える肌、暗闇でも平気で動き回れる目、遠くを見渡せる目、体温を視覚的に読み取る、風の色を判別出来る、などなど実に多様な能力を持つのだ。
 上位の亜人種の中には、ドラゴンのように口から属性のブレスを吐くことも可能な種族さえいる。
 通常人種は世界のカーストでも最下位に入るほどの脆弱さを持ち、最弱と称される種族だが器用な手先と柔軟な思考、そして貪欲なまでの知的好奇心、通常人種は特殊な能力こそ持たないものの世界でもトップに入る繁殖能力の高さを持っている。
 通常人種は海を渡り山を越え谷に橋を架け、世界のどこででも繁殖を行いその数を増やしていった。
 ドライゼン王とクライシスがいた村も、世界を流浪した通常人種が住み着いた者達がいた。
 村での比率は亜人が七、通常人種が三といったところであり、ごく稀にではあるが通常人種と亜人が結ばれることもあったそうだ。
 その村の亜人達は雑食で、南方大陸に生息する家畜や果実などを育てていた。
 平和で牧歌的な生活が続いたが、ある時長期間に渡って雨が集中し、村のそばにあった川が氾濫、近くの山も土砂崩れが起きるという大きな災害が起きた。
 その時、医者として暮らしていたクライシスは多少の魔法が使えるくらいの老人だったそうだが、災害が起きた際にドライゼン王が見たことも無い様々な魔法を駆使して、洪水や土砂崩れから村を守ったというのだ。
 圧倒的な自然の力すら防ぎきったクライシスに、ドライゼン王は畏怖と尊敬の念を抱いた。
 それは亜人達も同様で、クライシスは村の長にずっとここに居てくれないかとかなり頼み込まれたらしい。
 根負けしたクライシスは一〇年という期限付きで村に残り続ける事を承諾したのだと。
 災害の爪痕は酷く、川の氾濫によって起きた洪水や長期間の雨で畑はすべて駄目になり、ドライゼン王は復興の手伝いに専念した。
 そして季節は過ぎ、村での滞在が半年を過ぎたころ、ドライゼン王はその村を後にしたのだ。
 村を出たドライゼン王は、クライシスのようにはなれないだろうが、自分の持つ固有結界をより強固なものにしようと決意したのだった。
 五年という長い時間をかけて南方大陸を巡り、様々な亜人や獣人の文化、営みにふれたドライゼンは南方大陸から西方大陸へと旅立っていったのだった。

「うらやましい!」

 ドライゼン王がそこで話を切ると、開口一番にシャルルがそう言った。

「父上と母上の言いつけなのだから仕方あるまい」

「私も行ってみたい!」

「それは無理なんじゃないかな……?」

「なんでよー!」

 シャルルの言い分に困った顔を浮かべるドライゼン王に助け船を入れると、すかさずシャルルは俺に矛先を変えた。

「だってシャルルは王女様だろ?」

「お父様だって旅行した時は王子よ?」

「旅行では無いのだがな……」

「立派な旅行よ!」

 ドライゼン王が訂正しようとしても、シャルルはがんとして譲らない。
 シャルルは虚弱体質だったこともあり、式典や政務などでしか国外に出かけたことがなく、それもランチアと国交のある限られた国のみ、観光する暇も体力も無かったのだろう。
 そんな境遇の彼女からしてみれば、前王の言いつけとはいえ諸国を漫遊していた父親が羨ましいのだろう。
 ドライゼン王も、あまり国外に出たことのないシャルルを慮って過去話をしなかったと思われる。

「ちゃんと立派に父親やってるじゃねーか。立派になったもんだな」

「未だに信じられませんが……あの村での出来事を知っており、フィガロとシャルルの言質もある。相変わらず驚かせてくれますなぁクライシス卿。随分とお若くなられて……お久しぶりです。その節はお世話になりました」

「いーってことよ」

 席を立ち深々と礼をするドライゼン王に対し、大仰に頷くクライシスを見ているとなんだか不思議な感覚になる。
 軽く話してはいるが、クライシスは千年という永遠にも思える時間をずっと生きてきた人だ。
 その中で何回、何百回、何千回かもしれない出会いと別れを経験しているはずだ。
 仲の良い友人や家族もいただろう、見知った仲間たちが次々とこの世を去り、自分は一人生き続ける、というのはどんな思いなのか。
 千年前の一三英雄の一人、クライスラー・ウインテッドボルト。
 彼が胸中に何を抱え、何を考えて永劫の時を生き続けているのかは分からない。
 俺が体中から吐き出した魔素の影響で若返ったクライシスはあと何年、何十年生き続けるのだろう。
 世界の、生者の理から外れた英雄の果てはどこにあるというのか。
 ケラケラと楽しそうに笑うクライシスを見ながら俺はそんな事を考えていた。
 
 
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