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 それから一ヶ月の時が経ちました。
 リーブスランドの屋敷は領民の地主の一人へ貸し出し、ホーネット叔父様の好意により叔父様の配下を月に一度監査役として屋敷に出向させてくれる事になりました。
 使用人達は私の世話役として城に常駐しています。
 そして当の私はと言うと……特別相談役という肩書きではあるものの、陛下の鶴の一声により時詠みの力が皇国中に知れ渡る事になりました。
 リーブスランド家の能力としてではなく、私個人の力として、ですけれども。
 おかげで私の生活はがらりと変わり——。

「聖女様! 今日は朝から礼拝堂に祈祷式、その後お昼からドミナント伯以下五名の貴族とクローバニー狩り、夕方からは令嬢会となっております」

「はい。分かりました、ご苦労さま」

 毎日何かしらの行事や集まりに引っ張りだことなってしまいました。
 夢見の力の安売りはしていませんが、嘘ではないことを証明するために貴族や無作為に選ばれた国民数十名の未来を見ました。
 そこで新たに分かったのは、国の未来や世界の命運など規模の大きな未来は見えず、個人個人の未来のみしか見ることが出来ないということ。
 また、カスケードとの契約により個人が抱える未来が複数見えるようになってしまったのも、意識を調整することによりうまい具合に見る方向性を定められるようになりました。
 そして見事、未来を予見した私は時詠みの聖女として祭り上げられることとなったのでした。
 カスケードはあれから姿を表さず、私から話すこともないので音信不通のようなもの。
 フィエルテがいつ留学先に戻るのかは聞いていませんけど、話が出ないということはまだ先の話なのでしょう。
 私の黒い噂は皆の尽力のおかげでなりを潜め、逆に聖女への嫌がらせだったのだと認識されるようになりました。
 そして——今日から十日後、ドリアム国王となったケーニッヒと、妃であるシェーアの記念式典が執り行われることになっています。
 私はこう見えても伯爵家当主、出席しないわけにはまいりません。
 愚かなケーニッヒはどんな顔で私を出迎えるのでしょうか。
 どうなるにせよ、彼はきっとサキュバスクイーンと同化を果たしたシェーアの掌の上で転がされているのでしょう。
 
「はぁ……気が重いですわ」

「聖女様?」

 あんな別れ方をしたケーニッヒや、私を殺そうとしたシェーアに再び会いにいくというのを考えただけで気が重くなる。
 つい出てしまった溜息と独り言に、控えていたメイドが敏感に反応した。
 
「気にしないで、こちらのことよ」

「かしこまりました。申し訳ございません」

「さ、支度も終えたことですし。今日の公務に励むとしましょう」

「お綺麗です、聖女様」

「ふふ、ありがとう」

 私の体は皇国一の服飾士が仕立てたドレス風のワンピースで包まれ、一歩足を踏み出せば裾がするりと足首で遊ぶ。
 私の心もワンピースのように軽ければいいのに、と心の中でボヤき、新しく頂いた自室から出て行ったのだった。
 
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