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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー

三四六話 リビングアーマー

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「それでは行って参ります!」

「宜しく頼みます、殿下」

 フィガロが外に出て行ったのを見届けた後、アーマライト王陛下に一言告げ、私はお父様と共に用意された別室に移動した。

「しかしシャルルよ。シキガミだからと言って変にやり過ぎるんじゃないぞ? 魔力プールの残存をしっかり確認しながらな」

「分かってるわ、お父様は心配し過ぎなのよ」

「娘を案じない親などいないと思うぞ」

「ありがと、それじゃやるわ」

 用意されたロッキングチェアに深く腰掛け、心配してくれるお父様の視線を感じながら私は目を閉じた。
 そして目の前のテーブルに置かれているフィガロから受け取った木像へ意識を集中させていく。
 何度目か分からないシキガミの発動は、苦もなく出来るようになった。
 私の魔力を受けて変化したシキガミは小さな雀。
 私の視線の先には目を閉じた私がいる。
 宙に浮き、お父様の周囲を二、三周飛び回ってから、開け放たれた窓から外へと飛び出した。
 眼下にはブラック達と話すフィガロの姿が見えたけど、それを無視して遠くにそびえる迷宮管塔へ進路を真っ直ぐ向けた。
 羽ばたきと滑空を繰り返して、やっと到着した事をお父様へ告げる。
 視覚を共有するだけなら、そばにいる人とお話も出来るし声も聞こえるので見た事をそのままお父様へ伝え、それをアーマライト王陛下へと伝えて貰うの。
 管理塔の空いてる窓を探して近付き、窓枠に足をかけて周囲に人がいないかを確認して中に入る。
 絨毯など引かれていない無骨な石廊下の上に降り立ち、シキガミの姿を小さな雀からシンプルな板金鎧へと変えた。
 ヘルメットは顔全体を覆うフルフェイスタイプで、作りはブラックのヘルメットを参考にさせて貰ったのだけど……上手く出来ているかしら。
 中身は何も入ってないから、ヘルメットが取れないように注意しなきゃ。
 姿見の鏡が欲しい所だけど、ワガママなんて言ってられないし、先を急ぐ事にした。
 廊下を進む私の耳に届く、鎧のグリーブが奏でるガチャリガチャリという音がやけに大きく聞こえる。
 入り込んだ窓から察するにここは塔の二階部分だと思うのだけど……案内板みたいなものは無いのかしら。
 商業施設のような場所と聞いていたのに不親切ね。
 あまりのんびりもしていられないので、足早に先を進んで行くと何人かの兵士とすれ違った。
 通り過ぎる時は心臓が飛び出るかと思ったけど、変化は上手くいっているようで特に何も言われなかったから一安心。
 この建物の地下には迷宮が広がっているらしいけど……どんな所なのかしら、少し興味があるわね。
 今度フォックスハウンドの面々で行ってみたいものね。
 私がそんな事を考えながら二階から三階に上がると、そこはまるで商店街のような光景に変化した。
 廊下は広めに取られており、廊下の両サイドには大小様々なお店が並び、店先には吊り看板が掛けられているのだけど……。

『え……?』

 私が驚いたのは、その商店街のお店の半分は開いており、冒険者らしき者達が彷徨いている点だ。
 しかしお店の店員は見当たらず、冒険者風の者達が好き勝手に商品を見て楽しんでいる。

『どういう事……?』

 私が状況を飲み込めずにいると、前から歩いて来た冒険者風の者達に声を掛けられた。
 
「よぉ。お前さんもか?」

『何がよ……あ。んん! 何がだ?』

 普段の声で話したら中身が女だと思われて、舐められてしまうかもしれない。
 だから私は精一杯の低い声を出し、威圧するような物言いをした。
 お手本にしているのがブラックだというのは内緒。

「ん? アンタもめぼしい物を取りに来たんじゃないのか?」

『いや、俺はつい先程ここに着任したばかりでな。ここにいた一般人や冒険者達は捕えられたと聞いていたのだか』

「なんだよアンタ兵隊さんか。大変だな! 確かにここにいた連中……俺達も含めてだが、始めは捕まったよ。けど革命軍に協力すればこの建物内限定だが自由にしていいって言われてな! しかもここにある物は好きに使っていいんだぜ? 協力しない方がおかしいぜ!」

 冒険者風の者達は顔を見合わせて笑い、拝借したのであろう物品を眺めてはせせら笑っている。

『どれぐらいの人達が協力を申し出たんだ?』

「そうさなぁ、四割くらいの捕虜が協力的な感じだったぜ?」

『そうか。ならばその残りの六割の捕虜達はどこに囚われているんだ?』

 多少言い方にムカッと来た所はあるけど、この人達を責める道理は無いから私の一番聞きたい事を単刀直入に聞いた。

「確か……六階にある大会議室エリアだった気がするぜ。あそこは大部屋がいくつもあるからな、纏めて放り込んでるんじゃないか?」

『そうか。情報提供に感謝する』

「おう、新しい時代の為に頑張ってくれよな! 兵隊さん!」

 冒険者風の者達はそう言うと、下品な笑い声を上げてどこかへ行ってしまった
 同時に空気と建物の両方がビリビリと震えだし、フィガロ達が破壊工作に出たのだと直感した。
 予想外の事が起きたけど、隔離されている人達の居場所は分かった。
 
『急がなきゃ、時間がないわ』

 私は踵を返し、六階に向けて階段を駆け上がって行った。
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