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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二八八話 プルミエール
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人物表記が異なりますが、前の話は修正をかけますのでご了承ください。
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「プルさんを……助ける?」
「はい……差し出がましいとは思いますが……」
「ちょっと状況が飲み込めないので、理由を聞かせてもらっても?」
「分かりました……プル姉は……私達四人の中で一番古株の奴隷でした」
ハンヴィーは強気そうな目で真っ直ぐに俺を捉え、自らの嘆願の理由を静かに語りだした。
前の主人の下に奴隷として買われたのはプルが一番最初で、次にアハトが買われ、ハンヴィーとシロンは同じ日に買われた。
過酷な奴隷生活の中、四人の絆は深まっていき、最年長でもあったプルはハンヴィー達の姉のような立ち位置になっていった。
ある日、馬小屋の一角で夜を過ごした時、誰ともなく、自らの過去を話す機会があった。
みな様々な事情で奴隷に身を落としたが、ハンヴィーはプルの過去話が一番印象に残った。
プルの正式な名前はプルミエール、プルミエール・リベラ・サンダース。
幼い頃の愛称がプルだった。
サンダース家は代々続く騎士の家系で、プルも漏れなく騎士の道を歩み、地方領主に仕える騎士隊長として日々を過ごしていた。
日々は平穏だったが、悲劇は突然に訪れた。
騎士隊長として部下と訓練に励んでいた日のこと、大量のモンスターが領地の外から流れ込んできたという報を聞いたプルは、急ぎ部下を率いてモンスターの討伐へ向かった。
領地外から流れてきたモンスターの群れはオークやゴブリンといった低級のものばかりで、討伐自体はさほど苦では無かった。
討伐を終え領主の待つ屋敷に着いた時、屋敷からは火の手があがっており、見知った人々の亡骸を目にした。
それはプル達の不在を狙った賊の犯行であり、さらに賊はプル達の帰還を待っていたかのように再び現れた。
退路を絶たれ乱戦となる中、プルは部下達を逃がす事を決めた。
あらゆる手段を用いて部下達を逃がす事に成功したプルだが、奮闘虚しくプルは捕縛され、その後奴隷として高値で売られた。
様々な主人を巡り、いつしか一〇年が経過した三〇歳のころ、直近の主人であるミロクへ買われた。
「騎士……か」
「はい。プル姉は私達の中で一番腕が立ちます。どうかお願いです! プル姉を辺境伯様の騎士として登用しては頂けないでしょうか!」
切実に嘆願するハンヴィーの目は真剣そのものであり、生半可な気持ちでここにいるのでは無いらしい。
しかしながら、ハンヴィーの話を聞いたからといって、はいそうですか、と了承するわけにもいかない。
「一ついいですか? 私がプルさんを騎士として登用する事と、彼女を助ける事に何の関係性があるのです?」
「それは……プル姉が跪くなんて……あんな態度を見るのは初めてで……きっとまだ心のどこかで思う所があるに違いないんです。上手く言えないんですけど……きっと、きっとお役に立てると思うんです! プル姉は失敗した私達を何度も庇って、何度も、何度も私達の代わりに罰を受けてくれました。私はプル姉の人生があれでいいと思いません、辺境伯様ならもっと良い方向に導いてくれると、そう思うんです……申し訳ございません、言葉をあまり知らず上手く説明出来ず……」
「なるほど。ハンヴィーさんの言いたい事は何となく伝わりました。しかし今すぐにお返事するのは難しいです。何せ非常事態ですからね、ですが私の事をどうしてそこまでかってくれるのですか? 皆さんを拾ったリッチモンドならいざ知らず、私はハンヴィーさん達から信頼されるような事は何一つしていないと思うのですが?」
「辺境伯様はお風呂と……食事と……新しい服を与えてくれました。リッチモンド様は新しい人生と自由を下さいました。それに……」
ハンヴィーは一度言葉を切り、自分の指と指を絡ませて言い辛そうにしている。
「それに?」
「お食事を頂いた時にリッチモンド様が仰っていたんです。辺境伯様は信頼していい、困った事があれば言うといい、きっと力になってくれるだろう、って……」
「あー……そういう事ですか……」
大した話もしていない俺の前に、ハンヴィーが一人で訪れたのはリッチモンドの進言があったからなんだろう。
彼女が一人でここに来たのは、プルを助けて欲しいという願いが皆の願いでは無く彼女の願いだという事。
さっきはハンヴィーにああ言ったが、シルバームーン家の人員が増えるのは俺としては別に構わない、実際今は人が足りてないしな。
けど本人の希望で無いのなら即答は出来かねる、というのが本当の所だ。
ハンヴィーの願いは聞き届けたし、理由も納得出来る、あとはプルにその意思が本当にあるのかどうかを判断するだけだ。
「分かりました。リッチモンドの口添えなら期待を裏切るわけにはいきませんね。ハンヴィーさんの願いはお受けしました、ですがやはり今すぐにお返事は難しいです。プルさんの意思も尊重したいので……詳細は落ち着いた後、プルさんとお話をした上で決定したいと思いますが……よろしいですか?」
「あ……はい! ありがとうございます! ありがとうございます!」
