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しおりを挟む「失うって……大袈裟ですわよ。でもありがとうございます。ジョンの気持ちはとても嬉しいですわ」
「違う、そうじゃなくて……」
「何ですの?」
「……いや。何でも、ない」
「本当に考えすぎよ。私は……そう簡単に居なくなりはしません。とても心強い味方がいますから」
「心強い……味方?」
「はい」
「そうか……」
「だから安心して下さいまし? ジョンは……殿下は次代の皇帝陛下、そんな些末な事でお心を乱していかがなさいますか」
「些末な……か。君はあまり勘が良くないと見えるね」
「どういう事ですの?」
「何でもないさ。僕なりに頑張ってみたが、どうも上手くいかないなと思っただけさ」
「よく分かりませんけど……そうですか」
「だがこれだけは言っておきたい」
「はえ? ちょ、ちょっとジョン……近いですわ」
半ば呆れた顔をしたフィエルテはつかつかと私に歩み寄り、私の手を取って顔を思い切り近付けてきました。
彼の吐息が感じられるくらいの距離に、計らずも私の胸の鼓動が勢いを増す。
「君は美しい。幼き日に出会った時も、今も変わらずに美しい」
「は……そ、そんな事は……」
「キャロライン」
「は、はいぃ……」
名を呼ばれ、フィエルテの視線が私の瞳を射抜く。
胸の鼓動は早鐘のように鳴り、顔が、体が熱くなっていくのが分かる。
生まれてこの方このような場面に遭遇した事の無い私は、どうしていいか分からずに体がカチコチに硬直してしまう。
心の中で慌てふためくも、フィエルテは視線を外さずにただただじっと見つめてくる。
心の底まで見通されそうな強い視線に、私は目を逸らしてしまいそうになる。
「じ、冗談が過ぎますわ」
「……すまない」
フィエルテの胸に手を当て、そっと押し返すと彼はそのまま離れてくれた。
よくよく見ればフィエルテは耳まで顔を赤くしており、先程まで強い視線を送っていた瞳は所在なさげに泳ぎ回っていた。
「ま、まあほら。なんにせよ今話した事は事実だ。どうかな? 君が良ければ特別相談役として城に招きたいと思うんだけど」
「それはつまり私に城へ住め、と?」
「そうなる。もちろんリーブスランド家の使用人達も我が城で雇用する事を約束しよう」
「ですが……」
「屋敷では君の安全を守りきれない、だからこその招待なのだが……」
「陛下のご許可は?」
「もちろん取り付けてある」
「そう、ですか……」
「住まいが城になるだけだ。不自由はさせないと約束する」
「……分かりましたわ。強引なお方ね」
「少しでも君を近くに置いておきたいと思うのは駄目な事かい?」
「まぁ……! お上手ですわね」
「はは……本心なんだけどね」
こうして私は住まいを住み慣れた屋敷から城へ移す事になりました。
今晩は城へ泊まり、明朝屋敷へ出向いて諸々の説明を終えた後に城へと戻る事になりました。
屋敷の保持は領地内のどなたかをハウスキーパーとして雇用し、住まわせる事になりました。
屋敷は領地の見回りの際に泊まる、別荘のような位置付けにしようと思います。
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