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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二九一話 制圧戦
しおりを挟む王城内ではロンシャン兵達の快進撃が続いていた。
兵士達は多方面から城内に突撃した後、一階フロアの各部屋やメインホール、中庭への出入口などを順次制圧して回った。
強化魔法を掛けた兵士達に革命軍は手も足も出ず、ただただ蹂躙されていく様が至る所で見受けられる。
本来強化魔法というのは対人では無く、強力なモンスターなどと戦うことを前提に構成されている。
俺が今回掛けた強化魔法は筋力増強のみ、しかし魔法の効果が筋力増強だけというわけではない。
増強した筋肉の反応速度や瞬発力に対応出来るよう、体の各所もそれなりに能力が上昇する。
メインで強化されるのが筋肉、サポートとして副次的に強化されるのか視力、聴力、反射神経である。
強化魔法は他にも【聴力上昇】【視覚強化】【皮膚硬化】などなど多数の種類がある。
種類ごとに上昇、強化される箇所が違い、サポートされる身体能力も違うのだ。
強化魔法を掛けた兵士達は、ある意味強化兵と言っても過言ではないだろう。
俺の前では剣で、盾で、拳で、脚先で革命軍を翻弄し、完膚なきまでに叩きのめす兵士達の姿がある。
そんな兵士達の手にかかり、王城の一階部分は一時間もしないうちに完全に制圧された。
「各所クリア! 上階の応援に向かいます!」
「分かりました、アーマライト王、こちらは一階部分完全に制圧しました。そちらはどうですか?」
「なんと! 早いですな! こちらに敵の動きは無い、その調子で制圧を頼みましたぞ!」
「仰せのままに」
ロンシャン兵達は一階に一部の小隊を残し、上階で戦闘中の味方へ合流する為に大階段を駆け上がっていく。
それを見守りながら俺はアーマライト王へリングで報告。
報告を終わらせてから大階段を登って行った。
吹き抜けの大階段を駆け登り、左右に分かれた通路に出ると右手にアストラの姿を認めた。
アストラは通路の奥の踊り場で多人数を相手取っているようだ。
しかし苦戦している様子は無く、間断なく迫る刃を華麗に捌き革命軍を斬り捨てている。
「あっちは大丈夫そうだ。俺達は左に行こう」
『分かったわ!』
大人シャルルとブラック達を引き連れ、朝日が射し込む長い廊下を進んでいく。
突き当たりの角を曲がろうとしたその時、強烈な殺気と共にロンシャン兵が二人吹き飛んで来た。
二人の息は既に無く、体には無数の刺突痕、これが致命傷であった事は間違いない。
壁際に寄り、向こう側を伺おうとすると見知らぬ声が聞こえた。
「隠れても無駄だ、そこにいるのは分かっている。さっさと出て来い!」
声の主が角に潜んでいる俺達の事を言っているのは確実だ。
このまま隠れていても無駄と判断した俺は、ゆっくりと角から出た。
「少年……だと」
「おはようございます。いい天気ですね」
「ただの少年がこんな場所にいるはずもない。貴様、何者だ?」
目の前に立つ人物が困惑したような声色で言った。
「私はフィガロといいます。何者と聞かれてもただの一般人としかお答え出来ませんね」
「ここは一般人が来る場所では無い。下手な言い訳はよすんだな」
「言い訳ではありませんが、話していても埒が明かないのでは無いですか? 貴方は……革命軍の方ですね」
「いかにも。元赤龍騎士団一番隊隊長にして革命軍一番隊隊長、コルト」
「隊長さんのお出ましですか……しかも赤龍騎士団にいらしたという事はガバメントの部下、ですね」
「だから何だと言うのだ」
コルトと名乗った人物は一六〇センチほどの身長で細身の体躯、茶色の髪を後ろで纏めており、その長さは腰あたりまである……女性だった。
切れ長の瞳は薄く開かれ、射抜くような視線を俺に送っている。
そして両手に携えるのは刺突用の武器、エストック。
「いえ、ここを通るには貴女を倒すしかない、という事ですか」
「そうなるな。そこの五人の誰でもいいぞ? この私を倒せると言うのなら倒してみせろ、勿論全員で来てもいいのだがな」
コルトは俺達にエストックの先端を突き付け、嘲笑うかのような微笑を浮かべながら続けた。
「後ろのは少年の従者と見た。そこの甲冑を着た男、私と闘え」
手にしたエストックをゆっくりと動かし、先端をブラックの前でピタリと止めてコルトは言った。
するとブラックは一言も発さずに歩み出て、持っていた抜き身のロングソードを構えた。
「え、ブラック……?」
どういう事だ。
俺はブラックに何の思念も送っていないのだ。
なのに彼は自分から進み出た。
動きはいつも通りだし、何の変化も見られない、慌ててブラウンやピンク、ホワイトを見るが動く様子は無い。
「四人の従者は中々に強者と見た。名前を聞こう」
「…………」
「ふん、敵と交わす言葉は無いと、そう言いたいのか。良いだろう、ならば剣を交えて対話するのみ!」
口角をギッ、と釣り上げたコルトが床を蹴る。
それと同時に、さらに驚愕の出来事が起きた。
「我が名、は……ブラック、いざ」
自我の無いはずのブラックがたどたどしい言葉を発し、床を蹴り飛ばしてコルトに肉薄したのだった。
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