欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二九七話 巨大粘液生物

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 窓の外にべったりと張り付いたショゴスの体が不規則に動き、無数の触手が窓を突き破って侵入してきた。

「各自散開!」

 アストラの指示によりツーマンセルの形を取ったロンシャン兵達が大広間に散っていく。
 しかしいくら大広間が大きいとは言っても、王城に攻め込んだ人員全てがこの大広間に入れるわけじゃない。
 過半数の兵士達は大広場の外から戦いを見守っている。
 ショゴス本体の動きはそこまで早くないのだが、不規則に動き回る太い触手の速度はそれなりのものだ。
 無数に伸びた触手は手近な人間に襲い掛かり、激しい攻防戦を繰り広げ始めた。
 戦いに参戦しているのはロンシャン兵はもちろんの事、俺とアストラ、ブラックを含めた強化兵達だ
 シャルルとアーマライト王は既に退室しており、開け放たれた扉の外からこちらをじっと見守っている。
 
「うわっ! やめろ! ああああ!」

 戦闘開始から十分ほどたったころ、ロンシャン兵の一人が叫び声をあげた。
 斬っても斬っても再生する触手は怯む事を知らず、ただ淡々と眼前の獲物に牙を剥きロンシャン兵の一瞬の隙をついてその身に絡みついた。
 ロンシャン兵は必死に抵抗するががっちりと絡みついた触手は剥がれず、相方が何度も斬りつけるが駄目だった。
 
「あああ!」

「くそっ! くそお!」

 全身を締め付けられゴキゴキと嫌な音を鳴らしたロンシャン兵は白目を剥き、口から泡を吹いている。
 そしてジュワジュワと何かが弾ける音が聞こえ、白目を剥いたロンシャン兵の体がビクビクと痙攣を始めた。
 ショゴスの触手が巻き付いた箇所が白い煙をあげ、兵士の体が強力な酸で構成された溶解液により複数のパーツに分断された。
 
「くそがああ!」

 明らかに絶命している相方を前にしたロンシャン兵は、大声をあげて触手に切りかかるが正面に気を取られすぎてしまったのだろう。
 背後から伸びた触手が頭に齧りつき、咀嚼するように触手を蠢かせると、兵士は数秒で全身を飲み込まれた。
 
「触手からも食うのかよ……」

「アレに捕まったが最後、全てを喰らい尽くされる。気を付けるんだ」

「言われなくても気を付けるよ!」

 見れば周囲でも同じような光景が広がっており、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
 魔法で強化されていると言っても素は人間だ。
 長い時間戦っていれば疲れの蓄積もあるし、集中力が欠けてくる。
 多少休んだとはいえ、王城に突入してから数時間分の疲れがすぐに取れるわけもない。
 対してショゴスは先ほど現れたばかりなうえ、疲労など皆無な存在だ。
 圧倒的にこちらの分が悪い。
 
「第二陣! 出ろ!」

「「「おおおお!」」」

 目の前で凄惨な光景が広がっているにも関わらず、アストラの号令により控えていたロンシャン兵が大広間に突入してくる。
 大声を上げ、自らを鼓舞しながら悪夢のような戦場に身を投じ迫りくる触手を叩き斬り立ち回り始めた。
 
「ブラック! 何か良い手はないのか!?」

 かくいう俺も四方から迫る触手と攻防を続けていた。
 ブラックは軽装のピンクとホワイトをかばう様に立ち回っているが、どんな表情なのかは分からない。
 
「核を狙うしかない!」

「って言ってもさ……」

 不定形種に有効な魔法はショゴスの核に刻まれた対魔魔法により通用しない。
 あの燃え盛る火の中から無傷で出てきたのだ、火なども通用しないのだろう。
 なんとか窓に張り付いている本体のそばまで近付いて、体を掻っ捌いて核を壊す。
 やるしかないのだけど、俺にはどれが核なのかが分かるのだろうか?
 奥歯を噛みしめ、剣の柄を固く握りなおした俺は剣速を上げて一歩ずつ本体へと歩みを進める。
 ショゴスも俺の意図を察したかのようで、攻撃の頻度が増している。
 その時背後からシャルルの声が飛んできた。

『フィガロ! 横は任せて!』

 シャルルの声と同時に横の床の石レンガがせりあがり、触手を弾き飛ばした。
 
「ナイス! ありがとう!」

『私もやるときはやるのよ!』

 周囲を見れば至る所から石レンガが形を変えて突き出し始めており、ロンシャン兵達はそれを遮蔽物として身を隠しカバーし合いながら戦闘を行っていた。
 なるほど。
 この大広間全体に自然系魔法を発動させ、なおかつ俺の横にピンポイントで壁を作ってくれているのか。
 戦闘開始から今まで発動しなかったのは詠唱と、術の構築に尽力していたからなのだろう。
 左右を気にしなくていいのはかなり楽だ。
 正面と頭上から迫る触手を切り飛ばし、体の周りに魔力弾を複数展開、それを本体がへばり付いている壁に向かって発射した。
 連続で撃ち込まれた魔力弾の威力で壁は大きな音を立てて崩壊し、ショゴスがバランスを崩したのが見えた。
 外からは突風が吹きこみ、風につられて雨粒も大量に入ってきた。
 そして俺はフライを発動させ、ついでに大量の魔力弾をスライムに向けて連発した。

「核は任せたぞブラック! 俺じゃわからないからな! 俺はこいつを引き付ける!」
 
 捨て台詞のように言葉を残し、突風に煽られながらも必死に壁に張り付こうとしているショゴスの懐に思い切り蹴りを喰らわせた。
 しかし俺の蹴りは案の定きいておらず、ショゴスは一度体を震わせただけで終わってしまった。
 打撃攻撃や魔法は有効打にならないのは分かっているが、嫌がらせのように絶え間なく攻撃していれば嫌でもこちらを気にするだろう。
 むしろしてくれないと困る。
 
「こっちだうすのろ!」

 滞空しながら魔力弾を生成、発射。
 岩槍、炎槍、氷の矢など思いつく限りの攻撃魔法を発動し、全てをショゴスの本体へと叩き込み続けた。
 
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