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第九章 穏やかな日々
四〇四話 出来る女、その名はコブラ
しおりを挟む掃除道具が無いという致命的な事実を思い出し、プルとアハトから笑われた後、俺達三人は一階へと戻った。
コブラとドンスコイは庭先からリビングへと移動しており、子供達となんやかんや遊んでくれていた。
そして何故かラプターも小さくなってソファーの上に止まっていた。
「フィガロ様、お待ちしておりました」
「旦那ぁ! ラプターは俺の弟分になりやしたぜ!」
『親父殿! ドンスコイ兄者は凄いな! クーガ兄者の一の弟分らしいではないか! 人の身で魔獣の弟分になるとは侮りがたしだぞ!』
「「「にーちゃーん!」」」
「こら! フィガロ様の事はボスと呼ばなきゃダメでしょう?」
「「「イエス! マイマム!」」」
「えっと……どうなってんの?」
俺がリビングに姿を見せるや否や、皆が嵐のように口を開き始めた。
ドンスコイとラプターが兄弟の契りを交わしたのは置いといて、ピンクが何やらよく分からない事を言い出した。
しかもピンクの言い分に礼儀正しく返事をする子供達。
この短時間で一体何があったというのだろうか。
「隊長の事をどう呼ぶか、という話になりまして……コブラさんとドンスコイさんはボスと呼んでいると聞き、それに習おうという事になったのです。いくらなんでも子供達から隊長呼びはどうかと思ったもので」
「フィガロ様は我らのボス。それは不変の事実です。いずれはこの子達もフィガロ様の手となり足となり……」
「待て待て待て待て! 何を言ってるんだ!?」
「「おかしな事でも?」」
ピンクとコブラが至極当然という顔をしながら首を傾げ、俺を見つめてくる。
『親父殿! 親父殿!』
「ボスー! お腹空いたー!」
「旦那ぁ! メシがあるんで!?」
「あーもう! いっぺんに喋るなって!」
少し前までは俺とクライシスとクーガしかいなかった屋敷が、今ではやたらと騒がしい。
けど、この心に満たされる優しい感じは何だろうか。
目の前でわちゃわちゃと騒ぐドンスコイやピンク、ラプターと子供達、うるさいぐらいの喧騒が今はとても心地よく感じられる。
「フィガロ様? 賑わいの中で申し訳ないのですけど……」
俺が一人でほっこりしていると、横からコブラが俺の袖を引いてきた。
「ん?」
「フィガロ様をお待ちしている間、掃除でもしようかと思ったのですが、肝心の掃除道具が無く、こちらで勝手に購入してしまったのですが……宜しかったでしょうか」
「えっ!?」
「えっ?」
「掃除道具あんの?」
「はい、モップ、箒、ちりとり、雑巾バケツ、たわしにデッキブラシ、ワックスから洗剤まで購入させて頂きましたが……無用でしたか?」
「いやいや! めっちゃ助かるよ! さすがはコブラだな! ありがとう!」
「ええいやうふふ……それほどでも……えへへ……」
不安げに俺を見るコブラの手を取り、ぶんぶんと上下に激しく振ると、キリッとしたコブラの顔がだんだんとだらしなくなっていった。
最後には満面の笑みで俺を見つめ、頬を若干赤らめながらお礼を言ってきた。
コブラから掃除道具をしまっている場所を聞き、未だ騒ぐピンクやドンスコイ達を横目にプルとアハトをそこまで案内した。
俺が言わずとも、必要となるであろう物をしっかりと用意してくれる。
コブラはやはり出来る女性だ。
気遣いや観察眼、先見の明があり、尚且つ美人でスタイルもいい。
仕事モードではやや冷たい感じが否めないけど、プライベートになれば緩い所もそれなりに出てくる。
シスターズも、コブラぐらい色々と出来るようになって欲しいところだ。
プルとアハトを見るコブラの視線は、何故か勝ち誇ったような感じが見受けられたのが、彼女の意図は分からない。
「とりあえずホコリたたきと箒、ちりとり……雑巾とバケツ……くらいでいいか」
「「はい!」」
使いそうな掃除道具をそれぞれ持ち、再び金庫室へと赴いた。
魔法でバケツに水を注ぎ、雑巾とモップを浸してから箒とホコリたたきを持った二人を見た。
「よし。一先ずは手前側の区画から手を付けてくれ。棚や木箱、壁に付いてるホコリを落として、箒で細かいゴミを集めるんだ。ゴミは……角に集めておいて最後に回収しよう。俺は別にやる事があるから、ここは頼んだよ。二時間くらいしたら戻ってくるから」
「「あいあいさー!」」
口を覆うように布切れでマスクをし、意気込む二人を置いて俺は地下から二階にあがり、屋敷が生まれ変わってから放置しっぱなしだった二百年前の家具達の前に立っていた。
家具は全て新品同様にまで蘇っていたけど、デザインや造りがやはり時代を感じさせるものだった。
「コブラを呼んでくれ」
屋敷に向けて指令を出すと、その刹那、背後からコブラの声が聞こえた。
「はい? 何でしょうか?」
「うぅわ! 何で背後にいるんだ!?」
そこにいるとは思っていなかったので、思わず背が伸びて体が固まる。
「フィガロ様が上階に行かれたので……お手伝いがあればと」
「はぁ……本当に出来た幹部だよ……」
「それほどでも……!」
ここまで気遣いが出来るとなると、秘書という言葉が脳裏に浮かんだ。
実家にいた頃も、父様の傍らでバリバリと仕事をこなす熟練の秘書がいたのだ。
母様とも仲が良く、二人で父様に文句を言っていた事もあった。
けどコブラを秘書として迎えてしまうと、今度は逆にトロイの方が回らなくなりそうだと考え、秘書は別の人間を選抜しようと心に決めたのだった。
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