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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
二九八話 救えない命
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「そらそらそら! こっちだこっち!」
宙を舞い踊るようにちょこまかと飛び回り、ショゴスの注意を引くべく絶えず魔法を叩き込む。
やはり攻撃が効かなくても立て続けに当てられるのは鬱陶しいのだろう、始め俺に向けた触手は一本二本だったのだが、徐々に数を増していっている。
こちらに触手を回している分大広間への攻撃が手薄になっているのか、ロンシャン兵やブラック達は本体に近付きつつあった。
外の強風は強さを増しているのだが、フライを発動中は外の干渉を全く受けないので風に煽られることも無い。
だがショゴスの触手は違うようで、暴風といえる中を進む触手は風に煽られ上手く俺を狙うことが出来ないでいた。
俺は魔法を十式展開し、時間差でさらに十式展開、体中の魔力がゴリゴリと減っていき少しだけ視界がグラついた。
ウルベルトの時は低級のファイアアローの連発だったが、ショゴスには中級レベルの魔法を連発し、その時よりも多い魔法の発動数だ、もしかしたら魔素の補充が間に合っていないのかもしれない。
しかし攻撃の手を休める事は出来ない。
俺が攻撃を止めれば、ショゴスはすぐに大広間の兵士達へと狙いを変えるだろう。
ンナァアァァアオ!
「あぶねっ!」
鳴き声が聞こえ、すぐに触手の一本が俺の一メートルほど横を貫いた。
ショゴスも負けじと触手を伸ばすが狙いは甘い。
先ほどまでは細い触手を何本も伸ばしていたのだが、あまり細いと暴風に負けてしまうため先ほどよりもかなり太くなっている。
それと伸ばせる触手の数に限りがあるのか、太くなっていくにつれ大広間に伸びる触手が減っていき、今では八本程度になっている。
「ぬおおおおお!!」
完全にショゴスの意識がこちらに向き、大広間が手薄になった時、ブラックの勇ましい叫びが聞こえた。
飛び回りながらブラックを見ると、大上段から振り下ろされた長剣がショゴスの本体を切り飛ばした所だった。
「まだだ!」
グネグネと形を変える為に正確な大きさは分からないが、恐らく全長五メートルはあろうショゴスの巨体は縦に両断されるが、ブラックは振り下ろした剣を逆袈裟に切り上げた。
一閃、二閃、三閃と刃が煌めきショゴスがどんどん細かくなっていくが、ショゴスの勢いは止まらない。
あれだけ切り刻んでも核を貫けないのか。
「我らも!」
ブラックの行動を見たロンシャン兵達も、手が空いた者達からブラックが切り落としたショゴスの断片を切り刻み始めた。
しかしショゴスの再生能力は早く、断片が接合しようとのたうち回り、赤黒い溶解液を吐き出し始めた。
溶解液が飛び散った箇所からは焼石に水をかけたような激しい音が鳴り、泡立ちながらじくじくと溶けていった。
液体の飛沫が数人のロンシャン兵の顔や胴体に当たり、瞬時にその箇所を溶かし始める。
兵士達は溶かされる激痛にのたうち回り、大広間に苦悶の声が響いた。
『【キュア】! 【ラウンドヒール】!』
状況を見守り続け、自然系魔法でアシストを行っていたシャルルから立て続けに治癒魔法が飛んだが、それも虚しく飛沫を浴びた兵士達は動かなくなってしまった。
『ごめんなさい、ごめんなさい!』
事切れた兵士達を前にしたシャルルの悲痛な涙声が聞こえる。
俺からシャルルまではそれなりに距離があるのでハッキリとは見えないが、きっと泣きながら戦っているに違いなかった。
ショゴスとの戦闘が始まってから今まで、シャルルは遮蔽物を創り出し、バックアップを行いながらも懸命に治癒魔法を飛ばしていたはずだ。
だが大広間にいた大勢の兵士達に対し、回復役がシャルル一人というのはかなり厳しい状況だった。
カバーが追いつかず、救おうとしても零れ落ちる命の方が多いのが現状であり、零れ落ちた命の残骸である兵士達の亡骸は尽くショゴスに取り込まれてしまう。
シャルルの小さな手で、ここにいる兵士達を全て救うのはどだい無理な話なのだ。
正直それは俺にだって手に余る不可能な事だ。
だがシャルルの心には相当なダメージが行っているのだろう。
シャルルは民を、兵を護る立場である王女だ。
救える力があるのに救いきれず、最初の人数より半数以上の命が散った現状は、シャルルの心を摩耗させるには充分だった。
「これだけの大きさ、核も大きいハズだ! 丸く固められた臓物のような物があればそれが核だ! 溶解液に気を付けろ! 当たれば終わりだぞ!」
ブラックがロンシャン兵達へ伝える声が俺にも届いた。
斬られ、分断されながらも驚異的な速度で再生し、溶解液を撒き散らすショゴスと、少しでも本体を斬り飛ばし核を探し当てようとするブラック率いるロンシャン兵達。
間断なく繰り広げられる攻防の中、俺の放った岩石がショゴスの一部に当たった瞬間、押し出されるように核らしき磨かれた球体の内臓のような物が顔を覗かせた。
「それかぁ!」
俺は右から迫る触手を紙一重で躱し、手にしていた剣を核らしき物へ思い切り投擲した。
「見事!」
投擲した剣の切先は球体の中心へ突き刺さるが、砕く事は叶わなかった。
だが剣の勢いにより核らしき物は大広間へと転がり込み、ブラックがすかさず長剣を振るった。
宙を舞い踊るようにちょこまかと飛び回り、ショゴスの注意を引くべく絶えず魔法を叩き込む。
やはり攻撃が効かなくても立て続けに当てられるのは鬱陶しいのだろう、始め俺に向けた触手は一本二本だったのだが、徐々に数を増していっている。
こちらに触手を回している分大広間への攻撃が手薄になっているのか、ロンシャン兵やブラック達は本体に近付きつつあった。
外の強風は強さを増しているのだが、フライを発動中は外の干渉を全く受けないので風に煽られることも無い。
だがショゴスの触手は違うようで、暴風といえる中を進む触手は風に煽られ上手く俺を狙うことが出来ないでいた。
俺は魔法を十式展開し、時間差でさらに十式展開、体中の魔力がゴリゴリと減っていき少しだけ視界がグラついた。
ウルベルトの時は低級のファイアアローの連発だったが、ショゴスには中級レベルの魔法を連発し、その時よりも多い魔法の発動数だ、もしかしたら魔素の補充が間に合っていないのかもしれない。
しかし攻撃の手を休める事は出来ない。
俺が攻撃を止めれば、ショゴスはすぐに大広間の兵士達へと狙いを変えるだろう。
ンナァアァァアオ!
