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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三四七話 アーククレイドル
しおりを挟む空気と建物を揺らす振動は、ビリビリという細かなものからバリバリという大きなものへと変わってきている。
予定ではフィガロ達が破壊工作を終えた直後に、ブラック達が突入してくるはずよね。
冒険者風の者達が言っていた六階の大会議室エリアへ到達した私は、廊下に飛び出して左右を確認する。
廊下には両開きの扉が幾つも設置してあり、その各扉の前には兵隊や冒険者風の男が番をしていた。
けど番をしている人達はフィガロ達が行っている破壊工作の振動に慌てふためいており、腰を抜かしてしまったのかしら、廊下に這いつくばっている者もいたわ。
『敵襲だ! 直ちに階下に向かい迎撃体制を取るんだ!』
この混乱の中なら、私がどこの誰か分からなくてもきっと従ってくれるはず。
恐怖に駆られている時、人間というのは実に操りやすい、とリッチモンドが言っていたのだけど、きっとこういう事なのね。
事実、番をしていた兵や冒険者風の男は、恐怖の色を濃く浮かべながらも一目散に階下へ降りていったのだから。
『私ってばやるぅ』
誰も居なくなった廊下で一人ガッツポーズを浮かべる私。
気を取り直し、一番近い扉を開けようとするも鍵が掛かっていて開かない。
『仕方ないわね。魔よ、自然よ、木々の揺らめきから零れし力と私の力を合わせ、かの者に仮初の命を与えん【プラントウォーク】』
これは本来、植物を人形へ変化させて使役する自然魔法だけど、この扉だって木で出来てるわけだから効果がないわけが無い。
両開きの扉はプルプルと小刻みに震え、蝶番の所から細い腕と短い脚が突き出した。
ツリーマンドアと化した扉は、自分を拘束する鍵と蝶番を破壊して、その場所からのそのそと移動してくれた。
『ありがとう』
私がお礼を言うと、ツリーマンドアは器用にお辞儀をしてその場に立ち尽くした。
急いで中に入ると広い部屋の中で、囚われていた人々が肩を寄せあって怯えていた。
「なんだ! 革命軍共め! 俺達を殺しに来たのか!」
『落ち着いて! 貴方達を助けに来ました! 私に着いてきてください!』
頭にねじり鉢巻をしたガタイのいい男性が囚われている人の盾になり、私の前に異性良くにじり寄ってきたから焦って素の声で反応しちゃった。
「女……?」
『はい、私は……シャールと言います! これから革命軍に対する大規模な反抗作戦が始まります! 急いで!』
「お、おう! 聞いたか! 行くぞ!」
私が踵を返して他の部屋に入り、同じ事を言って全ての部屋を回った。
そして建物の一番端の部屋に入り、囚われていた人達を纏めるべく声を掛けたの。
『一箇所に固まって下さい!』
とは言っても囚われていた人達は何百人といるし、一つの部屋になんて到底入り切らない。
そこで私は前もって詠唱を終わらせておいた魔法を解き放った。
『【アーククレイドル】!』
私の四分の一の魔力を使った自然系中級魔法、アーククレイドル。
自然の力を借り、周囲の自然物質で巨大なシェルターを作り出す防御魔法。
今回は建物を構成している石レンガ達が協力してくれて、壁や天井が蠢いている。
壁は天井と床に溶け込んで行き、六部屋分の壁が取り払われた今なら全ての人達を収容出来る。
それを察した人達が慌てて中に駆け込み、最後の一人が入った後、床から壁をせり出させて入口を封鎖した。
四方の壁と天井、床は私が発動したアーククレイドルの効果で大分強固なものになっている。
仮にこの建物が崩壊したとしても、アーククレイドルの中に居れば安全なの。
『急がせてしまって申し訳ございません。ご協力感謝したします』
「おい、ねーちゃん。こりゃ一体どうなってんだ? 突然建物が揺れて空気だってバリバリうるせえしよ」
『説明させて頂きます』
先程私ににじり寄ってきた男性が、不安そうな顔でこちらを見た。
勿論他の人達も同じような表情をしている。
私は皆に正規軍の反抗作戦の概要を説明し、現状維持で待機をお願いした。
『終わった……のね』
振動音が収まり、先程までの騒々しさが嘘のような静寂が訪れた。
フィガロ達の破壊工作が終わったらしいわね、あとはブラック達が突入してくるはず。
そう考えた私は一度感覚の共有を視界だけに戻し、そばに居るはずのお父様へ話しかける。
「お父様、囚われていた人達は保護しました。六階の……王城から見て右側の区画は私達がいるから、もし砲撃をするのなら気を付けて欲しいわ」
「おお! やったのかシャルルよ! よし、すぐに伝えてくるぞ!」
現王でもあるお父様へを伝令係にするのは本当に申し訳ないのだけど、お父様が自分から言い出した事だし……いいよね。
ドタドタと部屋を出ていくお父様の足跡が遠くなったのを確認し、私は再び五感全ての感覚をシキガミに戻した。
先程から囚われていた人達が窓の外を見て、様々な表情を浮かべている。
大口を開けたまま私を見る者、笑い出す者、胸の前で十字を切る者など多様だったけど、皆が共通して見た物の正体を知れば誰でもそうなるだろう。
『はー……また随分派手にやったわね……本当にあの二人が味方で良かったわ』
私も少し気になり、窓から外を見ると、作戦で示し合わされた迷宮管理塔の正面から、王城の正門付近までの街並みがすっかり消失していて本当に更地になってしまっていた。
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