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第八章 ロンシャン撤退戦ー後編ー
三五九話 生存者
しおりを挟む横たわるシャルルを横目に、囚われている人達へのホールドロックを解除した。
途端に皆から喝采が上がり、口々に奇跡だなんだと言っている。
アーククレイドル内が盛り上がりを見せた時、外からアストラの声が聞こえた。
「革命軍諸君に告ぐ! 武装を解除し、直ちに投降せよ! 繰り返す! 直ちに投降せよ!」
ラプターに乗ったアストラが、空中に留まりながらボイスブースターを使って勧告を行っている。
革命軍がどう出るかと様子を見ていると、突如管理塔のどこかから火球が飛び、ラプターに直撃した。
もうもうと舞う煙の中からラプターが飛び出し、旋回を始めた。
背中に乗るアストラとヘカテーは無事のようだ。
旋回するラプターに向け、大小の火球が次々と放たれ始めた。
どうやら敵は投降するつもりは無く、徹底抗戦の構えのようだ。
半壊した管理塔の中から放たれる火球はラプターを追い、窓や崩れ落ちた箇所から次々と革命軍の兵士と冒険者達が姿を現し始めた。
「名前は知らないが鳥の上の貴様! 帰ってアーマライトに伝えろ! 俺達は最後の一人になっても戦うとな!」
黒と金で彩られた騎士鎧に身を包んだ男が地上からアストラに向けて剣を向けている。
鎧のデザインからすると、あれは噂の黒龍騎士団の一人だろうか。
男の周りには、次々と同じような鎧を纏った者達が集まりつつある。
だが管理塔の周囲にはリッチモンドを始めとした歩兵部隊が配置されている。
このままだと戦闘が始まる。
今の内に囚われている人達を解放するべきだろう。
「シャルル、皆を王城へ連れていくぞ」
『そうね。街中に展開している歩兵部隊にも協力して貰いましょう』
シャルルは敵のいる場所から真反対の壁に穴を開け、俺は唇に人差し指を当てて穴へと手招きする。
状況を察した人達は、なるべく物音を立てないように気を配りながら一人、また一人とアーククレイドルの中から脱出を始めた。
〇
「こっちだ! 早く!」
管理塔から数十メートル離れた市街地の一画で、俺の姿を認めた正規兵の一人が手招きをしている。
脱出した人々は三列になり、身を屈めながら市街地の中に吸い込まれていく。
幸いにも管理塔から落ちた瓦礫が上手く遮蔽物になってくれているので、アストラに注意を向けている革命軍に見つかる事はなさそうだった。
余談ではあるが、アストラに攻撃を仕掛けたあの白金等級の青年とその仲間達は瓦礫の下敷きになって死亡していた。
砲撃で吹き飛ばされたのか、上半身だけの者や半身が焼かれた者もいた。
あの惨状では一緒に付いて行った者達の生存など期待出来るわけもない。
本当に馬鹿な奴だった。
「フィガロ様、ご無事で?」
全ての人員がアーククレイドル内から出た事を確認した頃、脳内に声が届いた。
「私は無事です。それにしても本当に徹底的にやりましたね、アーマライト王陛下」
「手心を見せては意味が無いからな……それよりもだ。この後は歩兵部隊を迷宮管理塔へ突入させ、出来るならば敵の首魁を引きずり出したい。ブラック殿達とリッチモンド殿のお力を借りてもよろしいか?」
「勿論です、なんなら私の従魔もどうですか?」
「クーガ君を出すのはまだ早い。お願いするとしたら……もっと状況が緊迫してからですな。でなければ我らロンシャンが武勲を挙げられなくなりますからな」
アーマライト王は軽口を叩いているものの、それは場を暗くしないための話術なのは理解した。
「分かりました、その時が来たら遠慮なく言ってくださいね」
「承知した。囚われていた人々がある程度避難出来たら攻撃を仕掛ける。フィガロ様はどうされます?」
「私は……ラプターと共に空から状況を見定めたいと思います」
「かしこまった。では委細宜しく頼みましたぞ!」
そこでアーマライト王との連絡を終え、俺はフライを発動させた。
直上に飛び上がるのではなく、ぐるっと距離を取って管理塔から一キロの地点の上空に身を踊らせ、ラプターの背後に近付くと急にラプターの顔がこちらに向いた。
『親父殿!』
「よっ!」
ラプターが声を発した事により、アストラとヘカテーも俺の接近に気付いてこちらを振り向く。
「フィガロ様か!」
「あらフィガロ様じゃない。どうしたの?」
何度か火球の直撃を受けていたはずなのだが、やはり三人とも無事なようで何よりだ。
革命軍は未だに火球を放ってくるが、牽制程度なので適当に躱していればいい。
「アストラさん、現在シャルルが救出した人々が市街地を抜けて王城へと向かっており、数名の兵士が同行してくれています」
「なんと……! という事はあの中にいるのは」
「全て敵、という事になります」
「了解しました。先に進軍した革命軍は全滅と聞いております。当たり前の話ですが管理塔には地下迷宮が広がっております、仮にそちらにも残存勢力がいると考えると……気が遠くなりますよ」
アストラは管理塔の前に広がる革命軍の姿を睨みつけながら苦笑した。
革命軍の正確な戦力を把握出来ていない分、この戦いの先行きは闇の中、しかし革命軍と同じようにアーマライト王も不退転の決意だ。
今度どうするかをアストラと話し合おうとした時の事、頭の中に声が響いた。
「いよーお! 生きてっか?」
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