俺の考えを聞いたハンヴィーは一瞬言葉に詰まり、その後何度もお礼の言葉を口にした。
彼女の金色の瞳には大粒の涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうだった。
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「プルさんを……助ける?」
「はい……差し出がましいとは思いますが……」
「ちょっと状況が飲み込めないので、理由を聞かせてもらっても?」
「分かりました……プル姉は……私達四人の中で一番古株の奴隷でした」
ハンヴィーは強気そうな目で真っ直ぐに俺を捉え、自らの嘆願の理由を静かに語りだした。
前の主人の下に奴隷として買われたのはプルが一番最初で、次にアハトが買われ、ハンヴィーとシロンは同じ日に買われた。
過酷な奴隷生活の中、四人の絆は深まっていき、最年長でもあったプルはハンヴィー達の姉のような立ち位置になっていった。
ある日、馬小屋の一角で夜を過ごした時、誰ともなく、自らの過去を話す機会があった。
みな様々な事情で奴隷に身を落としたが、ハンヴィーはプルの過去話が一番印象に残った。
プルの正式な名前はプルミエール、プルミエール・リベラ・サンダース。
幼い頃の愛称がプルだった。
サンダース家は代々続く騎士の家系で、プルも漏れなく騎士の道を歩み、地方領主に仕える騎士隊長として日々を過ごしていた。
日々は平穏だったが、悲劇は突然に訪れた。
騎士隊長として部下と訓練に励んでいた日のこと、大量のモンスターが領地の外から流れ込んできたという報を聞いたプルは、急ぎ部下を率いてモンスターの討伐へ向かった。
領地外から流れてきたモンスターの群れはオークやゴブリンといった低級のものばかりで、討伐自体はさほど苦では無かった。
討伐を終え領主の待つ屋敷に着いた時、屋敷からは火の手があがっており、見知った人々の亡骸を目にした。
それはプル達の不在を狙った賊の犯行であり、さらに賊はプル達の帰還を待っていたかのように再び現れた。
退路を絶たれ乱戦となる中、プルは部下達を逃がす事を決めた。
あらゆる手段を用いて部下達を逃がす事に成功したプルだが、奮闘虚しくプルは捕縛され、その後奴隷として高値で売られた。
様々な主人を巡り、いつしか一〇年が経過した三〇歳のころ、直近の主人であるミロクへ買われた。
「騎士……か」
「はい。プル姉は私達の中で一番腕が立ちます。どうかお願いです! プル姉を辺境伯様の騎士として登用しては頂けないでしょうか!」
切実に嘆願するハンヴィーの目は真剣そのものであり、生半可な気持ちでここにいるのでは無いらしい。
しかしながら、ハンヴィーの話を聞いたからといって、はいそうですか、と了承するわけにもいかない。
「一ついいですか? 私がプルさんを騎士として登用する事と、彼女を助ける事に何の関係性があるのです?」
「それは……プル姉が跪くなんて……あんな態度を見るのは初めてで……きっとまだ心のどこかで思う所があるに違いないんです。上手く言えないんですけど……きっと、きっとお役に立てると思うんです! プル姉は失敗した私達を何度も庇って、何度も、何度も私達の代わりに罰を受けてくれました。私はプル姉の人生があれでいいと思いません、辺境伯様ならもっと良い方向に導いてくれると、そう思うんです……申し訳ございません、言葉をあまり知らず上手く説明出来ず……」
「なるほど。ハンヴィーさんの言いたい事は何となく伝わりました。しかし今すぐにお返事するのは難しいです。何せ非常事態ですからね、ですが私の事をどうしてそこまでかってくれるのですか? 皆さんを拾ったリッチモンドならいざ知らず、私はハンヴィーさん達から信頼されるような事は何一つしていないと思うのですが?」
「辺境伯様はお風呂と……食事と……新しい服を与えてくれました。リッチモンド様は新しい人生と自由を下さいました。それに……」
ハンヴィーは一度言葉を切り、自分の指と指を絡ませて言い辛そうにしている。
「それに?」
「お食事を頂いた時にリッチモンド様が仰っていたんです。辺境伯様は信頼していい、困った事があれば言うといい、きっと力になってくれるだろう、って……」
「あー……そういう事ですか……」
大した話もしていない俺の前に、ハンヴィーが一人で訪れたのはリッチモンドの進言があったからなんだろう。
彼女が一人でここに来たのは、プルを助けて欲しいという願いが皆の願いでは無く彼女の願いだという事。
さっきはハンヴィーにああ言ったが、シルバームーン家の人員が増えるのは俺としては別に構わない、実際今は人が足りてないしな。
けど本人の希望で無いのなら即答は出来かねる、というのが本当の所だ。
ハンヴィーの願いは聞き届けたし、理由も納得出来る、あとはプルにその意思が本当にあるのかどうかを判断するだけだ。
「分かりました。リッチモンドの口添えなら期待を裏切るわけにはいきませんね。ハンヴィーさんの願いはお受けしました、ですがやはり今すぐにお返事は難しいです。プルさんの意思も尊重したいので……詳細は落ち着いた後、プルさんとお話をした上で決定したいと思いますが……よろしいですか?」
「あ……はい! ありがとうございます! ありがとうございます!」
俺の考えを聞いたハンヴィーは一瞬言葉に詰まり、その後何度もお礼の言葉を口にした。
彼女の金色の瞳には大粒の涙が浮かび、今にもこぼれ落ちそうだった。
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