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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー
三二五話 魔法の多様性
しおりを挟むウルベルトに操られた氷槍は疲れを感じる事など有り得ない。
絶え間なく繰り出される突撃槍の一撃はかなり強力で、スリングストーンを纏めてぶつけてやっと軌道を変える事が出来るのだけど、スリングストーンがぶつかる度にガリガリとスリングストーンが粉砕されてしまう。
クーガも黙って避けているわけじゃなく、何度も炎で迎撃しているのだけど氷槍が纏う旋風に尽く掻き消されてしまって、クーガの炎が槍本体に届かないのだ。
『マスター! あの槍鬱陶し過ぎます!』
「同感だ!」
たかが五本の槍と言えどその脅威は計り知れない。
迷宮でもモンスターの絶え間ない波状攻撃があったが、これはその比じゃない。
掠りでもしたらそこでデッドエンド、俺の人生が終わってしまう。
俺はハインケルのようなタフさなんて持ってない、身長の低い華奢な男の子なのだ。
自分で言っていて悲しくなるけど、実際その通りなのだから仕方ない。
背なんてすぐ伸びる。
きっと伸びる。
「クーガ! ウンヴェッターの時みたいな技は出せないのか!」
『あの技はタメが長くこのような状況では不可能です!』
「くっ……!」
魔力切れとは無縁な俺とクーガだが、こうも神経が削られるとだんだん苛立ちが強くなってくる。
フレイムボルテックスランスのイメージは瞬時に構築出来るので撃ち出す分には問題ない。
しかしあの魔法は直線攻撃であり、飛び回るラプターにとっては何の効果もない。
せめてウルベルトのように操る事が出来たならいいのにと、フレイムボルテックスランスの魔法構成を考え、一つの妙案とも言える考えが頭に浮かんだ。
フレイムボルテックスランスには【フレイムウィップ】という炎の鞭の魔法を融合させているのだが、この魔法を少しアレンジしてみようと思った。
高速回転するフレイムボルテックスランスの後部からフレイムウィップを伸ばし、俺の掌へと繋ぐのだ。
本来フレイムウィップの使い方としては、掌から伸ばした炎の鞭で相手を攻撃したり巻き付けたりというもので、鞭術の心得が無くとも術者の思い通りに炎の鞭を動かせるのが強みだ。
その性質を利用して擬似的にフレイムボルテックスランスを操れないだろうか、というのが最終的な結論だ。
炎の鞭であればいくら回転がかかった所でちぎれる事も無いだろうしな。
「集中する。クーガは回避に専念、逃げ回れ!」
『御意に!』
フライを発動させたままフレイムボルテックスランスを使うのは初めてだが、フライの効力により俺の体はクーガにしっかり固定されている。
なので移動はクーガに任せ、俺はフライを持続させる事とフレイムボルテックスランスの事だけ考えればいい。
フレイムボルテックスランスのイメージを脳内で構築、赤熱する石槍の底部からフレイムウィップを俺の手へ伸ばす。
そして槍自体を太く、硬くして強度を上げ、穿孔力を増加させる為に槍本体へ螺旋の溝を刻み込み、螺子と槍を合わせたような形状へ。
これは俺のアイデアでは無く、【穿岩棒】と呼ばれ炭鉱等で使われる採掘用の携帯式魔導技巧の刃を真似したものであり、迷宮で使用した術式を取り入れたものだ。
細い原理は分からないけど、【穿岩棒】は人の手では破壊出来ない岩や鉱石をいとも簡単に砕く強力な魔導技巧だ。
その刃の形状をフレイムボルテックスランスに取り入れれば、貫通力も増すのではないかと思ったのだ。
迷宮の壁をあっさりと吹き飛ばす威力を見せた、あの名もなき合成魔法とフレイムボルテックスランスの融合といってもおかしくないだろう。
イメージの中で新たな形状へと進化した魔法に、新たな名前を付けようかとも一瞬思ったが今は悠長に魔法の名前を考えている場合では無い。
「サンクエクスパンション【フレイムボルテックスランス・改】!」
空中を駆けつつ機敏な動きで圧縮やりを躱すクーガの上で、生まれ変わった必殺技を発動させる。
名称がちょっと雑だが今は仕方ない。
そして、俺の声とイメージに呼応するように文殊が淡く輝き出し、周囲に五本のフレイムボルテックスランスが現れた。
ウルベルトの圧縮槍に対抗して敢えての五式展開、形状はイメージ通りの物であり、回転する赤熱した三角錐の螺子槍には俺の五本指から伸びた炎の鞭がしっかりと接続されている。
「なに!?」
ウルベルトからすれば、逃げ回っていただけの俺の周りに奇妙な槍が出現したように見えただろう。
圧縮槍の威力は確かに恐ろしいが、新たに構築したフレイムボルテックスランス・改の威力があればきっと対抗出来るはずだ。
ウルベルトは圧縮槍を後方へ引き戻し、大きく手を振りあげている。
恐らく距離を取って加速させ、貫通力を上げるつもりだろう。
『マスター、その槍、私にもご助力をさせて頂きたい』
「いいぞ、ラプターに出来るんだ、お前もやってやれ」
『は!』
クーガが一声発すると同時にフレイムボルテックスランス・改へ青白い炎がまとわりつく。
炎は螺子槍の回転力により渦を巻き、まるで炎の竜巻を宿しているようにも見えた。
「キメるぞ」
『は! あの不届きな鳥めに目に物見せてやりましょう!』
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