「あぶねっ!」
鳴き声が聞こえ、すぐに触手の一本が俺の一メートルほど横を貫いた。
ショゴスも負けじと触手を伸ばすが狙いは甘い。
先ほどまでは細い触手を何本も伸ばしていたのだが、あまり細いと暴風に負けてしまうため先ほどよりもかなり太くなっている。
それと伸ばせる触手の数に限りがあるのか、太くなっていくにつれ大広間に伸びる触手が減っていき、今では八本程度になっている。
「ぬおおおおお!!」
完全にショゴスの意識がこちらに向き、大広間が手薄になった時、ブラックの勇ましい叫びが聞こえた。
飛び回りながらブラックを見ると、大上段から振り下ろされた長剣がショゴスの本体を切り飛ばした所だった。
「まだだ!」
グネグネと形を変える為に正確な大きさは分からないが、恐らく全長五メートルはあろうショゴスの巨体は縦に両断されるが、ブラックは振り下ろした剣を逆袈裟に切り上げた。
一閃、二閃、三閃と刃が煌めきショゴスがどんどん細かくなっていくが、ショゴスの勢いは止まらない。
あれだけ切り刻んでも核を貫けないのか。
「我らも!」
ブラックの行動を見たロンシャン兵達も、手が空いた者達からブラックが切り落としたショゴスの断片を切り刻み始めた。
しかしショゴスの再生能力は早く、断片が接合しようとのたうち回り、赤黒い溶解液を吐き出し始めた。
溶解液が飛び散った箇所からは焼石に水をかけたような激しい音が鳴り、泡立ちながらじくじくと溶けていった。
液体の飛沫が数人のロンシャン兵の顔や胴体に当たり、瞬時にその箇所を溶かし始める。
兵士達は溶かされる激痛にのたうち回り、大広間に苦悶の声が響いた。
『【キュア】! 【ラウンドヒール】!』
状況を見守り続け、自然系魔法でアシストを行っていたシャルルから立て続けに治癒魔法が飛んだが、それも虚しく飛沫を浴びた兵士達は動かなくなってしまった。
『ごめんなさい、ごめんなさい!』
事切れた兵士達を前にしたシャルルの悲痛な涙声が聞こえる。
俺からシャルルまではそれなりに距離があるのでハッキリとは見えないが、きっと泣きながら戦っているに違いなかった。
ショゴスとの戦闘が始まってから今まで、シャルルは遮蔽物を創り出し、バックアップを行いながらも懸命に治癒魔法を飛ばしていたはずだ。
だが大広間にいた大勢の兵士達に対し、回復役がシャルル一人というのはかなり厳しい状況だった。
カバーが追いつかず、救おうとしても零れ落ちる命の方が多いのが現状であり、零れ落ちた命の残骸である兵士達の亡骸は尽くショゴスに取り込まれてしまう。
シャルルの小さな手で、ここにいる兵士達を全て救うのはどだい無理な話なのだ。
正直それは俺にだって手に余る不可能な事だ。
だがシャルルの心には相当なダメージが行っているのだろう。
シャルルは民を、兵を護る立場である王女だ。
救える力があるのに救いきれず、最初の人数より半数以上の命が散った現状は、シャルルの心を摩耗させるには充分だった。
「これだけの大きさ、核も大きいハズだ! 丸く固められた臓物のような物があればそれが核だ! 溶解液に気を付けろ! 当たれば終わりだぞ!」
ブラックがロンシャン兵達へ伝える声が俺にも届いた。
斬られ、分断されながらも驚異的な速度で再生し、溶解液を撒き散らすショゴスと、少しでも本体を斬り飛ばし核を探し当てようとするブラック率いるロンシャン兵達。
間断なく繰り広げられる攻防の中、俺の放った岩石がショゴスの一部に当たった瞬間、押し出されるように核らしき磨かれた球体の内臓のような物が顔を覗かせた。
「それかぁ!」
俺は右から迫る触手を紙一重で躱し、手にしていた剣を核らしき物へ思い切り投擲した。
「見事!」
投擲した剣の切先は球体の中心へ突き刺さるが、砕く事は叶わなかった。
だが剣の勢いにより核らしき物は大広間へと転がり込み、ブラックがすかさず長剣を振るった。
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