欠陥品の文殊使いは最強の希少職でした。

登龍乃月

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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

三一九話 闇夜の戦い

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 市街地へ急降下した俺は、建物の影に隠れてラプターの姿を追う。
 空は漆黒に変わり始めており、周囲の光が急速に闇へと呑まれていく。
 普段であれば明かりを灯すであろう街灯も、家屋から零れ出る人々の営みの光も灯ることはない。
 聞こえてくるのは風の音のみであり、あれだけ大きな身体を持つラプターの羽ばたきすら聞こえてこない。
 俺の事を探しているのだろうか?
 ラプターは夜目が効く数少ない鳥の梟がベースの魔獣だ、きっとこの状況でも俺が姿を現せば簡単に見付けて来るだろう。
 しかも遮二無二逃げ回っていたので、ここがどこなのかも分からない。
 
「ちくしょ……完全に孤立したな……」

 舐めているわけじゃないけど、ウルベルト一人であればきっと勝てる。
 しかし魔獣が参戦すれば話は別、単純なパワーバランスだけ見ても向こうに軍杯が上がる。
 それにラプターの実力は恐らくあんなものじゃないだろう。
 クーガだっていつも力を抑えて戦っていた。
 守護精霊であるウンヴェッターとの戦いで見たクーガの力の片鱗は凄まじいものだった。
 ヘルハウンドのクーガとダークキーパーのラプター、どちらが強いのかと聞かれてもきっと答えは出ない。
 魔獣同士の戦いなんて聞いた事が無いからだ。
 ラプターは仲間がいるのか、と聞いてきたがそれはただの好奇心から来るものだも思う。
 魔獣は基本的に群れる事はしない、というより魔獣が発生するのは本当に稀で発生したらすぐに討伐隊が組まれて退治されてしまう。
 何故ラプターが暴れる事を良しとしないのかは、きっと本人しか理解出来ない。
 
「月すら出ないか……」

 そんな事を考えながら息を殺して空を伺うが、空に浮かぶのは三日月。
 満月であれば夜の闇も多少は晴れるのだが、三日月では殆ど変わらない。
 三日月は幸運のシンボルとも言われているけれど、この状況から何か変わるのであれば祈るのも悪くない気がしてきた。

「と言ってもな……どうしたもんか……」

「フィガロ、今どこだい?」

 深い溜息を吐いていると脳内にリッチモンドの声が届いた。

「今は……どこにいるか分からない、現在交戦中だ。リッチモンドは?」

「僕達はもう王城に帰っているよ。この闇の中で進軍する馬鹿はいないし、明かりを炊けば敵に位置を教えているようなものだしね。それよりも加勢しようか?」

「いや、俺も王城へ帰るよ。今は建物に隠れているけどこのまま身を隠しながら撤退する。分が悪すぎる」

「了解だよ。君が苦戦するなんて珍しい事もあるもんだ。相手は?」

「例の魔獣かもしれないって言ってた鳥とウルベルトだ。鳥はリッチモンドの予想通り魔獣だったよ、ダークキーパーっていう種類らしい」

「はー……そりゃ厳しいね。ダークキーパーはクーガ君、ヘルハウンドほどじゃないけど結構強力な種類だし、何より闇と空が味方する」

「ああ。本当にやり辛い。逃げるのは癪だけど……死にたくはないからな」

「賢明な判断だ。何かあったら直ぐに知らせてくれよ? 僕も念の為すぐ出れるようにしておくから」

「分かった、ありがとう」

「それじゃ健闘を祈るよ」

 リッチモンドからの思念が途切れ、ふぅ、と小さく息を吐く。
 加勢するかと聞かれた時一瞬頼もうかとも思った、けどリッチモンドが来てくれた所で俺が戦力にならないのは明白だ。
 ならここは一度引いて状況を変えるべきだと思ったのだ。
 家屋の扉を静かに開けてから顔を出し、ゆっくりと周囲を伺うがラプターの気配は無い。
 地面に転がる瓦礫を避けつつ早足で大通りに抜けた。
 大通りを建物沿いに進み、十字路に出た所で再び周囲を見渡すと遠くに王城らしき大きな建物の影見えた。
 ウルベルトがいた建物かとも思ったが、伸びる尖塔の数の多さで王城だと判断した。
 王城までは結構な距離がありそうだけど進むべき方向が判明し、少しばかり心に余裕が生まれた瞬間百メートルほど離れた所で爆発が起きた。
 そして二回、三回、四回と立て続けに爆発が起きる。

「どこだハイエルフ! 隠れてないで出てこい!」

「おいおい……マジかよ」

 俺が出て来ない事に痺れを切らしたのか、大声で叫ぶウルベルトの声が聞こえ、続けて爆発音と建物の崩壊する音が夜の市街地に響き渡る。
 爆発の元がクトゥグアなのかラプターなのかウルベルトの魔法なのかは分からないけど、敵は市街地を手当り次第に爆破し始めたようだ。
 フライを発動しておらず風の障壁が無い今、爆発を浴びたらモロに食らう事になる。
 
「強硬手段過ぎだろ……」

 路地裏に逃げ込んで舌打ち混じりに呟く。
 今の俺はマナ・アクセラレーションの力で常時身体強化魔法が掛かっているような状態だ。
 けどウルベルトの操るクトゥグアは簡単に俺の体を貫いた。
 ウルベルトが闇の中で俺を見つけられるとは思わないけど、もし見つかった場合貫通プラス爆発のコンボが襲いかかって来る。
 さらに言えばラプターの攻撃と、爆発の影響で崩壊した建物の瓦礫も飛んでくるだろう。
 
「状況は悪化、か……こうなったら俺だって強硬手段だ! ブーステッド・マナ・アクセラレーション! シルフィードブレス!」

 マナ・アクセラレーションをさらに強化し、シルフィードブレスで風の防御壁を張る。
 シルフィードブレスの風の障壁が、どの程度までウルベルト達の攻撃に耐えてくれるのかは分からない。
 しかしブーステッド・マナ・アクセラレーションにより、さらに身体能力を底上げした今、高速で駆け抜ければ直撃を食らう可能性はかなり低くなる。
 勿論大通りを直進するような単純な動きはしない。
 ウルベルトであればきっと先読みして当ててくる。

「よし……! 行くぞ!」

 暗闇に染まり数メートル先も見えない路地裏の中、息を整えた俺は地面を強く蹴りつける。
 三日月が見守る中、孤独な逃避行が幕をあけた。
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