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「キャロライン、いいかい?」

「ええどうぞ」

「失礼するよ」

 そう言うとフィエルテは音も無く扉を開け、閉める。
 しかしながら彼の顔にはどこか不満そうな、心配事を抱えているような、そんな表情が張り付いていた。

「……どうかなさいましたの? ジョン」

「うん実はさ……君の事なんだ、キャロライン」

「え?」

 フィエルテはいつになく真剣な目付きで、私の瞳をまっすぐ見つめて射抜いてくる。
 その雰囲気に只事ではないものを感じた私は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

「父上が……皇帝陛下が君の事を、君の力の一部を公表すると言い出した」

「えぇ!?」

「勿論僕は反対した! だけど全ての決定権は陛下にある。このままでは数日後に君の力が国全土に知れ渡る……」

「それは……困りましたわね……」

「そして……君を皇国の聖女として掲げると」

「聖女ですって!? どうしてそうなるんですの!?」

「キャロライン、考えてもみろ。君の力は歴代のリーブスランド当主の誰よりも強力だ。なんせ望んだ人間の未来を知り、運命を変えてしまう神のような力なんだからね」

「う……」

「君の力で僕は死ぬ運命から逃れられた。けどそれが不味かった」

「どうしてですの?」

「君の力が本物だと証明されてしまったからだよ。繰り返しになるけど歴代のリーブスランド当主の中でも、特定の未来を意図的に見る事ができるのはキャロライン、君だけなんだ」

「今までずっと秘匿されてきたのではないのですか? それがなぜ私の代で公表するなどと……」

「分からない。父上はいずれ分かると言って詳しくは教えてくれなかった。でも……」

「でも?」

「父上は君をプロパガンダにしたいのだろうと僕は思ってる。この前の戦争で我が国は……他の国もそうだけど、かなり疲弊しているし、民衆の心も穏やかでは無いはずだ。だからこそ君を聖女として衆目に晒し、聖女がいる限り国は安泰だと思わせたいのだろう」

「……私は……どうしたらよろしいのでしょう。聖女だなんてとてもそんな器でも器量でもありませんわ」

「はぁ……論点はそこじゃあないんだけど……君らしいと言えば君らしいか」

「ちょっとジョン。悪口にしか聞こえないのですけれど」

「あはは。悪かった。でもキャロラインはそれでいいのかい?」

「良いも悪いも皇帝陛下がご決断なされた事でしょう? であれば私に逆らう事など出来はしません。陛下のお言葉は絶対」

「そう、だね。ごめん、力になれなくて」

「そんな事ないですわよ。ジョンは陛下に反論してくれたのでしょう? 私はその気持ちだけで充分に嬉しいですわ」

「けど……これは推測だが……君の力が一部でも知れれば……君は狙われるようになるかもしれない」

「ふふ、考えすぎですわ」

「そんな事ない! 僕は……僕は君を……」

「何ですの?」

 床を見つめながら口ごもるフィエルテの意図が分からず声をかけるも、フィエルテは拳を握り締めて押し黙っている。
 私がどうしたら良いものかと考えていると、フィエルテが顔を勢いよく上げてこう言いました。

「君を失いたくない」

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